高二夏・甲子園前

 

この時期はまさに武蔵坊にはじまり武蔵坊に終わるという感じ。県大会優勝から間を置かずに岩鬼母の危篤→武蔵坊が現れ神通力で命を救う事件があり、日頃傲岸不遜の岩鬼が武蔵坊にすっかり心酔してしまう。これまで苦しい試合ほど岩鬼の破天荒なプレイに救われてきたのに、その岩鬼が武蔵坊の前ではまるで闘争心を失う。これでは岩鬼はなかば戦力外のようなもので、甲子園大会を前に早くも明訓に暗雲がたちこめています。

またこの神通力に象徴される武蔵坊の、異様な存在感と迫力を感じさせる佇まい。弁慶高校自体が山伏の養成校(そんなのあるのか?)という超変わり種で、甲子園まで歩いていくなど常識を超えた行動のもろもろが土佐丸や南海権左以上の不気味さを漂わせている。これほどの学校、武蔵坊ほどの男がなぜ一年の甲子園の時には話題にもならなかったのかと思えば、高校きっての強打者山田の名声に刺激されて急遽従来の修行を脇に置いて山田との野球対決を志したのだとか。関東大会で賀間・影丸・木下の三人が野球に転向してまで山田に勝負を挑んできたのはまだしも個人レベルの話だったし中学時代の繋がりがあるのでわからなくはないんですが、一面識もない山田に(それも全く畑違いのフィールドで活躍してる相手に)対抗心を燃やしてわざわざ野球を始める弁慶高校の皆さんの心情はなかなかに不可解ではあります(三年夏の決勝で戦った紫義塾もこのパターンでしたね)。

ともあれ弁慶高校、正確には武蔵坊を大会きっての強敵と判断した土井垣は、自ら仮想武蔵坊として里中・山田バッテリーに勝負を挑む――という形で武蔵坊攻略の方策を見出そうとする。一年の夏も決勝戦を前に相手校エース緒方のフォークを研究したりしましたが、ここではプロ一位指名の土井垣と夏春二連覇の黄金バッテリーの対決などと言って明訓番記者が騒いだためにえらく耳目を集めるはめに。
しかしこの対決、土井垣は里中をめった打ちにしてナインにも見学者にも“里中に武蔵坊は抑えられない”というマイナスイメージを植え付けただけで、肝心の“じゃあどうすれば抑えられるか”については何の対策も講じていない。何のための対決だったんだ。結局、“武蔵坊はすごい、その武蔵坊を想定したバッティングで里中を打ち崩した土井垣もすごい”で終わってしまった気が・・・。

かくてこれまでの夏春にはなかった重苦しいムードを背負ったまま明訓は甲子園入りすることに。ただでさえ主力メンバーはすでに甲子園三回目で高揚感が薄れがちだというのに。新幹線の中で徒歩で甲子園に向かう弁慶ナイン(の一部)を目撃してしまったり、ついでに不吉の象徴・南海権左に会ってしまったり(本人いわく山田の応援だそうですが。本当に素直に応援してくれてた)、最初っから負けムードが濃厚です。一方で新大阪駅に溢れるファンを避けるために急遽京都駅で下車するなどまさに人気は頂点。周囲の盛り上がりと当人たちのテンションがまるで合ってないのも切ないところです。


・県大会優勝の直後、合宿所に岩鬼の母危篤を知らせる電話が入る。決勝打となった岩鬼の不可解な(悪球でもないのに打てた)ツーランは、危篤に陥った母の命と引き換えの奇跡だったかと納得。いや納得してる場合じゃありませんが。

・母に見せるための優勝旗を片手にタクシーに飛び乗り、渋滞で足止めくった後は裸足で道路を駆ける岩鬼。そして病院にたどりついて言う台詞が「金はなんぼかかってもかまへん おふくろを助けてやってください」。決して親子仲がいいとはいえなかった、幼少期から自分を兄たちと比べて差別する母に内心反発も抱いていた岩鬼が、こうもストレートに母子の情を示す。この曲がったところのない素直な心根が岩鬼最大の長所でしょう。

・末本病院の医者は岩鬼に「金などいい 君だけは必ずくると思っていたよ そ それだけで十分じゃ」。この医者は岩鬼と面識があるのか。あるいは常勝明訓の第一打者&三塁手として名高い岩鬼の、メディアを通してのイメージからの類推か。

