『妖精の森』
主なキャラクター:ロック、シーナ、デイビー、クラッド、敵ボス(名なし)
異常に植物の成長が早いとある惑星。ロックはその惑星固有のESPに反応する植物「共振樹」の森に、謎の敵一味の一人・クラッドによって誘い込まれ、なんとかクラッドは倒したものの、受けた傷を治そうとして共振樹の反響を食らい倒れてしまう。
そんな彼を助け介抱したのは森の中に住む少女シーナとお手伝いロボットのデイビーだった。父であるユーゴ・ハルマニー博士の死を知らず彼の帰りを待っているというシーナが、なぜか共振樹と「話ができる」ことにロックはとまどうが・・・。
不思議な生態系を持つ土地にロックがやってきて、環境に戸惑いつつも戦わねばならないという、ロックの短編もの(『クランベールの月』は短編というほど短くないが)に多いシチュエーションの物語。ロックがESPなしでも十分に強いのは『書を守る者』などに顕著なのだが、今回は受けた傷を治すこともできずバリアも張れない状態が森にいるかぎりずっと続く、その森を敵に包囲されてるため出るに出られないというまさに絶体絶命のピンチである。
ロックが何故追われているのか、相手は何者なのかといったことはまったく描かれないが(これも『ロック』の短編にありがちな傾向ではある)、説明不足という感じはない。上に挙げたような〈シチュエーション〉を描くことが主眼であって、そのシチュエーションがなぜ生じたかを説明しはじめると物語が短編の枠内に収まらなくなるというのが自然と読者に了解されているからだろう。これまでのさまざまなエピソードの積み重ねがあるので「またロックが狙われてるよ。まあ何事かあったんでしょ」くらいで流せるというか(笑)。
そしてくだくだしく状況を説明するのを省いたおかげで、そのぶんロックとシーナの交流に短いながらもページ数を割くことができ、わけもわからないままロックへの好意ゆえに彼を守ろうとして巻き添えを食ったシーナに読者が同情しやすくなっている。結果この物語はなにやらもの悲しく幻想的な美しさを帯びることとなった。それはヒロインであるシーナの無邪気で愛らしいキャラクターがそのまま反映されたものであろう。
最後彼女は「仲間のところに帰った」とさもそれが幸せであるかのようにデイビーによって語られているが、共振樹と一体化した彼女はもはやシーナとしての人格を失ってしまっているように見える。ならばこれは「シーナ」としては死んだに等しいのではないのか。確かにシーナはデイビーと二人きりで他の人間との交流はいっさいなかった(だからこそ無防備にロックに懐いたのだろう)が、森から一歩も出ることなくロボットと暮らしていた彼女はそれを自然なこととして人を恋しがっているようでもなかったし、「パパ」に会えないことを寂しがってもいなかった。共振樹という〈話相手〉もいたのだし。彼女はあのままで十分に幸せだったように思えるのだ。
それだけに彼女の死は悲劇と感じられるのだが、肉体が消滅することなく大木の中に溶け込み、あたかも抱かれているかのような姿は、確かにとても安らいでいるようにも見えるのだった。
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