四天王恋バナシ(山田編)

 

『スーパースターズ編』半ばからの四天王結婚ラッシュの中で、最後の最後にゴールインする次第となった山田。しかし実はいかにもオクテそうなわりに中学時代から何気にモテてもいました。無印では小林稔子、『大甲子園』ではプラカードガールの明子、『プロ野球編』の南遥、そして『スーパースターズ編』後半で登場した木之内彩子。
結局この彩子と『スーパースターズ編』最終回をもってめでたく結婚するに至るわけですが、中学編と高校編の二度にわたり登場し山田への好意が読者には(兄である小林真司にも)明らかだったにもかかわらず直接山田にアプローチすることはついになかった稔子や、あくまで憧れのヒーロー止まりだったぽい明子はともかく、遥の存在があっさり立ち消えたのは拍子抜けしました。山田のホームランボールが当たってケガをしたという出会いのきっかけ(しかし稔子との出会いといい彩子とのなれそめといい、山田って本人ないしその身近な人間を見舞いに行くのをきっかけに女と知り合うパターンばっかり。積極的に女にコナかけるキャラじゃないからなんでしょうけど)、チームメイトにさんざからかわれて照れてる様子や遥の弟が山田は姉に惚れてるに違いないと断言してるあたりからして、いかにもこのまま恋愛路線に話が行きそうだったんですが。
その後遥の話がさっぱり出てこなくなったものの、翌々年(2001年)の正月にいきなり殿馬と一緒に(実は途中でばったり出会っただけ)山田家を訪ねてくる形で再登場。この二人続いていたのか(しかし「その後どうですか 頭の方の後遺症は?」なんて台詞からすると事故以来会ってなかったくさい)、と思ったところで岩鬼に促され山田が遥を送っていく姿に「今年は公私ともに山田太郎に何かが起こりそうな予感がします」なんてナレーションまで入る。なのに結局これっきり遥は今度こそ完全に出てこなくなってしまう。他の女の影が差すでもなく、その後山田に浮いた話が持ち上がることは『スーパースターズ編』も半ばを過ぎて彩子と出会うまで絶えてありません。そういや彩子と出会い彼女が持ち込んだ“問題”を解決した後も「なんとなくいい雰囲気です」なんてナレーションが入っていたっけ。

思えば山田と遥の仲というのは、山田が遥に電話番号を聞いた(本人いわく自分がケガをさせたのだから彼女の病状を確認できるように)ことを遥の弟が勝手に色っぽく解釈して騒いでただけで、周囲やナレーションまでやたら煽ってはいましたが、山田自身がはっきり遥への好意を口にしたことはなかった。しかし正月に遥が家を訪ねてきたときの雰囲気からすれば好意をもってそうな気配はある。水島先生もあんなナレーション入れるくらいでこの時点では二人をくっつける意図があったんでしょうに。
「コイツのイメージは長屋なんです!」と不自然さを押しても山田の変わらなさ――中学時代からの無欲恬淡・質素さを大事にした水島先生だけに、山田の恋愛沙汰を話は振ってみたもののどうにもイメージしきれなくてそれきりにしてしまった、ということなのかも。彩子も出てきたと思ったらしばらくして母の体調が良くないので地元新潟に帰るからと、以降は遠距離恋愛―というより文通相手・メル友―になってしまったのも、『スーパースターズ編』で回りの結婚話がバタバタ動いていったので山田にも相手を出してみたもののやっぱり山田に恋バナはしっくりこなかったことの現れなのかもしれません。

