リリス

 

 『歌姫』登場。場末(たぶん)の酒場の歌手。実はお尋ね者のエスパー。ロックの仮の姿として有名な歌姫リーザのマトリクスは彼女のものと思われる。

 作品感想の方では彼女がイコールリーザかは微妙と書いたが、ここでは一応リリス=リーザとして話をすすめる。歌姫リーザがエスパー、それも賞金首というのは私にとっては結構意外だった。つまり何がしかの〈前科〉があるということ。事実一人でプロの賞金稼ぎ二人を相手に戦い相打ちとなったのだからエスパーとしてはそこそこ強い方だろう。しかもあんな戦闘服のようなものを携帯していたのだから、かつては積極的に超能力を武器として身を立てていた―おそらく犯罪方向で―と推測できる。

 結果追われる身となったのなら自業自得のようなものだが、彼女がそうなった、ならざるをえなかったのはエスパーであるゆえに受けた迫害や屈辱が原因だったと推測できる。・・・でなかったらヒロインとしてどうなのかという話だし。そしてそんな生活にもうんざりして足を洗ったものの、追っ手から身を隠すために息を潜めるように生活し、小さな酒場の歌姫に収まるしかなかった。本当はもっと大舞台で堂々と歌うことが彼女の夢だったのでは。店主のマックスは彼女の正体に薄々勘付きながら、ささやかなりとも彼女に歌う場を与えてくれた恩人である(推測)。ロックに〈リリスに自分の代わりに歌ってくれと言われた〉、つまりロック自身もマトリクス変換能力を持つエスパーであると告げられても彼は驚いてなかったから、ロックがエスパーなのも知ったうえで店に置いてくれてたのかもしれない。そういうマックスにリリスは恩返ししたい気持ちはあったろうが、それでも〈もっと日の当たるところで歌いたい〉と思わずにいられなかったんじゃないだろうか。

 とすれば彼女がロックに望んだのはただ〈歌う〉のではなく、「大舞台で堂々と歌う」ことだったのかもしれない。リリスとリーザは名前も違えば容姿もあまり似てない気がするが、すでに賞金稼ぎたちに名も顔も知られているリリスのマトリクスで〈堂々と歌う〉ことを実現するために、ロックがあえて外見を少し調整し、名前も変えたと仮定すれば頷ける。おそらく事件の後すぐロックはマックスの酒場を離れ、歌姫リーザとしてリリスの声でより大きな舞台で歌うようになっていったのだろう。『ニンバスと負の世界』『この宇宙に愛を』でロックは高級クラブとおぼしきところで歌っているが、マックスの酒場で歌ってたころのリリスから比べれば十分出世といえるだろう。ロックはこの姿で歌ったのは支配人に頼まれたからだと説明していて、この頃は積極的にリリスのマトリクスで歌ってたわけではないようだが、逆にいえばそれだけリリス→リーザの姿と声、歌が他人から求められるまでになっていたということだ。リリスはロックが不老不死とまでは知らなかっただろうが、彼にマトリクスを託したことで結果的に彼女の姿も歌も、映像や録音ではなく生の状態で何百年と残っていくことになった。マックスが言うようにそこに「リリスの魂」はないのだが、自分の歌声が永遠にリアルタイムで残るという、どんな大歌手も成しえない奇跡をはからずも手にしたリリス――歌手冥利に尽きるんじゃないだろうか。

 

 

 

home

SEO [PR] おまとめローン 冷え性対策 坂本龍馬 動画掲示板 レンタルサーバー SEO