高三夏・青田再試合〜決勝前夜

 

『ドカベン』から通しても初の再試合。延長18回の激闘の翌日の試合はどちらのチームにも体力的にきついでしょうが(春ならまだしも灼熱の夏の甲子園だし)、やはり一番懸念されるのは頭と足にケガを負っている里中のこと。頭部負傷だけだった一年夏決勝でさえ雨で一日順延になったから登板できたわけで、今回は間を空けずしかもケガも二ヶ所。こりゃどうしたって明訓不利――と思いきや、一球さんの秘薬で里中のケガは快癒してしまう。

一年夏や二年春のようにケガ設定を翌日にひっぱらず、相手が同じ青田だけに今度は明訓ナインにケガ人なしの万全の状態での対決を描こうということか――と思いきや、またも予想は裏切られ、里中はケガこそ治ったものの18回を投げた疲労は蓄積したままで、5回からの登板にもかかわらず途中から半病人モードに。無印ではケガによる不調は多かったものの疲労やスタミナ切れに悩まされることは(意外にも)なかった。『大甲子園』では地区予選決勝(白新戦)とこの準決勝再試合、二度にわたって里中が疲労でふらふらになる展開があり、やはり一ヶ月の完全ブランクは大きかったのかと感じさせます(高二春のケガの時も夏の地区予選第一戦―明訓はシードだったので実質は二回戦―まで休部状態でしたが、ランニングなどケガに障らないトレーニングは行っていたので完全ブランクではなかった)。

さて肝心の試合内容ですが、全体に無印に比べて大味の印象のある『大甲子園』のなかでも、とりわけ大味の感がありありでした。なにせ前日の試合が18回もやっているわけで、かなりの展開を書きつくしてしまったというか。そこでダレるのを防ぐために多分にケレンあふれるプレーが序盤から続出することに。まずいきなり本来ならデッドボールになる球を岩鬼がプレイポールホームラン。悪球打ちの岩鬼だから狙って打ったならわかりますが、単にボールをよけるためとっさに出したバットに当たった球がスタンドに入ってしまったという・・・。球道も言う通り「岩鬼はよけただけ」なのに。山田や里中と一緒に読者も笑うしかない感じです。さらに続く殿馬の秘打、とどめは山田が球道のすごさのあまり幻視?する「鉄人」球道。球道がロボット的なボディで巨大化してるこの絵柄なんとも評判悪いですが、『ドカベン』シリーズで誰かの偉大さに動揺すると相手が巨大化する(して見える)演出はこれが初出ですかね(『プロ野球編』で気が大きくなったとたん当人が巨大化するというのもあった。心象風景を視覚的に示してるのはわかるんですが・・・)。

加えて5回裏からマウンドにあがった里中が、間もなく知らされた母の容態急変によってかえって発奮し、前日の疲労から球威がだだ下がりだったはずが球道も警戒するようなすさまじいピッチングを見せる。電話を通しての里中の懸命の呼びかけに加代が意識を取り戻し、母を励ますためにも自分は試合を続けると里中が宣言するくだりは感動的なんですが、そのぶん里中の投球内容が山田のリードなど関係なく「気迫」ですまされてしまうというこれまた大味な展開に。ここで気力をふりしぼった分、急に暑さが増したときに一気に疲労が来た里中がガタガタになるのも自然な流れではあるものの、最初から最後まで里中の心身のコンディション中心で試合が進んでいくのは、主人公誰だよ、とツッコみたい感じはありました。

まあ里中ファンとしては彼中心の展開は美味しくはあるんですが(笑)。とくに前半、里中がサードを守るくだりには、里中が好守備を見せる場面が好物の私としては大いに燃えました。ピッチャーゴロを岩鬼に代わって巧みに処理する場面、岩鬼とのコンビネーションプレーで球道を刺す場面の連続にはシビれたものです。その後はノーコン岩鬼が四死球を量産するだけに、あまり守備の見せ場がありませんでしたけど(苦笑)。
無印でも里中がピッチャー以外をやることがまれにありましたが、高一秋の甲府学院戦で身勝手なプレーを戒めるために岩鬼と交代でサードに入らされた時、太平監督の謎の采配で基本ライトを守らされた高二春の花巻戦の時どちらも、ショックを受けてたり不満たらたらだったりしたのに、ここでは「岩鬼 投球に困った時は三塁に打たせろ 全部アウトにしてやるぜ」と威勢よく宣言してるくらいで、サードを守ることに不満を持ってる様子はない。球道が「先発をとられた里中の目」に言及してたくらいで悔しい思いはあるんでしょうが、あくまで監督が自分の体調を気遣ったうえで岩鬼先発と決めたこと、実際自分が本調子にはほど遠いことをちゃんとわきまえてたゆえでしょう。こういうところも無印時代に比べて大人になったなあと感じます。

