高三夏・青田戦(後編)

 

・「ぼくの作品は衝動的な転換が多い。つまりは、最初に考えていた試合展開が、途中でコロコロ変わるのである。たとえば、外野フライと決めて、そのスイングを描く。ところが、どうにも素晴らしいスイングができ上がると、レフトのグラブに入るべき打球がそのままスタンドに入ってしまう・・・・・・・・というように、ぼくがのればのるほど、試合が長くなる理由がここにある。」(第19巻表紙見返し作者コメント)。週刊少年漫画は行き当たりばったり展開が多い(読者の反応を見ながら展開を調整していく)ですが、それにしてもこれはすごい。弁慶戦の時あまりにいいスイングが描けたため山田にホームラン打たせてしまった話が有名ですね。

・延長十二回裏、一番空草のヒット性の球をファースト上下が見事にキャッチ。セカンド殿馬、ショート高代、サード岩鬼、と内野を回して里中に球を戻す。彼らはそれぞれに“自分たちがしっかり守るから大丈夫”という意味の励ましの言葉を口にするのですが、後輩の上下が真っ先に里中の心身の疲れを気遣い、励ましの先鞭をつけたのにちょっと驚きました。高代もそうですが、年下から見ても守ってやりたい、支えてやりたい気持ちにさせるのが里中なんでしょうね。

・えーじのセンター前ヒット(になるはずの打球)を見事ジャンピングキャッチする殿馬。「(8人の守りを突破するのは)てえへんづらぜ」の言葉をさっそく現実化してくれています。さすが殿馬。

・ピッチャー前小フライを山田が飛んで取るシーン。倒れて両手をついている里中+手前にボールを受け止めたミットのアップ→宙を跳ぶ山田→山田グラウンドにうつ伏せに落ちる、というコマの流れが臨場感あふれて秀逸です。

・13回表、先頭打者は里中。打席でのモノローグ「中西はここまでまっすぐしか投げてない 同じ投手としてこれは恥だ!! そうさせてるおれたちがなさけない 打つ」。こういうモノローグが入ったらだいたい打つのがお約束で、その通りにヒットを打ってのける。「これは恥だ」「おれたちがなさけない」というところに里中らしいプライドの高さが滲み出ていて格好いいです。
加えて打球をサード才蔵がとびつくも弾いた後の「なめるな寄りすぎなんだよ」の一言。この台詞で山田は里中がショートに極端に寄って守っているサードを狙い打ちしたことに気づく。太平さんは「気力の一打」と言ってましたが、気力のみならず計算された上での一打ですね。あの球道を相手に当てるのみならずサードを狙い打つまでできるとは大したものです。これはサードを穴と睨んだからなのはもちろん、里中の力じゃ引っ張れない、ショート方向に転がすのがせいぜいと読んだゆえ(シゲ監督の「才蔵のやつえらく寄っていたもんだな 当然といえば当然だよな 非力の里中だからよ」という台詞からもわかる)の守備位置が癇に障ったからでしょうね。だから「なめるな」なわけだ。

・山田の打席。外野を左に寄せたえーじの指示を見て、「左に寄せといていかにも外角を攻めると見せる けど攻めは内角やで」と真面目な顔で分析する岩鬼。あの岩鬼がすっかり頭脳派になって。やはり(キャプテンという)立場が人を作るのか。顔も何だかハードボイルド風味です。

・ハーフスピードの球を要求するえーじとあくまで全力投球で行くと主張する球道が対立。これまでキャッチャーとしては球道の球をキャッチできる壁としての役割しか描かれてなかったえーじの判断力と発言力が光る場面。鉄五郎が「だいたいこういう剛球投手のタマを受ける捕手にはたいしたやつはいないもんだがな(えーじは大したものだ)」と評するのもむべなるかな。
あの顔だけに怒っててもあまり緊迫感がないのもよい。「おれのサインどおりに投げなきゃその瞬間にオレの肩は故障じゃん」という言い回しもユーモラス。

・最後まで抵抗したものの結局はハーフスピードを投げる球道。「あいつはバカだからサインどおりに投げないと本当にベンチに引っこんじまうからな」と心で呟く球道に拗ねた顔が何か可愛い。何だかんだいってもこの二人、一つ年上(ゆえあって高校入学が一年遅れた)のえーじがやんちゃな弟球道の我が儘をうまく操縦してるんですね。

