高三夏・りんご園農業戦

 

明訓の第二戦はまたも『大甲子園』オリジナルチーム。『大甲子園』の目玉というべき巨人学園や青田高校との対決はひとまず後に取っておこうということでしょう。
しかし初戦の室戸学習塾が「受験校のガリ勉少年たちが甲子園へ」「しかもあの土佐丸を破った」「監督が徳川さん」「主将は犬飼小次郎と武蔵の弟」と読者の興味を引くポイントが目白押しだったのに比べて、りんご園はどうもインパクトが弱い。そこでりんご園という高校の“キャラを立てる”ために用いられたのが、唯一明訓に土をつけた、いわば『ドカベン』最強のチームともいうべき弁慶高校をオーバーラップさせること。とりわけチームの屋台骨というべき星王は強打者、隻眼(目に傷跡あり)、超能力じみた力を持つカリスマという設定で、もろに弁慶高校の怪物・武蔵坊を彷彿とさせます。はっきり武蔵坊を踏襲したキャラだと書いてはないですが、りんご園が縁起をかついで弁慶と同じ浄妙寺を宿としているのが、りんご園と星王が弁慶・武蔵坊をモデルにしていることの証左と言っていいでしょう。

とはいえ、学校名が示す通りの農業高校、野球のかたわらリンゴ栽培に励む彼らはいかにも純朴な田舎の少年たちという雰囲気で(特に投手の中村)、山伏養成校だけに皆が(地元?から甲子園まで徒歩で行くような)妙に迫力ある佇まいを持っていた弁慶のような凄みは全然感じられない。星王単体で見ても、魚のようなまん丸目が一種キュートで、いかにも劇画調の線で描かれていた武蔵坊と同じマンガのキャラクターとは思えないほど。だいたい応援歌が「リンゴの唄」という時点でもう(笑)。弁慶のホラ貝(長老?が吹き鳴らしていた)は突飛さに思わず笑っちゃいそうになりつつも無気味な迫力を感じさせたものですが。

まあ弁慶そのままでは二番煎じになってしまうので、弁慶との相似はあくまで読者の興味を引くための方便(プラスあの里中がいくら球種を読まれたからってめった打ちされてしまうのは星王が武蔵坊なみにすごいからという理由づけ)だったんでしょうね。実際この試合は対弁慶戦の時のように位負けムードになることはなく、途中までは明訓には珍しい(無傷の里中が投げてるというのに)大量点差での負け戦だったにもかかわらず、絶望感の代わりにいかに負けを引っくり返すかの駆け引きがむしろのびのびと明るい雰囲気で描かれています。

その“明るさ”の根源はバント作戦に表れた太平監督の初めての?監督らしい采配と、まさかの逆転ホームラン&里中への精神的ケアなど男前度が加速し続ける岩鬼の言動でしょう。特に岩鬼は、少し後に起きた山田の逆指名事件でこれまた見事な男っぷりを見せてくれてます。


・青田対江川学院の試合中、練習してた明訓ナインは控え所に集合するよう言われる。練習場所の甲南高校通用口から彼らを導く誘導係の人は「ちょっと待った ギャルの様子を見る」。
ギャルって(笑)。きっと現実世界でも高校球児目当ての追っかけファン(女の子)がそれだけ問題になってたんでしょうね。特に明訓は学校自体もエースの里中も女性人気がすさまじいから・・・。
実際ギャルたちときたら、慣れてるだろう誘導係を見事出し抜いて、「よし 今なら大丈夫」と外へ出たとたん、影からわらわら出てきてウフフキヒヒヒと笑いながら「一枚撮らせて〜〜〜里中さん」「さわらせて〜〜」「里中さーん」などべたべたさわりまくる始末。「キヒヒヒ」ってどんな笑い方なんだ。
「タオルいただき〜〜」「さわらせて〜〜」「誘拐した〜〜い」。バッグ引っ張る右腕引っ張る靴脱がすの暴挙。里中が女性ファンに冷淡になるのも無理ないわ。里中の後ろで山田が弱々しく笑ってますが、助けてやれよ恋女房でしょ。

・りんご園の監督がプレゼントしたりんごを「リンゴに白いポスターカラーで必勝なんて書きよってからによ」と片手で握りつぶす岩鬼。怒って立ち上がる星王。
キャプテン祝(セカンド)がこのりんごの作り方を説明。するとつぶれたりんごを山田が床から拾い上げて「もったいないことを いただきます」と笑顔でムシャムシャたべる。(うわー・・・)その後、「わかったろキャプテンは本当に必勝リンゴを知らなかったんだごめんよ」とフォローする山田。捨て身のフォロー、山田らしい自己犠牲精神といいたいところですが、本当にもったいないだけだったんじゃないかという気もしてくる(笑)。

