ウイリアム・ロドス

 

 『ロストコロニー』登場。ラフノールに漂着した移民船の艦長。無人の星に漂着、救難信号を出してもそれが他人に届くのは早くて1200年後という超逆境にもかかわらず冷静に事態に立ち向かうなかなかの人物。彼に限らず部下たちも状況を思えば(死んだモーグ機関長の姿や声を複数人が〈幻視・幻聴〉するなんて事件まで起こってるにもかかわらず)パニックを起こすこともなく事態に対処していて、いつとんでもない事件事故に遭遇するかもしれない宇宙船乗りの覚悟のほどを感じさせてくれるのだが、それも上に立つ艦長がしっかりしていればこそだろう。

 ところでロドス艦長は救難信号が一番近い星に届くまで=助けがくるまでの1200年間を生き延びるために「力」が必要だと言っているが、これは超能力に目覚めれば1200年を生きられるという意味ではなく、自分たちの子孫を作って1200年後もコロニーが絶えないように保つために超能力が必須だ、ということである。要するにロドス艦長ら第一世代は誰一人二度と元の世界に戻ることはできずこの星に骨を埋めるのはもう覚悟しているわけだ。

 自分たちが助かる見込みはないのに、わざわざ子供を作ってまで救助を待つのは何のためなのか。彼らが何か重要な研究データでも所有していて、それを1200年後になろうとも世に出したいと考えているのならわかる。一人無人の星に漂着した主人公が、救助が来る前に寿命が尽きると判断して自分のクローンを作って重要な資料を引き継ぐという作品を読んだことがあるが、『ロストコロニー』の場合は観測船ではなく移民船のようなので(作品中にはどういう船かの記述はないが、『光の剣』でニアがラフノールについて説明した設定が生きているなら移民船のはず)ぜひとも外の世界に渡さねばならないようなデータを持っていそうには思えない。

 あるいは自分たちがこの星に適応して生きるため、永住する前提で超能力を開発するというなら理解できる。遅くとも5年先10年先には救助が来るはずだからそれまで生き延びるために超能力を開発するというのでも納得できる。そうして生活する間に自然とカップルができ子供が生まれ子孫が増えてゆく、そうやってニアの時代に至ったのだろうと『光の剣』を読んだ時点では思っていた。

 しかし「1200年を生き延びるため」という言葉からは1200年後救助が来たときにそれを迎える人間が存在しているようにするために子供を作る、と言っているかのようだ。自分たちの悲願を子孫に託す、ということか?悲願の達成を自分の目で見届けることがかなわないのに、人工的に子孫を生み出してまで?このへんの艦長の心理が、当然のように艦長に従ったと思われるクルーたちの心理も、よく理解できないのである。個人の心情がどうという問題ではなく、何とか生き延びようとする、故郷に帰ろうとする遺伝子レベルでの本能と解釈するのが私としては一番腑に落ちる。

 思えばもともとこの船は入植者らしい人間が乗船してる感じがしない一方で遺伝子プールなんてものを積んでるので、この場合の移民は惑星開発のための駒なのかもしれない。まず開発ありきで、開発に必要な人員は到着後作ります、という(その場合でも入植者を生み出し教育する第一世代は必要なわけだが、彼らはどうしたのか。ロドス艦長らクルーは入植者ではなく単なる運び屋だろうから、事故が起こらず予定の植民星に着いていたなら所定の作業を終えたのちは早々に出発していただろう)。そういう入植者=コマという考えがこの時代定着してるのなら、1200年後までは保ちそうにない遺伝子プールを活用して、コロニーを存続させるために人間を作るという発想が出てもおかしくないのかもしれない。どうせどこか未開の惑星を開発する予定だった、それが予想以上に環境の厳しいラフノールに代わったというだけだ、という。

 しかし実際には、彼らの願いどおり無事コロニーは存続したものの、200年後外世界の宇宙船に発見された子孫たちはそれを機に外の世界に〈帰ろう〉とはしなかった。それどころか宇宙船と連絡を取ろうとしたロドス艦長の直系の子孫(たぶん)は鎖国派の祭司長によって殺されてしまった。おそらくラフノール人全体を見ても、行ったこともなければ先祖からの伝承以外の知識もない外の世界に今さら出て行きたいと願う者はほとんどいなかったのではないか。1200年後を待たず200年程度で外とコンタクトが取れたにもかかわらず、ロドス艦長の頃とはもう考えがまるで違ってしまった。何世代も経ているのだから当然のことだが、はたして艦長はラフノールに順応しきった(イコール外の世界の平均的人間の在り様とは違ってしまってるということでもある)子孫たちが素直に外世界への復帰を望むと本気で信じていたのだろうか?単に生活様式が違うというだけでなく、超能力者の大集団である(はず)の彼らがあっさり外の世界から受け入れられると?『ロストコロニー』が『冬の惑星』〜『コズミック・ゲーム』の間の事件とすれば一般にエスパーの存在は認知されていないので、後のようなエスパー迫害も起きてなかったため〈エスパーだらけの星など迫害と警戒の対象になる〉という発想はなくてもおかしくないが、それでも普通人が持たない超常能力が不気味がられるくらいは想像できたはずだ。

 それ以前に救難信号を受け取った側がちゃんと助けにきてくれる保証だってない。超高速通信による信号ではないのだから、〈とんでもない昔の救難信号だな、みんな助けが来なくて死に絶えたんだろうな気の毒に〉で終わりになる可能性が高いのではないか。

 ――まあ先々のことを具体的に考えすぎると絶望するしかなくなるので、実質は〈腹を決めてこの星に永住する、救難信号の件は親から子へと語り継いでいく希望の物語〉みたいな心境だったのかもしれない。自分が生きてるうちにはまず戻ってこないだろうトレスの船を待つ、待つ役割を次の世代へ受け継いでいく任務がモールの生きるモチベーションになりえたみたいに。

 

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