高三夏・里中復帰〜地区予選決勝直前

 

『大甲子園』が始まったとき誰もがまず心配したに違いないのが、“無印ラストで中退した里中の扱いをどうするのか”だったと思います。それを何と“里中本人も知らないうちに中退が休学に変えられていた”という力技で、見事に里中を復帰させてしまった。さすがに明訓のエース抜きでは夢の対決になりませんからね。そもそもファンサービスの色合いの強い作品だけに水島キャラでも人気最上級の里中を外すなどありえないでしょうし。

かくて里中は無事明訓に復学するわけですが、その前後で“ゴルフ場でキャディとして働くさわやか好青年な里中”“母の手術成功と野球部復帰に歓喜する無邪気な里中”など里中ファン的には嬉しいシーンをたくさん見られたのに満足♪さらにマラソンで岩鬼に負けたこととピッチングフォームの崩れに表れるブランクの影響、これまでにない迫力を感じさせるライバル不知火の存在、と不安要素――明訓不利を印象づけておいていざ地区予選決勝戦へと物語は進んでいきます。

一つさりげなくショッキングだったのが東郷が白新に準決勝で敗れたこと。『大甲子園』が始まったとき、無印であれだけ小林復活を盛り上げといて結局対戦せずに終わったのはここで対戦させるための遠大な仕込みだったのか!!と思いかけたところにこれですから。そりゃ高校最後の夏だけに決勝戦をやるなら、そして作品の性質上(タイトルが示すように甲子園大会に特化した作品だから)地区予選でじっくり描けるのは一校がせいぜいとしたら、一年夏からずっと最大のライバルでありつづけた白新がふさわしいとは思いますが・・・。せめて東郷と白新の試合の様子を少しだけでも(同じく準決勝の明訓vs横学程度には)見せてほしかったなーと思います。きっと大投手戦だったんでしょうし。


・冒頭部分のナレーション。「兵庫県西宮市甲子園町一の八二 阪神甲子園球場 今年もまもなく全国の球児たちがこの大甲子園にかえってくる 語りつがれてきたその球児たちの数々の青春ドラマ その中でも終生忘れることのできないドラマチックな少年がひとりいる 今やその少年のあだ名ドカベンはこの大甲子園と共に高校野球の代名詞になってきた そして今年もこの大甲子園はその少年を待っている ドカベン いわずとしれた明訓高校の主砲山田太郎である そのバットは一年生の夏二年生の春三年生の春と全国優勝を明訓にもたらせている 全国の球児たちは甲子園をめざし そして打倒ドカベンをめざす そのドカベンの明訓高校は今神奈川県代表をかけて準決勝を闘っているのです」。
山田が主人公だということを改めてしっかりと示すかのようなオープニング。逆にいえばこのナレーションがなければ主人公はほとんど里中ですね。

・「マウンド上の渚のもとへ山田がいきます 上下 殿馬 高代も集まります そしてキャプテン岩鬼・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・はいきません」。こういう時に一人“友情ごっこ”に参加せず孤高を保つのが岩鬼流。ハッパだけ画面の端で揺れてるあたりも実にらしい。むしろ青田戦のときに里中を励ましにいったのが珍しいケースです。

・4番吾郎(本来「吾朗」のはずですが、ここではなぜか「吾郎」)の打席を前に、山田内心「正直気楽にいこ〜〜なんて酷なことだ・・・・・・・・・四試合ひとりでここまでよく投げてきた しかし渚ここはなんとしてもふんばるんだ たのむぞ」。
渚登場初期が嘘のように渚の技量と努力を認めている山田。とはいえあくまで山田にとっての相棒は里中で、渚には無事里中に繋ぐために踏ん張ってほしい、というのが正直なところでしょうね。里中が戻る前に負けてしまったら無理を通して里中が戻ってこられる環境を整えた甲斐もないですし。  

・『その痛々しい姿を見て明訓ファンのだれもが思っているでしょう こんな時に里中がいたらなァと しかしその里中はベンチにすら入ってません よほど大きなケガをしているのでしょう』との実況中継。里中不在の理由は無印最終回を読んだ読者にはわかりきったことですが、彼の中退がまだ公になってないのがここで判明。もう初夏なのになんで?と疑問に思わせたところで里中登場へと繋げます。
明訓の生徒に取材すればすぐ里中不在の真相はわかりそうなものですけどね。