ちなみに一つ残念な点をいえば、加代さんが再登場したことで、「ここで荒木との兄弟疑惑の真相が彼女の口から語られるのか!」(先には記者も訪ねてきてた描写があるし、危篤寸前までいったことで今のうちに息子に真実を言い残しておかないと、と彼女が考えてもおかしくない)と期待したのが完全にスルーされたこと。『大甲子園』ラストまで里中と顔を合わせるシーンがなかったので直接真実を伝えることはできないにしても、「勝ち負けはいいからもう一度太陽に勝ってちょうだい」や決勝戦の「あの子の汗です」のあたりで心の中で里中に呼びかけるような形でそのへん語られるかと思ったんですけどねえ。


・再試合開始前のグラウンドでの練習。岩鬼をバッティングピッチャーに打撃練習をする面々。球道の速球に対応するためのトレーニングですが、高代が「でも中西はもっとコントロールがいいっすよ 岩鬼さんこわいっすよ〜〜」と目を回しつつ突っ込みも入れる。あの高代が岩鬼にも結構はっきりものを言うようになったなあ。

・解説者は交代して八戸の生んだアマチュア野球の球聖東野忠さんがつとめる。この人も茜リーグの関係者だったりするんでしょうか。東野発言「ただ岩鬼くんなら明訓には二年生の渚くんという好投手がいますでねえ」。やはり渚はちゃんとピッチャーとして認識されてるんですね。

・デッドボール必至と思われる暴投?を岩鬼はとっさにバットでよけるが、結果バットにあたったボールがそろそろと空に上がりなんとレフトスタンドへ入ってしまう。大下監督のいうとおり「そんなバカなことがあるかい」。山田と里中も信じられなさ過ぎて、そろって引き攣った笑いを浮かべています。

・岩鬼につづき、いつになく左打席に入りしかも右で打とうとする殿馬。2球目を叩いた結果、完全にファールと思った打球が極端にスライスしてフェア地域へ。このボールを球道は後方宙返り?で見事にキャッチ。実況のいうとおりまさに「サッカー野球」。岩鬼の打席といい、しょっぱなからケレン味ありすぎです。

・一回表、里中セーフティバント、しかしぎりぎりアウト。このときセーフのポーズで一塁に走り込むのが(笑)。アウトと聞いたとき、足が早いと抗議しながら一塁を勢いで行き過ぎ前のめりになって地面に手をついて体を支える3コマの動きにリアリティがあります。その前はさながら野球拳のようですが。台詞?も「アウト」「セーフ」だし。

・先発岩鬼が投球練習を開始。速いがノーコンの球が山田のミットをはるか外れてバックネットにぶつかる。しかも三連続(一回目の時バッターボックスからすっとんでる足しか見えないバッターは誰だろう)。最初は「コントロールがない」と笑っていた青田勢もあまりのノーコンぶりに「(ぶつけられて)こ 殺されるぞ」と青ざめる。あそこまで大ボールだともはやデッドボールにもならない気もしますが。ミット伸ばしながら取れずに照れ笑いしてる山田の表情がなんか可愛いです。

・審判はプレーを宣言したと思ったらすぐにタイムをかける。タイムをかけたのが誰なのか実況もしばし戸惑う。結局山田が座らない(岩鬼がノーコンすぎて立ったままキャッチャーしようとしたため)のが原因だったわけですが、5回裏の“里中登板そうそうタイム→誰かかけたタイムかわからない”件の伏線(5回裏の時にまた大したことじゃないと読者を油断させる)効果を出しています。

・「第一球は中日ドラゴンズは小松〜〜 昭和60年時」などと叫びつつ投球する岩鬼。中学時代を彷彿とさせます。キャプテンになってずいぶんしっかりしてきたようですが、こういうところは変わってないですね。

・コントロールが悪すぎる岩鬼のボールに脅え、結果インコースの球を転がってよけてストライク取られてしまう空草。球道は「空草怖がるな 頭に当てられたらこのオレがだまっちゃいね〜〜ぜ当て返してやる」と激を飛ばすが、いくら仕返ししてもらっても頭に当たったらただじゃすまないんじゃあ。と思ってたら空草自身も「仕返しするということはその前におれが死んでるってことじゃんか」と内心ツっこんでいました。頭に当たるイコール死ぬになるのね岩鬼のボール。

・空草が三振で引っ込んだあと、打席に立った二番えーじは「ノーコン大歓迎だ こいやこいや」と勇ましい。さすがは札付きの不良少年だっただけあります。結果ワンバウンドながらデッドボールを食らうはめに。前日の試合でも里中に二回デッドボールを食らっているし、踏んだり蹴ったりですね。

