ストウ・サンティニ(ビトー)

 

 『猫の散歩引き受けます』登場。某都市のスラム再生のため無血テロを繰り返すゲリラ集団「クラックス」の若きリーダー。生真面目で理想家肌の熱血漢ながらも全体に陰がある。「スラム希望の星」と呼ばれ、部下からも慕われているがスラム出身者ではない。実はピエール・クシノ(ピエール・サンティニ)の息子、つまりはクシノ議長の実の孫息子である。

 スラム出身でない彼がスラムの人々のため評議会を潰そうと戦う裏には、父を見殺しにした(ストウが母親から聞いた話では「暴徒の中に放り込んだ」)議長への恨み憎しみがある。おそらくは母から議長への復讐の念を刷り込まれながら育ってきたのだろう。しかしいざ議長を殺すべく目の前に立った時、孫である彼への愛情とピエールを救えなかった哀しみ・贖罪の想いもあらわに一切命乞いをしない彼女を結局撃つことはできなかった。銃を捨て、泣き崩れる姿は「か・・・あさん ぼく でき ない」という子供のような独白ともあいまって、それまでと別人のように弱々しく見える。

 つまるところ彼の根っこは育ちのよいお坊ちゃんであり、母の意志に呪縛されるまま行動してきたが人間ましてや身内を殺すことなどできない良く言えば真っ当、悪く言えば甘ちゃんなのだと思う。考えてみればサイバーテロ?を仕掛けて逃走する最中に部下ともども追手に囲まれた際も、状況打開のため即座に動けていなかった。デイビスが助けにこなければあそこで捕まっていただろう。逆境に弱いというか、ジャニスのような他人を踏みつけても這い上がろうとする雑草のごとき図太さしたたかさが良くも悪くも足りないと感じる。ただ一見強気に見える態度の奥のそうした甘さこそが、彼が部下から慕われる要因にもなっているのではないか。「クシノ」の項でも書いたが情のないリーダーには人はついてこないので。

 クシノを殺せなかったストウはあの後どうしたのだろうか。議長公邸に侵入し彼女を殺そうとした事自体は議長がもみ消して無罪放免になっただろうが、議長への恨みというモチベーションを失って「クラックス」としての活動を続けていけるのか。とはいえスラムの犠牲の元に成り立つ街のシステムが何も変わっていない以上、活動を止めてしまうのは彼に期待するスラム住民への裏切りになってしまう。まあ今後はテロではなくNPO団体的な支援活動を通して、時に市議会・評議会とも折衝しながら合法的にスラムの生活向上に取り組むというあたりが最も望ましい着地点だろうか。

 

 

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