『歌姫』

主なキャラクター:ロックリリス、酒場の主人(マックス)、賞金稼ぎたち

 

 安酒場の歌姫リリスはある晩たちの悪い客にからまれたところを、同じ店で働いている少年・ロックと酒場の主人とに助けられる。リリスは怪我をしたロックを介抱するが、ロックから店にいた二人組の客がエスパー専門の賞金稼ぎであることを聞かされ、リリスがエスパーだと知ってることをほのめかされて驚く。直後、ロックを薬で眠らせたリリスは一人酒場を出て、賞金稼ぎたちと対決する・・・

 


 第一作『ニンバスと負の世界』で初お目見えしたロックの仮の姿・歌姫リーザ(リーザという名が出るのは第二作目の『この宇宙に愛を』だが)のルーツを描いた物語・・・と思われる。思われる、というのはリリス=リーザと言い切るには名前が違うし顔もあまり似ていないから。リリスとリーザでは名前の響きは似ているものの全く別の名前(リーザ−Lizaがリリス−Lilithの愛称とは思えない)だし、絵柄の変化を抜きにしても聖先生流正当派美人顔のリーザに対しリリスは眉が短くややきつめの猫っぽい顔立ちをしている。こうしたところから果たして本当にリリス=リーザなのか?という疑問が湧いてくるのだ。

 リリス=リーザではない根拠がもう一つ。現状、年表上で『歌姫』は『クロノスの罠』の後のエピソードということになってるようだが、『マインド・バスター』では、ナガトが初めてロックの前に現れたとき、〈ロックがよく使うマトリクスの一つ〉といってリーザの姿になって見せているのだ(ナガトはどこでリーザのマトリクスを手に入れたんだか)。言うまでもなく『マインド・バスター』は『クロノスの罠』よりも何十年も前の物語である。『歌姫』でロックは初めてリリスのマトリクスを手に入れるのだから、それ以前の物語で彼女の姿になれるはずがない。

 まあ『ソリティア』が帝国時代のエピソードに入れられていたくらいで年表も結構当てにならないし、いかにロックが長く生きてるとはいえ、女性歌手のマトリクスを二つも所有し使い分けしてるとも考えにくい。そもそも〈リーザのマトリクスの由来を明かす〉というファクターを外したら、このエピソードあまり意味がない。というのもリリスはロックにとって恋人というわけでもない、単に同じ酒場で働いていただけの女性で、ロックの彼女に対する思い入れは特に描かれていないし(同じ未登録エスパーとして共感を抱いてはいたろうが)、リリスの側もほかに大切な男性があったようだ。最期に「そして あの人・・・に」と言い残していることからそういう相手の存在がうかがえるのだが、ロックに「あの人」に対して何をすることを望んだのか、そもそも「あの人」が誰なのかがわからない。先に独り言で別れを告げたマックス(酒場の名前が「MAX」なことから酒場の主人の名前だとわかる)がその人かとも思うが、年齢的ビジュアル的に彼がリリスの恋人という感じでもない。どのみち「あの人」がマックスであろうとなかろうと、リリスもロックに特別な思い入れがあったとは思えないので〈死んだ女のマトリクスを受け継いで歌う〉ことがあまり感動を喚起しないんである。

 それでもリリスの、他人に自分の代わりに歌ってほしいと末期に願うほどの歌への情熱が描かれていれば納得できるのだが、追っ手に脅えてこそこそ隠れる暮らしに疲れ果てて死を覚悟で賞金稼ぎたちに挑んだ事情が語られている彼女だけに、ロックに自分のマトリクスを受け取って歌ってくれと頼むシーンが何だか唐突に思えてしまう。あるいは歌うことが「あの人」への何らかのメッセージになっているのか?これも描かれていないので何ともいえない。

 つまるところロックがリリスの姿で歌う動機が―というよりリリスがロックに歌ってもらう動機が明確でないことが、個人的にこの作品に座りの悪い感じを覚える所以なのだった。「ロック」「歌」「あの人」すべてに対する彼女の想いのほどがさっぱりわからないんだもんなあ。ロックが遅くとも連邦末期(『マインド・バスター』の時代)から新連邦時代に至るまでずっと頻繁に用いているマトリクスの持ち主なのだから、相当ドラマティックな何かがあったのだろうという期待を外されて拍子抜けしたというのもあるし。18ページしかないんだから無理ない部分もあるのだけど、さらに短いページ数の『夢使い〜DREAM MASTER』は謎だらけにもかかわらず感動的だったんだけどなあ。

 

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