・里中がピッチャーゴロを岩鬼の代わりに取って一塁ランナーを打ち取る超ファインプレー。実況が「不慣れな三塁」を懸念してますが全然問題なかったですね。この試合はラストも里中が岩鬼(三塁)をカバーして捕球→一塁送球のファインプレーで幕を閉じている。里中のフィールディングの上手さを堪能できる意味でも美味しい試合です。

・「岩鬼 投球に困った時は三塁に打たせろ 全部アウトにしてやるぜ」との里中発言にこける岩鬼。普段岩鬼に言われてることのお返しですからね。

・四番球道の打球が岩鬼の上に高々と上がる。フライと違ってワンバウンドしているので、急いでキャッチ、送球しないとヒットは確実。ここで岩鬼は自ら踏み台となり里中を空中高く飛ばすことで空中捕球→一塁送球によりあやうくアウトを取る。しかし「サトー まかせた」「生かすな中西のやろ〜〜を」だけで岩鬼の意図を察してとっさに行動した里中はさすがですね。以心伝心ぶりに二人の仲のよさを感じます。里中が岩鬼の背中に飛び乗りスパイクが刺さるときさすがに心配顔になってるのも。

・岩鬼、落ちてくる里中をキャッチ。この時里中はちょっと目の焦点があってないです。空中で思い切り体捻ってそのまま落ちてきてるので平衡感覚があやふやなんでしょうね。岩鬼が受け止めなければ自力では足から着地できず地面に激突してたでしょう。つまりは岩鬼は必ずキャッチしてくれる(背中にスパイク刺さった痛みで悶絶、動けない展開もありうるのに)という確信があったからこそ、崩れた体勢で落ちることもためらわなかったのでしょう。この二人の信頼関係いいですね。

・二人の好プレーの連続に、「投手岩鬼 三塁里中 今まで気がつかなかったけど明訓の理想のディフェンスは実はこの型が正解だったんじゃないだろうか」などと考える山田。里中とのバッテリー解消してもいいのか?だいたいピッチャーが岩鬼じゃリードのしがいがないだろうに。

・笑顔で背中をグラウンドにすりつける岩鬼。アザラシかなんかのよう。「それこそばい菌が・・・・・・」とちょっと心配そうな里中。自分も前日の試合のとき土で血止めしていたくせに。

・これまでの直球一本から一転、三太郎の打席にスピードを抜いたボールを投げてくる球道。しかも三球目はフォーク。三太郎自身はなめられてると感じ、ゴリ監督は体力温存と考えるが、鉄五郎は三太郎の長打力を警戒した結果ではないかと推測。前日の試合ではいいとこなしで実況にも心配されていた三太郎だけに、彼を評価する鉄五郎の台詞が(この台詞が的を射ているのなら三太郎を要注意と睨んだ球道の判断も)何だか嬉しいです。
しかしあれだけのストレートをもっていながら実はフォークも投げられる球道のスペックの高さには驚かされます。カーブについても次の回で高代が「あ あんなの打てるかい カーブ投手でもあんなすごいカーブは投げないぜ」と評してます。里中以上の変化球を投げてるってことですかね?

・なんと12連続ボールでノーアウト満塁となったうえ、次の打者にもノースリーまでいってしまう超ノーコン岩鬼。押し出し一点となるかの一球を投げる直前突如として大地震が。幸い多少人がこけたり物が落ちたりレベルで治まったが、揺れのおかげで岩鬼の投球はストライクとなり、山田は一人地震にびくともせずミットを構えたままストライクをアピール。地震直前の投球のためノーカウントになるだろうと悟ったうえで、岩鬼にストライクを投げる加減を教えようとあえてボールを受けたままの姿勢を保つ山田の冷静さが光っています。
「山田くん 貴重なストライクなのに わ 悪いけどノーカウントだよ」という審判の台詞の、「貴重なストライク」という言い回しが笑えます。実況の『岩鬼くんが先発と聞いた時から何かが起こるとは思ってましたが』という表現もひどい(笑)。

・三回裏、岩鬼ふたたびボールの連続、さらに球道にライト前ヒットを打たれまたもノーアウトフルベースに。里中が岩鬼に何か声をかけてるらしいのですが、「心配そうに檄を飛ばすエース里中くん」という実況の台詞とまるで不釣合いな浮かれた表情とポーズ。全然心配そうに見えないです。

