高三夏・室戸学習塾戦(前編)

 

甲子園大会第一試合の相手は大の進学校、野球部員もそろって野球を始めたばかりという変わり種。『ドカベン』には他のスポーツ・武道から野球に転向して早々に頭角を現しているキャラは少なくないですが(柔道からの転向組三人や弁慶高校、紫義塾の面々など)、本来肉体派でない連中ばかりで甲子園までやってきた例はこの室戸くらいでは。

そしてこのチームをほとんど一人で支えているのが主将の犬飼知三郎。その姓が示す通り土佐丸の犬飼兄弟の末弟にあたる彼は、どちらもワイルド系(方向性は全く違うけれど)だった兄たちと異なり、いかにも青白い秀才タイプ。しかし人を食った怖い者知らずの性格と、口先ばかりの男ではないことを如実に示す奇妙な迫力――さすがにあの徳川監督を野球の技術一切関係なしにその気にさせただけあります。

そう、さすがはオールスター企画の『大甲子園』だけあって、徳川監督もまたまた打倒明訓をかかげて登場します。思えば明訓監督をしりぞいてから一ヶ月と経たずクリーンハイスクールの監督として再登場して以来、大会のたびに徳川監督は明訓の前に立ちふさがってきた(唯一の例外は高二夏ですが、この時期にはすでに東郷学園の監督に就任してたんでしょう。地区予選の期間中に小林真司が帰国してることからいっても)。高二秋秋季大会・関東大会では結局明訓と戦うことは叶わなかったので、明訓とは高二春の信濃川高校時代以来の対決となります。しかし信濃川の時ほど徳川の采配が前面に出ることはなく、あくまで知三郎を中心に試合は進んでいく。

対角線投法、マウンテンボール、さらには「ゼロの神話」なるジンクスまでをも武器に明訓と対等以上に戦い、山田・殿馬というもっとも怖いバッター二人をほぼ完全に押さえてのけた知三郎には、野球を始めたばかり、しかも本来スポーツマンでさえないのが明らかにされてるだけに“この強さは反則だろ”という気分がつきまといますが、チート気味の彼の存在がこの試合を面白いものにしていたのも事実。おそらくすでに明訓のライバルチームとしてはネタが尽きてしまった土佐丸(新キャラ加入でチーム力をアップさせる手は犬神で使ってしまったしプロ入りした小次郎も監督を離れたし)に代わる敵として、土佐丸に縁の深い、けれど正反対の魅力を持ったチームということで室戸学習塾と知三郎のキャラが考案されたのだと思います。『大甲子園』のウリは水島高校野球マンガの主人公同士の対決なので、『大甲子園』オリジナルチームの室戸との試合はいわば物語としては前哨戦のようなものですが、そのぶん自由に描きやすかったのか、高三夏の大会の中でも屈指の名試合となっています。


・開会式後グラウンド整備中に第一試合の室戸はジャンケンで打順を決める。徳川監督が率いているというのに(だからこそ?)この適当さ。たしかに知三郎以外はみな実力は横並びっぽいので、これでいいのかもしれませんが。

・岩鬼は高代の背番号が剥がれかけているのに気づく。そこで山田が「高代ぬげよ 縫ってやる」。
山田は先輩なんだから口先だけでも遠慮しそうな場面なのに、高代は当然のように縫ってもらっている。周りも誰も疑問に思ってない様子。案外一年の時同様普段から雑用どんどん引き受けてるのか山田。

・廊下が薄暗くてなかなか針に糸が通らないのを、知三郎が山田に代わってさっと通してみせる。知三郎の目のよさを示すのに面白いエピソードの作り方。しかし「やってあげますから」という知三郎を、里中が普通な笑顔で「けっこうだね」とあっさり拒絶してるのはなんなのか。岩鬼が「裁縫の天才山田」と山田を誉めているのも(分野が裁縫とはいえ)意外。

・室戸ノック開始。山田内心「さあいったい徳川さんこの室戸ではどんな野球を教えてきたんだろう・・・・・・楽しみだな」。どんなときでも野球をまずは楽しむのが山田のスタンスなんでしょうね。山田という男の奥深さをさらりと感じさせる台詞です。

