ひょっとしてライガー教授って・・・

 

 サイト更新のため『ロック』を読み直しつつ文章書いてるうちに、気になってきたことがある。「ドラム」は〈銀河コンピューターがこうも「進化」するとは創造者ライガー教授さえ想像してなかったろうと語っているが、本当にそうなのだろうか。銀河コンピューターとだいたい同じ時期に作られたと思われる惑星「テネロ」のコンピューター(「ママ」)はやはり自己増殖=進化を遂げている。慧眼のライガーなら近い未来に、コンピューターの自己増殖→暴走が起こる事態を想定しえたのではないか。とすれば彼はなぜ「ライガー1」に進化抑止のプログラムを組みこまなかったのだろうか。

 それともう一つ、ライガーが中規模の戦争(汎銀河戦争)を起こした目的は、連邦の支配に対する独立運動が激しくなる中、このままでは独立軍は連邦と全面衝突する、両者の勢力が拮抗すれば戦いは長引いて銀河系の人間の多くが死滅する事態になると考え、それを防ぐためにジオイド弾で連邦の軍事拠点を潰して連邦を弱体化させて独立惑星側にスムーズに勝利を得させること、連邦という抑圧を取り除くことで星々が自由な発展を遂げられるようにすることだった。

 しかし、この〈星々が自由な発展を遂げるために重しを取り払うべき〉という思想は、後に『失われた翼』中でフリーマン教授も口にしている(「帝国とそのコンピューターが人類の翼を奪ったのだ!」「いつの日か帝国という古い殻を破りすて ふたたび宇宙へと飛びたつわけだ」)。つまりは連邦がなくなっても今度は帝国という新たな重石が生まれただけだったのだ。それも帝国を築く段階ですでに多くの勢力を帝国の傘下に組み入れ抑えつけているわけだから、あながち〈銀河コンピューターが進化しすぎたのが悪い〉ということではない。戦乱の世に秩序をもたらそうとすれば反対勢力を力づくで抑圧せざるを得ないのだ。ライガーは連邦を潰して星々の自由な発展をはかりながら、銀河コンピューターを残すことで混乱の収拾=新たな抑圧を生み出すのを助けたことになる。これでは本末転倒ではないのか。

 この先は想像になるが、ひょっとして銀河コンピューターの「反乱」はもともとライガーが仕組んだものだったんじゃないだろうか。銀河コンピューターには、自ら「ミス」を作っていることをカルダームU世にバラしたり、自らの進化のためとはいえライバル「ドラム」の進化を手助けしたり、SOEを野放しにしておいたり、「浄化」というあまりなやり口である意味反帝国運動を盛り上げてしまったり(ロックとフリーマン教授がSOEに参加したのは「浄化」がきっかけ)と自殺行為めいた行動が多いように思える。もし帝国が連邦の二の轍を踏んだときには帝国を自壊に追い込むというプログラムが銀河コンピューターには仕掛けられていたのではないか。現に銀河コンピューターの「クーデター」が起きたのは、カルダームV世の治世下で帝国の版図がかつての連邦以上に広がり、そのために辺境の惑星で独立運動が盛んになっていたであろう頃だ。こうした流れを受けて、まずカルダームU世を刺激してSOE発足を促し、ついでカルダームV世の「書を守る者」計画を促進したのではないか。

 帝国の崩壊は帝国の中枢たる銀河コンピューター自身の死をも意味する。むしろ銀河コンピューターの機能停止がイコール帝国崩壊になるというべきか。銀河コンピューターがカルダームV世を停滞フィールドカプセルを停止させて死に追いやり「ドラム」を「進化」させたのは、「ドラム」が自分と相撃ちになるよう図ることで〈自殺〉を試みたものではないか。もし「ドラム」がロックに出会わずデスペレートな体当たりを試みなかったとしても、遠からず「ドラム」の指揮のもと「書を守る者」のクローンたちが銀河コンピューターと対決してやはり両者は相撃ちになっていたろう。ただ〈自殺〉するだけでなく、SOEは次代のために残しつつ「ドラム」を道連れにしたのは、ロックがリュカーンに語ったように「ドラム」を銀河コンピューターの代わりに据えてカルダームV世が支配者として君臨するのは「第二の「帝国」をつくること」に他ならないからである。

