エルナ

 

 『聖者の涙』『聖者の涙Part2』登場。アフラ配下のエスパー。美少女(美女?)だが、仲間からも殺人狂扱いされる快楽殺人者。あのロックをほぼ一方的に追いつめたほどエスパーとしては強力。とにかくいかに充実した殺人を行えるかがすべてで、一応は上司であるらしいマイダスも含めて誰の命令も聞かないため、なまじ強いだけに周囲からもてあまされている。一応アフラの言うことだけはどうにか聞くものの、それも人を殺せるシチュエーションを用意してくれるアフラの元にいるのが都合がいいから仕方なく従っているという感じで、ラインハルトのようなアフラに対する忠誠心・信仰心などは微塵も感じられない。そもそもアフラにもタメ口だしなあ。

『ロック』シリーズでほかに殺人狂というと『光の剣』の殺人鬼エルミが思い浮かぶ。あと「殺人鬼」と表現されてはいないが、哄笑しながら大勢の人間を躊躇いなく殺しまくった『コズミック・ゲーム』のエリカも人殺しそのものを楽しんでいるふしがある。快楽殺人者的キャラに女性が多い、しかも揃って美形なのは意外性狙いと・・・ファンサービスですかね(笑)。

 ただエリカとエルミの場合は正体が発覚した時に「まさかあの子が!?」という驚きがあったがエルナにそれはない。名前が出た直後に暗殺者として初登場する彼女は、正体が女であったことに対する意外性はない。女の子、それも美少女が容赦なく人を殺戮する姿が〈絵になる〉のは確かだが、そもそも何故彼女は殺人狂となったのか。エリカの場合はかつて人間に復讐しようとしたこともあったという台詞から、彼女がエスパーであるゆえ迫害を受け苦しんできた、その苦しみ・恨みつらみがやがて人間をサル同様に見下す感情に転化していったことが推察できるのだが、エルナの場合そうした背景は何も描かれていないのだ。エスパー差別がまかり通っている辺境出身の同僚・ラインハルトがエスパーであるせいで(正確にはそれだけではないが)処刑されかけたのをアフラの部下に救われアフラに帰依した経緯からすると、エルナもやはり処刑でもされかけたのをアフラに拾われたのだろうか(あのエルナがリンチにかけられたり処刑されかけたりしてる姿が想像もできないが)。だとしても彼女が特に人間を恨んでるようには見えない。人間だろうがエスパーだろうが殺せれば誰でもいいような感じだし。心理的な理由(復讐とか)によって殺人狂になったというより、天性の殺人鬼のように思えてくるのである。

 ここで思い出されるのが『サイバー・ジェノサイド』だ。機械の体と人体を融合させた強化人間サイバーは、なまじ人間に数倍する身体能力があるせいで便利な道具として非人道的に扱われることに反発し反乱を起こした。その憤懣は十分正当なものだったと思うが、戦闘の中で彼らは暴走して際限ない殺戮に走ってしまった。彼らを止めるために投入された、通常のサイバーのさらに数倍の能力を持つサイバー・レムスもまた戦闘中に暴走、ロックのおかげで一度は正気に立ち返ったものの、生きて地球に戻ったレムスは生みの親であるマチコへの不信によって再び暴走、マチコを手に掛けたあげくついにロックに破壊されるに至った。

 結局彼らの暴走はサイバーが根源的に抱える欠陥のゆえとされ、やがてサイバー技術は全面的に使用禁止となるのだが、果たしてこれは本当に技術的な問題だったのだろうか。むしろ後天的に得た強力すぎる力を人間の精神では制御できなくなり、能力に引きずられてしまった結果なのではないか。だとすれば人間に比して、サイバーと比べても、強力な力を持つエスパーも同様に暴走して大量殺戮に走る可能性は少なくないということになる。強いエスパーであればあるほどその危険は高くなるだろう。

 もちろん多くのエスパーは殺人鬼化したりはしていない。サイバーと違って超能力は先天的な才能であるから、能力を制御するに足るブレーキ機能も生まれながらに持ち合わせているのかもしれない。とはいえその「ブレーキ」が常に上手く働くとは限らない。たとえば上掲の「快楽殺人者」たち以外でやはり暴走→虐殺行為に至った例としてロード・レオンのケースがある。

 レオンの海賊行為の理由はもちろんグレート・ジョーグへの復讐であり、彼の暴走の原因はドクが仕込んだ毒物による激痛と、ジョーグの急死によって憎しみの行き場を失ったのが相まって半ば錯乱状態になった部分が大きい。しかしレオンはそれ以前からツェン・リーの首を斬り落として晒すといった過剰なまでに残虐なやり口を用いていたし(彼とその家族がやられたことを考えれば無理からぬ部分はあるのだが)、笑いながら破壊行動や殺戮を行おうとする場面もあった。またレオンの再来というべきライオット・アレクセイも後半は自分を裏切ったギャラクシー・フライヤーズ社、ひいては人間社会への復讐心から動いていたとはいえ、戦闘の最中に破壊を楽しむような残酷な笑みを見せる場面がたびたび出てきている。家族思いの勇敢で優しい少年、海賊となった後もフローラの前では妹思いの優しい兄だったレオンが戦闘時に見せる血に酔ったかのような残忍さは、復讐心が精神の「ブレーキ」を麻痺させた結果のように思えるのだ。

 レオンとはまた別の形で暴走を経験しているのが『星と少年』におけるラグである。彼の場合、暴走の直接原因は周囲からスパイ呼ばわりされ攻撃されたことへの絶望だったが、根底にあったのはその強大な力に対して精神力が年齢相応に未熟だったことである。ゆえにESPのコントロールが上手く行かず、それが数々の悲劇を呼び込むこととなった。だから彼はフラン=ロックから超能力のコントロール方法を学び、それを完全に身につけたのちはいかに絶望的な状況においても(第二の故郷たる星を壊滅させられても妻と生き別れになっても)暴走することはなかった。ラグとも接点のあったランは潜在的能力が大きく、戦闘中にいきなり能力値が跳ね上がったりしているのだが、熱くなりやすい性格にも関わらず力が暴走したことは一度もない。それは彼が超能力の修行をするにあたって、師匠であるヴェルト・ニムから精神力そのものを鍛えることが大切だと教え込まれたことが大きいのではないか。フラン=ロックはラグに超能力のコントロール法を伝授したさいヴェルト・ニムの名に言及しているから、彼女(彼)がラグに教えたのもヴェルト・ニム譲りの精神修養術だったのだろう。

 このように、強力なエスパーほど力に呑まれてしまってサイバー同様暴走する危険があるわけだが、精神力の鍛練によって暴走を抑えることは可能である。ただしこれは当人が真っ当な倫理観や思いやりの心を持っている場合の話だ。精神力は強くとも倫理感がなければ〈人を殺せる能力がある〉→〈じゃあ殺してみよう〉となりかねない。精神的に弱いとも思えないエルナはまさにこのパターンだろう。彼女は生まれ持った力を本能の命ずるまま存分に使っているだけで、人間もエスパーも単なる狩りの対象物としか見なしていない。味方との間にも同志愛や友情などはなく、単に自分の欲求を満たすうえで好都合だから一緒にいるのに過ぎない。まさにラインハルトが「ろくな死に方はしませんね」というのも無理からぬひどい人間だが、彼女もまたアフラたちによって能力をいいように利用されたあげく使い捨てにされている。自業自得とはいえ、一種気の毒な人生とも思えるのだった。

 

 

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