『アゼリア』

主なキャラクター：アゼリア、テッド・ラカン、ロック

　「皇帝計画」から半年弱、アゼリアはすっかり人気女優となっていた。そんな彼女にＧＶＮのプロデューサーであるラカンは、アカデミー賞を取らせてやるとほのめかして関係を迫る。嫌々ながらもアゼリアはラカンの要求をのみ、彼の別邸へ同行する・・・

　ＯＶＡ『新世界戦隊』後編の付録として書かれた番外編。前編の付録（『ＥＬＡＮＡ−０３６８−』）が本編の前日談（７年前）だったのに対し、今度は後日談となっている。『アウター・プラネット』に星間ビデオのスターとしてちらっと（映像で）登場しているので、駆け出しの女優だった彼女が皇帝計画後に大成したのはわかっていたが、そこに至るまでの軌跡の一端がここで触れられている。

　ラカンは半年前の映像と比べるとアゼリアが別人のように変化したと指摘する。これは演技力が向上したというばかりでなく、魅力的になった、存在感を増したという意味だろう。外見が特に変わったわけでもないのにこれだけ印象が違う、彼女の変化には何か秘密があるのではと言うラカンの言葉を、アゼリアも「ええ　でも秘密ですから　誰にも話せないんです」と肯定している。秘密とは何か具体的には描かれないが、この台詞を口にしながら彼女が思い出しているのはランとエレナの姿である。皇帝計画に巻き込まれた中で経験したことが、言うなれば〈芸のこやし〉になったというわけか。共に旅したロックたちでなくランとエレナの方を想起しているのは、この二人を皇帝計画を象徴する存在と感じているからか、あるいは彼らの倒錯的な愛情関係に対する動揺がアゼリアの人間理解を深めたとかあるのだろうか・・・。

　ＳＧ企画刊の『超人ロックの謎』に「アゼリアが人気女優に転身するまでの経緯」という項があるのだが、聖先生が「実力を正当に評価してくれるプロデューサーに出会った」とごく真っ当な回答をしているのに対し、銀河連邦小平情報部（笑）の調査結果は「超能力を上手く利用した」となっている。具体的には皇帝計画をきっかけとして「接触テレパスとしての能力のコントロール法をマスターし、演出家や相手役の感情を読み、演技のレベルを上げて行ったのだろう」とのこと。確かにこれはありそうな話である。皇帝計画以前のアゼリアの超能力がどの程度のものであったか、エスパーだと自覚していたかさえ定かではないが、命がけの旅を重ねるなかで能力がアップしたことは十分考えられる。演出家や相手役が自分にどんな演技を望んでいるか、無意識レベルの要求までも読み取ってしまえるのだから、接触テレパスの力が演じるうえで大いに役だったことは想像に堅くない。相手の体に触る必要があるから不自然にならないように工夫しなくてはならないが、そのうち人間心理のパターンを把握してしまえばいちいち能力を使う必要もなくなったことだろう（力を使うまでもなく相手の思うところをおよそ察せられるから）。接触テレパスの力を使っていたのなら「秘密ですから　誰にも話せない」というのにも（自分がエスパーなのは当然周囲に伏せているだろうから）合致する。

　ところでラカンしか知らないはずの別邸であらかじめ奥さん（らしき女性）が待ち伏せていたのはなぜなのか。思い当たるのは授賞式の会場にロックが来ていたこと。彼はラカンがアゼリアに手を出そうとしたことや主演女優賞を餌に口説いたことを知っていた。おそらくはアゼリアの貞操の危機を知ったロックがどんな方法でか奥さんにラカンの隠れ家と密会予定をリークしたんじゃなかろうか。ラカンが職権を濫用して女優を口説くのはこれが初めてとは思えない。アゼリアの共演者（「アラン」役の俳優）が彼女がＧＶＮ（「Ｇａｌａｘｙ　Ｖｉｄｅｏ　Ｎｅｔｗｏｒｋ」＝星間ビデオの略だろうか？）のラカンと食事すると聞いたとき「なんだって？　あのラカンか」と驚いていたが、表情からして「あの名プロデューサーのラカンに認められたなんてすごい！」ではなく「あのラカンが今度はアゼリアに手を出そうとしてるのか！」というニュアンスぽい。おそらく彼の女癖の悪さは有名であり、奥さんも夫の度重なる浮気の証拠をいつか握ってやろうと手ぐすね引いてたタイミングだったのだろう。基本ロックが関わりを持ったエスパーをアフターケアするのは相手が未成年の場合だけなのだが（『アゼリア』の時点で同居中のはずのランとニアがいい例）、一応アゼリアのことも陰ながら気にかけてたわけだ。アゼリアからすれば賞のためにプロデューサーと（自発的にではないとはいえ）寝ようとしたのをロックに知られてしまったわけで、ちょっとバツが悪かったかも。

　しかし〈自分がアゼリアが賞を取れるようはからった〉というラカンの話が嘘だということに接触テレパスのアゼリアが気づかなかったのは不思議。この台詞の直前でラカンの方からアゼリアの手首を掴んでいるので、心を読むには絶好の機会だったはずなのだが？

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