・1番星王にいきなりホームランをくらう里中。この先の(里中には珍しい)めった打ち展開を予告するかのような幸先の悪さ。山田と岩鬼の「暑さでトロ〜〜ンとしていたやさきだ 目をさますにはこれ以上ない!!早い回でよかったよ」「そやそやこれでこの裏わいが劇的同点ホーマーを打つ 最近やっと見せ場の造り方を覚えてきたやないけ」(里中の頭をグラブでバチと叩く)それぞれの性格を現したフォローがナイスです。
岩鬼のは里中の気持ちを引き立てようとしてるというより全くの本心だろうと思いますが、そんな彼の態度は自然と相手の緊張を解く効果がある気がします。おかげで里中も微苦笑といった表情であまり引きずらずにすんだようですし。

・りんご園ナインは縁起かついで弁慶高校と同じ浄妙寺に宿泊。後から遅れてやってきた星王、この時点では巨漢という以外顔は見せない。りんご事件の後で「どうだいほかのリンゴとはひと味違うだろっぺ」ではじめて(右目の潰れた)顔を見せる。
ものものしい登場と迫力に似合わぬ魚のようなまん丸の目が可愛らしいですが、そのアンバランスが逆に凄みを感じさせる面も。

・2番祝のファースト横抜ける長打をライト蛸田がセカンドに中継するも、殿馬、三太郎の連続暴投でまんまと一点入れられる。実況いわく『しかし笑顔を見せる里中くん 初回だけにまだ余裕があります』。
帰りのバスで甲子園中継を聞きながらの才蔵と球道の会話。「余裕なんてどうでしょう あるでしょうか?どうです球道くん同じ投手の心理としては」「そうですね まあ 私と里中では力が違いますからねえ〜〜」「といいますと」「まあ私なら笑顔も出ましょうがあのクラスの投手ですと やはり内心穏やかじゃないでしょうね ホームランはともかく2点目は あれはズシリと応えるはずだぜ なんたってチームでいちばん堅い守りの殿馬と三太郎のダブルエラーだからな」。
最初は才蔵の冗談口を受けてコミカルな口調だった球道が途中からいつもの喋り方に戻る、そのガラッと変わる部分で妙な迫力を醸し出しています。しかし軽口とはいえ里中ファン的にはちょっとムカつく発言だな(苦笑)。

・球種を読まれているために里中まさかの5連打めったうち。才蔵「おまえのいうとおり この程度の投手か 里中は」「あれは冗談だぜ」(球道も呆然と冷や汗)。この球道の反応に↑のムカつきはひとまず癒えました(笑)。タイプは違えど同じ投手でもあり、甲子園に五期連続出場、三回の優勝投手になっている里中の実力に一応は一目置いてるわけですね。
しかしいくら球種がわかるからといってこうも打たれるものですかね。球道みたいな剛球ではないながら、なまじな打者ではバントもおぼつかないのが里中の球のはずなんですが。あとで岩鬼との体操で調子取り戻した通り、やっぱり緊張で体がこわばってたのか?

・あらかじめ打球のくる方向に寄っていた星王が二番殿馬、三番里中の長打になるはずの球を連続で止める。山田「これが偶然か・・・・・・完全に飛んでくるところがわかっている感じだな」里中「それじゃまるで予知能力じゃないか」。
こういうところも打球のコースさえ捻じ曲げてしまった武蔵坊を彷彿とさせます。里中がめった打ちくらったのもつまるところ星王のパワーで球の威力を削がれてたということですかね?

・2回表先頭打者苫米地。山田はボールワンからフォーク投げさせる。苫米地はこれをジャストミート、1、2塁間まっぷたつのところをちょうどその場所に守っていた殿馬が止めて一塁カバーの里中に送球、らくらくアウトにする。これこそ殿馬の本領発揮という感じです。さらには握りを見られていることをバッテリーに指摘。試合の行方を左右するような重要なポイントを見抜いて状況を一気に打開する役回りはやはり殿馬だった。
気になるのは里中がさらっとフォークを投げていること。無印(一年夏東海戦、二年夏弁慶戦)を見るかぎりフォークは上手から投げてた(というか通常アンダーじゃ投げられない)はずですが、ここでは上手で投げてたらしい描写はない。すでにスカイフォークの片鱗が?

・2回表、再び星王の打席。片目見えない星王に見にくいはずのフォークボールを投げるものの、これを星王はホームランに。
ここで台風を予期して一人収穫作業を行い傷ついた星王のエピソードが回想の形で入り、肉体的強靭さ・自己犠牲的崇高な精神の両面においてその英雄性が強調されます。体を張って作物とそれによって支えられる皆の生活を守ったわけですから、野球の上でのヒーローよりある意味もっと格好よいかも。
かくてりんご園はついに5点目。実況『里中くん初めて見せるボウ然とした姿 歓喜にわくりんご園農高ベンチをにらみつけます その視線の先にはあのものすごいパワーを見せつけた笑顔の星王くんがいます』。
才蔵「なんという男だ 星王というやつは・・・・・・・・・」球道「技術じゃ通用せんな となるとあるかもしれんぜ 力の岩鬼のリリーフが」という会話のあとに、岩鬼がこわい顔で「サト」と呼びかけそのハッパが長く伸びる。球道たちの会話を受けて岩鬼リリーフの可能性を匂わせつつ次回へ。まあ実際のところこの流れで里中降板はまずないでしょうけど。なんか後味悪いし。