・甲子園と球之進があてヒモなしで真っ直ぐラインを引く勝負。スピード・完成度とも甲子園がわずかにしのぐ。「くそったれわしの伝説が崩れてしもた」「残念やったなじっちゃん下ばっかり見て引いてるからそうなるんやろ(あははははとさわやかに笑う甲子園)」「どアホ下を見んでどない引くかいや」「ポールから目を離さんで引くのや もっともこの芸当はコントロールに自信がなきゃでけへんこっちゃけどな」。
二人のやりとりを聞いて知三郎は内心「すばらしい目とコントロールしているな」と感じる。先の針のエピソードといい、「目のよさ」がこの試合のキーワードの一つになっている様子。
山田も内心「ポールを見て引く・・・・・・か なにをやってもやはり並はずれた人だ 藤村甲子園という人は」と感じています。

・「へいカモーン レッツゴー」『両校の選手が元気よく飛び出しました』。知三郎「さあいこーぜ」。ベンチから駆け出すナインたちを捕らえた画面が、爽やかさとついに試合が始まるというワクワク感を醸し出します。三太郎は当然としても山田と殿馬も笑顔で余裕を感じさせる。室戸は知三郎以下コマに写ってる四人中三人がメガネなのが、さすが進学校という趣き。

・『そして いよいよ岩上文部大臣による始球式が行われます』。(中略)「わしとて五十年前の大会の優勝投手じゃ まっ向勝負じゃ」。これ本当の話なんでしょうか。妙にリアリティがあるような。

・岩鬼、山なりのストライクを空振り。里中「いくら悪球打ちといっても あのくらい おそいタマならストライクでも打てなきゃ」山田「だけどお客さんはわざと空振りしてやったと思ってるぞ」殿馬「ダレだってよォ思うぜよ あんなタマの空振りはよ」。
空振りするのが普通なのに明訓の誰もわざとだと思わないどころか、岩鬼なら本気で打ちにいって当たり前と思ってるのが(笑)。里中など「打てなきゃ」ってもはや普通の打席扱いのコメントです。

・知三郎のワンバウンドのタマを岩鬼空振り。「確かに絶好球でしたよね ワンバウンドした時点ではですよ・・・・・・ しかしです ワンパウンドしてからはどまん中のストライクですから 岩鬼打法には絶好球じゃないというこってすよ」。岩鬼「ぬな」里中「あっ た 確かに一理ある」。
岩鬼の悪球打ちに関してはしばしば新しい定義が登場して、なかには屁理屈めいた物も多いんですがこれもその一つ(一番は殿馬が口にした“岩鬼にとって(通常の意味での)絶好球は悪球、ということは悪球打ちの岩鬼にとっては絶好球”というハイパーな詭弁でしょうか)。
まあ知三郎の場合、この後殿馬の「秘打チゴイネルワイゼン」にケチをつけたのに表れてるように優秀な頭脳を駆使して明訓ナインを煙に巻くことたびたびなので、知三郎らしい言い草だなあと納得できますが。

・殿馬はあえて左打席に入って「秘打チゴイネルワイゼン」を打つ。しかし長打になるも足がバッターボックスから出たため反則打球に(知三郎が指摘)。「山田さん参考までにいっておきますが 左打者がぼくのカーブを打つには 今の打席の広さじゃ足りないんですよ 必ず足が出てしまうんです」「むっ」(中略)「チゴイネルワイゼンの作曲者サラサーテはバイオリニストでしょ やはり殿馬さんはピアノ曲でなきゃ(あっさり笑顔で)」。殿馬ズガーンとなる(「こいつ〜」と書き文字)。あの殿馬が言い負かされるなんて。ここで精神的優位に立たれたのが響いたか、さしもの殿馬も対知三郎ではいいとこ発揮できなかったなあ。

・里中は危険球含めてのフォアボールで出塁。三ボールの時点で徳川「知三郎 山田はちったあ要注意だが里中はアンパイだぜ アンパイは確実にとれ〜〜 もったいないぜ」里中内心「アンパイだと・・・・・・忘れるなのんべ」。
このときのちょい悪戯ぽい笑顔が可愛いです。里中が心の声にせよ徳川元監督を「のんべ」なんて表現したのは初めて。でも悪口じゃなくて親しみが籠ってる感じです。

・里中の四球出塁を受けてバッターボックスに入る山田。テレビで試合を見ている青田ナイン中で、球道「ん?山田のやつ木のバットだぜ」才蔵「なまいきに」なんて会話が。本大会で唯一山田は木のバットを使ってるそうですが、その設定の初出がここ。この木のバット設定が生かされたのがまさに球道との対戦だったわけで、ここで山田の木製バットを指摘するのが球道というのも伏線ぽく思えてきます。

