『プロ野球編』について(2)

 

また無印&『大甲子園』と変わった、変わらざるを得なかった部分で興味深いのがキャラクターたちの人間関係。かつては同じチームの仲間だったのが敵同士となり、一方では敵だった人間が新たにチームメイトとなった。前者では明訓五人衆、後者では日本ハムの不知火・土井垣バッテリーや西武の犬飼知三郎・山田バッテリーが代表格でしょう。

前者の場合、当然ながら昨日の友が今日の敵であることへの葛藤があるわけで、特にそれが顕著だったのが山田と里中だったんですが(「スカイフォーク」「その後の黄金バッテリー」「その後の明訓五人衆」の項参照)、他メンバーの間にも何気ない台詞につい仲間意識がのぞいたり関係の変化に戸惑ったりするシーンがちらちらと出てきます。
たとえば95年西武対ダイエーの開幕戦。上述のオリックス対ロッテ戦と平行して試合の模様が描かれているのですが、「4月1日はわいの生誕の日ィや 開幕を華々しく飾ったるでえ」と豪語する岩鬼の声に「そうかそうだったな 頑張れよ岩鬼」と山田が心で思うシーンがあります。「(誕生日)おめでとう」でなく「頑張れよ」というのが。敵チームの岩鬼に頑張られると自分のチームが負けるというのに(笑)。山田は98年前半に岩鬼がホームランを打つとチーム(ダイエー)が負けるというジンクスにはまった時も、当のダイエーとの試合中に「岩鬼 ジンクスさえなくなりゃお前の猛打は果てしなく勝利に貢献するよ」と笑顔で一人言を呟き「お前 ひょっとして明訓時代と錯覚してないか 敵だぞ今は」とチームメイトに突っ込まれてます。
まあ岩鬼のほうも上掲開幕戦のとき自軍の投手・工藤を彼なりに励ましてたはずが、いざ山田が三振すると内心に「ど どアホ 打たんかいや〜〜まだ」と考え動揺の顔を見せたりしてるのですが、それでも次第に頭脳プレーでちゃっかり山田を出し抜くケースなんかも出てきて「やーまだ野球は頭や!!」と言い放って「あ あいつからそんなセリフが出るなんて信じられない・・・」と山田を驚愕させる局面さえある(99年開幕戦)のですが、山田はプロ入り4年目の時点でまだ「明訓時代と錯覚してる」ありさま。

「その後の明訓五人衆」でも書きましたが、山田は明訓五人衆のうちでも一番かつての仲間意識を濃厚に引きずっている感があります。かつての仲間(のチーム)と対戦してる最中なのについ相手を応援してしまうシーンがたびたび出てくるのは山田くらいのもの。あとは95年オールスターの時に「相変わらず凄い打球を飛ばすぜ うちの太郎ちゃん」なんて一人言言ってた三太郎くらいでしょうか。もっともこの台詞、「うちの」というくらいで仲間意識は濃厚なものの「すごい」と言ってるだけで別に山田を応援してるわけではない。やっぱり試合中の敵を応援までしちゃうのは山田くらい、ですかね。
(ちなみに山田がついつい応援する相手は岩鬼に集中している。やっぱり一番付き合いが古いし、一番の親友は里中より岩鬼なのかも。里中と戦うときはたいがいいかに里中から打つかで頭がいっぱいで、打ったあとに「ごめん」と謝ったことはあっても打つ前はもっぱら敵投手としてのみ認識しているようです。それだけ里中の力を認めてることでもあるのでこれはこれで嬉しいかも)

もう一つ、仲間意識とはちょっと違うものの、山田→岩鬼の友情を感じさせる台詞が97年の西武対ダイエーの開幕戦で出てきます。初の左打席でど真ん中をホームランした岩鬼に山田は動揺し、左の練習はやってないはずなのになぜど真ん中を打てたのか悩んで「とにかく1球でも早く岩鬼の本性を暴かねば」と考えるのですが、その直後に「ちょっと お おれは今さら何を考えているんだ 本性も何も岩鬼と何年付き合ってきたんだよ」と自身にツッコみを入れている。この「岩鬼と何年付き合ってきたんだよ」という表現には、長年の友人のことを本当には理解してなかったことにショックを受けているかのような響きがあって、山田は岩鬼を本当に好きなんだなあとしみじみ感じました。何気にすごく好きな台詞です。

