『プロ野球編』について(4)

 

「『プロ野球編』について(2)」でキャラクターの関係性の変化を取り上げましたが、ここではキャラクター個人について、無印・『大甲子園』と異なる魅力を発揮してる人たちをあげてみます。

 

まずは土井垣。この人の場合何と言っても外せないのが初登場シーン。『プロ野球編』が始まった当初は無印のキャラというと明訓五人衆にしかスポットが当たらない状態で正直土井垣の事は全く忘れ去ってました(笑)。
しかし95年の日本ハム対近鉄の開幕戦でまず五人衆以外のドカキャラとして不知火が登場。それも先立つ西武対ダイエー戦の中で岩鬼が「やーまだ おんどりゃ工藤はんよりもっと速い不知火の球を打ってきたやろが」と言い、ロッテ(投手は伊良部)と試合中の殿馬も「速い球は不知火で慣れてるづらで打てるづら・・・・・・」と発言して不知火のすごさを印象づけておいたうえでの登場であり、ルーキーのくせして開幕投手、ノーヒットノーラン達成目前という超優遇ぶり。
そのうえで不知火をリードする捕手をアップにしつつマスクのために顔は見えないという形でじらし、実況『何という大胆不敵 日本ハムバッテリー』+山田「すごいリードだ 大記録へこの強気か さすがだな」と第三者の台詞を重ねて捕手が何者なのかさらに期待をあおっておいて、ツーアウト取ったところで「(不知火の)強気をさらに強気にさせているのが捕手だ 捕手の土井垣だ」という台詞に続いてマスクを外した土井垣の顔があらわになる。

このシーンには本当にシビれました。まさかの土井垣さん!『大甲子園』で彼が中西父とともに登場したときにも驚きかつシビれましたが、それを上回る大興奮でした。意表を突きつつも、土井垣は日ハムなんだし元は捕手だったんだから捕手に返り咲いていても不知火とバッテリーを組んでいても何ら不自然ではない。この“自然な意外性”に加え、何と言っても土井垣の顔見せに至るまでの演出が素晴らしい。
その後ノーヒットノーランまであと一人に迫ったところでの『さあー土井垣からサインが出ます うなずきます ここまで一度も首を振っていません不知火』という実況や「いや振らせてないんだ土井垣の信頼感が」という伊東(西武)の台詞に示される不知火・土井垣バッテリーの息の合い方、ラスト一球をピッチャーフライにした不知火が内野手三人が捕球に寄ってくるのを「おれが捕る!!」と両手を広げて制してしっかりキャッチする格好良すぎる幕切れまで、この開幕試合は不知火と土井垣で全部持っていってしまった感があります。
高校時代あれだけ才能と存在感を示しながら明訓の前に常に地に塗れてきた不知火の、初めて描かれた堂々たる勝利の場面は実に格好よく、以後の彼はたびたび最多勝のタイトルを取ったり「球界一の投手」と呼ばれたり(犬飼小次郎もそう呼ばれてますが)と栄光の道をたどっていくことになります。

(『プロ野球編』の不知火の活躍ぶりについてはすでに「不知火 守(2)」で書いたので割愛しますが一つだけ。2000年のオープン戦、日ハム対巨人でピッチャー不知火とバッター三太郎の対決の場面。
1打席目、この時期絶好調だった三太郎に絶妙のインコースストレート150キロをホームランされてしまった不知火は、2打席目リベンジをかけてあえて土井垣のリードに首をふり再びインコースストレートを投げる。三太郎はこの球もかっとばしホームランと思われたが失速してレフトフライに終わる。
ここで不知火が「三太郎 だろ」と笑顔で指をパチンと鳴らし三太郎も笑顔で「ああ」と答える。何のことかと思ってるとそこで三太郎のバットが折れる。すかさず土井垣が「凄い!!」「前の打席と同じコースと見せて実はボール半分三太郎の懐に入れてきた 三太郎は同じスイングをしたために入った分詰まったあげくにバットまで折られてしまったのだ なんというコントロールのよさだ」と解説してくれることで読者に状況が明かされるわけですが、この“リベンジのためにホームラン打たれたコースにもう一球”→“と見せて三太郎を引っかけて詰まらせる”という不知火の度胸と負けず嫌いっぷり、リベンジを可能にできるだけの実力と頭脳、さらに「三太郎 だろ」とだけ言って指パチンというシンプルな台詞と仕草。格好良すぎです。こういうキザっぽいパフォーマンスがさらっと決まるのは不知火とあとはせいぜい球道くらいなんでは)

