つまり「皇帝計画」とは何だったのか?

 

 「皇帝計画」を実行するかたわら、エレナはランに「なぜこんなめんどうな手間をかけるのです?」とたずねる。これに対してランは「人間というものは簡単に他人を消去できるようにはなってないんだ」「連中にはもっともないいわけがいるんだ そのための計画なんだよ」と答えているが、実際「皇帝計画」の流れというのは実に面倒である。書き出してみると、

 

 1.エレナがエスパーにしか聞こえない暗示を送り、同時に記憶をブロックする

 2.5人1組(全部がそうとは限らないかも)エスパーたちに指令を与え、ツアーを捜しに行くようしむける

 3.5人のエスパー、惑星ツアーに到着、気候と海賊船に難儀するところをツアーが救い暗示をといて信用を得る

 4.記憶を取り戻すための施術にかこつけて暗示によりエスパーを洗脳、ツアーの城にとどめる

 5.1〜4を繰り返して目標の2万人に達するところで、連邦に対しA−2クラスの植民星をエスパーたちに提供するようせまる、ための準備をする(あるいはそのふりをする)

 6.エスパーたちの動きを知った連邦軍はいわぱ反乱予備群であるエスパーたちの根城を、演習という名目で総攻撃

 7.エスパー、城ごと消滅

 

 以上が一連のプロセスである。ポイントはツアーの城破壊を命じた軍上層部が、「皇帝計画」について一切知らされていない、ということだろう。彼らは、エスパーのための惑星を要求する(予定の)ツアーたち2万人を自発的な反乱分子だと思っているのであって、エスパーたちは暗示でむりやり集まるよう仕組まれたとか、その目的がエスパーの大量殺害にあるとかいったことには気づいていないのだ。

 人間は総じてエスパーに対し本能的に恐怖や嫌悪感、それに基づく差別意識を抱いている。いっそエスパーなどいなくなればいいと願いつつ、しかしエスパーが何をしたでもないのに彼らを抹殺するのも良心がとがめる。しかしもし、エスパーの側が先に反乱行為を行ったなら?そのときは気がとがめることなく、〈正当防衛〉としてエスパーたちを攻撃することができる。

 ランはこの心理を利用して、エスパー攻撃の口実=「いいわけ」を軍上層部の「人間」に与えるために、ツアーという傀儡による〈反乱〉の体裁を整えたのである。連邦軍はたった14才の少年にいいように引き回されたわけだ。

 それにしても、最初の暗示で自殺を命ずるというような方法を使えば、もっと事は楽だったはずである。生存本能に真っ向から反する暗示だからかかりにくい可能性はあるが、ロックたちがツアーを捜すにあたってディナールのコンピューターに侵入しているように(幸いバレずにすんだが)、エスパーたちはツアーの城に向かう途上の各地で騒ぎを起こしてる可能性が高い。ツアー一味による反乱の前ぶれといった感じで、軍を引っ張りだすには効果があるだろうが、そもそもなぜランは軍を巻き込むような「めんどうな手間」をかけようと思ったのだろうか?

 エレナに「いつだってそうだ。彼らが望むものは・・・正しい答ではなく・・・いいわけなんだ」といったときの達観した、しかしどこか哀しげな雰囲気。思えば彼の人間嫌いも徹底した合理主義も、猥雑な人間性にさんざん傷つけられてきた結果ではないのか。

 幼時から長官のもとで英才教育を受けていた(らしい)ところからして、両親はいないかいないも同然だったろうから、家庭的な愛情を知らず、長官とはあんなだし、幼いながら人間の汚い部分ばかり思い知らされてきたのだと思われる。彼はそんな人間たちに、軽侮と恐怖と憎しみの入り混じった感情を抱いていたのではあるまいか。

 要するに「皇帝計画」の背後に流れるものは、「人間」たちの偽善性に対するあざけりと哀しみだったような気がするのである。

 

back     home

    

 

SEO [PR] おまとめローン 冷え性対策 坂本龍馬 動画掲示板 レンタルサーバー SEO