四天王恋バナシ(殿馬編)

 

『スーパースターズ編』に入ってから本格的に動き出した四天王の結婚話。てっきりこれは彼らが適齢期という以上に、いずれ彼らのジュニアが揃って明訓高校に入学しやがてはプロへ・・・なんて構想があってのことかと思ってたのですが(『あぶさん』の親子鷹の例もあるし)、意外にも現状誰のところにも子供が生まれていない。現在連載中の『ドリームトーナメント編』で『ドカベン』シリーズは終了のむね宣言も出されたし、結局ジュニア世代の話にはならなさそうでちょっとホッとしたような。彼らが父親になった姿があまり想像がつかないというか考えたくない気もするので(岩鬼はすでに成さぬ仲とはいえ一児の父をやってますけどね)。

ともあれ『スーパースターズ編』が始まって間もなく、これまで浮いた話の一つも出てこなかった殿馬についに恋愛ネタが降りかかってきた。お相手のマドンナこと正岡華子嬢はきっと殿馬ファンの女性たちには評判良くないんじゃないかと思いますが、個人的にはこのカップル嫌いじゃないです。マドンナの性格や行動は一時期のサチ子以上に問題ありですが、本来独身主義としか思えない殿馬をあえて結婚させようとするなら、このくらい積極的かつエキセントリックな女性じゃないと無理だろうな、という意味ではすごく納得がいったのです。山田の「ふたりともかなり変わっているからジャストミートかもな」という台詞をはじめ、周囲も変人だからこそマドンナは殿馬とお似合いという見解のようでしたし。

マドンナの初登場は犬飼小次郎率いる「四国アイアンドッグス」の入団テストを受けに現れる場面。後に「東京スーパースターズ」に入団する立花光もそうですが、『ドカベン』ワールドでは数少ないながらも女性選手が男に劣らぬ活躍を見せている(『ストッパー』にも女子選手が出てきたので水島野球漫画では、というべきか)。現実には1991年のルール改正でプロ野球チームに女子が入団することも可能になったものの、体力などの問題で男子と同じリーグでプレイする女子プロ選手は2008年のドラフトで「神戸9クルーズ」(関西独立リーグ)に入団した吉田えりさん以降誕生していませんが、いずれ五打席連続敬遠や親会社が変わるのでない完全な新球団の発足(楽天のケース)のように現実世界が水島漫画に追いつく日が来るでしょうか。

閑話休題。上で書いたマドンナの問題行動ですが、これもサチ子同様もっぱら恋愛関係に集中してます。言動にやや勝気で生意気な部分があるのは男性に混ざってプレーする上ではむしろ長所ともいえますが、試合中に対戦チームの選手である殿馬にいきなり恋してしまって以来(シチュエーション的には山田に惚れるほうが自然な流れだったのになぜか殿馬)、スーパースターズとの試合にはがんがん私情を持ち込みまくる(笑)。「私のところに熱い想いで打って そうしたら私きっとエラーしちゃう」なんて台詞(さすがに口には出さず心の声止まり)はその最たるもの。セカンドへの走塁のさいに殿馬に胸から体当たりして、狙ったのかは不明ながら殿馬を押し倒して喜んでたり、自分が打ったセカンドライナーを殿馬に止められた時も「この瞬間私達は結ばれた」と快感にひたっていたり(これらはさすがに評判悪すぎたのか、2005年のプレーオフにチームメイトの左貫に指摘される形で態度を改め、殿馬の打球は意地でも止めるように方向転換します。といっても試合と恋愛は別だとけじめをつけたわけではなく、「お前のファインプレイで殺された方が本望じゃないのか それが真の愛というものだぜ」というキザな台詞―「真の愛」という 響きに乗せられてしまった結果ですが)。
サチ子は岩鬼を追いまわしてた時分、選手控室やヒーローインタビューの場に乱入して一方的に恋人宣言したりしてましたが、マドンナの場合選手として出場しているためにグラウンドで試合中に堂々アプローチをかけるので余計タチが悪い。よく小次郎監督や不知火たちチームメイトが怒り出さないものです(試合に恋愛を持ち込む彼女に多少なりとも説教らしい言葉をかけているのは岩鬼ぐらい)。
まあ入団テストを受けにきたシーンからして球団お膝元の財閥令嬢である彼女は明らかに特別扱い、おそらくはアイアンドッグスの親会社である四国総合食品観光会社にも相当のコネがあるのだろうから、彼女が多少とっぱずれた行動をやらかしても強く叱ることができない実情があったりするのでしょう。そのわりに陰で皆がマドンナの悪口を言ったり気を腐らせたりしてる風がないのは、一応の実力はともなっているし殿馬の気を削いでくれるならいいか、という気分があるのかもしれません。