・『キャプテンの岩鬼くんが里中くんのところへ歩みよります・・・・・投手交代では・・・・・・・・』と実況はいうが、山田は内心で「岩鬼 その必要はない」。どれだけ打たれようが明訓の投手は里中以外にありえないという山田の思いが伝わってきます。
しかし才蔵と球道の「とうとう頭にきたか」「しかし交代したほうがいい このチームは力でグイグイ圧倒したほうがいい」という感想に反して岩鬼は里中の腕を引っ張ると、いきなり背中あわせに背負いあげる。思いがけぬ展開に「ああ〜〜」と叫んでる里中がなんか可愛いです。ぐいぐい引っ張られて目を回してるのも。
『な なんと里中くんを背中に乗っけて体操を始めました』。「おんどりゃ背筋がかとうなってガチガチや ほぐせほぐせ」「これであかんやったら今度こそわいがリリーフするで ええなサト」。
以前なら何かにつけマウンドに立ちたがる(サードに定着して長いのに、いまだ自分の本業はピッチャーだと思ってるふしがある)岩鬼のこと、この機に投手交代となっておかしくなかった局面。それだけに喝を入れたうえで迷わず続投させた岩鬼の判断に里中への固い信頼が感じられます。その甲斐あって「よーし任しとけ!!」と明るい笑顔で応じる里中。『大甲子園』全編通して屈指の名シーンの一つだと思います。

・里中は握りがわからないように投げることで2番祝を三振に。しかし岩鬼発言(「そやそれやがなその体の切れやがな いけるでもうなにも心配はいらんで」)からすれば、握りを見られてたせいばかりでなく、やはり球威自体にも問題はあったわけですね。
岩鬼の言葉もあって余裕を取り戻した里中は「もう打たせんぜりんご園よ!!」と威勢良く宣言する(その直前の投げ終わったフォームのまま調子乗ってる感じのコマがなんとも可愛い)が、「ええかっこすなァダレのおかげでリラックスできた〜〜思とんねん 自信はいいが過信はあかん」と岩鬼にツッコまれて笑顔のままちょっとこける。里中は力が下と思われる相手を舐めてかかる傾向があるので、この岩鬼の釘刺しは実に適切。岩鬼の成長ぶりが改めて目覚ましいです。
これまで岩鬼の言動は実況や観客にツッコまれることも多々あったのですが、今回はどちらも『しかし さすがチームのリーダー岩鬼くんです 苦投の里中くんをみごとリラックスさせて復活させました』、「おまえしかできんアイディアやで」「ああいうばかげた運動はさすがやで」とすっかり絶賛ムード。お客が言うように、確かにあれは岩鬼ならではの行動ですね。

・山田の打席を前に、りんご園はサード星王以外を皆極端にライト側に寄せたシフトをしく。球道「ヒットならいい・・・・・・・・しかし星王はそこから生まれるホームランをきらっているのさ 山田のヒットなら大量5点への勢いにはならんという星王の計算よ おれもホームランはいやだな・・・・・・特にこの山田に打たれるのはな・・・・・・ りんご園の応援団以外はみんな山田のホームランを見にきてる・・・おかしくなるんだよ 球場全体が・・・」。
無印終盤(二年次の関東大会以来)の山田のホームラン量産&人気ぶりはさすがにすさまじすぎたので、『大甲子園』では少し揺り戻してきた(りんご園戦直前のエピソードに顕著なように、人気―特に女子への―では里中の方が上という設定に戻った。これは『プロ野球編』へも継承されます)と思ってたんですが、この球道の台詞からするとやはり異常な山田人気は『大甲子園』でも継続してるようです。まあ本当にあんなバッターがいたら、このくらい騒がれるんでしょうねえ。

・星王は「山田はライトへ引っぱる」「山田は知っている ダレもいないところへヒットするなどため息が出ても追い上げる気勢にはならないことを」と考える。青田勢の意見は、才蔵「アウトを覚悟で引っぱるかどっちだと思う」球道「引っぱりたいという個人的な気持ちはあるだろうがしかしここが山田の違うところだ 5点差を考えおのれの意地を捨ててまず塁に出ることを考えるな それには引っぱりはアウトの確率が高すぎる・・・となればレフト方向へ流し打つぜ」シゲ監督「わしも同感だ」とヒット狙いで一致。星王内心「山田はこのシフトをしいたことによって引っぱる気になった・・・シフトのえじきになる!!」
『ドカベン』ワールドではたいてい複数の解説役の見解が真っ二つに割れて、どちらに転ぶか(この人の読みなら必ず当たる、というのがないだけに)ハラハラ感を煽り時にはミスリードもしてくれるのですが、ここではさらに、ダントツ「大事なことを忘れているぜ 流してもホームランなら別よ」新太郎以下「あっ」ダントツ「そのうえ攻めるコースは外とわかりきっているんだぜ 山田にはその力はある」と第三の見解が登場。しかもそのうえに里中が「外角しかない コースがわかっていりゃ〜〜踏み込んでレフトスタンドだ」とダントツと同じ意見を披露したそばから、岩鬼が否定(「アホ ヒットでええわい ランナーためるんが先や」)するという、二重三重の仕掛けがなされています。結局シフト突破の当たりで三塁打になりました。
三塁ベース上で口に手をあて「うわ ぷう」と苦しげな山田。場内山田コール。星王内心「こ これだこの騒ぎがいやでシフトをしいて流し打ちを誘ったのに・・・・・・・・・ 山田はそのシフトに敢然と向かいすごい当たりで突破してしまった・・・・・・すごい男だ」。
結局星王の予測が一番近かったわけですが、一つ違ってたのはシフトに挑んだ山田を止められるはずだったのがシフトを破られてしまったこと。ここで星王を戦慄させた――山田が星王よりさらに上だと感じさせたことがシフトを突破した最大の効果だったかもしれません。

