エルミ

 

 『光の剣』登場。強力なエスパーかつラフノールを震撼させた殺人鬼。笑いながら獲物に向かってゆく様子からすれば快楽殺人者であろう。250人の行者(エスパー)によってついに捕らえられESPを封じるため「死人ごけ」(エルミのエピソードで「死人ごけ」を出してその性質を説明しておいたことが、ラスト近くで「死人ごけ」に冒されたニアを救出するシーンをスムーズに進めるための仕込みとなっている)を身体に植え付けられた状態で幽閉されていたが、ロックを殺すことを条件にグルン・ペルクによって釈放される。

 ロックたちの油断を誘うため幼女ネイマの姿で彼らに近づくが、その手口が見事。カルバ・ハンの館で就寝中のロックを襲撃、それに失敗したと見せて(ロックを刺しそこなった時の「ちい!」という心の声からすれば、もしここで殺せたらラッキーという期待はあったろうが)逃亡、ロックに自分を追わせたうえで彼の死角に入った隙に自らを刺して被害者を装いロックに救出させたのであった。ロックが欺かれたくらいだから本当の重傷を負ったものと思われる。もしロックが巻き込まれた一般人などそっちのけで犯人を追う方を優先させるような性格だったら、下手すると致命傷になっていたかもしれない。危険な賭けだが自信はあったのだろう。結果エルミ(ネイマ)はまんまとロックの手当てを受けそのままカルバ・ハンの館に入ることに成功した。

 さらにすごいのはネイマが「口がきけない」設定であったこと。後のロック対エルミの死闘を見れば本当に喋れないわけではない。あくまでネイマとして振る舞ううえでの演出だったのだ。その目的は幼女の姿同様いかにも弱者と見せかけることでロックたちの油断と同情を誘う以上に、ロックに自分の心を読ませることが第一だったと思われる。二人の人間がいて、片方が口がきけずもう一方がテレパスなら、テレパスが相手の心を(接触テレパスによって)読むことでコミュニケーションを成立させるのはごく自然ななりゆきだろう。そしてそのさいに「ネイマ」としての偽の履歴・感情をロックに読みとらせる。ロックほどのエスパーが相手では、いかにエルミでも不意に心を読まれたら正体に気付かれてしまったかもしれない。しかし自分から心を読ませれば読まれるタイミングがわかるので偽情報を読ませることが十分可能になる(それでもネイマが見た目通りの年齢でないことをうすうす察したあたりはさすがロックである)。

 グルン・ベルクの刺客にいつ襲われるかわからない状況下で、どんな形にせよ新たに接触をもった人間の心をロックが検査しないはずがない。実際祖先の島に旅するにあたって、ロックは同行する行者・乗組員全員の心を調べている。しかし口がきけないことにして〈どうぞ心を読んでください〉というシチュエーションを作っておけば、しょっちゅうその内心の声に触れているロックは自然とネイマには疑いを抱かなくなる。そうやってネイマ=エルミはロックのそばに近づくことを可能にしてのけた。そして命の恩人で自分の心をわかってくれるロックにすっかり懐いてしまった、という演技をすることで、後にロックを追いかけて密航しても不自然ではない状況を作り上げたのである。

 何も密航して船の上でロックたちを狙わなくても、館に入り込みロックたちの警戒を解くことに成功した時点で再びロックを襲ったりニアを攫わせたりしてもよさそうな気はするのだが、一度失敗したためにより慎重にロックの性格や周囲の人間関係も観察することにしたということだろう。まあ快楽殺人者だけにロックとの勝負をより長く楽しみたい、船に舞台を移してより多くの行者を切り刻みたい、というのが本音だったのかも。

 この「密航」だが、本当に出帆の時からどこかに隠れて乗り込んでいたわけではなく、実際にはランがネイマを見つける少し前のタイミングで船にテレポートしたものだろう(状況からしてこの日の見張りがランなのを知っていたはずだから、出帆からずっと何らかの形で船の様子を見てはいたのだろうが)。もちろんランに見つかったのもわざとである。エルミが本気で隠密行動を取るつもりがあったなら、ロックやヴェルト・ニムならともかくまだ半人前だったランに気配を探知することができるとは思えないし、そもそも見つかった時エルミはかなりはっきりと物音を立てていて、あれがうっかりミスだったとはまず考えられない。

 こっそり船中に潜伏することも可能だったろうが、誰かに見つかってみせたうえでニアの許可を得て堂々と滞在したほうが何かと動きやすい。そして彼女が乗船できるようニアに口をきいてくれそうなのはランただ一人しかいなかった。カルバ・ハンが集めた行者たちやクルーはそもそもネイマのことを知らない。子供ということでさすがに殺しはしないだろうが、ニアかヴェルト・ニムに報告したうえで強制送還が妥当な流れだろう。ニアが彼女の(ロックと一緒にいたいという)想いより安全を優先するだろうことは実際ランがネイマの密航を話したときの対応で証明されている。ロックやヴェルト・ニムに見つかった場合も、下手すればその場で強制送還だ。しかしランならば。ロックからネイマの境遇を聞かされたニアが「ひどい話ね」とつぶやいた時ランも同情してるような表情だったし(彼らも質は違えど負けず劣らず悲惨な生活を体験してるのだが、だからこそ共感するところが大きかったのかもしれない)人間的にも甘い。なによりラン自身がニアの側にいたいがために危険をかえりみずこんなところまでやってきてしまった好例である。カルバ・ハンの館で共に過ごしたわずかの間に、エルミはランの性格もニアに寄せる想いもさっさと見抜いてしまい、つけこむならこいつだと狙いを定めたのだろう(その後祖先の島に攻め入ったさいにニアの偽者がランをたぶらかそうとする一幕があるが、ランがニアに惚れているのを前提にしてるとしか思えない偽者の態度からするに、そのへんの情報もエルミが流したんじゃないか)。

