グルン・ベルクって意外といい人(副題・ニアはファザコン娘?)

 

 『光の剣』のオープニングで、ロックの同居人であったニアはグルン・ベルクの刺客に襲われる。この時ニアは初めて自分がロストコロニー「ラフノール」の王女であること、国を追われるに至った事情をロックに語る。

 「1隻の宇宙船が私たちの星を見つけたの ラフノールの王は銀河連邦に加わろうと その船に呼びかけたのですが(中略) 利益を独占しようと考えた祭司長のグルン・ベルクが 父を殺して 王位を奪ったのです」

 しかしよく考えるとこの話はどうもつじつまが合わない。「利益」とは貿易による収入のことだと思われるが、『光の剣』3ページ目で、「船長」は「(ロストコロニーを見つければ)だれも知らない星丸ごとひとつ貿易を独占できるんだ」と言い、『アウター・プラネット』の1ページ目にも「(ロストコロニーは)初めのうちは貿易を独占できるかも知れんがね じきに他社にかぎつけられる」という台詞がある。

 つまり商人たちにとってロストコロニーが魅力的なのは、他にその星の存在を知る者がない→競争相手がないため商品を高く売りつけられる、安く買いたたけるからなのだ。また自社との優先契約を取り付けるためにリベートを使う必要もない。貿易の独占によって利益を得るのはあくまでも商人の側であって、ロストコロニーではない。グルン・ベルクは王位を奪ったところで貿易の「利益を独占」などできないはずである。

 ロストコロニーが貿易を自分に有利に運ぼうとするなら、連邦に加わり多くの商社と交易を行うべきだろう。しかしグルン・ベルクはそうしなかった。彼の関心は最初から貿易の利益などにはなかったとしか思えない。ならグルン・ベルクは何のためにニアの父を殺したのか?

 ここで思いあたったのが『スター・ゲイザー』の中の「苦労シテコノ星をマモロウトシタノニ スベテ ムダニナッタ」という言葉だ。彼のクーデターのきっかけはロドス王がラフノールを発見した宇宙船によびかけ連邦に加わろうとしたことである。グルン・ベルクは連邦や外の世界の現状、エスパーへの迫害について知識を持っているわけではない。しかし〈開国〉すれば現在のラフノールは確実に失われてしまうことを彼は察した。恐らくはロドス王に〈開国〉をとどまるよう進言し、しかし聞き入れられず、ついに王を倒すに至ったのだろう。これはいわば明治維新のような〈開国派〉と〈鎖国派〉の対立であって、どちらかが絶対的な正義と決められるたぐいの問題ではない。

 しかしニアはそれを認めたくなかった。父親を殺した男は卑劣な悪人でなければならなかった。その心情が〈利益を独占するため父を殺した〉という、聡明な彼女らしからぬ筋の通らぬ理由をつくり出したのではないか。父親と違い、外の世界でエスパーがどう扱われているかいやというほど知っていながらなお「グルン・ベルクを倒して 父の遺志を継ぎます!」と言いきる彼女はけっこうなファザコン娘だったのだ(ロックは当然彼女の話の矛盾に気づいていたと思われる。彼女の気持ちを察して何も言わなかっただけで)。

 そしてこの鎖国問題だが・・・『マインド・バスター』を見るかぎり、グルン・ベルクの方が正しかったと言わざるをえない。ニアを執拗に狙ったのも、彼女は必ずラフノールに帰ってきて、父王の路線を踏襲するとわかっていたからだろう。『スター・ゲイザー』でラフノールの王位に返り咲こうとしたのも、半ばはラフノールの開国をはばむためだったのかもしれない。執念深さや権力欲は否定しようもないが、彼がラフノールを深く愛していたのもまた真実なのだ。

 もっとも彼が案じるまでもなく、「連邦に認めさせるわ ラフノールも!超能力も!」と力強く言いきったはずのニアは、その後何十年とラフノールを開国しなかった。外の世界で数年を過ごし、エスパーだらけの星が連邦に加わることにともなう困難を理解していた彼女が、それでも開国にこだわっていたのは、ひとえに父への盲目的愛情のゆえだった。それが変化したのは、『光の剣』ラストでランと結ばれたことが原因だろう。ランとの恋と結婚を通して、ニアはめでたくファザコンを卒業できたのである。

 

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