エルザ

 

 『エネセスの仮面』登場。エネセス艦長暗殺の任務を負って「エネセス」に潜入した会社のエスパー。7年前に同様の任務で「エネセス」に潜入したまま戻らなかった兄の仇討ちに燃えている。おそらくは本人も知らないうちに体内に仕掛けられていた爆弾のためにアモンに殺される。十分大人に見えるが、アモンが「こんな小娘」呼ばわりしているのでせいぜい17、8歳か。

 彼女の所属する「会社」が兄と同じ「会社」かははっきり描かれていないが、兄の行方不明が「エネセス」に潜入したためなのを知っているので、同じ会社である可能性が高いだろう。兄が戻ってこないので会社に事情を聞いた→エネセスに潜入したと知らされ仇討ちのため自ら会社に入る→エネセスに潜入して殺された、という流れだったとしたら、兄が何とかエルザに連絡をつけ事情を説明しなかったせいでこんなことになった、兄の責任は重いと言わざるを得ないが、『アウター・プラネット』のライオット・アレクセイの場合同様、会社が優秀なエスパーを幼少期から囲い込むのが珍しくないなら、兄妹揃って幼い頃から会社に所属して(させられて)いたと見るほうが妥当だろう。これだって、まだ幼かった妹を捨てて自分だけ「エネセス」で自由を追求しようとした兄に罪なしとはいえないが。

 兄と同じように細菌を植えつけて行動を縛るのでなく、本人の意思によらず(つまりは会社側の操作で)起動する時限爆弾を体内に仕掛けられていたあたり、アモンが「こんな小娘にエネセスが倒せるわけがない」と考えたように、会社もエルザが艦長に近づき暗殺するのは無理、彼女にそこまでの力はないと踏んで、船もろとも木っ端微塵にするべく彼女を人間爆弾に仕立てたのであろう(実際のところ彼女の能力はどんなものだったのだろう。テレパシー以外の能力は描かれていないので何ともわからないが)。

 細菌でエスパーを支配するような会社が妹をも道具として非道に利用することは容易に想像できたろうに、なぜエネセスは何とかして妹を迎えに行こうとしなかったのか。そもそも連邦や会社、ひいては世の中のエスパーに対する扱いに憤りを覚えているはずのエネセスが、自分たち同様に虐げられているエスパーたちを救うために会社を根底から叩き潰そうとはせず、ただ宇宙船を襲い略奪を行って自分たちだけが自由に生きているのもいささか志が低い気がする。まあどこかの会社の社長?が連邦に怒鳴り込んでくるシーンで示されているように船を襲うだけでも会社に相当の打撃を与えることはできるし、直接本社や主要設備―つまり惑星上の拠点に攻撃を仕掛けようとすれば、かつてロンウォールのアストリス本社を襲おうとしたロード・レオンのように艦ごと沈められるはめになったかもしれないが。それこそ銀河最強とまで呼ばれるロックにしてからが、エネセス艦長のための仮面を作っただけで、目の前で苦しんでいるエスパーを個別に救済はしても、エスパーの待遇改善のため矢面に立って戦おうとはしていない。それどころか〈エスパーの地位向上のための武力革命〉を地で行ったような「ミレニアム」を「ありもしない幻」と切り捨ててさえいる。これはレディ・カーンの本性を察していたからだけでなく、「ロック」の項で書いたように、「理想の名のもとに多大の犠牲を出したあげくに結局理想の世界など実現しない徒労感をよく知っているから」であろう。むしろ仮面を作った→エスパーによる海賊組織の設立?を支援することによって、道具として利用されているエスパーたちに一種の受け皿を用意しただけでもロックとしてはまだしも積極的に動いたほうかもしれない。

 ただ上で触れた連邦に会社社長らしき人物が怒鳴り込んでくる場面で、この〈社長〉が「わしの手でかたをつける!」と宣言した直後にエルザのものとおぼしき「にいさんのかたきをうつんだ!!」という台詞が書き付けられているので、どうやらエルザはこの男の会社に所属していて、「わしの手でかたをつける」とはわが社のエスパーを人間爆弾としてエネセスに送り込むとの意だった―ここでのやりとりがエルザの命運を決したことがうかがえる。「エネセス」が自由に生きようとすることが不自由な境遇下のエスパーを死地に追いやることに繋がる、そんなやりきれない仕組みが出来上がっているのもロックはわかっていて、だからこそ「エネセス」にも全面的に肩入れせず傍観者の立場に留まっているのかもしれない。兄のように細菌―いわば自分だけを殺す、気の長い時限爆弾―を植えつけられたなら、エネセスに寝返って短い年月でも自由に生きる道を選ぶこともできたろうが、妹はその可能性さえ持っていなかった。エネセスは兄の仇だと的外れな恨みを抱いたまま死んでいったことも含め、つくづく可哀想である。

 

 

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