ミシェイル・オリマ

 

 『星辰の門』『風の抱擁』登場。ISCの軍人で艦隊勤務。『星辰の門』では中尉でフリゲート艦に搭乗、『風の抱擁』では少佐に昇進し副長として実験艦「ゴダード」に搭乗。どちらの艦でもミラと同乗しており、ミラに親切ごかしにキツい事を言ったり何かといじめたりする役どころ。

 オリマはなぜミラに辛く当たるのか。彼女を案じるがゆえにキツい忠告をするといった体裁を取ってはいるものの、『星辰の門』でミラが一度計算したデータを差し替えていかにもミラがミスしたかに見せかける(はっきりオリマの仕業だとは描かれてないが、ミラが「さっきとデータが違う」と気づくコマの前後に意味ありげにオリマの横顔を描いたコマが出てくるところからいって彼女の仕込みなのはまず間違いない)あたりからして、明らかにミラに悪意を持っていると見ていい。

 このデータ差し替え事件の後にオリマは副長に「彼女は艦隊勤務にはむいてないのではないでしょうか?」とミラを艦隊勤務から外すよう進言しているので、単なる嫌がらせではなく〈ミラは仕事のミスが多い〉という印象を与えて彼女を艦から下ろすのが目的だったようだ。副長は「ふむ 確かに ミスは多いな だが 若いうちは誰でもミスをするものだ」とやんわり流し、「(問題は)彼女が Eだということなんです」とオリマが重ねて切り出したのにも「君は Eに偏見を持っているのかね?」とかえってオリマを咎めるような態度を見せるが、「Eが艦内にいるというだけで 不安になる乗組員もいると思うんです」「(任務は)乗組員の心がひとつにならなければ とても遂行できません」とさらに反論したオリマに「確かに それはその通りだが・・・」「わかった おりを見て艦長に話してみよう」と結局押し切られているので、彼女の目論見はまずまず成功したといえるだろう。副長の元から下がった後のオリマは薄く微笑みを浮かべた、〈してやったり〉と言いたげな表情をしているのが印象的である。ミスを偽装するも軽く受け流され不発に終わると「それは 私たちがカバーできますから」とひとまず引き、新たに〈本当の問題はこっち〉とばかりに「彼女が Eだということ」を持ち出したのがかえって差別主義者として自分の評価に傷が付きかねない事態に陥りつつも、〈自分はEに偏見はないが他の乗組員もそうとは限らない〉と他人に責任転嫁するような形で押し返し、最終的に副長を説得することに成功したのだから、会心の笑みが浮かぶのも無理もない(本当に副長が押し切られてしまったのか、オリマが意図的にミラを貶めようとしているのを察知した上で〈艦長に話してみる〉と空約束をしてわざと引いてみせたのか)。

 まあオリマ自身がエスパー嫌いにせよそうでないにせよ、「(問題は)彼女が Eだということ」と言い切っている以上、ミラがエスパーであるゆえに彼女を排除しようとしたには違いないだろう。ただそれなら『風の抱擁』で乗組員の多数がエスパーという実験艦ゴダードに乗り組んださいにも、なおミラに親切ごかしの意地悪を繰り返していたのか。ゴダードでは「Eが艦内にいるというだけで 不安になる乗組員」は少数派(というよりそういうタイプの乗員は選ばれないはず)で、彼らのために多数派のエスパー側が排除されるのはおかしいし、オリマの敵意もミラ以外のエスパーにも向いてしかるべきだろう。ならばミラだけがオリマに敵視される理由は何か。

 これは登場当初からオリマが「(ミラが)例の人とつき合ってる」事をとやかく言ってきたのを思えば、『風の抱擁』でミラが浴びせられたゴダード乗組員たちの想念同様に、ミラのような小娘が伝説の超人と恋仲なのが気に入らないというに尽きるだろう。「(何千年も)生き続けているなら 付き合った女性の数は 100人や200人じゃないわね」とロックの過去の恋愛ネタでミラに揺さぶりをかけたオリマは『風の抱擁』ではロックの過去の業績(を集めたデータキューブ)を見せると言いつつ、もっぱらロックが女に変身して行動している映像ばかりを見せ、それが過去の恋人の姿を模したものであることを匂わせつつ「どれもこれも すごい美人なのよねえ」とことさらミラを傷つけるような厭味まで言う。

 オリマは後にミラにデータキューブを渡した件を咎めたロックに「あなたがどんなに偉大な存在であるか 彼女はまったく理解していなかったので」「中尉のためを思ってやったのですよ! 格下の人間でも 努力すれば あなたに相応しい女性になれるかもしれない」と堂々反論したうえ、「相手の過去を知ることは その人を理解するうえで大切なことだと思います」「彼女と真剣に向き合ってるとは思えません」と自分の過去を話さない、同時にミラの過去も知ろうとしないロックを逆に批判して完全にやり込めてしまう。「相手の過去を知ることは その人を理解するうえで大切なこと」というのは確かにその通りで、このオリマとの会話以降、ロックはミラの過去を知る人から話を聞いて、自分の知らないエピソードの数々、オリマの言うように自分はミラのことをろくに知ってはいなかったいう事実そのものにショックを受けたりしている。実は本心からミラのためを思っての荒療治だったのかとつい思いそうになるほどだが、それなら「どれもこれも すごい美人」などとミラを傷つける以外の意味を持たない言葉をわざわざ言いはすまい。ロックがいかに偉大な存在かを理解させる目的なら、女関係の資料に偏りすぎだし。

 上で引いた副長とのやりとりもそうだが、話の流れが自分に不利になりそうでも角度を変えて切り返し、結局は相手を説得してしまうオリマの会話術は大したものである。ロックを偉大な存在と言いつつ、彼に責められても顔色一つ変えずに「失礼を承知で申し上げますが」と前置きしたうえで的確に急所を攻めるトークからは、「伝説の超人」に対する憧れ的なものは感じられない。『オメガ』でトラウトマンがロックにあからさまなアプローチを繰り返すセス・ハーンに苛立ったように、憧れのヒーローに近づいたからミラに反感を抱いたのかと思いきや、特別ファンじゃなくても著名人とそのへんの女の子が付き合ってたら、女の子に対して嫉妬心が働くみたいな心理だったものか。

 それにしてもわざわざ電子使いまで巻き込んで資料を集めたというのだからその(ミラを傷つけたいという)情熱には驚く。まあゴダードの乗員は皆ミュストに多少なりとも精神を操られていたわけだし(データキューブの中身を集めた電子使いとは実はミュストを意味していたのかも)、そもそも「ミラ」の項で書いたように『風の抱擁』のストーリー自体がミラの妄想である可能性すらあるので、このデータキューブ事件をもってオリマの人間性を推し量るのが正しいのかは微妙なのだが。

 ちなみにこのデータキューブの場面で「お式の時は 呼んでね」なんて言っていたオリマだが、『風の抱擁』ラスト近くでロックとミラが結婚式を挙げたさいゴダードの乗組員がサプライズで駆けつけるのだが、この時オリマの姿はない。たまたま絵として存在しないだけで実はいたのかもしれないが、副長という役職と〈式には呼んで〉と冗談ぽく本人が言っていたにもかかわらず招待されなかった可能性を考えると、ゴダードの乗組員のミラに対する悪意は基本的にミュストの超能力によって誘導されたものだったのに対し、オリマだけは本心からミラを嫌っていたのかもなあと思ったりするのである。

 

 

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