『ソリティア』

主なキャラクター:イアンルーファスロック)、ギブソン大佐、ムトウ博士、おじいちゃん、バゼット、ゼスダ・ザード、シュワンツ、スカリエッティ

 

 マーク・ムトウ博士の発明した奇跡のエネルギー転換装置「エリック・コンバーター」が謎の武装集団に奪われ、それにともなう村の破壊でムトウ夫妻も死亡する。博士の遺児であるエスパーの少年・イアンは、祖父からESP増幅装置「サイ・エクスパンダー」を渡され、両親の仇討ちを託される。

 直後に祖父は病死、一人ぼっちになったイアンは、行き倒れたところをいかさまギャンブラーのルーファスに助けられる。イアンを連れてカジノへ行ったルーファスはESPによる不正がバレて用心棒のエスパーに襲われるが、イアンがエスパーを倒して彼を救う。その力を見たカジノのオーナー・バゼットはイアンとルーファスをスカウトし、二人はカジノで働くことになる。

 折から両親の仇である海賊「ケルベロス」が連邦軍に全滅させられたと知ったイアンは目的を見失い、ルーファスが去ったのちもカジノのフロアマネージャーとして数年を過ごす。そして両親の死から8年目、カジノの客が持ち込んだロンジット鉱をきっかけにイアンは「ケルベロス」の残党の存在を知る・・・


 この話を読んで思い出したのが『ロード・レオン』だった。どちらも主人公は幼い頃に身内を理不尽に殺され、そのESPを武器に数年越しの復讐に乗り出す。しかし共通してるのはそこまでで結末は全く違う。憎い仇にも妻子、とりわけ子供があることを知ったイアンは、葛藤の果てに復讐を放棄する。自分と同じ哀しい子供を生み出さないために。これはグレート・ジョーグを苦しめるために彼の孫であるツェン・リーを斬殺したレオンにはなかった視点だ(ギブソン大佐の子供に比べてツェン・リーがはるかに憎憎しいのも事実だが)。

 実際、同じ復讐者であっても、最後の戦いを例外としてイアンには狂気がうかがえない。「奴らは1人残らず ぼくがこの手でしまつする!」なんて台詞を口にしてさえ。理由はいくつか考えられる。イアンの場合、復讐の意志は祖父に刷り込まれた他発的なものであったこと(彼が両親のことを思うとき、そこにあるのは怒りでなく悲しみである)、「ケルベロス」は壊滅したと思っていた8年近く(「近く」と表現したのは、「エリック・コンバーター」強奪からなら8年だが、祖父からサイ・エクスパンダーを手に入れるまで=復讐の志を立てるまでに一年ほどかかってるんじゃないかと思われるから)のインターバルがあること、ルーファスやバゼットら周囲の人と環境に恵まれたこと(レオンにもフローラとドクがいたわけだが・・・)。

 ともかくぎりぎりの局面で他人を思える「余裕」を心のどこかに残していたことが、何よりイアン自身にとって幸いだった。敵の親子を引き裂くことを否定したご褒美のようにお父さんが戻ってきてくれたラストを見るとそう思えてくる。ロックもレオンの時の失敗が頭にあったのか、正面から復讐を止めずにそっと見守ることに徹していた。無理に止めても自らの意志で復讐心を捨てないかぎり復讐者の苦しみは続く―それを感じていたからだろう。

 話は変わるが、この作品の背景には連邦軍の腐敗がある(なぜか年表のうえでは帝国時代初期のエピソードにされているが、「連邦」という語が繰り返し出てくること、新連邦時代が舞台の『神童』と『聖者の涙』の間に執筆されてること、『ソリティア』が初出の「サイ・エクスパンダー」が『聖者の涙』にも登場することからして、素直に新連邦時代―『神童』と『聖者の涙』の間の時代が舞台とするのが妥当だろう)。ことが宇宙船の大量処理に関わっているので、ギブソン大佐の単独犯とは思えない、連邦軍そのものが背後にいる可能性が高いからだ。したがって当然の流れとして「エリック・コンバーター」も軍の手に落ちた。その功績で退職金をはずんでもらったのか便宜を図ってもらってるのか、ギブソン大佐のジェネシス・エネルギー社も大いに発展した―というのが裏の事情だろう。そのわりにムトウ博士が連邦軍でなくジェネシス社にいるのは不思議なところだが、連邦軍との関係がまずくなった時のために証人として密かに押さえてあるということか。

 ロックは新連邦の母体であるSOEにはその発展期から長く関わり、連邦が樹立したのちも『闇の王』『邪神降臨』など連邦の依頼で動くことも多く、『神童』時点でも密接な関係を保っている。それが『聖者の涙』では麻薬患者の救済にあたり非合法手段を取らざるを得なくなっている―連邦とかつてのような協調関係にあるならば〈特例として合法〉にしてもらうことも可能だったろうにそうはしなかった―あたり、『神童』〜『聖者の涙』の時期にロックと連邦との関係が悪化ないしは疎遠になった感がある。そのきっかけが「エリック・コンバーター」強奪事件、その顛末に表れた軍のやり口への不信感だったんじゃないかと思ったりするのである。

 

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