・突然場面は変わってゴルフ場へ。いきなりどこかの社長たちがゴルフに興じる風景が。試合描写の腰を折って挟まれるこのシーンは遠からず本筋にからんでくるはず、ちょうど里中の話が出てたところだからおそらく里中がらみ、という予想を“キャディとして働く里中”という形で見事に実現。最初は背中だけ見せて、ついで茂みからゴルフボールを持って笑顔で現れる、という登場の仕方もナイスです。
そういえば『大甲子園』での里中初登場はこの林に飛び込んだゴルフボールを拾いに行くシーンですが、里中の“弟”荒木新太郎も『ダントツ』での初登場シーンはグラウンドの外で球拾いのバイトをしてるところだった。こんなところにも共通項が。

・ボールの飛ぶコースを読む勘のよさ、経済観念、気丈さなど社長たちが口々に里中を褒めてくれるのが心地好い。中学から高校初期まではその生意気な言動からおよそ年上には顰蹙を買いまくってきたろう里中が、年長者にこうも評価が高いとは。実際キャディ時代の里中はさわやかで礼儀正しい好青年そのものですからねえ。ついでに里中は女の子に騒がれるだけでなく中年男性の目から見ても「男前」な顔立ちなんですね。

・16番ホールにくるなり心ここにあらず状態になる里中。最初にキャディとしての有能さを描いてある分そのぼんやりっぷり=母の手術がどれだけ気がかりかが浮き彫りになっています。里中のために窓越しに腕で大きく丸を作って(これ結構恥ずかしいだろうに)にこにこしているお医者さんいい人だ。加えて里中の事情を知って一緒に喜んでくれる社長さんたちもいい人だ。

・里中が社長たちと一緒にクラブハウスに戻ってくると準決勝の中継をやっている。社長「おっワールドカップかね」。白新戦での殿馬がボールを蹴ってトスの場面や青田戦再試合でのバナナシュート打球など、この頃のサッカー人気の上昇を踏まえたシーンが増えているような。

・「この回です この回決めないと限界をとおりこしている渚くんの続投はムリです 明訓にはもう投手はいません」。無印ラストで結構部員数いそうに見えたんですが、控えとしても投手の務まる人間がいないとは。どれだけ人材不足なのか。一方の横学のピッチャーは得点ボードを見ると岩沢という人。二年秋にちょろっと登場した鯵坂は結局どうなったんだか。

・手術成功直後の里中と加代の会話で、里中が母にはガンと知らせず病名を胃潰瘍と偽っていたことが判明。どこのガンだったのかは書かれてませんが、胃潰瘍と偽る以上は胃ガンだったんでしょうね。無印ラストでアパートを引き払うさいの「療養」という言葉、加代が咳き込む様子からは肺の病気ぽかったんですが。おそらく長期療養が必要な病気だと里中が母を置いて野球に復帰するわけにいかなくなるので、再発のリスクはあれど手術ですっぱり治る病気ということでガンに設定が変わったのでは。

・予選決勝に出場するために突然キャディを退職する里中を怒るどころか「わずかの期間だったがすばらしい思い出をありがとう」と暖かく励まし見送るゴルフ場の社長。きっともともと“明訓のエース里中”のファンなんでしょうねこの社長。
里中が「病院とアルバイト先がこんなに近いところをお世話してもらって・・・・・・」と言ってますが、里中の事情を知って(おそらく病院側が社長に話を持っていって)、なら自分のところで働いてもらおうと手を上げてくれたのでしょう。すぐには入院費払えそうにもないのに加代に個室を用意してくれた病院といい、病院・ゴルフ場双方が里中母子を相当厚遇してくれたのがうかがえます。
一応はいずれプロでやりたい夢を持ってるはずの里中から「卒業したらまたここで働かせてください」というまんざら社交辞令ばかりとも思えない言葉が出てきたのも、それだけ人心の暖かな、居心地のよい場所だったんじゃないでしょうか。