・5番横田のライトフライ。蛸田がキャッチした瞬間に二塁ランナー才蔵・三塁ランナーえーじがタッチアップするが、実は蛸田はグラブで取ったふりして取らず、数瞬後に左手でキャッチするトリックプレーを行っていた。そして蛸田→殿馬→里中とボールを送りアピールを行ってトリプルプレーに(捕球前にランナーが走った、すなわちタッチアップなしの走塁という反則プレーになるので、ランナーのいた2、3塁に送球しアピールを行えばランナーはアウトとなる)。このとき、殿馬「アピールづら」、里中「アピール」と実にわかりやすくアピールしてるのがなんか可愛いです。
それにしてもノーアウト満塁のピンチを一気にチェンジにもっていく、こんな超ファインプレーの立役者が五人衆でなく蛸田というのがいいです。前日の試合ラストでの渚のバックホームといい、二度の青田戦は下級生の大活躍が目立ちます。

・直後「さあー追加点へ 明訓のゴールデントリオ登場!!」との回タイトルが。殿馬、里中、山田がゴールデントリオなんだ、三太郎は入らないんだ。

・なんと殿馬はバットを逆さに構えてグリップで球道の速球をジャストミート。細いグリップに当てることで強振してもセーフティバントのような打球となり、虚をつかれた三塁才蔵が前進してキャッチ、一塁へ送球しようとするも殿馬は余裕で一塁へ到達。殿馬いわく「秘打 回転木馬」。しかしこの名称、すでに二年春の大会、対江川学院戦のラストで放った秘打に用いられている。そちらは強振するも空振りと見せて、一周したバットでセーフティバントを行うというものでした。今回の「回転木馬」は一塁到達後の殿馬が勢いのままに前方に宙返りを決めてることに基づく名称、つまりは秘打の内容とは関連してないので、江川学院戦のさいの秘打の方がより「回転木馬」のネーミングにふさわしいように感じます。

・ついに観客待望の山田の打席がめぐってくる。バットを一握り余して持つ山田を岩鬼が「それでも明訓の4番かい」「明訓のプライドまで捨てくさるんは許せんど」と叱り飛ばし、山田は苦笑しつつバットを長く持ち直す。高一秋にケガのため土門との真っ向勝負を避けようとする山田を「(勝負から逃げるなら)明日からわいとおんどりゃアカの他人じゃい」と怒鳴った時を彷彿とさせます。
そして今度も山田は岩鬼の言葉に素直にしたがっている。要は岩鬼のこういう負けず嫌いなところ、あくなき闘争心(これは里中にも共通する資質)が山田は好きなんでしょうね。

・上の岩鬼の台詞について「ハッパめよくいうぜ 明訓は山田一人のチームじゃないか」と失礼なことを考える球道。そのハッパにいきなりホームラン打たれたじゃないか。ついさっき殿馬にグリップでヒット打たれたじゃないか。

・球道は160キロ、161キロ、162キロと一球ごとに球速をあげる気合の投球。山田はそれをことごとくファールする。息詰まる両者の攻防は三球目のファールをえーじが飛びついてキャッチするファインプレーにより山田のアウトで決着。しかし誰もが二人の勝負に気を取られるすきに、二塁の殿馬がまんまと三塁を陥れる。この打席、トータルでは引き分けですね。この殿馬の走塁に対し、あきれたような表情の岩鬼のハッパに「せこいのお」と書いてある。この表現方法は新しいな(笑)。

・つづくは五番三太郎の打席。バッターボックスに入る前に「ダテに明訓の五番ははっちゃいないぜ」と気合いを入れてバットを振り回す姿(ここで連載の切れ目)に、前日の試合ではいいところがなかっただけに今回はやってくれるかと期待させつつ、蓋を開けてみれば球道の150キロ(十分すぎるほど速い球なんですが山田の打席での連続160キロ超えの後だけに、三太郎相手だと手を抜いてきたなという印象になってしまう)を勢いよく空振りし、なのに太平監督は手を打って喜びながら「殿馬ナイス走塁」。実は前回での殿馬の走塁はタッチアップしてなかったことが回をまたいで判明する。殿馬が走る場面は一切描かれず三塁到達後に実況の台詞で「このコーフンの虚をついてタッチアップから 三塁へいっています」と説明されたのみだったので、読者の誰も殿馬のタッチアップを疑ってなかったでしょう。なにせ実況アナ田賀谷さんですら気付いてなかったわけだから(解説の東野さんは気付いていて、田賀谷さんを虫も殺さぬ笑顔で「あまい」「未熟」「おろか」「へた」とくさす。なんとミもフタもない(笑))。岩鬼は自分も気付いてたようなこと言ってますが真相はどうなんでしょ?
ともあれこの試合、前回裏には蛸田のトリックプレーに引っ掛けられて青田側がボーンヘッドを誘われアピールアウト→トリプルプレーに取られ、今回は逆に殿馬のボーンヘッドをまんまと見逃し(次の打者である三太郎に一球投じた時点でボーンヘッドのアピール権を失った)、とタッチアップ関係で青田が明訓に手玉に取られてる印象です。同時にかつて高一秋の対甲府学院戦で名手らしからぬタッチアップなしの走塁をやらかした殿馬がここでは確信犯的にそれを成功させているのも何となし爽快感があります。