彩子をわざわざ新潟に訪ねていって“結婚を前提としたお付き合い”を申し込んだ後もその後の進展については長らく放置されたままで、山田と彩子の間には直接愛情を示す言葉のやりとりが驚くほど出てこない。
(彩子が故郷にかえって間もなく、山田がホームラン打った直後に彩子の母が脳梗塞で倒れる→以降山田は全打席ホームランを打ち続けその間母がずっと昏睡状態だったことから山田が打つと母の命が危ういのではと彩子の弟が心配する→結局まさかの六打席連続ホームランを成し遂げた直後に母が意識を取り戻し、こんなことが起こるのも彩子と山田の間に絆があるからだと結論する、というようなエピソードはありましたが。こんな間接的な、しかも無理矢理野球にからめたような形でしかラブストーリーらしきものが表現されないというのも・・・
新人捕手としてスターズに入団した女性・立花光が土井垣の命で山田家に同居して山田との仲が噂される(それで光のボーイフレンド・大友剣が逆上する)騒ぎが起きたときも、彩子が不安がったり山田が彩子に事情を釈明したりの描写がなかったうえ、光の母親が「山田さんのホームランはきっときっと 光への愛の印だわ」「ひょっとして剣君は 山田選手と光の愛のキューピッドかも〜〜」と大はしゃぎする姿が出てきたりするので、彩子とはプロポーズまでしておきながらフラグ立ち消えなのか!?と心配になったほどです。一連の騒ぎが一段落したあとで彩子から山田にメール(「メールありがとう こちらもみんな元気です」といった内容で光のことには一切触れてない)が届くシーンでやっと「ちゃんと続いてるんだな」とわかりましたが。
ようやく二人の結婚話がちゃんと動き出したのは『スーパースターズ編』終了間近、それも住む場所をどうするかなど実際的な会話がもっぱらでラブシーンなどは全くなし、結婚式も最終回の最後の1ページ(1コマ)のみ。一応四天王の他のメンバーが結婚した流れ的にも山田も結婚させないといけない、でも“山田の恋バナ”は徹底して描きたくない、という水島先生の葛藤の跡が見えるかのような結末でした。

まあ山田の恋愛フラグ―特に遥との―が立ち消えた理由が外部的なもの(水島先生が描きたくなかったから)というだけではミもフタもないので、あえて作中の描写からそれらしい理由を探し出すなら、山田はサチ子の親代わりとして彼女の成長―なるべくなら結婚するところまで―を見届けるまでは自分自身の結婚は考えられないと思っていたフシがある。それは、サチ子の結婚式の夜に縁側に腰掛けて「お父さん お母さん やっと終わりました これでホッとしました」と心で呼びかけていること、彩子に結婚前提のお付き合いを申し込んだのがサチ子結婚式のすぐ次の回だったことからも察せられます。
しかし遥にしてみれば当時まだ中学生のサチ子が結婚するのなんて何年先かもわからないわけで、とても待っていられない、この人は結局自分と結婚する気などないのだと判断して離れていったとしても不思議はないと思うのです。その意味で山田の“適齢期”間近に彼と知り合えた彩子は幸運だったといえるでしょう。
そう、正直彩子との結婚の決め手は山田が結婚を考える時期にたまたま彼女と付き合いがあった、というだけとしか思えない。山田が彩子に惹かれた理由も惹かれているらしい描写も特に出てこないし(受け持ちの園児を親身に心配する彼女は優しさも母性も感じさせ、控えめでありつつ一面識もない山田を園児のためとはいえ直接訪ねてくるあたり行動的でもある、まあ魅力的な女性かとは思いますが)、手ごろな相手とくっついた感がどうにもぬぐえない。高校時代に里中に示した執着―故障治療中の里中を一日千秋の想いで待ち続けたり、いったん中退した里中を本人に無断で休学扱いに変えて明訓に連れ戻したり―の半分の熱さも、彼は彩子に対して示してはいない(里中もサチ子に対するより中学・高校時代に山田に示した執着の方が上回っていますがサチ子への想いもちゃんと描かれているだけずいぶんマシ)。
まあ大恋愛なんかより静かに育んでいく愛情のほうが(それさえ描かれてはいませんが)山田には似合いという感じはあります。彩子さんは野球バカの山田を穏やかに支えてくれそうだし、山田も野球のこと以外ではごく人の良い優しい男なので、大過なく幸せな家庭を築き、良き夫・良き父親になっていくんじゃないですかね。

 


(2012年9月3日up)

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