ニーナ

　『この宇宙に愛を』登場。「物を見る」＝素粒子レベルで物を見る、把握する超能力の持ち主。ニムバスの部下でニムバスを倒したロックを憎んでいたが、自身の能力とニンバスの真実を知るためにロックたちとともに「負の世界」に潜入する。

　植民星の開拓者だった貧しい両親のもとに生まれ、エスパーであったために疎んじられて施設に送られ孤独のうちに育つ。まだ幼い時分に施設へと彼女を迎えに現れた少年ニッキィ＝ニムバスに出会って施設を家出し以後行動をともにするようになったらしい。エスパーであるゆえに行く先々で排斥されやがては海賊船に、というルートは後のラグ（『星と少年』）を思い出させるが、親に愛されていたラグと違い、ニーナは親からも捨てられ誰からも愛され認められたことがなかった。だから初めて出会ったエスパーであり、人の嫌う力を持った自分をそのまま認め受け入れてくれたニムバスがかけがえのない存在になったのは当然のことだろう。

　それだけにニムバスの仇として数年来憎んできたはずのロックに、やむなく協力すると決めた後は全く親しんでしまった、憎しみを垣間見せることもなくなってしまったのにやや違和感があった。そうした心情の変化をこまごまと追わないのがこのころの『ロック』のスタイルとわかってはいるのだが。

　しかしオメガ破壊後、皆とはぐれたニーナを捜しにきたロックとの「ニムバスがどこにいるか知らない（？）」「そんな事はどうだっていい！」「よくないわ　私にとっては宇宙で一番大切なことよ！！」というやりとりのくだりで、ニーナの中でニムバスへの想いが薄らいだわけではなかったのがわかってなんだかほっとした。そう簡単に子供の頃から十何年も慕い続けてきたものを忘れられるわけがない（なのに緊急事態とはいえ「そんな事はどうだっていい」ってロックひどい（笑）。わりにロックってそういうとこあるけれども）。

　オメガとロックのやりとりがまるで頭に入ってなかった風なのも、彼女の理解・許容レベルを超えた事実が展開していたからだろう。それでも自身の力でオメガのデータを〈見る〉に及んでさすがに事態を認めざるを得ず――しかし心では受け止めることができずに意識を失い、その後も四年に及ぶ療養生活に入ることになる。

　療養所のニーナは性格も、それにともなって外見もまるで別人のように変わってしまう。そもそも彼女は記憶もほとんど失っているようだ。最初はダーク・ライオンなどのようにロックが彼女の記憶を封印したのかと思っていたのだが、時折「あの事」がぼんやり甦っては彼女を脅かすことについてロックは「そのうちほとんど思い出せなくなる」「ぼくが完全に消してあげることもできるが　君の能力を保護するためには　君の力で障害を取りのぞくことが必要だ」と説明しているので、ニーナの記憶はロックが消したわけではなく精神的ショックのため自然とそうなったようだ。加えて記憶を完全に消してしまえばニーナは楽になるはずだがロックとしてはそれはしたくないと思っているのもこの台詞から読みとれる。

　ただニーナの記憶を完全に、人為的に消したくない理由が「能力を保護するため」であって、彼女の思い出、これまでの人生の軌跡を消すことを是としなかったから、ではないというのが個人的にはひっかかる。記憶を失い、それにともなってそれまでの人格も失う（記憶喪失＝人格の喪失ではないが、それまでの記憶がなくなれば性格に大きな影響を及ぼすのは間違いない。ニーナの場合は上記の通りほとんど別人と化した）というのは精神的な〈死〉なのではないのか？ニーナがエスパーでなくて普通人の深く傷ついた女性だったなら、彼女の記憶を消すことに、それが一種の殺人であっても、ためらいがなかったということなのか？（こうした記憶操作は、それが相手を思ってのことであっても傲慢ではないのか？という問いと回答は後に『凍てついた星座』で描かれることになる）

　苦しい経験ばかり多くて、ただ一人信じた男に裏切られたニーナにとっては全てを忘れるほうが幸せなのかもしれない。しかし「わかんないけど　ロックの言う通りにするわ」は無邪気にロックの腕を取るニーナの笑顔が、なんだか哀しいものに思えてくるのだった。

　ところで、上では「『この宇宙に愛を』登場」と書いたが、実は『ニンバスと負の世界』にもちょこっと登場している。「ニーナ」と呼ばれてなければ気付かないくらい別人、とても次回作でヒロインになるような顔立ちではないので、この時点で『この宇宙に愛を』の具体的構想があったわけではなく、いざ『この宇宙〜』を描く段になって、〈ニムバスの部下で女性〉ということからヒロイン顔に修正したうえでの再登場となったものだろう。説明もなく顔がガラっと変わっても、「エスパーの場合　外見はあんまり決定的なものじゃない」ってことで説明がつくし。

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