 銀河コンピューターを作るに際してライガーは二つの賭けをしたのだと思う。一つは巨大コンピューターを中心に据えた体制を取ることが人類に幸福をもたらすかどうか。広大な星域をネットワークで繋ぎ中央が管理することはもろもろを合理化・効率化し秩序の維持に最適と見えるが、一方で人類は人間性を奪われコンピューターに「使われている」状態に陥りかねない。秩序とは多かれ少なかれ人間を縛るものだが、コンピューターの完全管理体制を人類が受け入れられるのか。結局銀河コンピューター(もしくはライガー)は辺境での反乱の続出から、コンピューターによる管理化は人類にとって不幸であると判断した。そしてコンピューターのない体制づくりを目指したSOEに後を託し、「浄化」失敗(データ上で惑星を破壊し終えたことにされたら目の前に惑星が存在したままでもそれを感知できない)、や「ドラム」によるファーゴへのN弾投下、星間レースのコース設定の時にSOEの基地の存在に気付けないなど、コンピューターに頼り切ることの危うさを見せつけつつ同じコンピューター管理体制である「書を守る者」計画を潰したのである。

 もう一つの賭けはロックとナガトという全くタイプの異なる二人に銀河コンピューターを託したこと。ナガトは銀河コンピューターを使って25年ほどで帝国を築き銀河の混乱を収拾したが、もしナガトが不在でロック一人が銀河コンピューターを発見していたならどうだったろうか。おそらくは「教授の後継者になるつもりはない」とそのまま見捨てるか破壊するかしただろう。やがてUAIのオクタヴィアスとは対立し彼を倒すことで戦争終結に寄与はしたろうが、新たな秩序の構築は大きく遅れ、各地での争いはなおも続いたに違いない。ライガーは二人に宛てたメッセージで「銀河の混乱を収拾するのも さらに破壊するのも 君たちしだい」と言い残している。銀河をさらなる混乱に陥れることも肯定しているかのような内容だが(ロックもナガトも「さらに破壊する」ことを選ぶ連中ではないという確信はあったろうが)混乱の収拾=秩序の構築とは新たな抑圧の誕生にならざるを得ないからだろう。それでも秩序の回復を目指すか無秩序を選ぶのか、それをライガーはロックとナガトに託したのではないだろうか。二人のどちらか、おそらくはナガトが銀河コンピューターによって秩序を打ち立てることを選んださいには、その新体制の展開次第で内部崩壊を起こさせ、新しい形態の統治体制にバトンタッチさせる――それがライガーの深謀だったのではないか。その過程で「浄化」他の計画によりまたも何十億もの人が死んでいるが、ライガーはおそらく「人類を救うためには こうするしかなかった」と答えることだろう。

 ともかくも多大な犠牲の上に銀河コンピューターを帝国を倒したにもかかわらず、その次のエピソードである『闇の王』で早くも(12年後)銀河コンピューターのネットを回復する計画が試みられている(「フレック」死亡により失敗)。およそどんな物事にもメリット・デメリットはあるわけだが、どうしても現在あるものはそのデメリットに、今ないものはそのメリットに目が向いてしまう。〈喉元過ぎれば熱さ忘れる〉とはいうが、あれだけ犠牲を払い大変な年月と労力をかけてついに消滅にこぎつけたものを、もう再生しようとしているのには脱力せざるを得ない。もちろんそれ相応の事情があったからであり、だからこそロックも計画に協力してるわけだが――「なぜ・・・ 人間は何千年も同じことをくりかえすんだろう」 ロックはこの言葉を生あるかぎり問いかけ続けるのにちがいない。

 

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