・殿馬のタッチアップなしの走塁に気付かずアピール権を放棄してしまった格好の球道ですが、「自らのチョンボに中西くん頭をこづきます」のコマがえらく可愛いです。硬派熱血の男っぽいタイプなのに可愛い仕草や行動も似合うのが球道ですね。

・↑の直後、「二塁も三塁も同じこったい!!」と勢いよくふりかぶる球道。しかし三太郎は球道の威勢のよさに惑わされず、「この失態でプライドの高い中西はそうとうカリカリしてるはずだ」と踏んで、球種をまっすぐと読む。そして狙いはドンピシャ。球威に押されてセカンドゴロになったものの、読みの鋭さで面目躍如といったところ。三太郎は無印からスターズ編に至るまで時々山田に匹敵する深い読みを発揮しますね。

・五回裏、岩鬼は連続死球でノーアウト満塁の大ピンチを作ってしまう。しかも次の打者は球道という・・・。そんな状況なのに死球に怒る球道に怒鳴りかえす岩鬼をとりなす里中はごく自然な笑顔。無印の頃ならもっと焦ったり岩鬼にいらついたりしてるはず。彼が岩鬼の底力を信じてるのがうかがえます。『大甲子園』の里中はこれまでに比べ精神的に余裕がある感じで大きく乱れることがないので安心して見ていられます。その分あの特有の危うい色気は薄らいでるんですが。

・岩鬼はあっさり球道も四球で歩かせてしまい、押し出しの一点を与えることに。同点でなおもノーアウト満塁のピンチについに里中が登板するも、投球練習の球の遅さに敵も味方も驚く。一球さんの秘薬はケガの治療には抜群の効能を示しても疲労回復の効果まではないようです。もしタイムがかからずこのまま投げていたなら打たれまくったんでしょうね・・・。

・投球練習を終えた里中がいよいよ第一球を投じようというところでいきなり謎のタイムがかかる。一回裏の謎のタイムを反復しつつ、大会役員に里中が呼び出されるという意外な展開に。この時点で里中呼び出しの理由を見抜いた読者はいたんでしょうか?

・役員にうながされるまま大会本部?に向かう里中は「なんでしょうか?」と役員に問いかける。マウンドを降りたときの「おかしなところからタイムがかかったものだ」といい、ごく自然な笑顔を見せていて、彼が母の身に起きつつあることを想像もしていないのがよくわかります。母の急変を知らされた瞬間の驚愕の表情を見たあとに読み返すと、その無邪気な様子がなんだか切なくなってきます。

・昏睡状態の母に電話越しに必死で呼びかける里中。その叫びが通じ母が目を開ける。青田戦再試合のハイライトの一つというべきシーンです。看護婦さんも甲子園のアナウンス嬢も皆もらい泣き。一方里中は母の意識が安定したのを確認して笑顔で電話を切ったあと、ようやく涙を流す。彼の必死さ、安堵のほどが伝わってきます。プロ編以降は加代本人に対しても「お袋」呼びになる里中が、この頃はまだ「かあさん」と呼んでいるのも初々しくてなおのこと胸を打ちます。

・5番横田は里中の第一球をど真ん中にもかかわらず見逃してしまう。球道曰く「昨日の里中とは別人だ 今の里中のほうがはるかにいい」。投球練習の段階では「小さな巨人は昨日までの里中さ・・・・・・・・・」とまで言われたのに。ほかならぬ球道の評価だけになかなかに嬉しいです。

・7回表、里中の打席。2球目152キロを空振りする里中。ピッチングは気迫で押しまくってもさすがに相手が球道だけにバッティングまでは無理か――と思いかけたら、なんと球道はこれまでは山田相手にしか用いなかった全力投球を里中にもしているそうな。あの野球の天才少年・球道が里中を山田と同等に評価した!里中ファン的には嬉しい展開です。