・動揺でコントロールが乱れる中村。監督はタイムをかけて星王と交代させるが星王はいきなり暴投、山田はらくらくホームイン。監督はまたすぐに中村と交代させようとするが、審判に「ちょっと待て リリーフに出たらば打者一人は完了しなきゃ交代はできんのだぞ 無知」と叱られる(「無知」ってそんなストレートな)。
山田「ということは星王はリリーフの秘密兵器じゃないな でなけりゃこのルールは知ってるはず」岩鬼「アホか投手やなかったら なんのためのリリーフじゃい」「暴投を投げるためのリリーフだよ」「わりゃわいをおちょくっとんのか なんでわざと暴投投げなあかんのや」「ピンチを広げないためだ」「アホか 1点取られてよけい広がったやないけ なに考えとんねん」「ああカッカした中村を続投させていたら1点じゃすまない しかしノーアウト三塁ならどうしたって1点は覚悟のケースだろ 監督は1点を捨てても中村が冷静になることが大事と考えたと思うな つまり中村以外投手はいないということさ」里中「確かに投手としたら三塁打を打たれた自分の責任は半分になる だれの目にも星王の暴投へ責任が半分はいくもんな」「逆や!続投してりゃオレはおさえたと中村は今頭にきとるわい」里中「ところがそうじゃない 見ろよ中村を」(中略)山田「スクイズしたって外野フライだってノーアウト三塁なら まず うちなら1点は取れる カッカしてる中村からそのわずらわしさを開放してやった」里中「そして暴投して恥を星王一人がかぶったわけか」高代「すごい作戦だな」山田「ところが計算外がひとつあった 1球だけで交代できると思ったことだ 投手経験のない星王は三太郎だけは投げなきゃだめだ」里中「そこを三太郎がつけ込んでランナーに出たら」高代「そうですよチャンスが広がります 交代はヤブヘビになりますよ」。
この作戦には正直感心してしまった。中村の精神状態を第一に考え「どうしたって1点は覚悟のケース」だと冷静に損得計算をしたのはわかりますが、単に星王と交代させる(一番辛い局面を星王にかぶってもらう)のでなく、暴投で一点献上するよう指示を出すその思い切りのよさ。ダメモトで星王が抑える可能性を残しておきたい場面でしょうに。打者一人完了しないと交代できないことを知らなかった程度の素人ぽい監督だけにかえって凄みを感じます。

・三太郎は甘いストレートを三塁線へ引っ張り、ぎりぎり入るはずのところを三塁中村がダイレクトキャッチ。左ききゆえのファインプレー。普通左ききをサードにはもってこない常道を無視した配置がプラスに働いた。
交代し立ち直った中村に下位打線はフライ上げさせられてあっさり攻守交代。山田内心「崩れかかった中村が立ち直ってしまった・・・・・・大変になってきたな4点差。(中略)・・・・・・となると相手の調子よりは里中のほうだ 里中にあせりがでなきゃいいけど・・・・・・」。意外にメンタル面で山田に信用ないです里中。そんな山田の不安をよそに里中は冷静に三者凡退、山田を感心させるわけですが。

・星王、里中の握り(テイクバックにはいったときの)を見るために一塁コーチャースポックスに入る。しかし里中はわざと握りを見せながら投げてトリックにかける。『ああ〜〜三塁のファールフライだ 岩鬼くんグラブを構える だあ〜〜す 素手でとった〜〜』。この岩鬼のプレイにりんご園の打者と三塁コーチがこける。
星王を出し抜くクールな人の悪さを見せた里中、あえて素手でボールをキャッチするふざけたプレーでりんご園を呑んでかかった岩鬼。中村のファインプレーでりんご園の勝ちムードになった空気をたちまちに明訓よりに引き戻しています。

・里中あせらず三者凡退へ。山田内心「さすが里中だ あせりなど少しもない」。ついさっき「あせりがでなきゃいいけど」なんて考えてたくせに。まあそれだけに、里中の冷静さが嬉しかったんでしょうね。

・ダントツ「よくなってきたな里中 星王も勢いをつけようとコーチに出たんだろうが逆に里中を燃えさせちまった」(中略)荒木「すばらしい山田のリードだ」。ここで山田のほうを褒めるのか。里中はだいぶ荒木びいきですが、逆はそうでもないみたいです。

