高三夏・白新戦

 

水島高校野球マンガの主役キャラが勢揃いした夢企画『大甲子園』の中にあって、地区予選ながら一番の名勝負との呼び声も高い試合です。白新・不知火との対決はこれが5回目。大会のたびごとに戦っている、いわば県内では(県外でも?)最強のライバルといってよい白新と、(意外にも)はじめて決勝戦でぶつかる。もともと新聞記者などにもずけずけ物を言う印象はあった不知火ですが、ここでは甲子園大会を「夏祭り」呼ばわりするなど野球の実力を離れた言動においても迫力を増した。まさに県内ラスボスにふさわしい風格を漂わせています。

また印象深いのはチームメイトから白新応援団まで、白新サイドの皆が徹底して不知火贔屓なこと。それも不知火を尊敬し付いてゆくというだけでなく、応援団が「われわれは今その不知火を男にしようではないか」と言ってるのを見ても、自分たちの手で不知火を支え甲子園へと押し上げてやろうという気概を感じさせます。白新は一年秋から選手兼任監督やってしまうほどに不知火のワンマンチームで、それだけに他のナインの影は薄く、試合ごとに不知火以外のメンバーが総入れ替えになってたりする(水島先生がいちいち覚えていない、覚える必要も感じていないんでしょう)のですが、ここでは春と同じメンバーを持ってくることで彼らの(不知火に対する)結束力の高さに説得力を持たせた。同期らしいキャッチャーの野崎から後輩の白山まで全員が、“不知火を勝たせる”ために戦っている。白山などそのために複雑骨折を負うはめになったのに、苦痛をおして不知火に甲子園に行ってくれと言い残しさえする。不知火の慕われっぷりに胸が熱くなります。まさに5回の対白新戦の中でも高二夏と並ぶ迫力ある戦いだったと思います。


・不知火の投球練習の凄さに発奮した里中は「不知火のヤツ甲子園出場など目じゃないといった 明訓に勝てばそれでいいといった オレも同じだ この試合で投手生命が終わろうと絶対に投げぬく 絶対に負けない」と心に思う。そして「さあこい」と声をかけた山田に「いくぞ不知火」。
確かに不知火は三年間にわたって県内有数のライバルでしたが、決勝でぶつかる―ラスボス扱いはこの高三夏の大会がはじめて。それを抜きにしても里中がこうも相手投手にライバル心を剥き出しにしたことはこれまでなかった気がします。
それだけに思わず山田は「えっ」と驚きの声をあげ、ベンチ前の不知火も里中の声が聞こえたのかちょっと振り返っている。挑む里中も受ける不知火も(立場的には四期連続で甲子園出場している里中の方が挑戦を受ける側なんですが、二人の心持ち+実力からすると里中が不知火に挑んでいく感じです。思えば主なライバルキャラみんな里中より格上感がある)試合前から闘争心でギラギラしてるのが、この試合の盛り上がりを予期させます。

・投球練習でコントロールの良さが信条の里中が彼らしからぬ大ボールを放る。岩鬼には「サト〜〜 わ わいを殺す気かノーコンめ」と突っこまれ(岩鬼に言われるとは)、不知火も内心「あの調子じゃやはり温存してたんじゃなさそうだ」と、珍しいノーコンぶりをマイナス評価しますが、山田は内心「う〜〜ん さ 里中のヤツなんという男だ まさしく小さな巨人だ」「里中のヤツ敵を前にして本来のフォームにもどった 左足が胸まで高々と上がった本来のフォームに」と別のところに着目している。こんな形での里中復調は意外であり、上のシーンに続いて彼の闘争心をずばりと示して小気味いいです。

・ベンチ前に腕組みしてえらそうに立つ不知火が「おれは明訓に一点もやらん 絶対に点は取らせん」と言うのを聞いて、白新ナインは口々に「恐ろしい執念だ」「そりゃそうだろおれたちはこの春夏と二度目の対決だが不知火は五度目だ」「そして過去四たび明訓に敗れている 想像を絶する悔しさだろうよ」と語り合う。これらの台詞に表れてるように、白新戦のメンツは三年春(正確には二年秋)の大会と一緒。試合ごとに不知火以外のレギュラーが総入れ替えされてきた白新には異例の現象ですが、この設定が試合後半でたびたび登場する白新ナインの結束の固さに繋がっていきます。しかし不知火以外前年夏からのレギュラー(一年以上レギュラーをやっている人間)がいないってのもすごいな。