・速球勝負に逸る球道にハーフスピードを要求し山田から2ストライクをとったえーじを評価したそばから、「(もう一球同じ球を要求する)その度胸はこの大池にはないな」という鉄五郎。評価高いんだか低いんだか。

・13回表、山田のヒットで走る里中、「やったやったぜざまあみろ」。どんどん口悪くなるなあこの人。しかしこのフットワーク、とても足首をケガしてるとは思えません。

・無茶を承知の走りで見事三塁に滑り込んだ里中。痛みをこらえて体を起こしながら「や 山田 ナイスバッティング!!」と叫んだ満面の笑顔が爽やかです。

・この里中のファイトを見て「里中もメッツにほしゅうなってきよったで」「あのチビめ このわしの胸を熱くしやがる」と語り合うゴリと鉄五郎。鉄五郎など涙ぐんでいて、本当に里中のプレーに感動してるのが伝わってきます。里中ファン的には嬉しい場面です。 

・ノーアウト2、3塁で次の打者は三太郎。しかし実況に「問題はこの人です」「この試合 なんと四連続三振とまったく中西くんを打てない微笑くんです」などと言われてしまう。本人もいつものニコニコ顔がすっかり青ざめてダメムード満点。この三太郎がスクイズを成功させられるのか、四天王より一歩劣るポジションの三太郎だけに成功も失敗もありそうで、先の展開が読めずハラハラさせられます。

・まさかのスリーバントをさせた太平作戦を、読みきってギリギリで立ち上がって外させたえーじと、すでにリリース直前だったのにまさかのウエストを成功させた球道。そして三太郎のバットはボールに届かず。三本間に挟まれた里中万事休す、という局面で、えーじが三塁にまさかの大暴投。そのすきに里中はホームベースを踏み、山田も三塁を蹴ったものの鈍足だけにホームインはぎりぎり叶わず。それでも明訓はついに一点をもぎとる。
球道にハーフスピードの球を投げさせて以降、リードと読みの冴えが繰り返し描かれてきたえーじだけに、このまさかの大失敗の衝撃が生きています。

・ちなみに山田のホームへのスライディングを鋭いタッチでぎりぎり阻んだのは本塁カバーに入った球道だった。えーじはどこ行った?ボールを追ってバックホームしたのは水田だし・・・と思ってたら、何と山田が刺された直後、肩をふるわせて泣くえーじの姿が。これは悔やんでも悔やみきれない。しかし球道も才蔵もえーじを責めず暖かくフォローしている。青田もいいチームですね。

・13回裏は球道の打席から。一点リードしてるとはいえ相手は青田きっての強打者球道。明訓バッテリーが敬遠しても無理のない局面。実際シゲ監督も「勝負してくれよ里中」と祈るように思ってたにもかかわらず、ボール球が続いても「いきなりストライクはあまりにも危険じゃし定石としてボールから入って様子見だわな」「い いや そんなことはない あのバッテリーが歩かすなんてこたあ・・・・・・・・・」となかなか敬遠だとは認めようとしない。一点リード、しかもノーアウトというのももちろんですが、何度も全国優勝の栄誉を手にしている高校野球史上最強バッテリーに対する敬意というか過大気味の評価があってこその感覚なんでしょうね。

・ボール球を続け、敬遠と見せて勝負に行く策をとった明訓バッテリーは、狙い通り球道ををツースリーまで追い込む。最後の決め球をシゲ監督以下全員が一番得意のシンカーと読み、実際山田もあえて「見え見えのシンカー」を指示する。
里中がシンカーを一番得意としてるという設定はここが初なのでは?里中の決め球というと高二春信濃川戦で会得した「さとるボール」が真っ先に浮かびますが、もしかしてここで言うシンカーはさとるボールのことなのだろうか。さとるボールはシュートともシンカーとも説明されてるので、ありえるような気もします。しかしさとるボールならさとるボールと言いそうなものだしなあ。

・里中の投じた球を見据えながら「落ちろ・・・」「よし落ちた!!」と思っている山田。一番得意の球を、自分で指示しておきながら、ちゃんと落ちるかどうか山田がこんなに不安そうなのは、頭と足をケガしている里中がすでに限界近いと踏んでいるからですね。「最高のシンカーだった 今の里中にあれが投げれるのかと思うほど」というモノローグもそれを示しています。
ちゃんと投げられるかと心配しつつ、それでもきっと大丈夫だと信じてサインを出す。山田の里中の力量・根性への信頼感がうかがえます。