・「君は必ずプロか大学で投手をする男だから」と里中の要望を笑顔で却下し胸をトンと叩く社長。後にはお客さんのありがたい申し出に「里中 甘えろ」と背中をパシと叩いたり結構スキンシップが多い。里中の方もごくくつろいだ笑顔を見せていて、彼らがいい関係だったことを感じさせます。
一方お客だった社長は明訓に帰る里中のために運転手役を買って出てくれる。「わしも自慢したいんじゃよ 明訓の里中くんを乗せたってな」の言葉通り、話の種にしたかったのはあるでしょうが、この人も(その部下たちも)里中の正体に気づく前から彼に好意的だった。爽やかで有能、母親思いの気丈な勤労少年となれば当然の反応でしょうけど。第一回の一連のシーンは里中の可愛がられっぷりがなんとも嬉しいです。

・かくて明訓へと帰還した里中。バッグを高く放り投げて「みんな〜〜」と飛び上がる里中と笑顔で駆け寄る後輩+三太郎。岩鬼と殿馬は遠巻きに眺めてる。キャラクターの性格をあっさりとわかりやすく示した表現が秀逸。そしてこの場にいない山田はどこに?と興味を引っ張っておいてあのオチへと持っていく。
ちなみにこの場面、肩の疲労ですでに投げられる状態でないとはいえ、あの生意気全開の渚が里中の帰還を泣いて喜んでるのが印象的です。そういえば里中中退の時も渚は涙ぐんでいたっけ。同じ投手というポジションでぶつかることも多かったけれど、それだけに里中の存在は渚にとって重い大きいものだったんでしょう。

・一人で四連投して踏ん張った渚を「渚 おまえたいしたやつだ よくひとりで投げ抜いた」と里中がねぎらう。もっとも四連投といっても当然4日連続で投げたわけじゃあるまい。そう考えるとこの後甲子園で文字通りの三日連投(準決勝青田戦延長18回、5回からリリーフした青田再試合、決勝紫義塾戦)した里中はどれだけすごいんだ・・・。渚は(四連投がこたえて)もう右腕があがらないっていうのに。
ところでこの時三太郎は「本当にまにあってよかった」、渚も「山田さんががんばれと・・・・・・ がんばれば必ず四連投は報われるって(言った)」と里中が帰ってくるのを知ってたかのような発言をしてます。すでに山田から母親の手術が無事終われば里中が帰ってくる話が皆に伝わってるのかと思いきや、一方で岩鬼は渚が里中の姿を見つけて「里中さん」と感激もあらわに呟いたとき「里中はいてへんのや」「まだいうとるか」と、里中が戻ってくるなど想像もしてないかのような反応をしている。実際に里中の姿見て仰天してたし。キャプテンの岩鬼には真っ先に里中帰還予定を伝えてそうなものなのに。
想像するに、連投の疲労とプレッシャーに潰れそうな渚を励ますために山田がこっそり渚にだけ話したものを、たまたま三太郎も聞いてしまった、とかそんなところでしょうか。しかし渚は背番号10をつけてるので、当然“渚に背番号1を渡さないのはもうすぐ里中が戻ってくるから”という理由が皆に行き渡ってる(はっきり言わなくても他に想像のしようがない)と思うんですが。

・「わりゃなんでかえってきたんや 男が一度やめたら死ぬまで帰ってくるな ほんまに変わっとらんな めだちたがりの性格は」と嬉しそうな顔も見せず文句をつける岩鬼。でも本当に気に入らないならもっとキツい言い方で怒鳴りつけているはず。あえて憎まれ口をきいてみせるのが岩鬼なりの最大限の嬉しさの表現なんでしょうね。そんな岩鬼の心の機微を、里中ときたら「山田はどこだ?」と完全無視してましたけども(笑)。

・↑のような里中の反応に、「山田ってなんやオイ まずキャプテンやろ 胸に飛びついてあいさつするのが一般常識やろが」と軽くジャブを入れた岩鬼は、「ただいまキャプテンあいたかった」と本当に里中に胸に飛びこまれて「ぎゃ〜〜あ」と悲鳴をあげる。自分で言っといてなあ(笑)。その後の「わいをなんや思ってけつかる」「もちろんキャプテンです」というやりとりもナイス。日頃呼び捨ての岩鬼を珍しく「キャプテン」と呼んでみたり丁寧語だったり、岩鬼の軽口そのままに飛びついてみたり。行動や表情の一つ一つに里中のいつにないはしゃぎっぷりが表れているのが微笑ましい。