・7回裏、三者連続三振にとった里中の姿に山田は「いくら暑さが苦手の里中でも五回からの登板なら最後までいける」と考えますが、どうせなら岩鬼の代わりにサードに入れるのでなく直接日光の当たらないベンチで休ませたほうがよかったんでは。そうしてたら急激な気温上昇に見舞われても吐き気に襲われることなく最後まで快調に投げられていたかも。ピッチャーほど動かないとはいえボールが飛んでくれば処理に体を使わなくてはならないし、暑さにさらされるのは投手と一緒なわけで。こここそ控えのサード目黒の出番だったのでは。まあ絶対里中の方がいい守備しそうですし、すでに実績をあげてますけどね。

・7回裏を終えてベンチに戻ってきた里中に監督が「おい里中だいじょうぶか?」「顔色が悪いぞ」と声をかける。山田でさえまだ気付いていない里中の異変をいち早く見ぬいている。この観察力・洞察力からすれば、山田が想像したとおり、気温が急激にあがることも織り込み済みだったのかも。

・太平に指摘された顔色の悪さを、トイレを我慢してたからと言ってごまかす里中。そのままトイレに直行するのだが、「おしっこを」とか「あら〜〜もれそう」とか・・・・・・。発言に気をつけろよ美少年!いかに体調悪いのを隠したいとはいってもねえ。本当に初期の小悪魔的美少年の面影もないです。

・八回裏、青田の打順は4番球道から。山田はきわどいボール球を三球連続で指示。ボール球を打たせて凡打に打ち取ろうという戦術(とこの時点では皆思っている)。しかし左右高低のゆさぶりにもかかわらず球道はボールを振ってこない。ここでさらにボール球を投げるよう要求された里中は見送られてフォアボールになることを一瞬心配するが、「そうか つまりオレが打たなきゃの気持ちが強い中西は少々のボールでも必ず打ちにくる・・・・・・・・・か」と山田の意図を察して納得する。
しかし山田の本心は「今の里中の球威じゃ勝負したら間違いなくフェンスを越される」「とはいえ最初から歩かせるリードをすれば里中のプライドを傷つける」。つまりは最初から敬遠が狙いで、それを投げてる当人の里中にも悟られないよう取り繕ってるという・・・。敵のみならず相方の投手まであざむく山田のリードの巧さと人の悪さが見事。

・しかし四球目からはどこに投げても球道はすべてカットしてファールにする。山田が歩かせにきてるのを見抜いたうえでファールでねばり失投を待とうという作戦。青田ナインも里中自身も見事に騙してのけた山田ですが、一番肝心の球道にだけは狙いを読まれてしまった。ここまでもっぱら正面から打つか打たれるかの勝負をしてきた山田と球道が一種の頭脳戦を繰り広げているのが(しかも真っ直ぐすぎる気性の野球バカ球道の方が優勢なのが)面白いです。

・『苦闘 里中くん ツースリーからねばられること七球・・・・・・・・・次が十三球目です』。トイレで吐くほどグロッキーなくせに、ここまでねばられてもいまだ失投しない里中の根性には感心させられます。高一夏の東海戦で雲竜の三打席目、やはりファールでねばられながら失投なく投げ続けたのを彷彿とさせます。しかしあの時はまさかのフォークでついに雲竜を三振に打ち取ったのに対し、今回は里中の方が根負けして自ら球道を歩かせる決意をするに至るのですが。

・十三球目を投げる前、再び強烈な吐き気に襲われた里中は、ついに自分から「歩かそう」と言う。敬遠を嫌う里中が自分から逃げたのはこの時が唯一では。よくよく苦しかったんでしょうね。ケガの痛みを耐えるのとはまた別種の苦しさであり、マウンドで吐いたりしたら恥だという意識もあったでしょう。全国中継されてるわけだし、それを母親も見てるわけですから。

・かくて大ボールを投げてはっきり球道を歩かせにかかる里中ですが、それすら球道は強引にファールにする。この球道のねばりを鉄五郎とゴリは失投を待ってるのではなく里中を疲れさせて後続が打てるようにするためと判断する。おれが打たなきゃの気持ちが強い球道ならボールでも打ってくると読んだ山田たちの読みは全く外れたことに。
これまで自分が山田に勝ちたいために戦ってきた球道がチーム全体の利益を優先するようになった。前日の試合でチームの勝利のためチェンジアップを投げるよう球道を説得したえーじの思いがここで報われましたね。

・今にも吐きそうな里中にわざと強い送球をする山田。テレビでその様子を見ていた加代は「山田くんの無言の檄なのよ」「いくら苦しくても逃げるなってそう言ってるのよ山田くんは」と里中に語りかける。やはり体調の悪さに気付かれてましたね。加代を励ますためにテレビを置いてもらったのがかえって心配をかけてしまう結果に。
しかし苦しんでいる息子の姿に「もうやめて」「無理しないで」ではなく「苦しくても逃げるな」と呼びかけ、息子にきつい要求を課す山田を支持し「ありがとう」と涙ぐみさえする。この人に育てられたからこそ里中のあの強さがあるんですね。
もっとも里中が小学校時代野球をやりたいと言い出した当初は夏に弱い彼の体を気遣って大反対したというから、逆に加代さんの強さも息子の頑張りと根性を見せつけられることで作られていったのかもしれません。