・中村のど真ん中を岩鬼がキーンの打撃音で普通にホームラン。中村星王のみならず味方の山田里中まで青ざめる『はいったはいった〜〜レフトスタンド中段へ弾丸ホームランだ〜〜 しかし しかし中村くんの投げたタマはけっして悪くはありませんでした なぜなら どまん中です』。岩鬼にかぎってはその通りなんですが、もってまわった大げさな表現のせいもあって笑いを誘われてしまいます。実際バットをサッと投げて走り出す岩鬼を尻目に明訓ナイン&監督がこけてますし。
ここで殿馬が「悪球打ちの岩鬼にとってはどまん中は悪球」という謎の理論を提唱。ならなぜ今まで打てなかったかという後輩たちの疑問には「もともとわからんのがあいつのよバッチングづらよ」。なんと適当な答え。ようするに原因不明なわけだ。

・打って塁を回った岩鬼、そのまま逆戻りして目黒と交代して三塁コーチャースボックスに。『なるほど 今の一打の勢いに続けといわんばかりに主将自らコーチとなってゲキを飛ばそうということでしょう』。その頃宿舎では、球道「しかしかっこつける男だな岩鬼ってやつは」才蔵「いや あれでけっこうムードメーカーになってるんだぜ」荒木「打たれたバッターにコーチに立たれると球種を読まれるようで いやなもんだよピッチャーは」ダントツ「それにしてもジワジワくるなァ ・・・・・・さすが明訓だぜ ツーアウトだが意外とこの回はヤマになるような予感がするな」と岩鬼の言動についてあれこれ言っている。
ダントツの予感どおり再び調子を崩した中村は殿馬に初球をセンター前ヒット、里中にも初球を1,2塁間へ狙われ二死1、2塁。そこで山田登場。大歓声に押し潰され中村は膝をつく。中村がビビリなのも確かですが、恐れ知らずの球道でさえ嫌がった異様な山田人気の波動をもろ食らったわけですからね。本来一番押し潰されそうなのは甲子園球場中の期待を一心に受けている山田なんでしょうが、山田がプレッシャーで固くなる場面はほとんどと言っていいほど出てこない(一年秋に畑違いのピッチャーをやらされた時くらい?)。だからこそ大打者たりうるんでしょうね。

・再び星王リリーフ。あっと驚く剛速球に山田もバット落としてピーゴロを避ける。先にリリーフした際、急造ピッチャーでろくな球が投げられないと思われてた(ミスリードした)だけに、なお迫力を感じます。

・三球目もまっすぐの星王。球道「しかしみっつ続けちゃ山田には通用しない」。球道の予測どおり山田は見事なピッチャー返しを打つも星王右手(素手)でキャッチ。スリーアウトチェンジに。
このファインプレーに星王コールがおこる。しかし里中も三者三振に。勝ちムードがりんご園に行ったり明訓に来たり。

・4回裏(結構濃い試合だけにまだ4回裏というのに驚きます)、開始前に太平監督が皆(トップ打者の三太郎までも)を集めてバント作戦を授ける。試合進行スピードアップのためトップは急げという審判に「そういうわけにはいかんだや 作戦はトップ打者がいちばん大事だべや でねえと つながらんだべや ここは肝心かなめの場面だべや 5分くらいの時間はくれっぺだや せかされて作戦を中途半ぱにして悔いは残しとうないだべ そうじゃろ審判さん」 審判内心「うう・・・・・・・・あれが今までの太平か」。
やっぱり素人監督と思って舐められてたんですね。やる時はやる、言うことははっきり言うのが太平さんです。

・太平監督のバント作戦について、里中と殿馬は「しかし三太郎がスリーバントを決めるとはなァ」(三太郎はバントが下手って意味?)「けどづらよ 考えてみりゃ気楽なもんづらこの回捨てていいといわれてるづらによ」と語り合う。一塁ベース上でピースしてみせる三太郎。
さらに太平監督いわく「そんだからといってまたヒットしよーなんて色気を出したらあかんべや この回の目標はあくまでもいかにして星王を動かすかだべや」。野球オンチでもっぱら岩鬼に采配を丸投げしてきた印象の強い太平監督が一点見事な作戦を見せる。このりんご園戦が太平監督が一番活躍した試合かもしれません。