途中から不知火の話になってしまったのでちょっと戻ります。この「意外なところで土井垣が格好よく登場し格好よく決める」シチュエーションは98年の日ハム対西武の開幕戦にも見ることができます。西武サイドは先発知三郎からリリーフの獅子丸へとマウンドを引き継ぎ、獅子丸の剛球により西武の勝利も目前かという9回表、先頭打者として現れたのが代打の土井垣。
確かに試合開始前に不知火のピッチング練習のシーンがあったのでこの試合の捕手が土井垣でないのはわかってたんですが、今日は土井垣は代打起用だなんて事は全く触れられてなかったし、まあ土井垣がマスクをかぶらない日もあるんだろうくらいにしか思っていなかった。それだけに代打が告げられ誰が出てくるかというところでページをめくると『土井垣ですそうですこの人がいました!!』という実況をバックにバットを手にした土井垣さんが現れた時にはテンションが上がりました。
「土井垣さん・・・・・・ ケガをして出られなかったんじゃないのか 代打の切り札だったのか」と山田も驚いていましたが実際いい意味で意表を突かれました。もしいつものように捕手は土井垣だと思って読んでいたなら、ここで代打として土井垣が出てきたとき驚きを通り越して混乱してしまったに違いない。しかし最初に今日の捕手が土井垣じゃないことがはっきりと示されてるので、驚きつつも、ああこうきたか!という納得感も同時にやってきた。この「納得感」がセットになってこそ意外性が心地好いものになるので、さりげなくしかし印象に残る仕込み(この場合ピッチング練習シーン)をいかに行うかが作劇上重要になってくる。その点このエピソードの仕込み→顛末(代打土井垣登場)の構成は見事なものでした。
加えて「代打土井垣」というと、自然と思い出されるのが彼のプロ初打席もまた代打(逆転ホームラン)だったこと。かつて代打として華々しい実績を残した彼だからこそ、ここでいきなり代打として登場しても「そういえばあの時も・・・」という感じで唐突感はない。むしろ今度もまたホームランを打ってくれるのではという期待さえ高めてくれます。あいにくそれは叶わずピッチャーライナー→アウトになってしまったのですが、これは本来センターライナー必至の球を素手で止めるという獅子丸の超人技のせいで土井垣さんに非はない。「格好よく決め」たというには微妙かもですが結果的に獅子丸を降板させたわけですし一応以上の貢献はしたといえます。
(この試合、西武の東尾監督は山田・知三郎・獅子丸の三位一体―三人が常にチームとなり、リードのみならず知三郎と獅子丸の交代のタイミングまで投手に関する一切の采配を山田が取り仕切る作戦―を打ち出していて、山田たちに覚悟を促すため知三郎・獅子丸以外の投手をベンチ入りさせないという思いきった行動に出ており、そのため獅子丸負傷でピッチャーが誰もいなくなってやむなく山田がマウンドに上がるというとんでもない展開になっていきます。しかし非常事態を招く原因となった東尾監督の無茶な作戦も、彼の三位一体に寄せる期待を思えば一応納得できますし、高一秋・白新戦の山田リリーフを思い起こさせる点でもなかなかに妙味がありました)

もちろん格好よく活躍するばかりが土井垣さんじゃない。95年後半戦の日ハム対西武戦の時に超遅球を狙い打たれてショックを受ける土井垣の「抜いた球・・・速球投手にとってこの球を打たれる事は最も悔いの残るところ 後悔させてはならん・・・これが投手に対する捕手の鉄則だ」というモノローグ、「こんないい球を持ってる不知火をおれはリード出来ない・・・ 山田に3本も打たれるなんて」という自責の言葉は、無印時代もキャプテンとして監督として選手のことを思えばこそ悩み迷ってきた土井垣らしいナイーブさ・生真面目さが全開で、落ち込んでる土井垣には申し訳ないものの何だか嬉しくなってしまいました。
(この勝負、山田が明訓時代の土井垣の発言を思い出しながら組み立てを読み、「あの土井垣さんの性格からするともう一球同じ球 超遅球だ」とモノローグを入れつつ145キロの速球をライトスタンドへホームランして「やっぱり明訓時代と違っていた」と締める―先のモノローグで山田が読み違えたかのように読者をミスリード&オチを付けるのが試合展開を上手く盛り上げている。落ち込む土井垣に不知火が「悔いはありません 結果は二の次です この勝負 これで良かったんです 次は必ず抑えます ストレート一本で!!」とさわやかに笑いかけるのにも不知火の思いやりが滲んでいてホッとします)

 

さて、『プロ野球編』で確変と言っていいほどの成長っぷりを見せつけたのが三太郎。とくに99年のオープン戦、一時は全く打てなくなって二軍落ちするかの瀬戸際でホームランを放ったところから開眼して、その後はホームランを量産、なんと3年連続で50本を打って山田をも越えるほどのホームランバッターとしての大活躍をしています。
これはひとえに四天王、特に山田とチームが分かれたからでしょう。明訓時代はチームメイトに超ホームランバッターの山田がいて、悪球に限るという条件つきではあるもののやはりホームランバッターの岩鬼がいた。長距離打者でこそないものの殿馬と里中も相当な好打者。こうなると三太郎までガンガン打ってた日には明訓の圧勝試合ばかりになってしまう。山田が欠場したり打棒を封じられたりした時、あるいは転校にあたって因縁のあった土門がらみだと結構活躍してるので下位打線の面々に比べればマシとはいえ、四天王が活躍する分のあおりを受けてる感があります。
(思えば四天王、いや五人衆全員守備と打撃と両方優れている設定なんですよね。里中なんて投手なんだから打つほうはそれほど、という設定になってたらもっと三太郎が打撃面で活躍できる余地があったろうに。まあ高校野球の場合エースで4番という選手も多いくらいで、運動神経のいい子は好守好打好走(好投)なのが自然だと踏まえたうえでの設定なのかもしれませんが)

