ロック

 

 銀河最強、不老不死といわれる伝説のエスパー。顔良し頭良し性格良しかつ無敵の超人というおよそ万能のキャラクターでありながら、女性読者のみならず男性読者にも嫌みなく人気がある(これは結構すごいことかも)。

 銀河系の運命を左右するような大事件にたびたび関わるが、本人は基本的に穏やかな暮らしを好み、いかなる大義名分があろうとも犠牲者を出すことをよしとしない。そうした彼の姿勢は、ヤマキ長官に「いまの社会ではきみを受け入れるのは無理かもしれん・・・ がその力を使うことを恐れてこんなとこにコソコソとかくれているのは卑怯じゃないのか」とノブレス・オブリージェ的視点から批判されたり、ナガトに「逃げ出すつもりか いやなことには背を向けて」と非難されたりする。

 この消極的とも取れる態度は、長く生きて人一倍の苦悩や徒労感を何度となく味わったことに原因があるような気がする。たとえばロンウォール革命。ロンウォールを救う大義のために味方の屍を乗りこえて戦ったあげく、実質的には何も変わらず、言うなれば内部抗争で元革命軍自体が完全崩壊してしまった。ロンウォールを救ったのはあくまで惑星トア発見という〈奇跡〉であった(革命が無意味だったとは言えないけど)。

 これ以降、『コズミック・ゲーム』でも『炎の虎』でも『魔女の世紀』でも、ロックの戦いの動機は公憤ではなく、同胞であるエスパーがらみだったり、家族の仇討ちのため、ヤマキ長官など友人のため、自衛のため、など個人的なものとなっている。エスパーが人間に受け入れられることを切望しながら、エスパーが人間に尊敬されつつ共存する理想世界「ミレニアム」を、「そんなこと」「ありもしない幻」と言いきるのも、理想の名のもとに多大の犠牲を出したあげくに結局理想の世界など実現しない徒労感をよく知っているからだろう

 (その一面、彼はクーガーに「えらくのんきなんだね」とあきれられるほどの楽観主義者でもある。本人いわく「つねに希望をもつことにしてるのさ」。たしかに虚無感を抱いて生きるには彼の生命は長すぎる・・・)。

 とくにロックの場合「超人」と呼ばれるほどの力を持っているだけに、彼が判断をあやまった場合に引き起こす惨事は通常の比でない。それだけに彼は何かにつけ慎重にならざるを得ない。

 「ぼくには人にない力がある でも それをどう使ったらいいのかわからないんだ!」「正しいことをしたこともあるけどまちがいをおかしたことだってある 軽はずみなことや無責任なこと・・・・・・ 感情に流されたこともある これからもたぶんずっと」(ともに『冬の惑星』)といった台詞からは、ロックが自分の判断力に懐疑的であることが感じとれる。

 もっともロンウォールの現状に激しい義憤を覚えていた16歳のロック・リヴィングストンの心をも失ったわけではない(ロックって長く生きている分老成しているものの本来は熱血漢タイプなんではなかろうか。ヤマキ長官やリュウ・ハントのような熱血直情型と肌が合うことからしても)。やはり『冬の惑星』の中で口にした「結果がたとえどうであれ なにかをしようと努力することと なにもせずにあきらめるのとでは大きなちがいがある!」という思いはその後も変わっていないだろう。

 ゆえに力を使うことに慎重でありながらも、同時に〈自分は人々のためにこの力を役立てるべきじゃないのか〉という迷いが心の底にわだかまっている。ライガー教授に説得されて「インナークロス」に参加したり、『ミラーリング』でネオンに洗脳されてしまったり、ロックの「暗示に弱い」という性格はここに起因してるのではないか。

 そんな〈動くべきか動かざるべきか〉という迷いを払拭し彼が積極的に戦うことを選ぶのは、前述の身内がらみか、よほどの大量虐殺が行われた場合である。ロックは反帝国組織SOEにほぼ全面的に協力し、帝国打倒に重要な役割をはたしている。組織に属することがほとんどない彼が一つの組織にこれだけ長くにわたって肩入れするのはずいぶん画期的なことだという気がするが、SOEとの出会いとなった「ジェノサイド」計画がよほど腹にすえかねたのだろう。

 『冬の惑星』でもロックが迷いを振り切って、アルフレッド・クラウスを倒すと決めたのはアルフレッドが地球からの移民を冷凍保管している倉庫を爆破したときだった。「どんな理由があっても こんな無意味な大量殺人が許されるはずがない」というのがロックの変わらないスタンスなんでしょうね。

 そのほか『聖者の涙』では麻薬組織(実際には麻薬治療薬普及組織)のトップだったり、『エネセスの仮面』ではどうやら自ら海賊を結成してしまったり、人のためエスパーのため珍しく積極的に動いているが、ここでも身内がらみで何ごとかあったのか、それとも(新)連邦に対する失望感がよっぽど強かったのか。

 まとめると、〈理想実現のために犠牲を出すことはしたくない。身近な人間の危機と一方的な虐殺は許せないが、それ以外はなるべく誰も何も傷つけずに時間が解決してくれることを信じて待ちたい〉というのがロックの基本スタンスだろうか。ただそれは彼がほぼ永遠に生きられるからこそであって、普通の人(エスパーも)はいつ来るかわからない〈解決〉をとても待ってられるものじゃない(ロックの「信じて待ちつづけるんだ!」といった言葉に耳を貸した人ってあまりいないよね・・・)。このあたりに不老不死ゆえの、他の人間との感覚の断絶を感じてしまう。やっぱりロックは〈孤独〉ということなんだろうなあ。 

 

 

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