・上下はヒッティングかバントかで星王惑わせたあげくスリーバント。ピッチャー真正面のバントだけにキャッチャー指示で星王二塁へ送球。しかし送球が低くセカンドがはじいたため1、2塁オールセーフ。山田「本当に気楽な分だけうまくいってるし相手はウロウロしてくれてるな」里中「気楽か むっ 山田それがねらいだ」「えっ」「つまり太平監督にはこの回捨てる気などは最初っからないんじゃないか?」「どういうことだ」。ベンチ奥でリンゴの唄をうたう太平監督。里中「メンタルな野球にいちばん大事なものはなんだら」「リラックスつまり平常心と思い切りだろ」「それがあるんだよこの作戦には この回捨てるということで 打者にはリラックスが生まれる・・・・・・そして打者はバントだけに徹すればいいという思い切りがあるだろ それが相手の思わくの裏をつき うまくいくとこうなる・・・・・・」「そこまで太平さんが考えているかな?」(山田笑顔で耳打ちするような仕草。失礼な)「といえるだろう あれを見れば」「え?」太平「いかんな星王 そのあまさにひかれてつい 食っちまう」(必勝リンゴをむく太平監督)。
山田たちに次ぐ理論派でありつつも感情的な性格のためそう見えにくい里中が山田を理論と観察力で圧倒しているのが新鮮。というより明訓でも殿馬と並んでもっとも読みが深い山田が太平監督の狙い(里中がそう主張してるだけで真実そうかは不明ですが)にまるで鈍感なのが意外です。「そこまで太平さんが考えているかな?」発言に見えるように内心太平を舐めてかかってるからか。

・蛸田がここは送りバントとの予想を覆してヒッティング、と見せてやはりスリーバント。三塁間に合わず、一塁アウトでワンアウト2、3塁。さらに高代がスクイズをやると見せてウエストさせてフォアボールに。1死満塁。渚初球スクイズ失敗。ピッチャー前小フライで渚アウトも三太郎は三塁に戻る。
渚のスクイズは失敗したものの下位打線、後輩たちがそれぞれに工夫して地道に貢献しているのが何だか嬉しいです。この試合に先立って後輩たちが先輩に追いつき追い越すことを目標に懸命に練習する光景を見ているだけに。
思うに彼らと五人衆の間を隔てているのは実力・才能の差だけでなく、プレッシャーへの強さ・度胸の程度も大きかったんじゃないか。五人衆、とくに山田・岩鬼・殿馬がアガッて実力を発揮できなかった場面など皆無に等しい。彼らほどの試合度胸のない普通人(それだけ性格がいいとも言える。目上を目上とも思わない五人衆、とくに四天王のふてぶてしさときたら)な後輩たちにこそ、太平のバント作戦が産むリラックス効果が大きかったことが、一連のプレーの目覚ましさに表れてるのでは。

・二死満塁で岩鬼。太平も岩鬼にはバントを指示せず好きに打たせる。里中「もしかしてこの場面を初めから読んでいてのバント作戦だったのかな・・・・・・つまりバントで疲れさせて岩鬼に悪球を投げさせるという・・・・・・」山田「まさか・・・・・・・・」。あいかわらず山田は監督を舐めすぎです。

・星王力みすぎたか低めの球。岩鬼ピッチャーライナー、星王の股間抜けてセンター前ヒットと思いきやグングン伸びてセンターの頭上をこえバックスクリーンに入る。そんなバカなー、と思いつつも岩鬼だと思うと何か納得できてしまうような。後の青田再試合といい、岩鬼がだんだん神がかってきてます。

・岩鬼の逆転満塁超特大ホームランに呆然の星王と監督。審判も愕然。そしてライバルたちそれぞれの反応を紹介。球道「化けもんだ」。ダントツ「すごい・・・・・・・・・」。京都観光中の一球さん「あれが金閣寺だよ」。オチのつけ方に爆笑。このセンスいいなあ。

・里中「監督 岩鬼のやつやりましたよ 監督の計算どおりに悪球を」「計算外だや わ わしは数学の教師だぞ ここまでばかげた計算はせん」(ベンチでこける太平)。「えっ」「や・・・・・・や 野球は筋書きのないドラマだ こ これが計算できりゃ〜〜ノーベル賞だや」。
太平の反応からすれば里中の一連の太平評価はやや過大だったらしい。「わしはこの回星王を疲れさせるだけの計算だった」。こんな結果じゃ星王が気の毒だ、「青春とはかくもきびしいものなのか」と考えたあとで「おっさんの期待にこたえましたで」と元気に声かける岩鬼の姿に「はたまたかくもたやすいものなのか」とコケる。たしかに『ドカベン』シリーズは四天王にとっては「かくもたやすい」展開多いですからね(笑)。

・ショックの星王に駆け寄り励ますナイン。審判内心「この試合 少し時間がかかりすぎているがここは時間をとってやるべきだ 少年にはあまりにもショックな場面だった」。さりげなく審判の配慮も書かれている。先に進行を早くするよう促して太平に反論された審判だけに、よりこの場面での優しさが沁みる。水島野球マンガの審判は(大熊谷のような例外を除けば)厳しい人も温情を見せる人もそれぞれ魅力的です。

・さらに殿馬がセーフティバント。里中も同じく。ランナー1、2塁で山田。剛速球で一球目は見送りするも2球目を大ホームラン。何かりんご園が気の毒になるほどのたたみかけ展開です。めった打ちだもんなあ。