 その狙いは的中し、ネイマを見つけたランはいっさい彼女を咎めることなく、「みんなにわけを話して乗せてもらえるようにする」と気安く請合ってくれた。ニアに反対されても〈自分が責任を持つから〉とくいさがって、もともとネイマに同情的なだけに強い態度を取りきれないニアから3日間限定ながらも滞在許可を勝ち取ってくれた(しかし事態の推移を見ると、ランはあんなこと言っといてどう責任とってくれるんだよ、という感じではある。まあ仮にランがニアを説得できず強制送還されていたとしても、エルミは別のやり方でニアを攫い見張りを斬殺していただろうけど)。ここでネイマは一応ランに笑顔で感謝を伝えようとしてる素振りをみせ、ランも笑顔を向けている。この二人どちらも髪がくるくるなので、そうして一緒にいると兄妹のようで微笑ましい絵面なのだが、直後にロックが「?」な顔でそんな二人を見ている。これはおそらく無力な幼女がどうやって腕利きの行者だらけのこの船に誰にも(自分にも)気付かれずに密航などできたものか、それがあっさりとランに――唯一彼女をかばって乗船を後押ししてくれそうな相手に――見つかったのは出来すぎじゃないか、と疑問を感じていたんではないだろうか。ロックがネイマの正体に疑いを抱いていたのは、戦闘の中でエルミの素顔が発覚した場面での「やはりおまえか 見かけ通りの年ではないとおもったが」という台詞からもわかる。

 ロックとは対照的に、ランは現実にネイマが斧を振り上げて笑いながら近付いてくるという状況になっても、自分の知る無邪気な幼女ネイマのイメージにとらわれ、ネイマと殺人鬼エルミが結びつかない様子だった。さすがにロックの攻撃でエルミが負傷したおかげで金縛りが解け、ロックから彼女が殺人鬼エルミであること、早くとどめを刺すよう言われるに至って剣を抜き放ったが、いかにも幼女らしい可憐な様子で苦しげにうめいてみせるエルミをついに刺せなかった。結果ランは重傷を負うはめになるわけで、エルミがランの甘さを読みきって終始つけこんでいるのがよくわかるエピソードである。その後再びロックに傷を負わされたエルミはロックに対しても同じやり方でとどめを刺されることを回避しようとする。もっともこれはランの時と違いダメモトの破れかぶれという感が強い。実際ロックは一瞬表情をこわばらせたものの、「むだ・・・だ」とエルミにとどめを刺している。ロックは本来至って、それこそ甘いと思われるほどに優しい性格ではあるが、歴戦の勇士でもあり非情になるべき時は非情になれる一面もある。ましてこの場合つい少し前に目の前でランが同じやり口にかかり大怪我をしているのだから。同じ手に二度とは引っかからない、というのみならず、友人を傷つけられたこと、彼の情が踏みにじられたことへの怒りも当然あったはずだ(ランが「ぼくにはできない」と叫んだ時に「ラ・・・ン」とロックは呟くが、ランの場違いな甘さに呆れつつもそれを好ましく思っているニュアンスに感じられる)。ともあれ、前に同じシチュエーションでランが甘さを露呈した分相対的にロックが非情に映るワンシーンではある。

 捕らえるために「250人の行者を使った」など鳴り物入りだったわりに比較的あっさり倒された感がなくもないが、たまたまランが現れなければロックを倒すことに成功していたかもしれず(それはセルガ・ロニも同じなのだが)、海竜使いによるニアの誘拐を手引きしてニアの身柄をめぐっての最終決戦へと状況を導いた。意外性のある正体もふくめラスボス一つ前の敵役として十分な存在感を示したといえる。ところで、ロックは「見た目通りの年ではない」と看破しエルミもそれを認めたが、数年前にラフノールを騒がせたエルミが本当の幼児でないのは当然として、年齢以外は本来の姿だ、ということだろうか。つまりエルミの実体はネイマの外見をそのまま数歳〜数十歳年取らせた姿であるのか。ラフノールで変身能力者というと死ぬ前に自分を殺した相手の姿を写す(自然死のときはどうなるんだろ?)ロニ一族くらいらしいので、エルミもまったくの他人に変身する能力はない、エルミ本人のマトリクスの年齢を調節できるだけと見なすのが妥当かもしれない。ということは本来の年齢のエルミは結構な美人だったんではないのか。いろんな意味でもったいない人生を送ったキャラのような気もするのである。

 

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