『ライザ』

主なキャラクター:ダンディライザ、アーメッド・サル、レオパードニアロック

 

 マトリクス変換能力を持つエスパー・レオパードはロックの友人ニアのマトリクスを奪ったうえでロックに接触する。一方連邦軍情報局長Y・H・ダンディは、麻薬製造業者アーメッド・サルの部下を捕らえ、あの「超人ロック」がアーメッドのもとで働いていることを知る。

 ロックと戦うような気概のある人間は自分だけだと考えたダンディは職務を投げ出しアーメッドへの潜入を企てるが、美人秘書のライザがダンディの船に密航、なしくずし的に同行することになる──


 『超人ロック』中でもかなりメジャーな超能力である「マトリクス変換」が初めて登場した記念すべき物語。変身能力自体はそれこそ第一作(『ニンバスと負の世界』)の冒頭から登場しているが、この時点では変身の原理について〈テレキネシスで体の細胞の配置を入れ換える〉といった説明がなされていたのが、ここで〈相手の遺伝子情報(マトリクス)をコピーし、それを自分や他人に貼り付けることができる〉能力と定義づけられるようになった。変身能力をこのように設定したマンガを私は寡聞にして知らない。その意味で非常に独自性のある、『ロック』を他の超能力漫画と差別化している能力なんではないか。

 同時に少し前に描かれた『エネセスの仮面』同様、主人公であるロックがほとんど出てこない点でも画期的である(偽ロック=レオパードはそれなりに出番があるし、本物のロックもライザの姿では出ずっぱりだが)。いまやロックがあまり登場しないエピソードは珍しくないが、『コズミック・ゲーム』までの4作品では普通にロックが主人公してたので(『ジュナンの子』は中盤ロックがしばらく出てこなくなる)、当時の読者はロックが出てこない(なのに存在感はある)ことに驚きもし斬新な展開に興奮もしたのではなかろうか。そういえば『ライザ』前編と後編の間で連載された初の商業誌作品『新世界戦隊』もロックたちエスパーサイドの物語とランたち連邦サイドの物語がほぼ同じ比重で交互に描かれていた。しかも主人公であるはずのロックは記憶喪失のため長らく名前不明(仮の名もなし)のまま。この時期に〈ロックが物語の前面に出てこない〉『ロック』の定番スタイルの一つが確立したといえるかも。

 ところで、レオパードの化けたロックを本物のロックだと思った人はいたのだろうか。冒頭部でレオパードがロックのマトリクスを奪ったらしいことが暗示されてるうえ、あのロックがまさか麻薬組織の用心棒(?)をやるとも思えない(ずっと後に描かれた『聖者の涙』ではまさにこの「あのロックがまさか」が盲点になった)、ロック自身も変身能力があり時に女(歌姫リーザ)に化けたりもするのが第一作から描かれるので、〈あのロックはレオパードが化けた偽物、ライザが本物のロック〉と見抜いた読者が大半だったんじゃないか。リーザとライザは名前も似てるし、どちらも上品かつ愛嬌のある美人だし。

 ちなみにレオパードがロックのマトリクスを奪う過程は、レオパードのマトリクス変換能力と恋人をあっさり殺す非情さを示す→レオパードがロックの友人ニアを襲う→ニアに化けたレオパードがロックに接触、という遠回しな表現になっていて、マトリクスをコピーする場面そのものは出てこない。この最初の接触の時にロックとレオパードの間に具体的に何があったのか。ロックはなぜライザの姿で連邦軍情報局長の秘書なんてやっていたのか。アルカラに冒されたダンディがロックの〈治療〉で命を取り留める場面もダンディの言う通り「どこまで現実でどこまで幻覚だったのか」わからない。これだけ謎だらけなのにもかかわらず、リメイク版と比べてもきちんとまとまっている印象を受けるのは、女がオンラインの個人教授(?)でマトリクス変換について質問する場面から、ロックがライザのマトリクスをダンディに貼り付けることでアルカラの治療を行うクライマックスまで「マトリクス変換能力」というテーマが全体を貫いている、その一貫性によるものだろう。

 マトリクス変換という能力をただ変身能力に終わらせずその原理を応用してクライマックスで全く別の使い方を(それもダンディの命を救う形で)提示してくる。加えて、男に女のマトリクスを貼り付ける、貼り付けられた側の男はその女を憎からず思っていて、しかもその女は実は男であるという捻じれが一種倒錯的なエロティシズムを醸しだしているのが、読者に二重のカタルシスを与えてくれる(この他人のマトリクスを貼り付けることで有害物の影響を抑える方法は先日連載が終了した『ラフラール』でも使われているが、こちらは男同士なので『ライザ』的エロスは感じられない。代わりにこの状況が生み出したラフノールの歴史に関わる大トリックにわくわくさせられた)。〈また平凡な日常に返る、でも少し以前とは違っている〉というラスト2ページも、ちゃんと地に足が着いた状態で物語を終えられる安堵感がある。広義の冒険物の定番というべき〈行って帰ってくる〉物語の型を踏襲し、かつ〈熱血漢でちょっと頼りない2.5枚目のヒーローが有能な美女の助けを得て悪に立ち向かう〉というエンターテインメント作品の手堅い枠組みの中で斬新な仕掛けを見せてくれる佳作だと思います。

 

 

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