『オメガ』

主なキャラクター:ロックアイザックヘルガヤマトニムバス(オメガ)トラウトマンセスハンザニエミネンユージン・バーダル、ファン・エステベス、ケルヴィン・コウ、オーティス・グエン、ソトマイヤー

 『ソード・オブ・ネメシス』から数ヶ月(?)、ハンザ博士やエステベス&バーダル義父子の主導のもと、連邦のプロジェクトとして第三波動を利用した「門」は転送実験の段階までこぎつける。

 一方ニムバスの部下だったヘルガは「むこうの時空」が消滅した際かろうじて脱出したものの、一切の記憶を失ってアンナ・フレスコとして新たな人生を送ろうとしていた。しかし「門」の転送実験(の映像)に記憶を刺激され、実験の現場に赴くべくスポンサー企業のペリグリンに入社、コウの助手として研究所へ乗り込む。

 同時期に「お宝」目当てでブラックホール「DF676−251」への侵入を試みたサルベージ船「ニコラス1」は、ブラックホールに落ちていた帝国のステーション内で謎の青年エスパー(ヤマト)に遭遇。覚醒したばかりのヤマトは「ニコラス1」から星間パトロールの船へ、さらに街中へと「情報」を求めてさまよい、ついに連邦軍のカーデム基地へ潜入してトラウトマンらと衝突する・・・。


 『ニンバスと負の世界』をリメイクした『ソード・オブ・ネメシス』に続くリメイク第二弾。『この宇宙に愛を』が下敷きだが、早くもヤマトが登場し彼が実質ニムバスの指令で動いている点や、「むこうの時空」に突入するメンバーもニーナ−ヘルガ以外は全く違っているなど、『ソード・オブ・ネメシス』以上にリメイク度合いは大きいと言える。

 それにしても『ソード・オブ・ネメシス』からさほど経っていない(ロックが「むこうの時空」を消滅させて生還した時点ですでにセレンの軍事法廷への召還状が届いていたアイザックが、無罪判決を受け形だけの処分として半年休職になっている間だから8か月くらい?)のに、「門」の研究がすでに転送実験レベルまで進んでいるのに驚かされる。連邦軍主導のプロジェクトで、すでに「岩」の研究で実績を出していたハンザ博士、エステベス&バーダル義父子を主力スタッフに迎えているからだろうが、下手すれば銀河消滅、実際に惑星トルは「むこうの時空」に呑み込まれ、銀河系全体での避難まで順次行われる騒ぎがあったばかりなのに、その危険極まりない物質?の平和的利用が一年足らずで具体的に動き出しているとは。結局この「門」プロジェクトがニムバス=オメガが〈こちらの世界〉に復活するきっかけを作り(いかにヤマトが「岩」の情報を集めたところで、「門」の実験が行われていなければそこで手詰まりになったろう。実験に触発されてヘルガの記憶が戻ることもなく、ヘルガの手助けのないヤマトはロックに捕らえられてオメガの暗示から解放されたのではないか)、またもや「むこうの時空」に銀河系が呑み込まれる危機を招来してしまった。皮肉というか何というか。

 ちなみに「この宇宙に愛を」では「「むこうの時空」に突入するメンバー」の一人だったジル・クラリスが担っていた〈エスパーと普通の人間の恋愛〉というテーマを、まさかの(『ソード・オブ・ネメシス』ではそんな気配もなかった)アイザック長官とトラウトマン大尉が実践してくれたのはなかなかに興奮の展開。全体には緊迫した物語の中で、この二人の年に似合わぬ初々しい恋模様とそれに伴って描かれた彼らの意外な可愛気が、読者にホッと一息つかせる効果をもたらしている。

 対照的にシリアスな、切ない恋愛が描かれたのがヤマトとヘルガ。まだ〈生まれた〉ばかりで右も左もわからない、オメガの指令しか自身のアイデンティティを確認できるものがないままに、自分をロボットのように感じていたヤマトが「あなたは人間よ ちゃんと血の通った人間よ!」と自分を肯定し自分のために泣いてくれたヘルガに惹かれてゆく過程、ヘルガが結局ニムバスを忘れられない事に気づいたうえでなお彼女を一途に愛し続ける姿は、作品全体に哀しくも一種清々しい美しさを添えてくれた。ほとんどモンスターと成り果てたオメガが何を考えているのかよくわからない(ヘルガに対する情はおよそなさそうだが、3000年の月日が彼の精神を歪めたためなのか実はアルファだった頃からそうだったのかがはっきりしない)だけに、ヤマトの想いの強さが際立っている。

 そして特筆すべきはニムバスが、後にはヤマトとヘルガが閉じ込められてしまった「どこでもない」「「時間」も「空間」もない」場所の描写。その「場所」に入り込んだ瞬間から、過去の自分が延々と増え続けていく。通常の世界を動画とするなら、この世界はコマ送り状態かつコマ一つ一つが可視化された状態と言えるだろう。そして「空間」も実体もないゆえに、そのコマは質量も場所の広さも関係なく無限に増えてゆく。実害はなくとも地獄のような状況だろう。ニムバスは最新の自分=オメガ以外は消去する術を覚え、ヤマトたちは最新の自分たちだけが入れる〈家〉を作ることで(「おお よくできてる ヘルガ 腕を上げたな」というヤマトの台詞からすると作っていたのはヘルガのようだが)過去の自分たちから逃げる術を身につけたが、そうでなければ精神的に耐えられなさそうだ。この〈増殖し続ける自分〉とその回避法、すでに肉体が消滅した彼らが現世に回帰するための手段はSF的妙味に満ちていてワクワクさせられた(「「自分」はたっぷりある」というオメガの言い回しにはワクワクというよりぞっとさせられたが)。

 もう一つワクワクさせられたのが『カデット』に絡む細かいエピソードの数々。なかでもロックが「鏡」で暴走した(現在氷で封鎖中の)「門」に突入する場面で、候補生当時のカナーンが登場したのは「おお!」という感じだった。ここで彼は見えるはずのない「突入」シーンを知覚し「? 何だろう今の?」と考えているが、これが彼の人生を狂わせたESP発現の最初の瞬間だったのかと思うと何だかやりきれないものがある。また『カデット』ではいきなり長官として登場するニエミネンが長官職を引き継いだ事がラスト直前で描かれたり、「クライバー」が「岩」を手に入れた(数年後に手に入れる)経緯が明かされてたりするのもニクい心配り。こうした多角的な、実に『ロック』らしい魅力が満載の名作だと思います。

 

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