・里中最高のシンカーを球道は見事ホームランに。前回ホームランを食い止めた蛸田が今度は取れずにホームランになったというのがことさら皮肉です。

・最高のシンカーを打たれ、力尽きへたりこんだ里中。そんな彼を心配し内野陣がマウンドへ集まってくるが、彼らが何も言わぬうちに立ち上がった里中は「檄などいらない!!もどれ!!こんなことくらいでつぶれて 何が小さな巨人だ!! 最後までいくぜおれは!!」と叫ぶように言う。ピッチャー返しを止めに行って頭をケガするシーン、足をケガするシーンに並ぶ青田戦のハイライトというべき場面。言葉の内容も両手を水平に振り回して皆が寄ってくるのを拒絶する身振りも、心配してくれている仲間たちに対してなかなか失礼ではあるんですが(里中が見るからにがっくりしてたのが原因なんだし)、その失礼さも含めて里中の投手としての誇りが感じられて大好きな場面であり台詞です。

・上の台詞に続けて「こんなもの巻いてるから気合いがのらないんだ」と頭の包帯までむしり取ってしまう。身体的な限界が来るたびに、先には仲間のフォローによって、今回は自らの負けん気によって、気力で甦ってくる。
この直後、5番の横田に投げるシーン、高々胸まであがる左膝と足を踏み出す瞬間の力強いフォームをしっかり描いていて、一たび崩れかけた里中の強さを思わせます。シゲ監督の「完全に息を吹き返したぜ・・・・・・ すげえチビよ」という青ざめながらの感慨も、里中ファン的には嬉しいかぎり。

・岩鬼は球道がわざと投げた悪球を特大ホームラン。この打席では岩鬼に負けたことをいさぎよく認め、先の岩鬼に倣って土下座した球道。その男っぽさを岩鬼は称えてやまない。それを受けて「へえー おまえが相手をほめるかね」「あいつに対してならこんなセリフも素直にでるのよ その点じゃ今日のおまえもたいした男よ」なる会話が里中−岩鬼間で交わされる。
里中も言う通り、他人のことは片っ端からけなしてまわる岩鬼が球道を、そして里中を評価してるのが、そして二人の仲良しっぷりが嬉しいです。また里中はケガにもかかわらず明るくおどけたような笑顔を見せている。岩鬼のホームランで再び一点リードして気持ちに余裕が出来たのもありますが、岩鬼と話してると明るく強気な自分でいられるんでしょうね。

・150キロは出てるだろう球道の速球を前にあえなく三振した里中は、ベンチに戻ってから「山田だ 今の中西は山田しか打てない・・・・・・山田が打てば攻撃の勢いを止められる」と語る。あれ?さっき岩鬼がホームラン打ったばっかじゃん?と思ったら案の定「今の中西は山田しかなんやて すでに打ってるわいがいるんじゃ 軽はずみなことぬかすな」と当の岩鬼に突っ込まれてました。「だ だからそのあとの打者のことよ」と里中もあせり気味にフォロー。あいかわらずの山田への盲信が出た感じの場面。

・球道の打席を前に土で額の血止めを行う里中。「なんと今度は土を傷口にこすりつけて 額の血止めです すさまじいファイトです」と実況。これ衛生的に大丈夫なのかなあ。試合後によく顔洗わないとですね。

・球数なげさせて四球もらえという岩鬼の言葉に「ブ ブジョクー」といいつつも「5三振にブジョクなんざああらへん」と言われて「だははは 当たってるからくやし〜〜」と笑えるのが三太郎。この時岩鬼のハッパがぐいっと伸びて三太郎の背中をどついてるのが可笑しいです。

・高代のプッシュを見破った空草の好判断に球道大喜び。実況も言う通り、球道がここまで手放しに喜んでいるのは珍しい。青田のチームワークが感じられます。

・16回裏、里中が3球全部処理(バント、バント、ピッチャー強襲ライナー)。「両ヒザをつくも里中くんガッツポーズだ そしてほえる〜〜」(実際里中が「うおお〜お」と吼えてる)。もはやキャラが違う。対戦相手の球道にだいぶ感化されてるんだろうか。

・17回表、空草が球威の落ちている里中のカーブを狙い打ち。センター前に抜けるところをショート高代が飛びついて止めるファインプレーを見せる。ふらつく里中を「里中さんツーアウトツーアウト」と笑顔で励ます高代。この試合、下級生たちが皆守備で活躍している。五人衆以外のナインが頑張ってるのを見るとなんだか嬉しいです。