・白新応援団長「われわれ応援団は毎年変わろうと不知火はこの三年間ひたすら打倒明訓に死力をつくしてきたのである その執念には頭が下がる思いであ〜〜る われわれは今その不知火を男にしようではないか」。「毎年変わろうと」のあたり、不知火以外のナインが毎度総とっかえになりすぎることへの(水島先生の)反省を込めた一言だったりして。しかし野球部レギュラーのみならず応援団も毎年変わってるのか。

・渚ノックによる明訓守備練習。踊るような動きでキャッチ&スルーする殿馬。それを見る不知火内心「まったく人をくったやつだぜ なんとなくイヤなやつだ・・・・・・」。この時点でもう殿馬苦手意識が働いています。結局高校三年間、不知火は殿馬を克服できなかったわけですね。

・明訓のノックが終了し両軍ともベンチを飛び出す直前、テレビ局のカメラマンがカメラをぐっと回転させるコマが入る。ストロボ?の眩しい光とカメラが横にスライドする、動きに勢いのある迫力の絵柄にはっと惹きつけられます。

・山田内心「人工芝の下はアスファルトだ たまった雨の流れる場所がない・・・・・・ それが このカンカン照りに蒸気となって上がってくるんだ 上は太陽下は水蒸気これじゃスゴイ湿気とともに おそらくマウンド上は四十度以上はあるだろう」。
人工芝の球場ってこんなに大変なのか・・・。この試合、ブランク明けの里中は暑さとスタミナ切れに悩まされますが、それも決勝戦がいつもの保土ヶ谷球場でなく最近完成したばかりの横浜スタジアム(人工芝)だったからこそ、より説得力のあるものになりました。無印初期の時間枠(山田世代一年時=74年)に従うなら、彼らが三年生の時にはまだ横浜スタジアムなかったはずですけどね。

・「さあ守 ついに代表を手にするときがきたな おまえにとってのこの暑さはベストだ」。久々にサングラスの不知火父登場。オールスター企画らしく一年秋に一回出てきたきりの不知火父もしっかり自然な形で登場させる目配りが嬉しいです。

・さっそく三者連続三振にとる不知火。『スゴイ!!実にすごいタマだ 今までの不知火とはケタ違いのすごいパワーがついています』と実況も絶賛。
顔色なくその投球を見つめる里中に、攻守交代でベンチを出る山田は「飛ばしすぎだな不知火は・・・・・・・・・里中 三振はいらんぞ」と声をかけ、里中の帽子をちょいと押さえる(帽子被せてやってる?)里中もちょっとリラックスした笑顔に。「三振は三球いるが打たせてとれば一球ですむ 先は長いぞ里中」。ブランクがあるだけに自分の力に不安を持っている里中を気楽にさせるための山田の心遣いは実にいいポイントを抑えています。

・不知火アウトコースを流し打ち。痛烈なセカンドゴロを殿馬とめるもののはじく。しかしボールをおいかけて一塁へキック。ぎりぎりアウト。里中「やったやった殿馬ナイスキック」。一瞬ついに不知火が殿馬に雪辱をはらしたかと思ったら、またもしてやられる形に。しかもボールを蹴ってパスという“ナメた”やり口で。こういう常道を外したファインプレーが様になるのはやっぱり殿馬ですね(岩鬼なら同じ常道を外すんでももっと力技寄りになる)。やがては「4=死」とまで深読みしはじめる不知火の対殿馬ボルテージがこうしてあがっていきます。