・そして「勝ち負けはいいからもう一度太陽に勝ってちょうだい」と願う加代。里中が夏の暑さに特別弱い設定は『大甲子園』から(高二夏白新戦などでも暑さによる疲労を懸念されてはいますが、あくまで一般レベルでの暑さへの懸念+ケガからの復帰直後だからという程度のもの)ですが、思えば一年夏甲子園前にも「(大会最大の敵は)灼熱の太陽だ!」と里中自ら語っていた。当時は対戦相手など誰が来ようと関係ないといいたげなこの台詞が実に格好よく響いたものですが、本気で太陽が最大の敵だったわけですね。

・ついに本気で打ちにきた球道ですが、予想外にワンバウンドしたシンカーを空振り→振り逃げで一塁へ向かおうとする。あの球道が振り逃げなんてなりふり構わぬ真似をするとは!自分のプライドを捨ててもチームのため勝とうとする思いがそれだけ強いんですね。
そしてこの時俊足の球道を鈍足の山田が追いかけてタッチアウトに追いこんでいる。走って追いかけたというより猛然と飛びついた感じなので、鈍足でもインサイドワークの得意な山田に有利だったのかもしれませんが、それ以上にこれ以上ファールでねばられて里中を疲労させるわけにはいかないという山田の意地が勝ったということでしょう。タッチアウトを決めた次の瞬間「やったぞ里中」と誇らしげに山田が叫んでいるのに彼の思いのほどがうかがえます。

・九回裏、上下がふらふらと落ちるフライを追いかけ、上を見上げ体が左右にぶれながらもボールに飛びつき見事ダイレクトキャッチするさまが2ページ(縦長の大ゴマ4つ)かけてじっくり描かれる。まるでスローモーションの映像を見てるような臨場感があります。山田が思わず「うまい」と口に出したほどの、地味ながら勝負の要となる好プレー。最後のアウトも(里中の送球が良かったとはいえ)決めたのは上下でした。

・このプレーの直後にマウンドへゆき「里中見直したぞ おまえのがんばりが左右太のプレーをうんだんだ」と声をかける山田。最後の気力を奮い立たせるためとはいえ、上下のファインプレーも里中の功績になってしまう驚くほど里中至上主義の発言。すぐ後ろに当の上下がいるというのに気を悪くするんじゃあ、と思いきや上下は「そうそう」と笑顔でうなづいている。大人だなあ。ついでに「わいの好投をムダにすなや」との岩鬼発言には四死球ばっかだっただろ、とツッコみたくなりました。

・最後の打者、9番飛魚は一球目からセーフティバント。ここで足がもつれたかスタートが遅れた岩鬼に代わり、球に飛びついた里中が一塁へ送球する。すでに疲れもピークの里中が最後の気力を振りしぼっての、というより習性で体が勝手にボールに反応してのファインプレー。
スローイングの反動でそのまま地面に倒れた里中はしばし朦朧となっているので、ここで試合が決まらなかったらヤバかったかもしれない。まさに絶妙のタイミングのプレーでした。里中自身の好守備で一塁アウト→勝利の流れは一年夏の東海戦をも彷彿とさせます。

・のろのろと体を起こす里中は駆け寄ってくる山田を見つつ「だれかこっちに来る」、客席のざわめきに対しても「人がおおぜいいるみたい」などと考えている。山田の顔もわからなければ自分が甲子園にいることも忘れてる。「いるみたい」という日頃にない幼い印象の言葉づかいからも、本当に意識が飛んでしまってるのがわかります。やばいやばい。

・「さあいこーかいあいさつに 試合にゃ負けても男人生の勝負はこれからよ」と笑顔でチームメイトに声をかける球道。こうした爽やかな男らしさはまさしく球道。えーじたちも涙ぐみながらも皆笑顔を見せている。100%の力を出し尽くした実感・充実感があるからでしょう。

・紫義塾高校の門をくぐる謎の人物(その人物目線で景色を追っていくため本人の姿が出てこない)。後からすればこれは影丸なわけですが、「野球部?紫に野球部はないはずだぜ」と謎の台詞を。野球部がないどころか現在甲子園大会の決勝にまで出てきてるではないですか。野球に全く関心のない人ならともかく影丸が知らないわけないでしょ。地区予選決勝で敗退して野球を辞めた後は甲子園大会にどこが出てるかも一切関心を失ったとか?

