ジャニス・レト

 

 『猫の散歩引き受けます』登場。某都市を影で支配する「評議会」のメンバーの一人で、補佐官。クシノ議長がもっとも期待をかけている優秀な女性で、かなりの美女でもある。実は「サンティニ・ホール」で選別されたスラム出身者。ケルトンを裏で操り、議長を暗殺することでその地位を奪おうと画策する。

 彼女はストウに〈評議会をはじめとするこの都市の要職者にはサンティニ・ホールのテストで選出されたスラム出身者が少なくない。「テスト」は優秀な人材の輩出を促すには優れたシステムだが、スラムの人々の犠牲の上に成り立ってる点で間違っている〉と語っている。つまり劣悪な環境から抜け出してまともな暮らしがしたいがためにテストで選ばれるようスラム住民は必死に努力をする、それによって優秀かつハングリー精神に富んだ人材が生み出されるということは、裏を返せば優れた人材を生み出すために彼らを劣悪な環境に置いている、スラムをあえて温存していることを意味する。それは道義的に許されないという考え方だ。これはスラムをなくすべく活動しているストウにも共通する思いだろう。

 ただそれはジャニスの本心なのだろうか。彼女がストウに渡した爆弾が予定通りに爆発していたら、議長もろともストウも粉微塵になっていたはずだ。積極的にストウを殺そうとしたわけではないが、議長を殺害したさいに彼が巻き添えになったとしても一向構わないというスタンスである。本当にスラムを一掃し人々に新しい生活の場を与えたいと思っているなら、スラム期待の星として長らく活動してきた「クラックス」のリーダー・ストウを殺すようなことはしないだろう。

 加えて彼女が時折見せる邪悪な表情である。あれを見るととても彼女がスラムの人々─かつての同胞たちを思いやって彼らの生活改善のために戦っているとは思えない。彼女は現行のシステムのおかげでスラムから這い上がったいわば勝ち組であり、努力や才能が足りなかった(と勝った側の人間には映るだろう)負け組のために彼女を救ってくれたシステムを反故にしようとするだろうか。あくなき上昇志向によってスラムから評議会議員・補佐官に成り上がったジャニスにとって、さらに上の地位=評議会議長へと昇るためにはクシノ議長が邪魔だった──彼女の行動はつまるところ出世欲によるもので、スラムの犠牲の上に成り立つシステムを変えたいというのはストウを味方につけるための耳触りの良い物語に過ぎないような気がしてならない。

 

 

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