・5回表、星王の打席。あわやホームランの大ファールが2つ連続。普通はヒヤっとする場面ですが、殿馬内心「なーるほどうめえづらぜこのバッテリー あそこはどんなに大きなあたりをされてもファールづらぜよ」。しっかり見切っているあたりがさすがに殿馬の眼力。
里中内心「これでストライクをふたつとれた・・・・・・さて次は・・・・・・ えっ 同じタマをもう一球だと・・・・・・それはやばいぜ山田 それを抜いて投げるのかチェンジアップだな よし」。まんまと星王三振。まだ5回表とはいえすでに勝負あったという感じです。実際その後は両者ともに無得点で明訓の勝利となります。

・山田たちが勝利を喜び合う一方で、神奈川では山田逆指名騒動が持ち上がっていた。大家のムリにふたつ返事で承知した山田祖父に長屋の住人たちは「山田さん それはいかんいかんよ」「た 確かに太郎ちゃんはイヤだとはいわん子だ」「それだけにあのやさしい太郎ちゃんを犠牲にはできないよ」「口にこそ出さんが太郎ちゃんには太郎ちゃんの進みたい理想の道があるはずだ」「一生を左右する大事なときにわしらのために犠牲だなんて・・・・・・・・・」「逆指名をすれば世間から白い目で見られるよ」「わしらの自慢と誇りの あんないい子をさらしもんにはできない」と口々に山田をかばう。
家を追いたてくらうかどうかの瀬戸際なのに誰も私欲に走る人間はなく、山田の立場を思いやってくれる。それだけ山田の日頃の心がけがいいのはもちろんですが、それにしても皆いい人たちばかり。そんな長屋の人々のために山田祖父は「なあ みんな わしらはダレかがこまったときにはみんなで助け合ってきた それがバラバラになることはダレよりも太郎が反対するよ だからここは黙ってわしのいうとおりにしてくれ」と本人に無断で山田の将来を決めてしまう。あんまりな話ではありますが、台詞通り長屋の人々を救うことこそを山田も望むはずとの確信があればこそですね。

・山田の部屋を見つめるじっちゃん。壁には早稲田の三角プレート(というのか?)。高校中退してプロに入れとまで誘われてる山田が早稲田進学を望んでたらしいのが意外。『プロ野球編』の当初、里中が早稲田に行くつもりだったことを考えあわせれば、また早稲田でバッテリー組めたらいいなみたいな話を日頃からしていたのかも。もっとも家が貧しい山田は中卒で畳屋を継ぐつもりだったくらいで、本気で大学に行く気だったとは思えない。叶わぬ夢と知りつつせめてプレートを貼っていたのかも、と想像すると何とも切ないです。

・光対阿波北高の試合を一番前の席で(テレビに映るために)観戦する岩鬼。逆指名の話を聞き込んた記者が取材のため岩鬼に近寄るのをテレビ観戦中の明訓ナインは目撃。「おい岩鬼のとなりにすわった男だれだ?」「知り合いかな」とか皆気にはなってる様子。岩鬼は記者をケムに撒きつつ、山田に聞いて協力するというのをエサにニュースソースを逆に聞き出す。岩鬼にこんな腹芸が!さすが常勝明訓のキャプテンともなると違うなあ。

・記者が去ったあと、「そ そんなアホなことがあるか そんなことをあの山田のじっちゃんがいうかい」。中学からじっちゃんを知っているだけに、その廉直な人柄に岩鬼なりに信頼を寄せているのがこの台詞から感じられます。(p175)この直後に岩鬼はアイス売りの少年と出会いアイス10個買ってやる。どれだけ岩鬼は男前になっていくのだろうか。

・夜、岩鬼は庭先で山田にそっと逆指名の件を話す。沈痛な雰囲気で「わいが恐れるんはじっちゃんの発言にある裏や つまりじっちゃんがロッテからいくらか銭をもろうとるんやないかちゅうこっちゃ・・・ 疑いとうはない・・・・・・けどそうでなきゃ今ごろからなんで逆指名を打ち上げなあかんのや そやろ山田」。
じっちゃんの人間性を信じたいが蓋然性を思えばこう結論するしかない。そんな冷静な判断力と辛い話を口にするに当たっての山田の気持ちへの配慮・・・なんか大人の男です。自分が話してる最中に山田がいつの間にか無断で中座して電話(じっちゃんに事情を聞いている)してても「どうやら本当らしいな」と咎めもせず「どうも長屋がからんでるようやな」とずばりの状況判断。本当にこのエピソードの岩鬼は頼りになる。そんな岩鬼を山田も心から信頼しているのが「うん おまえには詳しいことを知っておいてもらおう」という台詞からうかがえます。
里中にも話さないこと(翌朝ホテル周辺に群がる記者たちを見た里中の「今日はやたら新聞記者が多いな」「いつもの取材陣と数が違う・・・・・・なにかあったのかな」という反応からして何も聞かされてないのは明白)を「おまえには」語る。岩鬼はキャプテンなんだからメンバー一人一人の事情も把握しておくべきだ、という思いもあるのでしょうが、やはり山田が対等の立場で男として認め信を置くのは第一に岩鬼なんでしょうね。里中については、彼との関係は対等の友情というより保護者−被保護者なので、「守ってやるべき存在」である里中に相談を持ちかけるという発想自体がないんじゃないかという気がします。