・次の1ページ=4コマ使って、合宿所に走りこみ、廊下を走り、山田の部屋(里中の部屋でもある)の扉を開け、戸口で大きく手を広げる里中の姿を描く。その間ずーっと「山田〜」と叫びっぱなし。特に最後のコマのとろけそうな笑顔。この異様なまでの喜びっぷりは、山田との再会それ自体が嬉しいのはもちろん、山田のおかげでまた高校野球ができるようになったことへの喜びと感謝の思いが第一なのだと思います。

・そんな里中のテンションに対し、山田の方は「よお里中」とごく普通の反応。笑顔ではあるけれど戸口に背を向けて座ったまま作業の手を止めようともしない。何かえらく温度差があるな!・・・と思ったら里中の視線を介して山田の手元を見れば、なんと里中のユニフォームに背番号1を縫いつけてる最中だった。山田が里中の帰還を確信していたこと、そしてどれだけ里中を待ち望んでいたかが、この“背番号縫い付け”から伝わってくる。しかしエースの帰りを針仕事しながら待つなんて・・・まさに恋女房。

・感激して涙ぐみつつ最高の笑顔で山田の背中に飛びつく里中(針持ってるのに危ないよ!)。そして久々にユニフォームに袖を通した里中とその背中の背番号1を見つめる山田の姿。第一話は本当に全編里中復活のお祝いムードですね。

・準決勝で東郷を破った不知火のテレビでのコメント。「挑戦ってことばは面白くない なぜならおれは試合に負けても勝負には負けてない 明訓は運よくおれに勝っただけだ しかし今年は違う」「必ず勝つ!!絶対に負けない おれには負ける材料などひとつもない」。
爽やかで礼儀正しいのが信条みたいな高校球児の中にあって、年上のレポーターにこんな口を聞いてしまう不知火。確かに「試合に負けても勝負に負けてない」のは事実ですが。あげくに「甲子園出場なんてなんの魅力もない 勝っても甲子園切符はくれてやる あれは夏祭りだ!!」。甲子園出場校から顰蹙買いまくりそうなこの発言。それだけ不知火には自信もあり、今年こそはという自負心からあえて強気の発言を繰り返し自分を奮い立たせていたんでしょうね。
ところで不知火は決勝に里中が出てくると思ってたんでしょうか。ここまで出場してない、ベンチにも入ってない里中は、過去のケガの多さを考えても今度こそ出場不可能な大ケガをしてる可能性は高い。ですがきっと不知火は里中の復活を確信してたんじゃないかな。何度でも故障から立ち直ってくる里中の不屈の闘争心を、3年対戦し続けた不知火はよくよくわかっていたはずですから。

・不知火のコメントに見入っている里中に、山田は後ろから「行こうか里中」と笑顔で声をかけるが反応はない。その後も不知火の自信の根拠は「信念さ・・・・・・やることはやったという」とごまかそうとした山田の言葉を「もっとおれたちの想像もつかないなにかを不知火は持っている・・・・・・そんな目だぜ」と否定する。
山田が「頭は試合を遠ざかっている今もギラギラしている」「スゴイ直感だ さすがだなこいつ」と感心する通り、里中の戦闘的な勘の鋭さには驚きます。山田があえて不知火の迫力の裏にあるものに気づかないふりをしてる―おそらくはブランクのある自分のプレッシャーを減らすために―ことまでも察知している。この闘争心の塊みたいな人がつい数時間前までさわやかな笑顔でキャディの仕事したりお母さんの無事に涙したりしてたんですよねえ。

・里中と山田が合宿所を出ようとしたところにいきなり「ジャジャーン」という声が響きびっくりした顔で固まる里中、というコマでページが終わるので、何が起きたかと思いつつページをめくると、「お帰んなさ〜〜い里中ちゃん」と自転車から飛び降りざま飛びつくサチ子。サチ子が出てくると、『ドカベン』ワールドに帰ってきたなあという安心感があります。
「サ サッちゃん」とちょっとあわてつつも笑顔で抱きとめる里中。はずみで里中が少し後ろに仰け反るのを山田が後ろで支えるように両手を伸ばしてる、そのフォローぶりがなんか可愛いです。そういえば何気に自転車に乗るサチ子って初めてかも。