・知三郎は山田に一球も投げずに里中を牽制で刺す。三太郎「あいつ最初っからけん制で刺すつもりで里中を歩かせたのか」山田「だろうな・・・・・・ どうやら犬飼三兄弟の中でいちばん手ごわそうだ」。
殺人野球の土佐丸にはなかった頭脳的プレーが知三郎の特色。彼が率いるのが受験校の室戸というのもその象徴ですね。少し前で知三郎に「アンパイは確実にとれ」なんて言ってた徳川監督はこの作戦を知ってたのか。徳川さんのことだから自分で指示しといてすっとぼけて見せたというほうがありそうです。

・この回の扉絵、一塁前で正座状態で座り込み両手を両膝に乗せてる里中のポーズと口半開きの表情がやけに可愛い。

・1番知三郎の第一打席。『さあ〜〜注目の小さな巨人のあの華麗なフォームが また見れるのです このフォームです この実に美しいサブマリン投法が今 帰ってきました』。しばしば「華麗」と評される里中のフォームですが、ここの場面は一段と褒めっぷりがすごい。この甲子園大会、初戦の第一球、決勝戦のラスト一球とも実況が里中の「華麗なフォーム」を称えている。里中が『大甲子園』の裏の主役(ドラマの牽引役)だと感じるのはこういうところ。

・二番朝永のファールを山田が前方へ(朝永の頭上)飛んで叩き落し、フェアにする。山田は「セカンド!!」と岩鬼に指示を飛ばす。岩鬼は「わかっとるわい 見てみいすでにわいは送球の体勢でゴロをとっとるで したがっていいタマが投げれる」などと言いつつやたら高い送球。しかし殿馬ジャンプしてしっかり取る。「場合もあるがすべてとれる範囲内じゃい(殿馬でなきゃ取れないほどの暴投だけども)」とちゃっかり自分の発言をフォローする岩鬼がナイス。
『とってそのままベース上に着地 その足元をねらって犬飼のスパイクが あっあぶなーーい 犬飼くん スライディングの失敗で殿馬くんの足をけったか いや 股間をひろげてよけました そのまま一塁へ送球です』。上下取ってダブルプレーに。
テレビ観戦中の球道は殿馬のプレーは誰でもできるが山田のプレーこそ上手いと褒めてますが、さすがに殿馬を過小評価しすぎでは。岩鬼の暴投をキャッチできたのも、着地後すぐに知三郎のスライディングをよけつつ送球したのも天才殿馬ならではだと思うんですが。そして知三郎はさりげなく殺人野球。さすがは犬飼家の血。

・徳川回想。12月14日、打倒明訓の人材を探して高知にきた際犬飼家に立ち寄った時のこと。秋キャンプが終わって家にいた小次郎(『大甲子園』の頃はまだダイエーでなく南海なので本拠地は大阪)は、犬たちに餌をやりつつ徳川と話す。
「そうですかまだ打倒明訓をめざしているんですか すごい執念ですね 明訓というより打倒山田ですよね・・・・・・うらやましいヤツだな山田ってヤツは」。言葉づかいといい態度といい、つくづく試合を離れると紳士な小次郎さん。しかし徳川監督、人材を求めて訪ねた先が高知というのは、いまだ武蔵・犬神が健在の土佐丸が第一候補だったんでしょうか。

・知三郎と小次郎の舌戦。「おれの野球で鍛えた精神力は嵐を・・・・・・いやどんな土佐犬に対してもおとなしくさすことができる・・・・・・男の気迫よ」「気迫なら勉強においてもある 秀才の中の秀才となるとその気迫は野球のそれなど問題にしないよ」。青白い秀才が鍛え抜かれたスポーツマンを気迫で圧倒するという知三郎発言はちょっと聞くとシュールですが、知三郎の人を食ったような物怖じしないキャラが妙な説得力を与えている。現実に嵐を気迫で圧倒しましたしね。

・「おまえのいう気迫で嵐と対決してみろ」と真顔でいう小次郎に武蔵があせって「おいあやまれサブ」と取り成したりしてる。初登場時はあれだけ迫力を醸し出していた、そして里中相手に嬉々として殺人野球を行使した武蔵が、平常時家庭にあっては弟びいきの優しい兄ちゃんだというギャップがナイスです。犬神なんかもああ見えて家族の前ではすごいいい子だったりして。なんか犬神の家族ってみんな眼帯してそうなイメージですけど。