一つには三太郎は山田の後の5番を打つことがほとんどのため、殿馬や里中のように秘打や根性の一打で出塁したところで岩鬼や山田が劇的にツーランを放つ展開を導く役割―ストーリーを盛り上げるための出塁要員にもなりがたいせいもあるでしょう。その点五人衆ではないのに三番という上位打線だった山岡は、即プロ入りするほどの実力者ではなかったわりに結構出塁シーンも多い、いい役回りだったといえます。「変わる猫の目打線」と言われた太平明訓時代(高三夏のぞく)には三太郎の方が山田より打順が前のことも多かったと思うので、そういう試合で活躍させてもらえればよかったんですが、あの時期は“以下略”ないしは一部抜粋みたいな試合が多かったので三太郎の打席までちゃんと描写されてないんですよねえ・・・。

なので『プロ野球編』になってこれらの枷がなくなったことで、三太郎が活躍できる土台ができた。しかも五人衆で唯一セ・リーグに行った、四天王以外でも無印の中心的キャラクターはだいたいパ・リーグに所属しているおかげで、三太郎が好成績を上げることが里中が打ち込まれることや山田のリードが通じなかったことを意味しない。ゆえに遠慮なく三太郎にホームランを量産させることができたというのはあると思います。加えてセ・リーグの中でも優勝回数はダントツの巨人にいるわけですから、岩鬼みたいに「これだけホームラン打ってるのになぜチームが優勝できないのか」という不自然さ(そのへんを解消するためか「岩鬼がホームランを打つとチームが負けるジンクス」なんてエピソードもあった)も生じませんし。無印〜『大甲子園』では個々の試合ではときに活躍するとしても継続的な活躍は難しかった(山田は“天才特有のムラっ気のため”と評している)だけに、新機軸の展開として水島先生もノって描いていた(だから三太郎がああまで厚遇された)んじゃないでしょうか。

その厚遇の結果として、三太郎がオールスターでまで連続ホームランを打ってしまったりもしている。「オールスターでまで」というのは、上では「三太郎が好成績を上げることが里中が打ち込まれることや山田のリードが通じなかったことを意味しない」と書きましたがオールスターではこの法則があてはまらないから。2000年のオールスターで三太郎は三打席連続ホームランの快挙を成し遂げていますが、打たれた投手は不知火・西武の松坂・そして里中。『プロ野球編』最強ともいうべき投手陣、しかもオリジナルキャラ以上に優遇されまくってる松坂からさえホームランを打っている。三打席目の前に王監督が「(オールスターでの三打席連続ホームランなんて)ホームランの記録は全て持っているおれでもやってないのに冗談じゃない」と発言しているのも(オールスター三連発を達成したのは元阪神の掛布のみ)、その記録を作りかけている三太郎のすごさを強調してくれてます。
ちなみに松坂と三太郎の対決については、山田が絶好調の三太郎を封じるために初球から超高速スライダーを投げさせるリードをした(結果その一球目を打たれた)のに対し、まだ投げもしないうちから殿馬が「山田 考えすぎるなづら 三太郎はお前が考えるほど考えて打つ男じゃねえづらよ」と内心思う場面があり、高校時代から随所で悪い方向に発揮されている山田の“考えすぎる癖”がここでも悪い目に出たのが示唆されている(殿馬の三太郎評が正しかったことは、オールスター明けの対中日戦で三太郎が好調の武田からホームランを打った際の、三太郎のオープンスタンスをインコース狙いと見せかけたアウトコース狙いと踏んでインコースに投げ、最初から素直にインコースを狙ってた三太郎に打たれた武田の述懐(「こ こいつ何も考えていなかったんだ 素直すぎるくらい当たり前の考えしかない男なんだ」)によって裏付けられています)。
結局このオールスター、一番三太郎にしてやられたのは山田なのかも。作中でも山田のリードがことごとく読まれてることが指摘されてますし。ある意味高校時代山田のゆえに捕手の座は取られるわ打撃面では活躍できないわの不遇を強いられた三太郎のリベンジが叶った一戦だったともいえます。三太郎が一打席目の直前山田に「お前は太郎で大打者だろ」「おれはその太郎がみっつもあるんだぜ お前の3倍の打者という事じゃんよ」なんて軽口を叩いてますが、これももはや自分は山田をも越えたという自信が言わせた台詞でしょう。まあ彼はまた『スーパースターズ編』で不遇な立場に落ちてしまうのですが。

 

そしてやはり外せないのが里中。彼については書くことがいっぱいありすぎるのでまた別に項を設けようと思います。

 


(2012年6月22日up)

 

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