『ロストコロニー』

主なキャラクター：ロドス艦長、モーグ機関長

　事故で居住可能惑星に不時着した移民船。とりあえずは生き延びたものの、救難信号が最も近い星に届くまで１２００年かかる状況下で、ロドス艦長はこの先の生活に不安を抱いていた。そんな中、崩壊したエンジンを投棄するさい死亡したはずのモーグ機関長の声を聞いた、姿を見たと主張するクルーが次々現れる・・・。

　『光の剣』に始まる“ラフノール・サーガ”でおなじみ惑星ラフノールの成り立ちを描いた短編。『ロック』シリーズとは銘打たれず、聖先生が所属する同人誌グループ「作画グループ」の機関紙『ＧＲＯＵＰ』に１００号達成記念として掲載された作品である。『光の剣』でニアが〈祖先がラフノールを発見したのは２００年前〉と話しているので、時期としては『冬の惑星』の少し後くらいの出来事になるか。ただモーグの〈超能力〉が感覚加速、時間系のややこしい能力なので、雰囲気的に近年の作品らしさが漂っている。

　個人的な感想を述べると、ニア姫の父の名であり後年にはランも名乗る（ロドス・モルク・ラン）ことになった「ロドス」という名が初代国王＝移民船の艦長のものだとわかったのが一番感慨深かった。このウイリアム・ロドス艦長が雷竜とおぼしき怪獣を倒したのを機に超能力に目覚め、以後生き残った人々をたばねていったろうことが想像される。

　そして彼は死の寸前に超能力に目覚めたベロニカ・モーグ機関長の遺志の通り、生き残るために「力」＝超能力の素質のある人間を優先的に生み出していった――具体的には超能力者なのがはっきりしているモーグ機関長の卵子をすべての人工子宮にセットして彼女のＥＳＰ資質を受け継いだ子供をどんどん作った。当然彼女の卵子と掛け合わせる精子も必要なわけだが、最初のほうで「遺伝子プールは無傷で回収できた」と言っていたのでそこから精子は供給されたのだろう。精子の提供主＝父親にエスパーの資質があるかはさすがにわからないだろうから、母親に似てくれるよう願うしかなかったろうが。

　もっとも父親がエスパーなのがはっきりしている精子も存在している。ほかならぬロドス艦長の精子である。モーグ機関長の卵子が保存されていたあたりクルーの精子卵子は全員分ストックされていたと推察される。そこからロドス艦長の精子を用いてモーグ機関長の卵子とかけあわせれば、片親だけエスパーの場合よりエスパーが生まれる可能性は格段に高くなるだろう。もちろん一つのカップルの子供ばかり増やせば次世代が近親婚だらけになってしまうので、他のクルー同士の子供や遺伝子プール中の精子卵子同士による子供も平行して作られたろうが、ロドス＝モーグの子が最優先で作られたろうことはまず疑い得ない。モーグ機関長は明らかにロドス艦長を愛していたようなので、これはある意味恋の成就と言えるのかも。

　ちなみにロドス艦長の船は、ニアの昔語りによれば移民船だが、作中を見るかぎりクルー以外の人間がそんなに乗っているようには思えない。移民たちが航海の間冷凍睡眠状態に置かれることは『冬の惑星』などで描かれているが、船の大きさ的にそれほど大勢の人間が乗れる（積み込める）ようには見えないのである。遺伝子プールうんぬんの台詞から察するに、この船は生きた移民そのものを運ぶのではなく、開拓すべき惑星に遺伝子の状態で「移民」を運び、到着後人工子宮を使って遺伝子を掛け合わせ新たに人間を生み出すことを目的としてるのではなかろうか。太陽系連合時代の移民はもっぱら人口爆発の解決策として余剰の人間を植民惑星に押し付けるためのものだったが、ここでは移民は開拓のための人的資源という捉え方に代わっているようだ。となると、トア発見のおかげもあって（移民を押し付けたり抹殺したりしなければならないほどの）銀河系規模での人口爆発はひとまず収束し、そのまま平穏な状態を保っているとみて良さそうである。

２０１４／８／３１追記−ラフノール第一世代の誕生についてだが、現在『ヤングキングアワーズ』で連載中の『ラフラール』（２０１４年８月号掲載分）によると「漂着した宇宙船のエネルギーがなくなる前に　保存してあったＤＮＡバンクから超能力者を選び出し　植民者の第一世代を創ったと伝えられています」とのこと。この説明からすると遺伝子を検査すれば超能力者かどうか、超能力者として誕生するかどうかの区別は可能だったようだ。

しかし年表に照らすなら移民船のラフノール漂着は『冬の惑星』後くらい、エスパーの存在が一般に知られていなかった時代のはずなのに、超能力者の遺伝子を特定する技術が存在しているものなのか？・・・それこそロドス艦長が超能力を使って選別したのかな。この先そのへんも明かされていくのかも（最新号は未読なので、もう明かされてる？）。ともあれ今さらラフノールがらみの新作が読めるとは思ってなかったので、かなりワクワクものである。

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