・鋤をもって嵐とにらみ合う知三郎。内心「きさまごときに負けるか目から血が出るほど勉強してるおれだぜ 気迫なんてなまやさしいもんじゃない」。超座った目付きで嵐を圧倒。どれだけガリ勉なんだ知三郎。そしていかにも賢そうな知三郎がそうまで勉強しなきゃならないような室戸学習塾はどれだけ偏差値高いんだ。
本当に頭のいい人間はさほど勉強しないでも(勘所を的確に押さえられるので)いい成績が取れるものだといいますし、知三郎はこっちのタイプ=天才肌に見えるんですけどね。

・二回表、先頭打者山田の打席を前に知三郎がタイムをかける。主審を呼んで何か話した(「アウトコースをよく見てくれ」)のを受けて実況が『ああ〜〜主審の青木さんが怒りました』。キャッチャー棟方、「アイツ神経質なものですからひとつ どーかお許しのほどを」と青木審判に緊迫感のない調子で許しを乞う。青木「もうおまえもしゃべんなって 若いくせして年寄りくさいそのしゃべりがバカにされてるようでやなんだよォ」。青木さんもキャラ立ってるなあ。ある意味審判がすごく活躍してる試合です。

・山田の背中からボールが来る極端なサイドスローの投球(殿馬に投げたのと同じか?)。青木さん内心「なるほどよく見てくれというわけだ実にきわどい」。さっきまでの怒りはどこへやら、きわどい球を投げるにあたって臆せず布石を打っておく知三郎の度胸と判断力、それほどのボールを投げる技量に素直に感心してるっぽい青木さんはいい人だ。
この球を見た里中は内心「せいぜい打ってレフトへの単打だ それもかなりの技術がいる しかし それをやれるのはこの山田しかいないのだが」と考えているが、そんなこと言ってる里中がいざ自分の打席が来ると左足を開くだけで狙い打ってみせる。知三郎の投球法は右打者には弱いのか。

・山田はファールにするもののまともに打てず。『数多い剛腕投手が山田くんにいどみそして ことごとく敗れ去ったその中で なんといちばんスピードのないこの小兵犬飼くんが手玉にとっているとは つくづく見せます ピッチャーはスピードではないコントロールであるということを』。
このもう少し後に知三郎と里中は投手としてタイプが似てるという話が出てくる。知三郎が山田を手玉に取れるなら、里中も敵として向かいあった時には山田にとって脅威となりうるはず。『プロ野球編』ではまさにその通りのシチュエーションがたびたび描かれることになります。

・4球目、山田は知三郎が投球モーションに入ってからベース寄りに足場を変えて打とうとするが、知三郎はとっさにボールを離す瞬間にインコースに投げ変える離れ技を見せる。虚をつかれたのにそれでも山田はホームランかと思うほどの打球を飛ばす。このシーン二人とも実にすごい。超高校級の二人の対決は実に見ごたえがあります。

・三太郎の打席。相変わらずの角度の大きいストレート(あれストレートなのか?山田の打席のときは「まっすぐともカーブともつかないボール」と評されていた)をボールと思って見送るとストライク判定。それを受けての明訓ナインの会話。
里中「し しかし本当に はいっているとしたらすごいコントロールだ」山田「確かに一角をよぎっているんだよストライクだよ」「う〜ん」「・・・・・・でも自分の二球目はかすってないと思うがな」高代「珍しいですね山田さんがグチるなんて」渚「そんなにすごいのかあの一年坊主は・・・・・・・・・」里中「とんでもないそれ以上にそのボールをそこまではっきり見れる山田のほうがやっぱりすごいさ」。
高二春の甲子園のさいに強調されていた山田のずば抜けた動体視力がここでも生きている。そして結局「なんと言っても山田がすごい」の結論に行き着く里中。当然ながらつくづく山田贔屓です。

・三太郎内心「そうか山田のアウトコースということは右のおれにとっては今 投げたインコースということだ しかも犬飼のもっともコントロールのいい持ちダマなんだ そのために主審には とってもらいたい・・・・・・そこでコントロールがいいという先入観を植えつける計算だったに違いない どちらともとれるタマはみなストライクをとるぜ」。天然のニコニコ顔の裏で知三郎との読み合いをやっている三太郎。実はなかなかの策士です。

