タカナ・クーベルホッフ

 

 『久遠の瞳』登場。シャカ・ジョーンズの腹心の部下。戦闘シーンが鮮烈なだけに優秀なボディガード、戦闘員といった印象が強いが、ハッキングや推理力にも優れていて実に有能。〈エスパーだけを殺せる何か〉の存在を確認するためユノーの現地調査に赴いたさい、ハッキングで得た(実はアークがそうなるよう仕向けた)治療記録と同行したエスパーの死に方から〈エスパー殺し〉の存在を確信、具体的には超小型爆弾であろうと推量したまではまだわかるが、少し前に「針」の情報が入ったデータキューブが取引された件をどうやってか知りそれと結びつけたのはとんでもない調査力と推理力。その戦闘能力も含め連邦軍かΣセクションにほしい人材ではある。

 実際、この作品におけるアクションシーンが魅力的なのは、タカナの「モノワイアー」を使ったダイナミックな戦闘に拠るところが大きい。糸が触れるだけで人体はおろか建物まで真っ二つになってしまうのだからその破壊力はすさまじい。これを戦闘機械でなく生身の人間が素手で操っていること、普段はリボンに偽装して髪に付けていることもインパクトが強い。絵面的には若く綺麗な女性が長い糸の付いたリボンを振り回しているだけというギャップが何とも格好いいのである。「ひとつまちがえれば 自分もまっぷたつになる」危険極まりない武器を軽々と扱う技量と覚悟にシビれる。

 加えてシャカの死を知ると躊躇いなくフレアへの復讐を果たそうとする強い想い。それまでの会話を見るかぎりタカナはシャカを盲信・崇拝してる感じはないが、比較的ビジネスライクな中にも相手を心配したりその心配を汲み取ったりという情が彼との間に成立していた。ゆえにその〈情〉とこれまで部下として世話になってきた恩というか〈義理〉、シャカを守る職責を果たせなかった〈責任感〉、もともと折り合いの悪かったフレアへの〈怒り〉といった感情がないまぜになった結果として彼女は仇討ちを行ったのだろう(フレアの居場所を探るのに、「妙にそういうものを見つけるのがうまい人物」アスキン刑事に目を付け、彼とアンの会話を盗聴したあたりはさすがの推理力)。

 上で書いたようにタカナとフレアは初対面からお互いあからさまに嫌い合っているのだが、これは多分に同族嫌悪的な要素が大きいように思える。タカナはアークの死に動じないどころか楽しげでさえあるフレアを、「自分の保護者だった人間が死ねば・・・ 普通は動揺するものです」とその意外さゆえに警戒しているが、それはフレアをアークと対等のビジネスパートナーではなく被保護者と見做していることの顕れである。一方のフレアはタカナを「飼い犬の命令がなければなにもできない番犬」と見なしてはっきり軽蔑していたが、シャカの死後も自身の意思で行動し自分を追ってきたタカナに追い詰められることになる。どちらも相手を最初は軽く見てその予想が最悪の形で裏切られたわけだ。

 こんな二人の戦闘場面は美女二人が生身で肉弾戦をやっているだけに華も迫力もあった(直前にフレアのゴーグルがタカナに壊されていたためフレアが珍しく素顔=凄味のある美貌をさらしているのも華やかさを増している)。最終的にフレアが勝利したものの、タカナが破壊した調査船の浸水が遠因となってフレアは命を落としたわけだから実質は相撃ちといっていい。ラムタラで右腕を吹き飛ばされながらも、痛みと出血多量のダメージに耐えてトーニックを倒し(彼女は左利きのようだが、片腕を失い身体のバランスが普段と違う状態でモノワイアーのような使い手も危険な武器を操れたのだからすごい)、フレアに銃で心臓を撃ち抜かれて狙いは外したものの船の壁を切り裂いた根性──やっぱりこの人好きだなあ、悪人だけど。

 

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