・ツーストライクでやたらにスゴイ伸びのストレート(低いボールタマかと思ったら打つときには高めのボール球になってるという)に山田見送り。続く5番の里中は山田に今のストレートの話を聞いて「そんなボールがあるかそれじゃプロ以上だぜ」と思い、「じっくり見せてもらおうか」と考えつつ打席に。
里中に向かう不知火は内心「しかしブランクのあった里中を責任重大な五番に置くとは それでなくてもこの暑さはこたえているだろうに」などと考えていますが、この考えが油断になったものか、結局里中は一球目から「見る必要なし」と右中間を破る三塁打を放つ。「じっくり見せてもらおうか」じゃなかったのか。不知火が「くそ〜〜不用意な一投だった」と悔しがってるから、たまたま来た失投を見逃さなかったってことですかね。

・三塁コーチ目黒の指示に従いベースにすべりこむ里中。ベースに向かって飛びつくコマは背景がトーン張って暗くしてある中滑り込む里中だけ白く浮き出している。影やバックが全部横のスピード線でかすみ、里中の体にもスピードを示すボカシが入って、右方向へ回りこむように飛ぶ里中の動きにスピード感、臨場感を持たせている。さらに人工芝から立ち上る蒸気と里中の靴の裏から飛び散る土(白い色)まで書き込まれている。すばらしい絵です。

・上下スクイズをやろうとするも、例のやたら伸びるストレートに目測をあやまりバント失敗。でも本人訴えでファールに(左親指のつめをかすり血が出ている)。これで里中がホームを目前で憤死するのを免れた。その後の試合上下の指は痛まなかったろうか。

・ファールが認められて三塁に戻る里中の息が荒い。三塁コーチの目黒内心「大丈夫かな里中さん顔がまっ青だけど」。後輩に心配されてしまうほどにバテつつある里中。この里中が(途中からマウンドの湿気がだいぶマシになったとはいえ)完投するんですからねえ。

・結局不知火のフォークにやられスクイズ失敗+ホームスチールも本塁アウトでチェンジ。走ったあとの疲れた状態で里中マウンドへ。一度ファールで三塁に戻り再度走った分かえって疲れてしまったかも。
ここで「このくらいで弱音をはいちゃおふくろさんに笑われるぞ おふくろさんの相手はガンだったんだぜ」と励ます山田はまたも上手く里中の心理をついています。

・そんな二人を見つつ不知火は「しかし ここにきても山田のあの涼しそうな顔はどうだ あいつを窮地に追い込むとしたら山田自身じゃなく里中を追い込むことだ・・・・・・・・・ と里中に集中しているんだが・・・・・・・・・」と内心に思う。山田を崩すには里中を崩すことという洞察はさすがに対戦5回目だけはある。

・山田はバント阻止のために内野を里中のすぐ近くまで前進、外野を内野定位置のすく後方まで前進させる極端な守備をしく。山田内心「さあ里中低めのコントロールだけでいい そしたら投げるだけで守る必要はないぞ」。8番関屋は強振するも打球伸びず三太郎あっさりキャッチ。山田内心「そうだ それだ里中 全力投球のおまえのタマをそうは飛ばせんよ」
スタミナに難のある里中の負担を軽くするための守備位置設定ですが、その思い切った前進守備は里中の球の力を信じていればこそ。山田の里中に対する厚い信頼を感じます。

・9番白山はファールにみえるバントでねばる。山田内心「なんと巧みなやつだ 厳密にいえばバントなんだが当たったあとに大きくスイングするから振っているように見えるんだ しかしこれをつづけられたら・・・・・・・・・」。これまで不知火以外これといった活躍のなかった白新ナインにようやく使えそうな男が(二年秋に里中からホームランを打った浦がいるっちゃいますが、里中の負け惜しみ抜きにして「まぐれ」ぽかったですし)。

・六球目、山田がなにがしかのサインを出し、里中は「えっ」と驚いた顔に。すぐ後ろに立つ殿馬と「頭にくるな づら」「はい」「恋女房づらよ(いい笑顔で)」「はい」なる謎の会話を交わし、里中もちょっと笑顔になる。この後コントロール乱したとみせての四球で歩かせてるので、山田のサインはこれ以上バント攻勢で里中の体力を削られることを危惧しての敬遠指示、殿馬の台詞は不知火ならまだしも9番打者、雑魚といっていい白山を敬遠することへの里中の抵抗感を「里中を守るための恋女房の思いやりだ」となだめる意味があったわけですね。そして里中も山田と殿馬それぞれの気遣いをちゃんと受け止めた。地味ながら心温まるシーンです。なぜか殿馬に敬語使ってるのも不思議にいい味です。