・見事に読みをあててインコースを強引に右へ引っ張った三太郎。打球はライン上に落ちてぎりぎりフェア。俊足の三太郎は一気にランニングホームラン、ついに一点なるかという場面だが走る三太郎は何故か不安げな顔。そして三塁を過ぎたところでいきなり逆走を始める。そのままタッチをかいくぐりつつ二塁へ、さらにはなぜか一塁へ。
『わあ〜〜どうしたどうしたどうして一塁へもどってくるんだ微笑三太郎くん』。三太郎と事情を知ってる一塁コーチの目黒だけがニコニコしてて他は全員あぜん。「よし」とさわやかな笑顔で一塁ベース上に立つ三太郎のバックにスターンという擬音が入るのがまた何ともマヌケな感じで(笑)。
三太郎の満足気な様子と対照的にチームメイトは動揺、というか恥ずかしがってる(笑)。「なにがよしや!!わりゃアホかァ 救いようのないアホやな だれか助けてくれや」 舌はいて頭逆立ってる動揺の岩鬼。自分たちの方が赤くなってる山田と里中。山田なんて顔ふせて目元が帽子で隠れてます。これだけでも笑えるところをさらに、三太郎「・・・・・・でいいわけでしょ」審判「そ そりゃ好き好きだけど」という会話でダメ押し。バックでわっはははという観客の笑い声が聞こえるのも無理からぬところ。
結局この件は三太郎自身によってベース踏み忘れに気づいたゆえの奇行と明かされますが、味方の目黒以外は審判でさえ踏み忘れに気づいていなかった→ランニングホームラン可能だったという悔しい展開に。審判が最後に「いい人だね 善人だね君は・・・・・・」と褒めてくれるのが救いというか。

・9番渚の打席。岩鬼と里中がそれぞれに堅実な打ち方をアドバイスするのを渚は聞かずバットを長く持って構える。先輩たちのいうことを(しかも一人はキャプテン岩鬼だというのに)無視して自分流のパッティングに挑むという強気な態度。中学以来の渚の自信過剰なまでに強気のキャラクターがはっきり出ています。無視された格好の里中もとくに怒ってないのは、こんな態度も渚らしいと思ってるからかな。

・岩鬼は自ら悪球を作り出すためグリグリメガネで打席に入るが、同じことを二度やる(高二春の対土佐丸戦で同じ戦法を使ってるので)なんてせこいと徳川に揶揄されて、「それもそやで 一年坊主に対して 大器のやるこっちゃないわなァ」とメガネを投げ捨てる。
「さあ犬きやがれこっぱみじんに砕いたる」「きやがれといっても今の岩鬼さんじゃ」「怖いか」「ばかばかしくて」「なんやて どこがばかばかしいのや」という岩鬼と知三郎の応酬のあとに審判の青木さんが(バッターボックス外れてホームベースをまたぐように立ってる岩鬼に)「そのおまえのどこがばかばかしくないのか」。この会話の流れ、特に青木さんの締めの台詞がナイスです。
岩鬼も足元を見て「冗談冗談」と苦笑する。後で発覚するようにこの時岩鬼は密かにコンタクトもつけているのですが、この場面は「足元がよく見えてなかった」→「コンタクトをつけているから」という伏線だったんでしょうか。岩鬼の二段構えの作戦を知らない里中は「次の回だな得点は」とあっさり笑顔で岩鬼の打席に見切りをつけ、殿馬も「づら」と応じる。なんか二人とも余裕ある態度です。

・コンタクト作戦が図に当たって、見事知三郎の球をかっ飛ばした岩鬼だが、種明かしの最中にコンタクトを落としてしまう。それも一度見つかったと思ったら再び風にさらわれるという不幸っぷり。審判「自慢げに見せるほうが悪いんだ あきらめろ試合が長くなるだけだ」。里中「まったくだ 黙っとりゃ知三郎にも知られず次も使えるのに」三太郎「人がほめる前に自分ですべてほめてしまうお人だからなァ」。
里中の言う通り普通ならなぜ打てたのかを伏せたままもう一度同じ手を使うべきところ。だが物語的には同じ作戦を繰り返し使っても初回時のインパクトは得られないので、理由をつけて二度同じ手を使わないのが望ましい。三太郎が指摘する岩鬼の性格がごく自然な形でそれを可能にしています。三太郎の台詞でそうした岩鬼の性格づけを改めて読者に知らしめてるのも上手いです。

 


(2012年1月21日up)

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