フレア・マイダス

 

 『久遠の瞳』登場。アーク・マイダスの従妹で、デニー・アスキン刑事によれば「あちこちの大学で学位を取ってる 天才らしい」「「ガイア」(注・「マイダス」グループ系列のガイア・テクロノジー社)にもいたことがあるが、現在は不明」。「ガイア」在籍時には微小機械を扱っていたそうで、「ラムタラ」を開発した張本人。「ユーノ」でのエスパー不審死事件においては、自ら街中に出てエスパーの近くでラムタラをばらまく役割を担う。下っぱの部下に任せなかったのは自信作の「ラムタラ」の効果を自分の目で確かめたかったからと思われるが、結果、珍しい代替視覚ゴーグル(アンいわく「ほとんどが軍隊用」だそうなので、アイザック長官が使っていたものと同じないしは進化した製品だろうか)から足がつくことになってしまった。まあ探し物について異様に優秀なアスキン刑事の存在+アンの助言がなければまず発覚しなかったろうが。

 当初ラスポスと思われたアークが物語半ばで亡くなったあとはもっぱら彼女が「ラムタラ」計画を引っ張っていくことになるが、タカナの指摘する通り「自分の保護者だった人間が死ねば・・・ 普通は動揺する」ところをむしろ「とても楽しそう」ですらある。フレアがアークを何とも思っていなかったり邪魔に思っていたりしたわけでないのは、アークの遺言を見ながら「あなたの 創ろうとしていた世界 必ず 実現させてみせるわ・・・」と泣いた事からもわかる。にもかかわらずフレアが平静を保っていられるのは、この「遺言」でアークが先を見通した明確な指示を多数残していたこと、それ以上に「私の」ラムタラに絶対の自信があるゆえだろう。

 ただアークの志を継いだようでも、アークとフレアでは大分考え方に開きがあるように見える。遺言にもあるとおり、アークの憎しみがもっぱらエスパーに向かっていたのに対し、フレアはESPセンサーを外したタイマー付きの「ラムタラ」を作ったくらいでエスパーのみならず人間すべてを標的と見なしているようだ。トーニックに「私たちには 小さなころから味方なんかひとりもいやしなかった 全員敵だった」と話していることからしても、彼女の憎しみはエスパーも含めた人間そのものに向かっている。マイダス・グループ会長のごく近い身内という家柄や極めて優秀な頭脳からすれば周囲から大切に扱われそうなものだが、やはり視覚障害がマイナスに働いたのだろうか。

 もっともフレアは敵を作りやすい性格ではある。タカナとは初対面から険悪そのものだったし(あれはタカナが第一声から「あなたが フレア・マイダス?」と敬称も付けず無表情だったせいもあるだろうが)、最初はタカナに「フレア・マイダスは危険な人物です」と警告されても半ば聞き流していたシャカでさえ、再度フレアと会った後には彼女を「排除」する方向に動き始めた。フレアはタカナについて「飼い犬の命令がなければなにもできない番犬じゃない そのくせ・・・ 私たちを軽蔑しているのよ」と怒りを表明しているが、タカナに軽蔑されていることに怒りつつ、フレア自身もタカナをシャカの番犬呼ばわりにして軽蔑している。むしろタカナを下に見ているからこそそのタカナに軽蔑される事に耐えられない。シャカに対しても「超人ロック」が相手でも「ラムタラ」で殺してみせると豪語し、シャカの腹心タカナを「あの時 あの女がおじけづかなければ」ロックにとどめを差せたはずだと厳しく批判する。タカナを批判するのは、タカナを重用しているシャカを批判するのに等しいというのに。こうした強気すぎる態度、人を人とも思わないような自信家ぶりが、相手の敵意を引き出す結果を生んでいるのだ。回りが「全員敵だった」から攻撃的な性格になったのか攻撃的な性格だから回りが敵だらけになったのかは何とも言えないところだが・・・。

 確かにその自信にたがわず、フレアは「ラムタラ」だけを武器として〈プロ〉のタカナと互角以上に戦った。船の電源を落とし暗中での戦いに持ち込んだ&船内の構造に詳しかったとはいえ、特別戦闘訓練を受けてるとも思えない彼女がこれだけ善戦、ほとんど勝利したのだから大したものだ。しかし最終的にはその強気と背中合わせの怒りっぽい=感情的になりやすい性格が自身を滅ぼすことになった。先に挙げた「飼い犬の命令がなければ〜」というタカナ評を、アークは「怒りは もっと 本質的なものにむけるべきだ」と軽くたしなめている。頭はいいのに大局的な物の見方・ふるまいができない、その場の感情で事を荒立てるフレアの危うさをアークは見通していた。実際アークが死んでからのフレアの行動はどこか場当たり的で危なっかしい。わざと出来損ないの「ラムタラ」を渡したのに気づかれたからとシャカの代理人サトクリフを殺し、それに気づいたシャカとその部下たちを皆殺しにして「(シャカは)大切なスポンサーのはずなのになぁ」とヤマトに呆れられている。「ラムタラ」がエスパー以外も殺せるのを示したうえで、上手くシャカたちと有利な条件で折り合うことなど考慮してる気配もない。自信作の「ラムタラ」と幸運にして身柄を確保したジュナの「ゲート」を頼みに力業で強引に物事を押し切り続ける。

 とはいえジュナを脅して「ゲート」を作らせようとするも「私が死んだら 「ゲート」はできないわ どうやって逃げるの?」と冷静に反論されたり(最終的にはまだ世間に疎いジュナだけに大尉の命を盾に言うことを聞かせるのに成功したが)、「軽装耐圧服に穴があ」けられると自信満々だった「「ラムタラ」の新しい射出装置」をヤマトに試したらスーツの中の気圧を上げることであっさり無効にされたり(ヤマトいわく「当然だろ?」)と、策士策に溺れるような場面もたびたび見られ、どうにか窮地を切り抜けてもまた次の窮地へと自ら飛び込んでしまう。最終局面、船の脱出ポッドが使えないとなった際のロックとフレアの反応はまさに対照的で、ロックは冷静にこの船の性質上備えているはずの反物質スキャナーを探し出し、頭の中の「ラムタラ」を取り除いてESPを使えるようにし「鏡」を作って無事脱出を果たした。一方フレアは「くそ! このっ ポンコツが!!」とポッドの機械を殴りつけたあげくに「なにか方法があるはずよ おちついて」と自らに言い聞かせて冷静さを取り戻したように見えたが、原因となっているリレーを見つけて動かそうとしたために「ラムタラ」が爆発して命を落とすこととなった。見えるはずのないリレーが見え、動かせるはずがないのに動かせた時点で(もっと言うなら少し前に、見えるはずのないエネルギーチューブが見えた時点で)自分が潜在的エスパーであったこと、超能力を使うのは死を意味することに気づくべきだった。リレーを透視してしまった以上気づいても手遅れだったかもしれないが、死の瞬間まで何が起きたのかわかってなかったようなのに(「ラムタラ」を作った自分がエスパーなどとは皮肉すぎて想像もつかなかったのだろうが)、冷静な判断力が欠けてるよなあと感じてしまう。まあこうしたダメな部分、人を殺すのが「初めのうちは怖くて 手足がふるえた」というような人間臭さ(「慣れてしまえば簡単だわ 人を殺すのって」と続ける悪事に染まりやすい部分も含め)がフレアというキャラクターを立体的にしているのも確かなのだが。

 

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