・塁に出た白山はハンパない足で盗塁をはかる。つまりあのバント攻勢は里中の体力を削るためより根負けした里中が歩かせてくれるのを期待しての計略だったわけだ。しかしそれも山田の計算内だったものか、山田は強肩を駆使して二塁で白山を刺す。この時ベース前に置いた殿馬のグローブの中にボールが入る形なのが鷹丘時代の対東郷戦を彷彿とさせます。

・四回表、ツーストライクまで打たない白新打線に里中は球数増を強いられる。ブランク明けの里中のスタミナ不足を踏まえて、この夏の白新は徹底して里中を疲れさせる作戦に出ている。それが功を奏し、三番目の打者刈田のピッチャーライナーを里中はキャッチするもそのまま腰から落ちてしまう。この回17球投げてるんだから無理からぬところです。この試合、集中攻撃を浴びるマウンドの里中のふらふらっぷりについ母性本能をくすぐられます。

・四回裏、岩鬼目を閉じてレフト線へのホームラン、のはずがレフト白山フェンスを駆け上がってこれをキャッチするも肩から落ちる。この時、不知火「横浜スタジアムは日本一高いフェンスだぜ」三太郎「それより危ないぞレフトのやつむちゃだ」里中「フェンスに激突だ!!」口々に叫んでいるのが臨場感を煽ります。さらに落ちた白山がなおボールを離さないのを見て、山田「こ こんなプレー見たことない」里中「敵ながらあっぱれだ」とすっかり賞賛モードに。立ち上がらない白山のために救急車が呼ばれ、不知火も「シロ〜〜〜」と叫んで駆け寄る。ちなみに白山の帽子には不知火とお揃いの切れ込みが(涙)。本当に不知火大好きなんですね・・・。

・白山の周りを囲む白新ナイン数名。不知火「シロどうしたどこを打ったんだ」「み・・・・・・右肩です」「グラブを持ってるほうじゃないか」(白山左ききか)。外してやったグラブになおボールが入ってるのをみて「シロ」と涙ぐむ不知火。不知火が他人のために涙を流すシーンなどこれが唯一では(自分のため?なら高一秋の対明訓戦でホームランを打った直後父親と抱き合う場面がある)。鬼の目にも涙というか。

・岩鬼は自軍ベンチに白山は右肩粉砕骨折と説明。太平いわく「全治まで六か月はかかるな しかも治っても野球はムリだやな」。先にファールと見せたバントでねばって出塁する一連のプレーでそれなりの実力を見せ付けてくれた白山だからこそ、この「野球はムリ」、あたら才能がありながら再起不能という痛々しさがより効いてきます。

・救急車に運ばれる白山と不知火の会話。「不知火さん」「なんだ」「甲子園へ行ってください」(汗流しながらも強い意志を感じさせる笑顔で)「シロ(また涙ぐむ不知火)」「シロ行くともおまえのこのプレーのためにも必ず行くぞ」。
試合前には「勝っても甲子園切符はくれてやる」(まさか本気じゃないだろうが)なんて言っていた不知火が、この事件をきっかけに甲子園に行くと宣言する。『大甲子園』という作品の性質上ありえないとわかっていても(だからこそ)、白新に甲子園行かせてやりたくなる展開です。

・太平が呆然とするナインに「みんな えらい感動の場面を見せられてしもうただな けんどもこれも勝負のうちだや うちとて貴重な1点を白山にとられてスゴイ痛手なんだや 情にほだされたらいかんだや」。一発勝負の高校野球、それも純真な高校球児だけに相手への同情が動きを鈍らせ致命傷となりかねない、それを回避するための実に適切なタイミングの一言です。同時に白山の決死のプレーで読者の心も白新寄りになりかかってるのを明訓側に引き戻す効果もありますね。

