明訓の黄金バッテリー

 

試合に勝つたび抱き合ってるような印象の山田と里中。それ以外でも何かとスキンシップが多かったり、クラスも一緒で席が隣りあってたり(1年秋と3年の春先は確実)合宿所でも同室(おそらく1年秋以降はずっと。1年秋初めの段階では部員が少なかったからか二人とも一人部屋ぽい)だったりと、とにかく密着度の高い、仲良しな印象の強い二人です。

もともと山田に惚れ込んで、彼とバッテリーを組むために明訓に入った里中は当然として、山田の方も1年夏の土佐丸戦以降は(それまでだって普通に仲は良かったが)すっかり里中びいきで、里中が療養のため不在だった期間中、「あと○日で里中が帰ってくる」と(おそらくは)毎日うるさいほどに言い続け、いざ帰ってきた時には文字通り両手を挙げて喜んでいた。岩鬼の不祥事のため野球部が定数割れの危機にある中、土井垣はすでに引退、殿馬は退部、問題の岩鬼自身も謹慎中――山田が一人皆を鼓舞して野球部を支えてただけに里中の存在が恋しかったんだろうけど、「どれだけ里中好きなんだよ(笑)」と読んでてツッコミを入れたくなったものです。

そんな固い絆で結ばれたこのバッテリーですが、その実相手に向けている思いの質はかなり違っているように思えます。

一年の関東大会中に山田が記憶喪失になった際、うなされる山田の枕もとで里中が涙ぐむシーンがありますが、その時の台詞は「早く記憶をもどしてあのうまいリードを打撃を見せてくれ」。山田の記憶喪失に確かに彼はショックを受けているのだけど、親友が自分を忘れ果ててしまったことがショックなのではなく、“野球を忘れてしまった”ことがショックなんですよね。
山田が試合中に怪我をしたような場合も、山田の苦痛を慮るより真っ先に試合への影響を心配してる気が・・・。高三春土佐丸戦、クロスプレーで吹っ飛ばされた山田がフェンスに叩きつけられた時、「山田〜〜 落とすな 絶対落とすなよ〜〜」と叫んでいたのが印象深いです。勝利のかかった大事な局面だけに気持ちはわかるんですが、少しは山田の体も心配してやってくれ(苦笑)。決勝戦まで右肩負傷引きずるほどの強烈な一撃だったんだし。どうも里中が惚れ込んだのは野球人としての山田であって、一個人としての山田太郎についてはどうでもいいとは言わないまでもあまり問題にしてないように見えるのです。

里中が山田を見込んだきっかけは、高二春土佐丸戦での回想シーンに描かれてるように西南対東郷の試合での山田の活躍ぶりだった。「こんなすばらしいキャッチャーが中学生とは・・・・・・ そ そのプレーにおれは敵と忘れて酔ってしまった」(モノローグ、それも回想なのにどもってるあたりに当時の里中がどれだけ興奮状態にあったかが表れてます)。山田のキャッチャーとしての、そして強打者としての才能に里中は魅せられた。単純に惚れこんだだけでなく、「おれが山田のいる明訓をえらんだのはおれの力を十分ひきだしてくれるだろう山田が必要だったからだ」という発言が示すように、中学時代不遇だっただけに高校では存分に活躍したい、そのために―言葉は悪いですが、山田を利用しようと決めた。もちろん里中は山田を人間としても大いに好きだと思いますが、“山田と組んで栄冠を目指す”ことへの執着が大きすぎて山田個人への好意は二の次になってしまうんでしょう。

対照的に山田の方は里中の野球人としての能力より人間性に惚れているように思えます。里中の能力も評価してはいますが(高二春土佐丸戦での「里中はもともとピッチングのうまい男でここ一番はふんばれる男です」という台詞とか)、技術面よりも里中の根性や野球への情熱の方を買っている印象です。上で引いた台詞も前半は里中の技量を誉めてますが「ここ一番はふんばれる」というのはむしろ“根性”への評価ですし。

最初に書いたように山田の里中への思い入れは一年夏の土佐丸戦を機に一気に深まっているのですが、決定的なポイントは犬飼武蔵の送球を頭に受けた里中が怪我のダメージを押してホームにひた走った時の「なんという執念だ」のシーンでしょう。一点に賭けた里中の執念、続く試合展開の中で見せた根性に5万の観衆以上に山田も引きつけられたのだと思います。決勝戦を前にしての「よーーしこのがんばりやのためにできる限りのリードをするぞ」なんて台詞からも、山田の評価ポイントが里中の“頑張り”にあるのがわかります。

だから里中が怪我をした時、山田はチームへの影響も当然心配はしますが、まず第一に里中の心身の苦痛を思いやる。ピッチャーとキャッチャーの違いというのもあるでしょうが、二人の互いに対する評価基準の違いがここに現れているような。もし仮に里中が再起不能になったとしても山田の彼に対する感情は変わらないでしょうが、逆だった場合里中の山田への感情は・・・変わるだろうなあ。

ちなみに例の記憶喪失事件のとき、優勝旗の盗難が心の底に引っ掛かってる以外は家族の顔を見てさえ何も思い出せなかった山田が、雨をきっかけに唯一思い出したのが里中のこと――前年夏の決勝戦が雨で順延になった時のことだった。雨にまつわる思い出といってまずあの光景が出てくる・・・あそこで雨が降らなければ里中は試合に出られず明訓の優勝もなかったでしょうが、あの日の雨が山田の心に深く残っていたのは順延に希望を繋いだ里中の喜び様が第一だったはず。里中の頑張りを大事にしたいと思う山田の気持ちが表れていて好きなエピソードです。

 

追記−ここまで書いてきといてあれですが、山田の方も野球人としての里中に惚れ込んでるような気がしてきました。“野球人としての”人間性、野球人としての頑張りや一途さをこそ買ってるんじゃないかと。だから山田の側も里中が本当に再起不能になったら、やっぱり里中への執着は薄れるのかも。というより何があっても再起不能にさせておいてくれない気がします(笑)。「投げてもらうよ秋季大会に」とかにっこり言いそう。故障中の(再起できるかもわからない)里中が南海権左にからまれたのを助けに入ったときも、「この男はうちの大事なエースなんだ」。“エース里中”を絶対に諦めてくれない。なんせ中退さえさせてくれませんでしたからねえ・・・。

 

(2010年5月7日up)

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