・決勝戦先発の座をかけて里中と岩鬼がマラソン勝負(ついでに山田も走る)。「いくらブランクがあるといっても里中の足はズバ抜けて速いからな」「そうですねキャプテンもNo.2ですけど・・・・・・まあ小差で里中さんでしょうね」なる会話が。里中が野球部きっての俊足という設定はここが初出ですが、何かにつけ走り込みしてる場面が多かったし、試合でも足で塁を稼いだりしてるので違和感はないです。
ただし俊足No.1が里中、2番が岩鬼というのはマラソン限定の話でしょうね。ベースランニングに関しては二年秋、太平監督就任早々に(足が短いにもかかわらず)その俊足ぶりで後輩を驚かせた殿馬や、なんといっても香車がいますから。やはり投手だけにスタミナが必要になる中距離〜長距離走の方が得手っぽいです。

・二人にだいぶ遅れてゴールインした山田が「それより里中はどうした?」と尋ねるとサチ子は「ゴール寸前で負けたわ ・・・・・・でもどっちも一等みたいなもんよ」と答える。山田の問いは里中がゴールの後どこにいったかという意味だったのに。里中が岩鬼に足で負けたことを信じたくない、里中のショックを思い懸命にフォローしようという気持ちがあればこその勘違い。サチ子の思いやり深さと里中への好意がさりげなく滲むワンシーンです。

・「さあ サチ子もうおそいから帰れ」「うん帰る・・・・・・お兄ちゃん里中ちゃん元気づけてよ」。この一連の場面でのサチ子はつくづくよく気のつくよい子だなあ。

・負けた悔しさからムチャな投げ込みをする里中。三太郎たちの前では余裕ぽく笑っていたのに。こういうところは一年のころから変わらないです。

・「山田見たろおれの足は想像以上に落ちているんだ 九回を投げきる足腰じゃなくなってるんだ・・・持たない」。青ざめつつ弱音を吐く里中ですが、結局フォームの崩れが直ったあとはスタミナ不足に悩まされつつもしっかり九回完投してました。甲子園準決勝の青田戦に至ってはケガをしながらも延長18回を投げきった。つくづく実戦に強い、体力より気力の男です。

・「じゃあ岩鬼なら持つというのか?体力は持っても技術でいいとこ三回だ おまえしかいない!!たとえ まに合おうがまに合うまいが・・・・・・」と里中に喝を入れる山田。そして岩鬼に「ふたりともいらないよ おまえ三人分食えよ」と里中の意向を聞きもせず勝手に夕食を断ってしまう。「飯なんて食べてるときじゃない・・・・・・いいか里中おまえは根っからの投手だ 投げ込めば必ず体が思い出してくれる とにかく徹夜してでも投げつづけるしかないんだ」「山田」。
復帰当日という点からも試合前日という点からも飯抜き徹夜練習は過酷としかいいようがないですが、山田はここぞの時ほど里中にキツすぎる要求を課すことが多い(高二春土佐丸戦でツキ指の里中に全力の球を投げさせるなど)。無茶な要求も里中ならきっと応えてくれる、無茶をバネに底力を発揮してくれるという強固な信頼あればこそです。里中一人に苦労させるのでなく山田自身も夕飯抜き徹夜練習に付き合う覚悟なわけですしね。

・夜10時すぎいまだ室内練習場にミットの音が響き渡るなか、それに気づいてるのかどうか岩鬼内心「決勝前夜キャプテンのわいは なにをすべきや・・・・・・ 熟睡すべきや」とあっさり横になる。隣で殿馬も「♪♪」と安らかな寝顔。この二人はこれで正解でしょう。

・次の回、いきなり岩鬼の大ホームラン(の夢)から始まる。不知火の心の声「負けた おそれいった おれとはケタが違う岩鬼はスゴイ」。この時点(不知火がこんな発言するもんか)でもう夢だとわかる。『まさに千両役者スーパースター 神奈川の星明訓の花』という実況の台詞にいたっては(笑)。『ノーヒットノーラン』うんぬんとも言ってるので投手として登板した設定なわけですね。とことん自画自賛の激しい男です。高一夏甲子園の時と違い今度は正夢にはならなかったですね。

・殿馬にバシバシ殴って起こされる岩鬼。夢のラストで殿馬が三コマ連続で岩鬼を殴ってるのが、それも三コマ目はなんと金属バットで、それでも岩鬼が「痛うない」と言いつつ涙ちょちょぎれてるのがナイスギャグです(しかし「痛いわけないやろ夢やないのやさけ」って逆でしょ岩鬼)。前回ラストではアンダーシャツ着てたのになぜか上半身裸にトランクス。暑くて脱いだのか。

