『カデット』

主なキャラクター:ロックミラクリフアイザックニーブン中佐ハンザカナーンレイラ、ヤンク、ラコーニ

 

 試験運用が開始された「ゲート」で軍の輸送艦が一隻行方不明に。その船が積んでいたロンジット鉱が辺境で出回っていることから海賊の関与を疑ったアイザックとニーブン中佐は、ロックに近々「ゲート」を使用する予定のISCの船に乗り込んでほしいと依頼する。一方ISCの士官学校を首席卒業した才媛ミラ・ファニール候補生は初任務で問題の船「エイサム」に搭乗。クリフという他人には見えない〈半身〉を連れている彼女を、ロックは一目で第三波動を使える特殊なエスパーだと見抜く。

 アイザックらの危惧通り、「エイサム」は「ゲート」侵入直後に時間流を操る能力を持った海賊たちに襲われる。ロックの指示を受けたミラはもともと異なる時間流(ごくわずかな過去)に存在しているクリフを使役して海賊に対抗するが、海賊のキャプテン(カナーン)のESPによりクリフを倒され、第三波動を操る能力があるのもバレて拉致されてしまう。

 船は無事だったもののミラが攫われたことに責任を感じたロックは、彼女を取り戻すべく「生きている岩」が現存していないかを調べ始める・・・。


 〈雑誌まるごと『超人ロック』〉という形態の「超人ロックSpecial」の記念すべき第一弾。第一弾なのに過去エピソード(『ソード・オブ・ネメシス』)の続編的な話から始まるというのは『少年キング』初連載だった(そもそもメジャー誌初連載でもある)『炎の虎』が同人作品の『コズミック・ゲーム』の続編的性格の作品だったことを彷彿とさせてあいかわらずだなーと何だか嬉しくなります(『キング』進出時と違って新規の読者はほとんどいなかったでしょうけど)。

 とはいえタイトルが示すように今作は士官候補生ミラ・ファニールの視点を中心に話が進むので、『ソード・オブ・ネメシス』を知らなくても(「岩」って何だ?「ゴダン」って何だ?とかはありつつも)問題なく読め進められる。むしろ『ソード・オブ・ネメシス』の段階では人類を滅亡の危機に陥れかけていた「むこうの時空」を利用した「超空間ハイウェイ」が(すでにハンザ博士が構想を語っていたとはいえ)いきなり試験運用の段階まで来ていることに、『ネメシス』を読んでいる人の方が混乱したかもしれない(笑)。惑星トルの消滅、それに巻き込まれたISC艦隊の壊滅、ハンザ博士らが本人は自覚のないまま長期間異空間に閉じ込められるなど、「むこうの時空」のヤバさしか見てないからなあ。

 今回カナーンはニムバス同様「生きている岩」を手にしながらそれを海賊行為にのみ使っているが、もし彼にその気があればニムバスのように時空の浸食を引き起こすことも可能だったのだろうか。自身と同じような境遇の不遇なエスパーを集めて海賊を組織している点でもカナーンはニムバスと共通しているが(海賊になる事を選ぶエスパーの背景はおよそ似たようなものなのかもしれない)、彼がニムバスのような大それた考えを持っていなかったのが幸いだった。海賊行為も実質「ゲート」の実用化を遅らせたい(自分たちが「ゲート」対応の船を作るまでの時間稼ぎのため)雇い主の思惑によるものだったようだし。

 そして今作最大の目玉はやはりミラの登場だろう。第三波動を生まれつき扱える特殊なエスパーという以上にロックと恋仲になるという点において。長い『超人ロック』の歴史の中ではロックと恋仲になった女性も何人か存在しているが(一方的に想いを寄せられたケースはさらにたくさんある)、ロックの方からこれほど積極的に近づいていったケースはなかなか思い出せない。能力に興味を持って近づいたというなら『デスペラード』のヴィニのケースがあるが、彼女との関係は純粋に能力への関心と助力に留まっていた。ミラの場合は最初こそ第三波動を操れる事への興味から接近したものの、壊れた機械を一瞬で直した自分を「魔法使い」と呼んだ(「魔法使いみたい」といった比喩表現ではなく「ロックさんって 魔法使いだったんですね!!」と無邪気に断言した)ミラに微苦笑を誘われたのをきっかけに、彼女が自分のせいで(とばかりもいえないのだが)海賊に囚われた事に責任を感じて救出しようと力を尽くすなかで彼女への想いが深まっていったようである。とはいえ『カデット』の段階で、まさかミラがロックの「奥さん」と呼ばれる立場にまでなるとは(そもそもロックが結婚すること自体)想像もできなかったなあ・・・・・・。 

 

 

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