・再び母親が発作を起こし、夜までも持たないかというところへ武蔵坊が訪ねてくる。「岩鬼くんのご母堂がご病気ときいて参じた」「岩鬼くんの大ホームランに感動したそのお礼に」だそう。岩鬼最終打席の段階では「でくの坊」なんて言ってたのに、逆転ツーランですっかり岩鬼の評価が変わった模様。岩鬼母の病気をこんなに早く知ったのもすごいですが、あの武蔵坊ならそんなこともあるかと納得してしまう。たぶん岩鬼の健闘をたたえるために明訓の合宿所を訪ねていって事情を聞き知ったとかなんだろうけど。

・岩鬼母のベッド横に立つ武蔵坊の大ゴマ(1P分)。手前に見える握り締めた左腕の逞しさと質感がすばらしい。顔の影の入り方にも迫力がある。武蔵坊の容姿はずいぶん劇画調ですが、この男の佇まいにはそれが似つかわしい。

・ミーティング中「散歩でもしてこい」「プロ級の男におれたちの相談ごとはきいてられんだろうからな」と暗に岩鬼を追い払う土井垣。岩鬼を引き止めようとする山岡に「よせ山岡 岩鬼はいない方がいい あいつの前で武蔵坊の話はやりにくいよ」。
扉を閉めた岩鬼は土井垣の声が聞こえてたのかどうか「すまねえどえがき わいはつらいんや恩人をおとしいれる話をきくんが・・・」。武蔵坊を母の恩人だと敬愛する岩鬼の気持ちを思いやる土井垣と、そんな土井垣の心遣いを理解し感謝とすまなさを同時に覚えている岩鬼。二人の相手に対する思いやり、とりわけ日頃破天荒・無神経と見える岩鬼の洞察力に胸をつかれる気がしました。地味ながらとても好きなシーンです。

・里中の投球を見た大沢監督は「ほお〜〜いいタマ投げるぜ こいつも日ハムがいただきよ」なんて言ってますが、この話は結局どうなったのだろう。日ハムは里中指名しなかったじゃん。まあ里中ドラフト時には(時代がとんだために)すでに大沢さんが監督じゃないですからね(苦笑)。しかし一球見ただけでうちのチームにほしいとプロ球団の監督に思ってもらえるというのは、里中ファンとしてなんだか光栄な気持ちになってしまいます。

・久々に(里中入部直後のバッティング練習以来?)打者として里中に対した土井垣は「おまえ しかしよくこんなすごいタマを二本もホームランしたな」と吾朗に笑顔で話しかける。土井垣の目にもすごい球なのね、とここでも嬉しくなります。しかしこのあたりの里中の褒められっぷりは、「その里中を打った土井垣はすごい」→「土井垣と対等の能力を持つらしい武蔵坊はすごい」にもっていくための布石ですからね・・・。

・土井垣と里中・山田バッテリーの「対決」を見ながら、殿馬は「里中も甘くみられたもんづら 里中はいい投手づらぜ・・・・・そんじょそこらの投手とはちがうんづらよ」と内心呟く。天才殿馬に「いい投手」と言われると説得力があってまたまた嬉しくなってしまう。しかし「里中も甘くみられたもんづら」って、土井垣はドラフト一位で指名されるほどのプレーヤーなんだから、むしろ殿馬こそ土井垣を甘くみていないか。まあそれだけ里中への評価が高いってことですね♪

・三球目で里中の球を大ホームランする土井垣。里中内心「もう打たせん低目に集める」。打球はあっさり場外へ。近所の家の瓦屋根を砕く。山田たちの入部当初を彷彿とさせる光景です。

・「おれが打たれたのは武蔵坊じゃない 土井垣さんだ」。グローブを地面に叩きつけつつ叫ぶように言う里中。武蔵坊にめった打ちを食らったと考えれば、甲子園で弁慶に当たったらまず勝ち目はないことになる。それを認めたくなさに「武蔵坊じゃない」と言い張っている、そういう一面もあるでしょうがそれ以上に、もしめった打ちを食らうとしても土井垣にだったら納得できる、土井垣に負けるなら仕方ない、という心理が働いているのでは。里中が土井垣を慕う気持ちがさらっと描かれています。

 


(2011年4月22日up)

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