エリカ

 

 『コズミック・ゲーム』登場。ディナールの地下運動組織の一員で組織のリーダー・オレオの娘。ディナールに不時着後地下組織に拾われたロックの世話係兼監視役となる。警察軍の攻撃で組織が壊滅したさいロック、ジェフとともに生き残り、三人ともに首都ディナリアへ向かう。ゲリラの女戦士にもかかわらず見た目も雰囲気も可愛らしく快活な性格――と思わせて実は皇帝レイザークの正体だったという仰天展開に。エリカ自らが正体を明かすまえにこの展開を予期した人はいたのだろうか?

 正体を明かして以降は髪の色も黒(ベタ)から白に変わり、なぜか全裸姿に。エリカの年齢は不明ながら(記憶を操作され彼女を同志と思い込まされていたジェフによればレイザークがディナールの支配者となった3年前の時点で「エーリカはそのころ高校生だった」というから、そういう設定が無理なく通る年齢=18、9歳くらいだろうか?)凹凸のあまりないスレンダーな体型+生々しい描写を避けているので妖精めいて見えてセクシュアルな感じはしない。ただ外見的にはそうでも、別人のような言動の数々―人を平然と笑いながら殺す残酷さ、ロックと「超人と超人として」戦うことを望みながら彼を愛してると叫ぶ倒錯した態度は妖精というより小悪魔然としていて、特有の背筋がゾクゾクするようなエロティシズムがある。

 この〈ロックを愛してると言いながら彼と戦おうとする〉心理が初めて『コズミック・ゲーム』を読んだ中学生の頃はわからなかったのだが、読み返すうちに理解できるようになってきた。おそらくエリカは自分をサル山の中に一人紛れ込んだ人間のように感じていたのだ。姿形は似ていてもまるで別の種族。能力において自分より劣っているのに数が多いからと自分を迫害してくる。だからといってエスパーであることを隠して彼らに迎合することはできない。それは人間の自尊心を捨ててサルに同化することに等しいからだ。まして「愛する」ことなどありえない。だから彼女は人間を「下等な生物」と切り捨て、一人超然として立つ―「超人として生きる」ことを選んだ。そしてそのためには「どうしてももうひとりの超人を捜す必要があった」。

 孤独を埋めるためでなく、〈超人として生きるために〉他の超人の存在が必要とはどういうことか。自分は超人であると彼女がどれだけ強く思っていても、一人で確信してるだけではただの誇大妄想と変わらない。超人としてのアイデンティティを保つには他者から超人として承認される必要がある。それも「下等な生物」ではなく、対等ないし格上の、自分が認め尊敬できる相手からの承認でなければ無意味だ。だから彼女はロックと戦おうとする。彼が本当に自分と同じ超人なのか。サル山のサル達とは違う、対等に付き合うに足る存在なのかを自身の体で確認するために。そしてロックがテレポートをマスターし、やはり本物の超人だったと確信できたとき、サル山で巡りあった初めての「人間」、それも異性であるロックを愛してしまったのは必然だろう。しかしやっと出会った同胞と戦うことでしか自身の在り様を確かめられないとは何と悲しいことか。

 ただ、人間を「下等な生物」呼ばわりするのは本当の本音なのだろうか。かりそめの仲間だったジェフをああもあっさり殺し、地球人もディナール人も笑いながら大量殺戮するエリカが人間を虫けら同様に扱っているのは間違いない。しかし、地下組織の一員を演じていたときのエリカ――特にディナリアへ来てからの、ロックの言動のあれこれに呆れたり、「われわれはおたずね者なんだよ」と人聞きの悪いことをつい大声で言ってしまったジェフを「し!」とあわててたしなめたりしてる時の彼女はとても表情豊かで生き生きしている。ロックに気づかれずに彼の資質をある程度見極めるため必要だったとはいえ〈この先ずっと相手をしていくなんてまっぴら〉なはずの下等な生物であるジェフを相手にしながら〈いやいややってる〉感がまるでない。ロックがどこで自分の正体に気づくか、そのスリルを楽しんでいるにしてはロックがいない場所でもジェフへの態度を変えていない。

 エリカはロックに正体を明かした少し後に「私はね・・・人類を支配することなどどうでもいいの そりゃ昔は復讐してやろうと思ったこともあったわ でもね・・・結局そんなことまるで馬鹿馬鹿しいことだって気がついたのよ」と語っている。「復讐」という言葉を使うからには彼女はエスパーであるゆえに人間たちから迫害を受け苦しんだ経験があるはずだ。物語の冒頭でロックが味わったような、化け物呼ばわりされ住処を追われ果ては殺されかけるようなそんな体験をしてきたのだろう。そして「復讐」してやろうと思ったというからには当時は人間を取るに足らない下等な生物とは思っていなかった。憎み報復するに足る存在という認識だったのだ。それが人間をサル同様に見なすようになるまでにどれほどの苦痛を経てきたのか。だから地下組織の構成員を演じる――「超人」ではない普通の女の子として人間たちと生活し普通に怒ったり笑ったりしてみせることをエリカは無意識に楽しんでいたのではないだろうか。それは彼女には叶わなかった〈人間らしい〉時間だったから。本当は、人間を「下等な生物」などと思わなくて済んだような、一人の普通の少女として人間の一員として生きたかった、そんな思いが心の奥底にあったんじゃないか。エリカのやったことはロックが指摘する通りあまりにひどいし死の瞬間まで反省のかけらもなかったが、彼女がそうなるまでの過酷な人生を想像すると痛ましくて、どうにも憎む気になれないのである。

(上で彼女の年齢を18、9くらいかと書いたが、「昔は」という言い回しには数年程度前の話ではないような年輪が感じられる。単に人間を憎んでいた頃とは心境が大きく変化した結果、当時のことを感覚的に遠い昔のように思っているということかもしれないのだが、ロックと張れるほどの超能力者なのだからロック同様見た目通りの年齢じゃない可能性もあるのかも)

 エリカはロックと戦った結果として自分が死ぬ、殺される覚悟はあったのだろうか。「あなたの力を みくびっていたようね まさかこんなに早く 強くなるなんて・・・ 思わなかったわ・・・」という言葉からは負けるつもりは毛頭なかったようだが、ならばどこまで戦うつもりだったのだろう。ロックを殺すところまで?それとも自分には僅差で及ばずとも彼が十分強いことが確信できたらその時点で争いをやめるつもりだったか(その場合でも地球は滅ぼしたんだろうけど)。それならテレポートできるようになった時点でもう十分だった気もする。エリカもロックがテレポートで部屋を脱出するのを見届けた時「あなたはやっぱり本物だったわ」「ロック・・・・・・あなたを愛しているわ!」と叫んでたんだし。エリカ的には最後の戦いはいまだ人間を仲間と思っている―超人としての自覚が足りないロックをいなして終わるつもりだったのかもしれない。

 結局予測を上回るロックの成長を前に思いがけず命を落とすことになったものの、自分をも超える能力者、真に愛するに足る相手に(超能力をブロックした、したがって自分も超能力を使えなかったためにもせよ)直接素手で絞め殺すという手段によって殺されたエリカは一種の幸せを感じていたんじゃないだろうか。

 

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