・明訓対青田の再試合を学校で観戦する紫義塾の面々を訪ねてきた影丸はなぜか黒マントですっぽり体を覆っている。賀間さんかあんたは。だいたい真夏だってのに。

・闖入者影丸を鎖鎌で攻撃する牛之介。鎖を体に巻きつけておいて鎌振り上げて「死ねえ」とはシャレにならない。どうみても本気の顔つきだしなあ。対して影丸は懐に踏み込んで金的に一撃をくらわす。たちまちにして牛之介に同情したくなりました(笑)。影丸も素手でこの攻撃はイヤじゃなかったかなあ。確かに有効だったけども。この牛之介が、そして紫ナインがまさか『ドカベン』新章(ドリームトーナメント編)で再登場するとは思いもかけなんだ。

・影丸がマントを脱ぐとなんと下は剣道の防具姿。「申しおくれたが千葉県クリーンハイスクール三年剣道部主将影丸」。なぜいきなり剣道に転向!?山田に負けて野球に見切りをつけたのはわかったけれど柔道に戻るのでなくなぜ剣道?自分の中で手垢のついてない新たなジャンルを模索した結果なんでしょうか。
しかしつい一ヶ月前くらい、予選大会決勝までは確実に野球部だった影丸がもう剣道部の一部員のみならず主将になっているとは。まあクリーンハイスクールは影丸一年次には新設校だったから、まだ剣道部なくて影丸が作ったのかも。でも三年生なので夏が終わればもう引退なんでは?

・上の台詞に続けて「柔道と野球で山田に挑み勝てなかった男だ」。柔道で影丸と試合ったのは岩鬼で、山田とは直接対決したことなかったじゃん。

・影丸いわく剣道を選んだ理由は紫義塾の剣道部が全国大会10連覇してるので、打倒紫に生きがいを変えた結果だとか。何のスポーツをやるかより「一番になる」ことに重きを置く人なんですね。
これで何故剣道なのかの疑問は解けた・・・と思いきや、「ところが(紫義塾が)この春の大会に出てこない・・・・・・・・・」と続くのが疑問。この言い方だと影丸の剣道転向後に春の大会があったかのよう。あんた春どころか夏の大会まで野球やってたでしょうが。

・扉絵で一人湯船につかる里中の背後に「ケガと戦ってきた里中の三年間 長い三年であったろう それが今 終わろうとしているのだ 明日の決勝が 高校生活最後の試合となるのだ」とのナレーション。もうこれ完全に里中が主人公の扱いですね。

・台風の影響で風が強まってきたのが試合にいかに影響するかを語り合う明訓ナイン。春の甲子園の準決勝・決勝が異常な暑さ→寒さに明訓が一方的に苦しむ展開だったので、また“最大の敵は天候”な展開になるんじゃあと一瞬不安になりました(苦笑)。

・紫義塾の十番目の選手・壬生狂四郎が失った視力の回復のため山に入っていることが語られた後、当の狂四郎のモノローグによって彼と球道との因縁が明かされる。「初めて中西に会ったのはあいつの暴力事件で青田が6ヶ月の対外試合自粛の時だった」。『球道くん』を読んでいる人にはすぐ思いあたるエピソード。さらに桜ヶ丘高校との練習試合の話も触れられていて、『球道くん』ファンには嬉しい展開です。

・進路を変えた台風がなんと関西を直撃することに。明訓ナイン皆が試合延期の可能性を気にする中、体力の戻りきらない里中はできれば順延になってほしいと内心に願う。そんな描写が2ページ続いた後にページをめくると、何と見開きで真っ二つになった吊り橋から転落する狂四郎の姿が。(連載の)前回ラストで「球道 オレは今山を降りる」と球道のためにも明訓を倒す意志もあらわに歩き出す場面が描かれた狂四郎がいきなりこれとは。吊り橋へ到達するシーンもロープが切れかかるシーンも何もなしにいきなり転落場面という簡潔さがインパクトを生んでいます。

・暴風の中「もっと吹きやがれ台風ごときに負けるかい」と素振りする岩鬼の姿に、里中は「なにが吹きやがれだ 人の気も知らないで・・・・・・・・・」とムッとしているのに、同じく山田が素振りしているのを見かけると、「おまえは決勝を明日と決めて気合いを入れている なのにおれは中止を望んでいた・・・・・・まだまだだめだなオレ」と自分の弱気を反省している。同じ行動を取っていても岩鬼か山田かでこの反応の違いは(笑)。山田の言動というのは里中にとってもはや行動の指針になっている部分があるんでしょうね。

 


(2012年4月6日up)

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