・翌日日日スポーツのスクープ記事で逆指名の件を知った後輩たちがざわめく。渚は彼らしいストレートさで「それ山田さんおじいさんがロッテを逆指名したって本当ですか」とズバリ尋ねる。「本当だ」と山田もあっさり回答。渚も山田とバッテリー組んだこともあるだけに山田に対しては無条件の信頼感があり、本人の物怖じしない性格もあって、こそこそ噂せずに本人にストレートに確かめる、という手段に出たものでしょう。山田もそのへんの機微を承知しているから気楽な笑顔で返答できるんだろうし。監督も「山田だからニュースになるだけのことや」とあっさり。チームの皆が誰も山田に非難の目を向けないのが救いです。山田のチームへの貢献度を思えば大事にされて当然とはいえ、やはり人徳ですね。
ところで部員たちがこの記事を話題にしてるところへ山田と一緒に入ってきた(少し前に山田が「さあ里中でかけるぞ」と言ってたことと里中が首にタオルをかけてることからすると二人でロードワークに行ってた?)里中は渚が山田に逆指名について質問するのを聞いても特に反応せず、軽く「ごめんよ」と声をかけて岩鬼の椅子のひじかけ?に強引に座り込む(押された格好の岩鬼が「こら」と言ってるのがちょっと可愛い)。つまりはすでに逆指名の件について知ってたということ。記者たちが集まってる理由を知らないまま出かけて今戻ってきたばかりの里中はまだ新聞を見てなかったろうから、外に出たさいに記者たちが逆指名の件を噂してるのを耳にしてたんじゃないでしょうか。
初めて逆指名の話を記者から聞かされたときの岩鬼だって驚きショックを受けてたくらいで、あの里中が平然としていられるわけがない。ここでことさら岩鬼の椅子に割って座ったのは彼が内心の動揺を隠して懸命に普通らしく(ちょっとふざけて)振る舞おうとしている表れのように思えます。
その後チーム全体で練習のためホテルを出たところで記者がたかってきた時も悠然と逆指名を認めた山田をちょっと驚いたように呼び止めた程度で反応が薄い――反応の薄さがわざわざ描かれてるのは、逆説的に里中がそれだけ動揺し、かつ何とか事態を冷静に受け止めようと努めてるのを示すためだったんじゃないでしょうか。

・練習のため宿を出たところで山田に群がってきた記者に向かって岩鬼が「なにがまさかや わいかて逆指名したろ 阪神タイガース以外やったらプロにはいかん大学進学やで」と堂々宣言してみせることで、山田逆指名のインパクトを減らそうと配慮してるその心遣いにシビれます。効果はあがってないようですけれど。「それはいいそれはいい」「がんばんなはれ」「こらあなんでわいの逆指名は取り上げんのじゃい」「またの機会に」なんて記者とのやりとりも面白い。

・練習のさいグラウンド網外に野次馬がおしかける。バッティング練習を終えて里中の球を受けようとする山田に「おいこら山田おまえだけはフェアな男や思っとったがわりかしきたねえな」「逆指名なんぞ男らしくないぞえらそーにすな」「おんどれらどこのグラウンドで練習させてもらっとる思とんのや」「ここはロッテの敵の阪急の練習グラウンドやで」「帰れ帰れ」。長屋の人たちが危惧したとおり、逆指名に対してモロに反感を示す人はやはり少なくなかった。
このとき里中が「ちゃんと金を払って借りてんだぜ文句なかろう」と余裕の笑顔で山田をかばい、「山田 おんどりゃロッテからなんぼ裏金もろたんじゃい」なんて暴言には一瞬「このやろういいかげんにしろ」と激昂しかけたものの「里中よせ」と山田に止められるとすぐ平静さを取り戻し、「山田 ピッチングやめだ こんなうるさい連中の横でピッチングなんてできないぜ」と笑顔で軽く走って遠ざかりつつ「山田気にするな」「肩を休めるのも練習のうちさ」とグラブの左手で背中を軽く触れて励ます。
里中は明るく振舞いつつも内心で「しかしこれからなにかにつけて逆指名のことをいわれるな それで変に調子を崩さなきゃいいが・・・・・・」と山田を気遣う。逆指名のことが知れた当初は動揺の形跡が見てとれた里中ですが、早くも気持ちのバランスを取り戻している。バッテリーを組んでる自分に何も打ち明けてくれなかったことに怒ったり落ち込んだりしててもおかしくない状況なのに。一連の言動を見るに、山田が思ってるより里中は大人なんじゃないかなと感じます。

・結局高野連からちょっと電話で戒告されただけで終了。岩鬼は庭で空眺めつつ「よっしゃすっきりしたところでさあ〜〜こい 真田一球 おまえらにとって巨人学園の校名が命取りになるんや なぜならわいは巨人がいちばんきらいなチームやさかいな」。その巨人にプロ編で指名されて普通に喜んでましたが岩鬼。まああれは監督が長嶋さんだからですね。


(2012年2月18日up)

 

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