・上のプレーを受けて「エース里中くんは傷だらけでもバックは元気です」と評する実況。対して山田は「いやそれも里中がよくがんばっているからだ・・・・・・・あとひと息だぞ」などと考えている。
後輩のファインプレーも里中の功績になってしまうという・・・。里中も超山田中心主義ですが山田も負けてませんね(ピッチャーを支えたいという思い、ピッチャーの人柄や行動がナイン全体の士気に影響するのは確かでしょうが)。お互い惚れきってるからこその最強バッテリーということか。

・三太郎「さとる守るぜ打たせろーー」、蛸田「里中さんがんばっていきましょ」と声をあげる外野陣の中、渚だけは何も声をかけない。春の甲子園前に里中と衝突したりはしてても、里中との別れ、里中復帰時の反応を見ても渚は里中を決して嫌ってるわけじゃない。これは渚自身が本来ピッチャーであり、センターはあくまで(予選大会での連投による肩の疲労とセンター香車が怪我でリタイヤしたための)臨時のポジションという気持ちがあるために、「投手のバックを守る」という感覚が薄いための反応じゃないかと思います。

・18回表は3番里中の打席から。当初セーフティーバントを狙っていた里中ですが、球道の投球練習(最後の一球が豪速球)を見て、真っ向勝負に切り替える。いかにも勝気な里中らしい行動に燃えました。
球道の投球練習から実際の打席第一球に至るまでの里中の表情を細かく追って、彼の心理の変化をじっくりと描く。この頃の水島先生の表現力は本当素晴らしいと思います。

・球道の第一球を真っ向から打ちにいった里中が金属バットをなんと真っ二つに折られる。木製バットならまだわかりますが、金属バットが折れるってありうるのか!?と非難もされているシーンですが、ネットで見かけたところだと、当時本当に金属バット(不良品)が試合中に折れる事故があったんだとか。時事ネタを織り込んだ場面ってことですかね。
ともかくも頭と足にケガを負っている里中にとってはこれは相当な衝撃だったはず(監督や後輩たちにも心配されている)。最終回のマウンドを前にまたも傷を深めてしまいました。

・続いて山田の打席。球道の渾身の一球を一本足打法で見事ホームランに。ここで山田を奮起させたのはやはりすぐ前の打席で里中が見せたケガ人らしからぬ全力のスイング+それが報われずかえって傷ついたことでしょう。里中の頑張りを無駄にしたくない思いが、値千金のホームランを生んだのだと思います。

・岩鬼のファインプレーでまずは3番才蔵をアウトにとり、4番球道の打席に。「里中悔いだけは残すな」と声をかける山田。これは敬遠や逃げの投球など考えるなという激ですね。その後の投球内容の打ち合わせを見ても一切逃げの要素のない真っ向勝負。
一点リードしている余裕があるとはいえ(ランナーがいないのでホームラン打たれてもまだ同点ですむ)、ケガで限界も近い(むしろ限界を超えている)里中には酷ともいえる要求。それだけ里中の気力を信じてるし、彼のプライドを大事にしたいと山田が思ってる証拠です。

・球道に対し第一球を振りかぶる里中。左足にズキーンと痛みが走りながらも、右膝は一際高く胸の上まで上がっている。いかにこの打席に最後の力を賭けているかが伝わってきます。

・山田の指示通り投げたシンカーを球道は強打。ストレートが来ると思っていたためスイングが泳ぎながらも一塁のラインぎりぎりを抜けてライトファール地域の一番深いところまで転がるゴロに。ライト蛸田、セカンド殿馬、サード岩鬼、と全員が無駄のない守備を見せながらなお、球道の足と勝負強さが勝って三塁打になってしまう。
しかしケガでグロッキーなところへ山田の指示した球を打たれた、という状況にもかかわらず二年春土佐丸戦のように里中が山田への不信感に苛まれることはない。里中の精神的な成長を感じます。

・スクイズを警戒して5番横田を4度のウエストボールで出塁させ、さらに6番勝又にも初球ウエスト。はたしてどこでスクイズをかけてくるのか。山田と大下監督の息づまる読み合い合戦。そのさなか「わかってるづらか ダブルスチールの気配があるづらぜよ」とさらりと声をかける殿馬。それを聞いた里中はプレートを外し、山田は「うっかりしていたそれがある」と息をつき、大下はサインを変える(先にはダブルスチールのサインを出していた証拠)。結局一番読みが深いのは殿馬ということですね。
その後にも一塁ランナー横田のそばで「走りたがってるづらぜ一塁ランナーがよ」と囁き、その反応で「サト スチールはねえづらぜ」と見抜く。弁慶戦を彷彿とさせる、“山田以上の癖者”ぶりを発揮しています。