・続く殿馬の打席。あえて満面の笑顔でバッターボックス内でジャンプしバットを上に蹴り?左手でキャッチする。雰囲気を変えようとする作戦。案の定不知火は「このやろう」と苛立つ。動揺の後が見えず逆に不知火を呑んでかかるあたりさすがは殿馬。そして殿馬の心理作戦にまたもしてやられてしまうあたりさすがは不知火(笑)。

・その次のページは大きく振りかぶる不知火の全身ショット1P分の大コマ。正面下からあおるようなあまり見慣れない構図。この試合の不知火はわりに眉が見える場面が多いせいもありヒーロー然として見えす。

・不知火の剛球に殿馬バント失敗、ボールが明訓ベンチに飛び込む。山田がボールをよける時に里中を後ろにつきとばしてかばってるように見えます。さすが恋女房、きめ細かい配慮です。

・二球目もファール。三球目は強烈なピッチャーライナーながら不知火はがっちりとってアウトにする。にもかかわらず内心「なんてイヤなやつだアウトになってもまシンに当てることで オレを笑いやがってる」。なぜ打ちとったというのにこうも被害妄想なのか(苦笑)。どれだけ殿馬苦手なんだ。

・五回表、先頭打者不知火のホームラン級の打球をセンター香車がバックして追い、ジャンプしてキャッチするもフェンスに激突それでも落球せず。しかし頭をもろにフェンスにぶつけてまた救急車。一試合に二度も救急車がやってくるってすごい。白山のケガで感動をさらった白新ナインがこのまま敗れたのでは後味が悪い、ということで明訓にも同等の状況を作ったのでしょう。結局このケガのせいで韋駄天香車はその本領を発揮する機会なく(この場面、香車の足だから追いつけたと見れば本領を発揮したうちに入るのかも)甲子園大会への出場も叶いませんでしたが、代わりに渚がセンターに入ることになる。
里中が復帰した以上、順当にいけば渚はベンチ要員で終わるところを、こういう形で試合への参加が可能になった。そしてピッチャーだけに強肩の渚がセンターに回ったことが、後に準決勝青田戦18回裏で青田の逆転勝ちをギリギリ阻止することになります。

・センターに入った渚は二連続でボール来るも、6番兵吾の球をダイビングキャッチでダイレクトで取りスリーアウトに。引き上げてくる渚を里中が笑顔でパチンと背中を叩く。渚は「香車の意地がのりうつったス」と救急車で運ばれた仲間に花を持たせる発言を。
山田いわく「たしかにシンには当たったが里中のタマに伸びがでてきてるんだ そのぶんだけ打球は押された ようやく里中ペースだ」だそうなので、里中の功績も大きいようですが。

・山田の第二打席。二球連続ストレートをファールに。不知火意地でもストレート勝負に行こうとするが白山の「甲子園に行ってください」という言葉を思い出して超スローボールで打ち取る。不知火が意地を捨てて後輩の想いに応える方を選んだ。これまでずっと不知火のワンマンチームだった白新ですが、ナインの行動も不知火自身の心の持ちようもチーム一丸となって明訓にぶつかる方向になっている。白新は三年夏がもっとも強くもっとも格好良かったと感じるゆえんです。

・7回表二死二塁で打者不知火。一塁が空いている以上歩かせかという局面で、山田は敬遠を指示したと見せて勝負にいく。一球目はうっかりストライクになったように見せかけ、2、3球目大ボール。しかし実は勝負と読んだ不知火はアウトコース狙い撃ち。一塁左を破るライト前ヒット、のはずを上下の後ろに守っていた殿馬がすかさずキャッチ。
『ど どこに守っていたんだセカンド殿馬くん 信じられない守備位置の大ファインプレーです』。味方の里中まで青ざめて内心「ど どういうやつだ」山田「理屈じゃ答えのでない殿馬の勘だ」。息詰まる読み合いのあげく、あの山田に不知火が読み勝った!・・・と思わせて殿馬の一人勝ちというオチ。しかも勘で済まされてしまい理論的な説明は何もなし。とことん不知火は殿馬に相性が悪いとしか言いようがないです。そりゃヘルメット投げて悔しがりもするだろう。

