『神童』

主なキャラクター:ロックオトルルローグ、マディ、フェイド、カレン、ミス・ブラウン、ハッシュ・マルサス、オリガ・ペテルセン

 

 父と同じ軍人を目指す少年・オトは、軍の初等アカデミー受験のため乗った宇宙船で、偶然に男(ローグ)が射殺されるところを目撃、虫の息の男から「マリー・L」に渡してほしいとデーターキイを託される。しかしローグを襲った彼の元相棒・マディに奪ったデーターキイが偽物であること、本物はオトが持っていることに気づかれてしまう。

 オトは惑星ソートで偶然「マリー・L」なる女性がクラブ「オムニ」に出演することを知って彼女を訪ね、マリーの「影」である歌手ルルと出会う。ルルはローグの恋人だった。オトとルルはオトを追ってきたマディに襲われ、ルルはマディを返り討ちにしたものの自身も重傷を負う。オトはルルの苦痛を和らげるため、銀河一の歌い手だった母ゆずりの美声で歌を歌う・・・。

 


 それぞれの「夢」を追う人たちの物語。とくにルルとローグの会話には「夢」という単語が頻出する。ルルもローグもかたぎじゃない、特にローグなどは完全な犯罪者なのに、夢を語るときは実にいい顔になる。相棒からさえ「冷酷で残忍」と評されたマディも、酒場の女(恋人?)に一攫千金の計画を語ったときは生き生きした表情をしている。このエピソードは裏社会の人間が登場人物の大勢を占めるが、みなオトの歌に涙したくらいで根っからの悪人はいなかった。もしマディがあの場にいたなら、彼もまた涙を流して戦闘放棄していただろう。例外はオトの歌が聞こえなかったフェイド大尉くらいなもの。あくまでも財宝を手に入れることに執着した彼もある意味夢追い人だったのか。 

 オリガ・ペテルセンが歌で戦争を未然に防いだというのは、『超時空要塞マクロス』あたりを彷彿とさせる。『マクロス』に限らず歌や音楽が人の心に圧倒的な影響を与える、というモチーフの作品は結構あると思うのだが、それは60年代ヒッピームーブメントの頃の〈歌で世界を変えられる〉という幻想ないし「夢」が、今も多くの人の心の中で魅力を保ち続けているからでないだろうか。何らの地位も財力も権力も持たない徒手空拳の、しかもほんの子供であるオトが歌声(+ブラドレーホルヒ)だけで大の男たちを完全に屈服させる展開には何ともいえないカタルシスがある。そして歌を介してのオトと亡き母との〈和解〉――。感動的なテーマを二重三重に盛り込み、かつバランスよく纏め上げた佳作。母への誤解が解けたにもかかわらず、そしてあれだけの音楽の才を持ちながらも本来の夢(軍人になること)を嬉々として追い続ける、というラストも、締めくくりのロックの台詞を含めて実に爽快そのものでした。

 

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