・里中が一塁ランナー横田、三塁ランナー球道、大下監督の三人に順に視線を当て、正面の打者勝又を見るコマの描き方。ページ中央に里中の全身(セットに構え俯き加減で帽子で顔隠れている)、5段のコマ割り、四段目は断ち落としで全身像の足元(マウンド)を描き、他は4×2コマで里中の顔アップ(視線の方向が全部違う)と彼の視界の青田サイドを描く。この1P、レイアウトがすごく格好いいです。

・結局八球続けてのウエストで勝又まで歩かせ、ついにワンアウトフルベースの大ピンチに。鉄五郎は「八球つづけてウエストは並の度胸じゃできない・・・・・・」と山田の大胆なリードを褒めていますが、こんな無茶なリードに耐えるピッチャーも並みの神経じゃ務まらない。山田に対する絶対的信頼があればこそですね。

・7番水田の打席。山田の意表をついて初球からスクイズ。結果は正面に転がってきた打球を取りに走った里中が一か八か飛びついてのグラブトス→ホームに足を着いたままめいっぱい体を伸ばした山田が見事にキャッチ、という流れでランナー球道をフォースアウトにとる。
山田の八球ウエストによる満塁状況と、初球にカーブを要求していた(当てるのが精一杯だったため打球が里中の正面に転がってしまった)ゆえのファインプレー、ということでウエスト読み合戦に負けた山田に花を持たせる展開に。同時に足をケガしている里中が、それでもバントを処理できるだろうとの信頼をもってた証でもあります。

・ツーアウトフルベースで8番近松。ここでついに里中が山田のリード(ストレート)に首を振る。ここまで山田のどんな無茶に思えるリードにも決して首を振ることなくきた(それが良い結果に繋がってきた)里中が最後の最後で山田に不信を示した。これは打たれるなーという悪い予感を抱かせる場面です。

・結果近松の、というか彼にアドバイスした球道の読みがあたり、もろにカーブを狙い打ちされてセンター前ヒットに。しかもピッチャーライナーが抜けてしまったという里中には二重にショックな展開に。右側(グラブと反対側)にとんだ打球だけに仕方ないともいえますが、投げた球がカーブだっただけにストレートよりは体勢を立て直す時間があったはずなのに打球が飛んできた時点でまだ投げ終わった直後の前傾姿勢のままだったのはやはり油断でしょう。ミソがつくときって何重にもミスが重なるものなんですよね・・・。

・「渚くんバックホーーム さあー肩はいいぞ 投手出身だ〜〜〜」。まるで投手から転向したかのような表現ですが、臨時のセンターじゃなくて本当に転向?腕が上がらないのは重傷だったのだろうか?だったらバックホームなどますます無理なように思えますが、『あぶさん』によると投手としては肩がダメになっても野手としてなら強肩で通るらしいのでそういうことなんでしょうか。この疑問は『プロ野球編』の1巻を読んだ時点で解決しましたが(渚は次期エースとして練習に励んでいる。やはり一時のセンターだったらしい)。

・二塁ランナー勝又、三塁を蹴り本塁へ突入。足からのスライディングであわや逆転、というところを一瞬早く返球を受けた山田は勝又と激突し、スパイクが当たったらしい左太ももに血を滲ませながらもボールを放さずホームを死守する。初の全国優勝を決めた高一夏いわき東戦ラストを彷彿とさせる見事なプレー。
その直前に返球をカットに入った上下に「ノーカット」を叫んだ判断も見事でした。ここでカットしていたらタッチの差で返球より早くホームインされていただろうから。これについてはノーカットでも山田がほぼ正面でキャッチできるコースに球を返した渚の功績も大きいと思います。