・岩鬼が窓を開けると雨が降っている。窓側から見て向かって右の部屋の窓を里中があけて「山田雨だ これは中止だぞ山田」。さすがに練習場で完徹はしなかったか。山田は里中にユニフォームを投げて「残念だがやむよこの雨は さあ着がえろ」。
山田は内心「やはり昨日の練習では確証が持てないんだ 無理もないが休みを願っているようでは気持ちまで負けている」と厳しい顔。山田は里中が弱気な時ほど絶対甘い顔をしない。例外はこの夏の甲子園決勝戦前夜くらいですかね。

・雨の中打撃練習する岩鬼にネット裏の記者たち(カッパや傘着用)が中止を前提の言葉をかける。「だまれ新聞屋!!読みが甘いで!!少々の雨でも日程消化しか頭にないのが高野連やで 中止は100パーセントない さあ〜〜こい」。さりげなく高野連批判。二年次関東大会決勝戦朝の太平監督の訴えを思い出します。実際記者より岩鬼の読みのほうが正しかったですね。

・室内練習場での里中と山田。「だめなんだ投げていて気がつかんのか里中 楽するなよ」「楽なんかしてない」。フォームの違いに山田はここで初めて気が付いたらしいが、ゆうべはどうだったんだ。そして足上がってなくても当人も周りも気づかないようないい球がいってるならそれはそれでいいような気もするんですが。里中本来のフォームこそが「下手投げの宿命である腰や腕の負担を軽くしてきた」わけだから“楽な投げ方”はいずれ里中の体に障るという判断でしょうか。

・山田と里中の舌戦。「自分で気がつくまで投げつづけろ」「いえよでなきゃ試合にまに合わん」「試合まで気がつかないくらいなら投げたって負けるだけだ岩鬼のほうがまだいいよ」。人の良さそうな笑顔でひどいことをいってます山田。

・「どアホ中止にゃならんちゅうとるやろが おんどりゃ保土ヶ谷でやる思とんのと違うか」「あっ」「そやで決勝は横浜スタ〜〜ジアムやで 人工芝やで!!こないな雨で流れるわけあらへんわい!!」「そ そうか 横浜スタジアムか・・・・・・こいつはやれるかもしれん・・・・・・」。
記者連に「中止は100パーセントない」と言ったときといい、岩鬼の発言にちゃんと理論的裏づけがあることに驚きます。ここの会話は出来て何年もたってない横浜スタジアム(無印『ドカベン』では出てこなかった)に焦点をあてたネタですね。そして人工芝ゆえの問題点なども試合の中でクローズアップされてゆく。このへんは野球マンガの第一人者たる水島先生の面目躍如たるところ。

・山田の脳内想像による里中フォームの図解。おそらくは里中ファン全員の胸に深く刻まれているシーンです(笑)。「体は小さいが巨人といわれるゆえんだ・・・・・・まるで始動は上手投げ投手だ・・・・・・これが下手投げの宿命である腰や腕の負担を軽くしてきた 左足を十分に引き上げて右足にウエートをのせそれから腰を折り始める こういう体の使い方をずくと背筋がピーンと伸びてバックスイングが大きくとれる そして大きな胸の張りをつくり 腕がいっぱいに伸びたフォロースルーにつながっていくのだ」。
確かに里中の故障はいつも右腕限定で(それも二年秋以外はケガが契機となっている)、腰を痛めたことはない。しかし「巨人といわれるゆえんだ」ってこのフォームに変える前から、というか初登場時から「小さな巨人」を自ら名乗っていましたよ?
それにしてもこうしてコマ送り式に眺めると改めて里中のフォームは綺麗だなあと思います。特にバックスイングの部分(よく「ガバアア」と効果音の入る場面)にはいつも見とれてしまう。

・試合開始を30分遅らせて雨の様子見の間、控え室で山田はストレッチを行っている。身体をひねったポーズで笑顔でハアーと息を吐く、なんか艶っぽいストレッチです。岩鬼に突っ込ませてるので、ちょっと微エロなニュアンスを含んだシーンなんでしょう。
このストレッチ、里中も一緒にやっている(同じポーズ)のですが、息を吸って吐くシーンは山田しか出てこない。里中にやらせると読者サービスが行き過ぎるからか(笑)。まあ実は山田のほうが色っぽいのではないかという気もしますけどね。

 


(2011年11月11日up)

 

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