オーギュスト・カナーン

 

 『カデット』『星辰の門』登場。エスパーばかりの宇宙海賊のキャプテン。元連邦軍人だが、ESPテストで引っ掛かり艦隊勤務から外される事になったため脱走、海賊となった経緯がある。

 今回久々に『星辰の門』を読み返して、この人が結構好みのタイプだったことに気がついた(笑)。生真面目でちょっと融通が効かないところ、自分の優しさを素直に認めない(ミラいわく「ひねくれ者」)なところ、連邦軍のコーヒーに対する一連の反応(少し後に「彼はすでに軍の人間ではありませんが 彼の魂は軍にあると 信じています」とカナーン中佐を評したファニール提督がこの時のミラとのやりとりを知ったなら「やっぱりね」と思うのではないか)など人間味、人としての可愛気がある人物だなと思います。

 そうした彼の〈美質〉が表に出てくるようになるのはもっぱら『星辰の門』になってからで、『カデット』で名前も素顔もわからなかった頃はミラに対する対応も、薬漬けにするとかこのままでは気が狂うと感じたほどの精神的苦痛を与えるとかもっとひどかった(それでも体には一切傷をつけていないが)。このあたりの変化は『星辰の門』感想でも書いたように、連邦に素性を知られてしまった以上は元連邦軍人として恥ずかしくない行動を取らねばとの意識が働いたのではあるまいか。

 こうした態度、「(海賊になった事を)どこかで 軍に対して申し訳ないと思っていたのかも知れんな」という言葉に象徴されるように、エスパーであるゆえに情報部に強制的に転属させられる=艦隊勤務を外される事に抵抗して軍を脱走し海賊になったにもかかわらず、彼は連邦軍を恨んではいない。むしろミラに言った「ISCには 情報部はないのか?」「あのまま ジャマーを浴びていたら 死んでたぞ」という台詞からすれば、艦隊勤務を外され情報部に異動させられる事をエスパー自身の命を守るためのやむを得ない措置として納得してるようですらある。やむを得ない、連邦に非があるわけではないと理解したうえで、それでもなお「星辰への門 大宇宙に至る道を閉ざされてしまった」事が生粋の〈海の男〉だった彼には耐ええなかったのだろう。

 そう考えるとなぜ彼が海賊になるという反社会的な道を選んだのか、それも普通に退役するのでなくなぜ脱走という手段を取ったのかが不思議になってくる。宇宙艦勤務が譲れないポイントであるのなら、民間企業の宇宙船乗りになる方法だってあっただろう。戦闘艦乗りである事にこだわるとしても、大手警備会社なら重要物資を運ぶ商船に同行する本格的な護衛艦を備えているのではないか。Eテストに引っ掛かるまではごく優秀で人望も厚い軍人の鑑のようだったカナーン中佐なら、円満退役→軍の紹介でそうした警備会社に勤めるないしは自ら起業するなどの道だって充分開けたのではないか。

 (実際海賊になったといっても〈宇宙の海を誰にも縛られず自由に駆け回る〉わけではなく、『カデット』でのゲート荒らしはラコーニがミラに説明したような〈経済・情報戦争を防ぐため〉などという大義のためではなく雇い主の会社(「クライバー」)がゲート対応の船を作れるまで時間稼ぎがしたいという一種セコい動機に発する依頼によるものだったし、「やらなきゃ 飢え死に」だからと「くず仕事」を引き受けもする。軍時代と比較してカナーンが海賊生活に満足していたとは思いがたい仕事内容ではある)

 なのにカナーン中佐はそうした合法的かつ連邦軍とも友好的関係のままでいられる方法を取らず、脱走という強行手段に出た。上では「連邦に非があるわけではない」と書いたが、軍を円満退職して民間の宇宙艦乗りになる事を阻む何らかの強制性が軍内部に存在していたのかもしれない。『星辰の門』以降〈カナーン中佐の悲劇を繰り返さないために〉連邦軍とISC双方の尽力のもと〈エスパーだけで構成される艦〉(ミラが艦長に内定?)の計画が進められてゆくが、中佐が軍を脱走し海賊になったについては軍上層部も責任を感じざるを得ないような何かがあった、という事なのかも。

 

 

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