・7回裏、三振した岩鬼についで殿馬登場。不知火「またいやなやつが出てきた」。このモノローグ、もはや最初から負けてないか。『あららら殿馬くん背中を不知火にむけた・・・・・・また新しい秘打か!?』。はっきり見える背番号4に「4 いや死だ このやろうふざけやがって」。被害妄想もここまでくるともはやノイローゼの域じゃないか(笑)。実際殿馬は狙ってやってるのか。本来こんな嫌がらせ(それも相手がよほど深読みしてくれないと嫌がらせにもならない)をするキャラじゃないと思いますが、自分の一挙一動に過剰反応してくれる不知火が相手だけに、戦略+いたずら心で試してみたのかも。

・殿馬に11球ファールでねばられた不知火はついに歩かせることに。ボールツーのところで白新応援団から「やめてくれ不知火」「そんな不知火見たかねえぜ」との声が飛ぶ。慕われてるなあ。

・殿馬敬遠を受けて、五利「違う!!これは逃げやあらへんで プライドをすてて九回まで体力を維持する 勝利への執念やで」(中略)鉄五郎「殿馬と勝負していけば果てしなくファールする それを認めた不知火はやはり大器や」とメッツの二人はむしろ高評価。山田も内心「もし不知火が監督じゃなかったら自分の意志どおりあくまで勝負にいったかもしれん」と思ってますが、最後の一球はキャッチャー立ち上がったところでにわかに渾身のストレートでストライクアウト。五利・鉄五郎の会話、山田の心の声、さらにはその前の白新応援団の反応と、敬遠策を繰り返し読者に印象づけておいてそれを引っくり返す。このあたりの仕込みはお見事。
野崎もよく取った。この「敬遠と見せて勝負」作戦の立案と配球は野崎主導ですよね?不知火が三年間で組んだキャッチャーの中では間違いなくダントツナンバーワンの人材だと思います。

・8回裏先頭打者山田。1球目はストレートにヤマを張って一本足で打つ。それでもミートせず通天閣ならぬ東京タワー打法に。不知火は野手を制して自らフライを捕ろうとするがすごいスライスボールに。野崎「おれがとるおれに任せろ〜〜」不知火「じゃまするなどけえ」「不知火ムリだおれのほうがとりやすい任せろ〜〜」「どけ野崎最初から追っているオレのほうが目測はたしかだ」。
殿馬敬遠のくだりで見事なコンビネーションを見せたバッテリーが意見衝突か、しかも不知火のほうが偉そうだし我が儘だし、それってどうなのよ?と思ったところで「人工芝だどけえ」。衝突寸前で野崎わざと倒れ不知火前方にジャンプ。人工芝の滑りの良さを利用してグラブの先でキャッチ。あやうく衝突の危険をぎりぎりで見事に回避した二人の動き、「人工芝」と言っただけで不知火の狙いを察知した野崎とそれだけ言えば野崎はわかってくれると信じた不知火――結果バッテリーの絆を見せつけてくれました。

・しかし不知火は滑ったときの摩擦で左腕をヤケドしてしまう。このヤケドのシーンが連載の切れ目ですが、次回ケガの影響はとくに見られない。左腕のケガを押して投げる展開は千葉県大会での中西球道の左腕吊って投球に受け継がれたか。確かに腕吊って投げる不知火とか意識朦朧として倒れライバル(この場合里中になるのか?)に抱きとめられる不知火というのはなんかイメージじゃないですし。

・9回表ツーアウトまで持ち込んだ里中に対し、「さすが小さな巨人といわれるだけのことはおまんな鉄つぁん」「ああ よく九回まできよったでそれも最高のピッチングでな」と語りあうメッツの二人。里中はこのあとさらに次の打者もピッチャーライナーに打ち取っている。里中の底力を感じて好きな場面です。

・10回表二死で不知火。部室でテレビを見てる東郷ナイン。小林内心「高校生としてもう山田と闘うことはないのか・・・・・・・・・それが ただひとつ心残りだ」。この言い方だとプロで戦う用意があるかのようです。小林もプロに進む設定だったんでしょうか(もともと高校までで話終える予定だったから実際に書くつもりはなかったにせよ)。