しかし追い回される殿馬の方は特にそれで調子を乱してる様子はない。むしろマドンナ本人に向かって「マドンナ命づら」と気のあるような台詞を言ってみたりしている。それだけならマドンナの気持ちを乱して選手としての調子を狂わす作戦(岩鬼がマドンナの気を乱すべく殿馬には恋人がいるという嘘を吹き込んでおいたのをこの台詞で台無しにしたうえかえって絶好調にしてしまってましたが)、あるいは単純に冗談とも取れるんですが、マドンナのいない場での仲間内のおしゃべりでさえ彼女に好意を持ってることを匂わす発言をしていたりする。最終的に彼女と結婚していることを考えれば「マドンナ命づら」は本気だったと結論するのが妥当なんでしょう。
試合中にベタついてくる以外でも判じ物みたいなラブレター(ほとんど電波系)送ってきたり正月恒例自主トレ中に男風呂に乱入してきたり(殿馬だけでなく五人衆全員で入浴してたというのに)のぶっとんだ行動には事欠かない彼女のどこに殿馬は惚れたのか。おそらく普通の常識的な女性だったらそもそも殿馬は興味を持つことさえしない。多分にエキセントリックな彼女の言動は良くも悪くも殿馬の関心を引いた。殿馬は風采は上がらないものの野球・音楽の天才的実力と人間的魅力から実は相当女性にモテるだろうと思いますが、こんなにも積極的に、一種常軌を逸したやり方で迫ってきた女性はさすがに初めてだったのでは。そんな彼女を殿馬は面白いと感じたんでしょう。
思うに芸術家気質の殿馬の場合、相手が面白味のある人間かどうか、自分の感性に刺激を与えてくれるかどうかというのがものすごく大きなポイントなのでは。中学時代もたまたますれちがった山田のスケールの大きさを直感的に感じて、山田のいる鷹丘中学に転校してしまったくらいですし。
象徴的なのが殿馬のピアノ伴奏でもともとバレエをたしなんでいた(というよりかなり本格的にやってたぽい)マドンナが踊る場面。これは無印で一時殿馬が弟子入りするかと言われてた世界一のピアニスト、アルベルト・ギュンターがマドンナの母親と親交があり、彼の使っていたピアノをマドンナ母が所有してるから見に来ないかと家に招待された際の一コマなのですが、殿馬の弾く「くるみ割り人形」に触発されたマドンナがにわかにレオタードとタイツ姿に着替えて踊りだし、それを見た殿馬は「なんづらこの女 いいじゃんづら 響いたづら」と内心に思う。それまでもマドンナに関心を持ってはいたでしょうが、はっきり“気に入った”描写があるのはここの場面が最初(というかほぼここだけ)。
そして「2006年型の秘打・・・・・・これづら」と「秘打・マドンナ」なるバレエ風爪先立ちから繰り出す秘打を開発する。ここにはマドンナのすっとんだ言動やバレエの技術が、殿馬に(芸術家にとっては命ともいえる)インスピレーションを与えていることが集約されています。里中にとってサチ子の性格がいかに問題ありありだろうと、自分の野球人生と病弱な母を献身的に支えてくれるというその一点で彼女が理想の伴侶たりえた(たぶん)ように、殿馬にとっては“インスピレーションを与えてくれる”という一点がマドンナを唯一無二の女性たらしめたんじゃないかなーと思うのでした。


(2012年8月31日up)

 

SEO [PR] おまとめローン 冷え性対策 坂本龍馬 動画掲示板 レンタルサーバー SEO