クラウス・ハンザ

 

 シルバーバーグ財団の研究員で博士。ロックの友人。「生きている岩」の研究中に研究室ごと行方不明になる。「むこうの世界」にやってきたロックに発見・救出され、その後第三波動を応用した「超空間ハイウェイ」理論を打ち立て、宇宙空間移動の新時代を切り開く。

 作品紹介(「ソード・オブ・ネメシス」)の項でも書いたが、「むこうの世界」によって大惨事が引き起こされ、今すぐどうこうではないもののじわじわと銀河滅亡の危機が進行しつづけてる最中に、その「むこうの世界」の原理を利用して「門」=「超空間ハイウェイ」を作る構想を楽しげに語れるこの人に驚いた(笑)。しかも「岩」のせいで(自覚がなかったとはいえ)異空間に長時間呑み込まれる体験をし(ロックがいなければ永遠にそのままだったかも)、奥さんにもずいぶん心配をかけたというのに。「岩」の危険性をもっとも肌身に沁みて知っているはずの彼が、もう「岩」を技術的に応用することを考えている。しかも明らかにわくわくしてる様子。アミナの父と祖父にも言えることだが、科学者の業というか何というか。

 ただこういう人は大事なのだとも思う。未曾有の災害が起こっている時にただ嘆くだけでなく、その事態をいかに収拾するかだけでもなく、プラスに転じることを考えて実行できる人。続編の「オメガ」で描かれたように、「門」が成功するまでには大事故が何度も起こりかけている(ロックがいなかったら本当に大事故になっていた)。成功・実用化された後でもそのメカニズムを思えば、転移失敗、船が消滅なんていう事故はいくらでも起こり得るし、実際に起きているのだろう。それでも、必要と思われる技術・システムは犠牲を払いながらも運用されつづける。悲惨な飛行機事故が起きても飛行機がなくならず、年間数千人の事故死者を出しながらも自動車がなくならないのと同じである。事故というマイナスを超えるプラスがあると見なされればそのシステムは止まらない(止まるのはより大きなプラスを生む新たなシステムが生まれ、そちらに乗り換える時である)。運用前なら中止もありうるが、いったん運用されてしまえば非常時を想定する悲観論を平常運用時の利便性を重視する楽観論が常に乗り越えていく。

 危ういといえば危ういが、結局人類の歴史はこの連続で発展してきたのである。そのターニングポイントの多くにハンザ博士のような人がいたのだろう。自身も事故に巻き込まれたのに楽観的にシステムの未来を語れる人。ロックに会って自分が異空間に閉じ込められていることを知った直後も、その後の物語の中でも、折に触れ彼はコミカルな表情を見せている。根っこが楽観的で明るい性格なのだと思う。歴史の流れを作ってきたのはナガト皇帝のような力強いリーダーだけではない。こういう明るさとチャレンジ精神、明晰な頭脳を持った人間が要所要所で道筋を作ってきたのだ。

 ただ現実世界にはハンザ博士のような人はいてもロックはいない。致命的な事故が起きたときに身を挺してそれをくい止めカタストロフを防いでくれる「超人」はいない。さて・・・。

 

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