・レフトスタンド一直線の不知火のライナーを三太郎追わず。入ったとみえてフェンスに最上段に当たって戻ってきたボールをダイレクトキャッチしてセカンドへ大遠投。キャッチが難しいハーフバウンドになった返球を殿馬はベース前で座ることで苦もなく処理してセカンドへ走った不知火をタッチアウトに。三太郎・殿馬双方の判断力の勝利。不知火のホームラン級の打球を三太郎が処理してアウトにする展開は高二夏にもあった(郷審判が倒れた場面)。「ルールブックの盲点の1点」といい、不知火のもう一人の苦手キャラ、三太郎が本領を発揮してくれてます。

・テレビを見てる横学ナイン。殿馬のプレーを誉める部員たちに対し土門は内心「いや殿馬もうまいが それも三太郎の打球の計算と強肩があればこそだ・・・・・・ おれがホれてホれ抜いたあの強肩・・・・・・ いい選手よ三太郎は・・・・・・・・・」。土門が惚れたのはキャッチングより強肩だったのか?ともあれいまだに三太郎贔屓の土門さんがなんだか気の毒です。

・ワンアウトから岩鬼伊達メガネで悪球投げさせてスリーベースに。殿馬スクイズにいくも不知火の最高の速球を二球ファール。三球目スリーバントにいくがフォークボールのため三振に。しかし岩鬼がサイン見逃しで走ってなかったためツーアウトで済む。なんとかいって不知火結構殿馬を抑えてます。

・ツーアウト走者三塁でバッター山田。ボール球なげた不知火に対し野崎はタイムかけてマウンドへいき他のナインもみな集まってくる。「不知火おまえどうして山田との勝負をさけるんだ」「別に ちゃんと勝負してるぜ」「いやおれの手はごまかせんぜ あの力のないタマのどこが勝負だ」「野崎」「歩かそうなんてまっぴらごめんだぜ」関屋「そのとおりだ」浦「そうよおまえの気持ちはすべておれたちの気持ちだぜ」 「不知火なにを遠慮することがある」「山田を歩かせるおまえなんぞ見たくもないぜ」「不知火さんここはええカッコしてください」「逃げちゃ天下の不知火の名が泣くぜ」「おまえがいなきゃおれたちはここまでこれるもんかい」「それこそおれたちナインも恥だ」「勝負だ不知火」「勝負だ」ひとり一コマずつアップで主張するその中央に太陽バックに立ちつくす不知火(ややシルエット気味)。「みんな・・・・・・・・・」。
最初で最後(ナインの多くが不知火にタメ口なので三年のはず)の甲子園出場がかかった局面で、悔いのないよう勝負に行けと不知火の背中を押す白新ナイン。こんなチームメイトを(白山のこともあったし)今度こそ甲子園に連れていくために我を折ろうとした不知火。三年目にして白新は最高のチームになりましたね。

・不知火の気迫のストレートを山田センター返し。不知火腕伸ばして打球を取るも勢いに押されてこぼれる。山田懸命に一塁へ走る。不知火ボールを追って取り、一塁へ送球。山田一塁へ駆け込む。普通ならホームに投げて岩鬼のホームインを阻止にかかるところを一塁に投げたのは山田の鈍足を知ればこそ。しかしかろうじて山田セーフ。これにより岩鬼のホームインが有効になった。結果的にルールブックの盲点の1点に近い形の決着となりました。

・グラウンドにヒザをついたまま不知火は「くそ〜〜金属バットでなかったらまっぷたつに折れていたぜ」と悔しげに言う。ベンチに引き上げる途上で?そんな不知火を振り返る山田。山田が甲子園大会で唯一木製バットを使ってたのにはこの台詞が遠因(自分は木製バットでも充分打てるはずだと挑戦したくなった)か?

・ネット裏で涙ぐむ五利「し 不知火 け けど こ これでいいのかも 甲子園に行ったらもっと目だって競争が激しくなるわい」。この内心の声だとまだ不知火指名する気のようです。

・「高校野球に悔いあり!!山田 プロで会おう」と言われた山田が内心「プロで・・・・・・・・・?」という反応。プロに行く気がないのか不知火がプロに行くと思ってなかったのか。


(2011年11月18日up)

 

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