・「里中やった〜〜引き分け再試合だ」。左股から血を流しながらも全く苦痛の色を見せず、両手を高く上げて喜んでみせる山田。山田のサインに首を振り自ら選んだ球を狙い打たれた里中のショックを真っ先に気遣う恋女房っぷりに胸打たれます。
「どうしておれはおまえのサインを信じなかったのだ」と愕然と膝をつく里中に「ねらい打たれた会心の当たりのおかげで打球にスピードがついたんだ ホームで殺せたんじゃないか」とさらにフォローする。落ち込む里中に追い打ちをかけるような岩鬼の「捕手を信用せんで何がエースじゃい」発言も「里中ナイスピッチングだ 岩鬼ならとっくにギブアップしてるところだ」とさらにさらにフォロー。引き上げるときも後悔に目を伏せる里中の肩に励ますように手を置いてたり。本当に人間が出来てます山田。

・第二試合(花巻対紫)は4時開始。明訓対青田が延長18回の超長丁場だったため開始時間が大幅にずれ込んだわけですが、何かしら支障が起きなかったんでしょうか。『おはようKジロー』で、前の試合が長引いて開始が遅れたことに客席ブーイングの話がありますが、両校の地元の人間がはるばる東北から日帰り予定で応援に出てきてたりしたら・・・彼らにとってはまったく迷惑な話ですよね。

・明訓対青田の長い試合にひとまずの決着(引き分け再試合)がついてエピソードがいったん幕を閉じた次の話は、いきなり巨人のユニフォームを着てマウンドに立つ里中の姿から始まる。次のページを見れば、「ああ夢だな」と見当がつきますが、1ページ目は何事かとびっくりしたもんだ。

・夢の中の実況によると里中と山田はともにドラフト一位でそれぞれ巨人と西武に入団したとか。ドラフト一位入団という図々しい設定とか山田が一年目から4番打ってるとかは夢の中だから無理ないとしても、里中は本当なら巨人に行きたかったんだろうか。
山田が西武設定なのは、山田と戦うなら日本一を競う最高の舞台=日本シリーズがいい→自分は巨人(セ・リーグ)なので山田はパ・リーグ設定でないと→パで一番日シリに出る確率が高いのは西武、という発想からだと思いますが、のちのち『プロ野球編』で本当に山田は西武に入団するので(ドラフト一位で)、山田に関しては予知夢になってますね。元西武の清原選手の発言が『プロ編』執筆のきっかけになった経緯からするとこの“山田西武”設定はこの時点で『プロ編』の構想があったからではない。すごい偶然です。

・青田戦の幕切れ同様二死満塁のピンチから捕手のリードに首を振って投げたカーブで、今度は山田に逆転ホームランをくらう。自分の判断ミスで同点再試合になってしまった悔しさが夢にまんま反映していて、改めて里中のショックのほどが伝わってきます。
打球がライトゴロではなくホームランというあたりは山田=ホームランバッターという頭があるからでしょうが、それにしても事実どおりの近松や青田随一(唯一)のホームランバッター球道に打たれるんならわかりますが、恋女房山田に打たれる夢とは。どたんばで山田を信じなかった罪悪感がこういう形で現れたんだろうけど。

・ホームラン打たれたところで目を覚ました里中は改めて後悔の念を噛み締める。まだ眠りこけてる仲間たちの顔をみながら「たった一球のわがままが疲れきった仲間たちにもうひと試合よけいにさせることになった」と考えていますが、試合中は結構我が儘を通したりするイメージの里中が、存外仲間思いで常識人なのがこの台詞から感じとれます。

・里中同様土壇場でキャッチャーのサインに首を振ったために敗れた花巻高校の太平洋を「まだまだ未熟者」と監督が評したのに対して山田は「キャッチャーだって考えてリードしているつもりでも単調になり それに気がつかない場合がありますから」「そんな時に投手が首を振ったらぼくはその首振りを信頼します」(p81) 「監督 首を振るくらいの投手でないとやっぱり勝ち抜けませんよ」と何重にも洋を、ひいては里中をかばう発言をする。ここでも恋女房らしいフォローが。

・自分を怒るどころかかばう山田の発言、「おんどれらひと試合よけいやれるっちうことはもう一回テレビに出れるっちうこっちゃで こんなチャンスおんどれらにゃ二度とないんやでよろこべアホ」と後輩らに言う岩鬼や「だけどうれしいな もう一日甲子園にいれるんだもんな 再試合は正解だよ」なる上下や高代らの発言を聞いて、誰も自分を責めず再試合をむしろ喜んでさえいるのを物陰から見てホッと胸のつかえを下ろす里中。チームメイトがいい人ぞろいで良かった。実際に岩鬼が言ったとおり彼らは甲子園にもう一度行くことはかなわなかったですね・・・。


(2012年3月30日up)

 

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