シャカ・ジョーンズ

 

 『久遠の瞳』登場。「シード」の裏社会を仕切るギャング。アークいわく「最近はあまり羽振りがよくない」。シャカが「卒中」で死んだ連邦の情報部員について「2年ほど前にうちの組織をめちゃくちゃにしてくれた」とタカナに語るシーンがあるので、連邦の大規模な手入れがあった結果として組織が衰退しつつあったのかもしれない。この情報部員をはじめ「ユーノ」でエスパーが相次いで卒中死しているうえ治療記録が隠されているのに目をつけ、〈エスパーだけを殺す何らかの手段〉があることを察して調査のため腹心のタカナをユーノに送り込む。それが縁でアーク一派と接触、「ラムタラ」を買い取って勢力伸張に利用し、やがてはアークの声掛かりで製造にも関わるように。

 情報部員の死を知って治療記録を見ようとしたのは因縁のある相手がどんな死に方をしたのか具体的に知りたいという恨み混じりの好奇心だったろうが、治療記録がブロックされてることから同時期の死者まで探索の手を広げ〈エスパーだけを殺す何か〉を疑うに至った頭脳の冴えは、さすがは裏社会の大立者。〈エスパー殺し〉が本当に存在するのか、どのように作用するのかを確認するためにタカナに臨時雇いのエスパーを同行させるのも彼の冷徹な判断力を窺わせる。

 旧作(『ジュナンの子』)のマニイ・グリップに当たる役どころだが、グリップは「純粋種」の特徴として「異常なほどのエスパーぎらい」だったがシャカはどうだろうか。「まとめてエスパーどもを始末する手段があるとすれば(中略)世の中が 平和になる だろ?」といった台詞はエスパーを憎んでいるとも取れなくはない。しかし子供時代の治療士の事を思い出しただけで冷静さを失い「うす汚い のぞき屋どもが」と呻き、不自由な身体を押して自ら治療士を殺しに赴いたアークのような強い憎悪はシャカの言動からは感じ取れない。2年前に組織を追い詰めたエスパーの情報部員に対する多少の恨みはあるだろうし、雇いエスパーを捨て石にする非情さも持っているが、エスパー全般を積極的に憎んでいるわけではなさそうだ。「「ラムタラ」が大量に出まわれば・・・ 世の中の仕組みが がらっと変わるな」という表現からしても、憎んでいるというより邪魔だと思っている、かつてエスパーに組織をめちゃくちゃにされたように自分にとって障害となる相手、排除できれば組織の存続・発展に有利という計算からアークに与したのではないだろうか。モノワイヤーを扱わせたら無敵と見えるタカナですら「Eが2人もいたんじゃはなから勝ち目はないわね」と自ら発言してるように、優秀なエスパーの能力は優秀な非エスパーの能力を軽く上回ってしまうのだから。

 やっていることを見れば明らかに悪人ではあるのだが、タカナが彼の死を深く悲しみフレアへの復讐を誓ったようにタカナとの間には強い絆があった。といって彼らの会話内容を見るかぎり男女の仲だったようでもなくあくまで上司部下の関係だったようだ。色恋抜きで仇討ちを図ろうとするほどに部下に慕われていた──。これがあるから悪辣なことをやっていても何となく憎めないのである。

 

 

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