ルイーズ・バリラ

 

 『聖者の涙』登場。麻薬商人ガンダルフの孫娘。ロック(パパ・ラス)が祖父を殺した(廃人に追い込んだ)ものと思い込んでロックの命を狙うが、実は廃人寸前だった祖父を救ってくれた恩人だったと知り、その後は「聖者の涙」普及に努めるようになる。

 『聖者の涙』第二部のラスト近く、イセキとラインハルトが互いの変化を指摘しあう場面があるが、一部二部通して一番変わったのは彼女だろう。というか一部と二部ではまるで別人のようである。第一部時点では外見的には15、6歳、怖いもの知らずで祖父の威光をかさに大人にも大きな口をきく不良娘という印象で、「生意気だがお人好しで すれてるようだがまだ子供」というイセキの評がぴったりくる感じだ。麻薬商人の孫というポジションからいっても当人の雰囲気からいっても薬をやっていないというのは意外なようだが、ロックに麻薬の重症患者を見せられた時に「こいつらは皆自分から望んでこうなったんだ! 社会に適応する勇気も努力も これっぱかしもない連中だぞ」と切り捨てたことからすれば、薬などやるのは生きる価値のない虫けらのような人間だと考えていて、自分はそうはなるまいと強く思ってきた結果なのだろう。

 そんな彼女が第二部ではすっかり落ち着いた大人の女性然として、「聖者の涙」の改良と普及に尽くしている。第一部から何年も経ってるわけではなし、外見的にはさほど変わってないのだが、その内面的成長ぶりは第二部ラストでルイーズと対面した連邦軍のトーゴ将軍が「想像していたよりずっとお若いし お美しい」とすっかりレディ扱いしてるくらいである。言動や雰囲気のみならず、かつては祖父の仕事を〈買う人間の方が悪い〉とばかりに肯定ないし擁護していた彼女が、今や祖父と対立していたロックの意志を継いで麻薬治療薬の製造普及に尽力しているのだから180度の転換と言っていい。

 この大転換をもたらしたものは、当然ロックが実は祖父の恩人だった、麻薬商人の汚名を着てまで患者救済のために働く義人だったと知ったことにある。的外れな恨みで彼の命を狙ったルイーズのことも返り討ちにするどころか命を救ってくれた。打算から手を組んだにすぎないとはいえ一応は味方と思っていたイセキに半死半生の目に遭わされかけた直後だけに、ロックの無私の善意が身に沁みたのは理解できる。リサから真相を知らされたとき真っ先に「パパ・ラスにあやまらなくちゃ」と口にしたあたりの素直な反応はまさにイセキの言う通りの人の好さだ。実際に彼女がその後ロックに謝ったのか、それどころか顔を合わす機会があったのかも不明だが、ロックの理想を自分も担うことでルイーズは恩に報いようとした。というよりその素直さのまま、ロックの生き方・考え方を自身の生きる指針として取り込んだという方が適切かもしれない。

 ルイーズは無政府状態に陥り連邦すら引き揚げた麻薬漬けの惑星トロデフに「聖者の涙」を携えて乗り込もうとする。無鉄砲な行動力は第一部の彼女に通じるものがあるが、そんな時も声を荒らげたりはしない。特に意気込む様子すら見せず、「冗談でしょっ もうすぐ殺し合いが始まるんですよ」と血相変えて反対する部下を「ええ でも 間に合うかもしれない」「やってみなくちゃ・・・ね」と穏やかに笑顔さえ浮かべながら諭している。この時ルイーズが思い出しているのは上で挙げた「こいつらは皆自分から望んでこうなったんだ!」と麻薬患者を切り捨てる台詞に対してロックが静かに返した「だが・・・ 同じ人間だ」という言葉だった。この場面の直前にも「聖者の涙」コストカット版の試作品を見て「すばらしいわ! これで 多くの人が救える」と喜ぶシーンがあり、かつては「くず」扱いにしていた麻薬患者たちを彼女が「同じ人間」として認識するようになっているのがよくわかる。これは大好きなじいちゃんもまた廃人寸前の麻薬中毒患者だったと知ったことで〈中毒者=くず〉という図式が崩れたのもあるだろうが、やはりロックに影響を受けたというのが一番だろう。

 『聖者の涙 Part2』感想で書いたようにガンダルフやホークがロックシンパになったのには実は「聖者の涙」によって洗脳されたのではないかという疑いが拭えないのだが、ルイーズに関してはその可能性はない。純粋にロックに感謝し彼を尊敬しその生き方を自分のものとした。ルイーズが知るよしもないことだが、かつて汎銀河戦争の幕開けとなったジオイド弾の大量投下の際、ミサイルを止めるために決死のテレポートを決行した時のロックの台詞も「まにあうかもしれない」だった(スコラ版以降は「もし1発でも 止めることができれば 何億という人が助かるんだ ぼくはいくよ」という台詞に変わっているが、これまた「これで 多くの人が救える」というルイーズの台詞に通じるものがある)。いかにロックの生き方を彼女が自身の血肉としているかがうかがえるのである。

 ところでルイーズを「聖者の涙」普及活動に引き込んだのは「手伝ってほしいの あなたにも」という台詞からしてリサだと思われるが、そのわりに第二部以降リサ・ホーク組とルイーズが連携して動いている様子はない。ラインハルトからトロデフでは暫定政府が機能しているという話を聞かされたときも、リサは暫定政府を率いているのがルイーズなのも、そもそもトロデフのことすら知らなかった。互いに治安の悪い地域ばかり回っているのだろうからなかなか連絡がスムーズに行かない事情はあるにせよ、同じ「聖者の涙」を扱いながら没交渉がすぎるのではないか。下手をすれば「神酒」に次ぐ凶悪な麻薬にもなりかねない扱いの難しい薬だというのに(ついでに言うとロックも単独で「聖者の涙」の普及行脚をしているようだ。リサもルイーズもこの事を知らないだろう)。ルイーズが開発させた「聖者の涙」廉価版(より安く作れるようになっただけで性能が劣るわけではなさそう)もリサたちは存在を知らなさそうだし、このままではルイーズ版の「聖者の涙」がリサたちの「聖者の涙」の普及を妨げる方向にも働きかねない。加えてルイーズが今やリサの公私とものパートナーとなっているらしいイセキとの共闘を受け入れられるのかという問題もある。連邦軍─上層部がアフラの組織と繋がっていた─がルイーズに接近していることも含め、何となく「聖者の涙」の先行きに一抹の不安がよぎったりもするのだった。

 

 

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