 

一方、高校でもプロでも敵同士ではあるものの関係性が変化したケースもある。一番の例は里中と不知火でしょうか。この二人については「不知火 守(2)」の項で書いたので繰り返しませんが、不知火はプロに入って以来気持ちに余裕が出てきたのか、全体に他者との関係が良好化してます。普段バッテリーを組んでる土井垣には高校時代の不敵な態度とは打って変わってすっかり信頼を寄せてるようだし、オールスターでのみバッテリーを組む山田に対してもそのリードを素直に称え、実は高校時代も山田に受けてもらいたいと思っていたという胸の内を読者に対して吐露している。
(あれだけ山田をライバル視してきた不知火が内心でそんなこと考えてたのか!?と意外というか納得いかない感じもしましたが、高校時代は無能ではなくともごく平凡な捕手(不知火の球を受けられる時点で十分非凡と言う気もするけど)と組み続けてきた不知火にすれば、山田ほどの傑出したキャッチャーをずっと目前にしていれば時にそんな思いにかられることがあってもそう不思議はないのかもしれません)

不知火の山田に対する信頼感が示されたエピソードの一つが98年のオールスター。山田にとっても不知火にとっても四度目のオールスター出場となります。六回表に登板した不知火は打者三太郎を相手にツーストライクを取ったあと、山田のサインに再三首を振ったあげく一人でこっくり頷いてノーサインの合図を出す。95年のオールスターで里中が最後の一球(スカイフォーク)を初めて投げた時を彷彿させる状況であり、山田も新球の存在を疑っています。
はたして不知火が投げたのはまさかのナックル。あえなく空振り三振した三太郎と山田の間で「あいつナックルなんてあったのか」「おれも今 初めて知ったんだ」「だったらどうして敵のおまえに隠さない・・・後半戦の隠し球にしないんだ」「そこが不知火の心の広いとこさ 今はお前をいかに三振にとるかしか考えていなかったのさ」という会話が交わされてますが、個人的に印象に残ったのは後半戦の必殺兵器にもなるだろう新球をあっさり山田の前で開陳した「心の広いとこ」よりも、未知の新球、それもナックルなんて捕りづらい球をいきなり投げた不知火の、山田の捕球技術に対する信頼の厚さでした。
やはり未知の球だったスカイフォークをいきなり投げて「山田なら止めてくれると思った」あげく後逸された里中はさすがに山田への盲信が過ぎた感がありましたが、不知火の場合は知三郎のドックル(知三郎独特の特殊なナックル。普通のナックル以上に捕球が難しい)を捕り慣れている山田なら捕れるはずという具体的な根拠があってのこと。不知火の計算と山田に対する信頼の双方があってこその一球でした。

この回を皮切りに不知火は9連続三者三振の大記録を打ちたて「す 凄い やっぱり山田は凄い こいつのリードは天下一品だ どこまでいってもこいつにはかなわない」「不知火 お前は日本一だ!!」と山田と互いを称えあう。どちらも大記録にハイになってるとはいえ不知火の「こいつにはかなわない」発言も山田の「お前は日本一だ」発言もいただけないなー(不知火が山田に敗北宣言してるみたいだ、山田もそういう台詞は里中にだけ言ってくれ)と思っていたら、オールスター明けの後半戦はいきなり西武対日本ハム戦、奪三振記録の延長に挑む不知火はその記録をともに作った山田を標的と定め、ついに山田を三振に取る。
土井垣いわく「この先何年も続くライバル同士・・・特に不知火にとっては試合に負けても山田との勝負には負けたくないという闘争心がこの勝負をさせた こういう勝負もあっていいぜ 試合を度外視した勝負が」。やはり不知火にとって山田は絶対負けたくない相手のままだった、捕手としての技量を深く信頼はしていても、まず第一に山田はライバルなのだと確認できたことに何だか安堵しました。

 


(2012年6月8日up)

 

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