高二夏・吉良戦〜準決勝

 

ついにこの大会きってのキワモノチーム・吉良高校との対決。このチームとの戦いが白新戦より後にくるというのに驚きます。白新は三回戦負けで吉良が四回戦ってなあ。まあこれを決勝に持ってこられたんじゃあまりにあまりなので、白新戦と横学戦という本格の名勝負二つに前後を挟まれた四回戦が物語的にはベストポジションかも。

ここまで対戦相手が食中毒やら暴力事件やら暑さ当たりやらで自滅したために、実力に無関係に勝ち進んできた吉良高校はすっかり「南海権左が悪霊を相手に取り憑かせている」と噂に。「吉良高校が」でなく「権左が」になってしまうあたり、主将だからというだけでなく、悪霊を想起させるだけの不気味な存在感を権左が醸し出してるゆえでしょう。
この手のオカルト展開が水島漫画には多い。ずっと正統派の敵ばかりじゃネタが尽きるので間で変格のチームを入れるのはわかるんですが、個人的にはオカルトが前面に出るとやっぱりヒキますね。試合内容に直接かかわってこない限りはそれなりに楽しめるんですが(だから球場入りまでの地震話などは面白かった)多少強引な展開があろうと野球の枠の中で決着させてほしかったと思ってしまいます。弁慶戦くらいのオカルト度合いなら(全体としては名勝負なので)そう気にならないんですけど、吉良戦はオールオカルトだから・・・。『ダントツ』も応援団長?が相手チームに堂々と呪いをかけるオカルト話が出てから急に失速した気がしますし(この「呪い」は相手にプレッシャーを与えてミスを誘おうという主旨のものなので、本当のオカルトではなく心理攻撃の一種なんですけどね)。

そもそも試合の中でこの「悪霊」がどんな役割を果たしたかといえば山田を金縛りにしたことだけ。山田を戦力外の状態に置くのが目的なら「悪霊」ネタなど使わずとも、もともと山田は右手首をケガしてるのだから、東海戦でさらに悪化したという説明で十分だったはず。ケガが原因だと横学戦の最中で起きたような急な復調が望めないからか、あるいは白新戦に関して万全の体調だったにもかかわらず不知火に抑えられたという状況を作りたかったからか・・・。

まあ吉良戦自体はしょうがないとして、その前の白新戦と決勝の横学戦でも権左の呪い話が登場するのは・・・。両者とも非常な名試合だけに、オカルト話のために完成度がいくぶん低まった気がするのがいささか残念です。


・権左の悪霊に浮き足立つ明訓ナイン。「なにをビクビクしてるんだ さあ〜〜練習だ練習だ!!」とハッパをかける山岡キャプテンに「けどパンダよ 練習したかてしゃ〜〜ないで 明日の吉良は野球の試合てなもんやあらへんが」と答える岩鬼。・・・やはり作中世界でも山岡の顔はパンダだと思われてるんだ。しかし仮にも先輩にひどいな岩鬼。

・上のシーンに続けて、岩鬼「悪霊を払うためわいをのぞいた全員がおまいりする方がええで」山岡「岩鬼冗談はよせ」殿馬「なんでスーパーくんをのぞくづら」里中「そりゃ決まってるじゃない 悪霊をもった男が悪霊を払うのは変だ」山田「やった」岩鬼「わりゃ〜〜〜」(殿馬ウインク)といった軽口合戦が展開。殿馬の「スーパーくん」という妙な仇名のつけ方+ウインク(ウインクできたんだ)、冗談口を叩く里中とそれにウケてる山田それぞれが面白い。そんな彼らに「権左も悪霊も関係ない たかだか偶然がかさなっただけだ そのために練習をおろそかにできるか 常勝・明訓が泣くぜ!!」と真面目に喝を入れる山岡さんはさすがにキャプテンだ。

・その日の夕飯。一人ガツガツ食べる(ステーキ、ライス、サラダといった洋食メニュー)岩鬼を無言で息詰めて見守る一同。他校の前例があるので食中毒を警戒してるわけですね。「わ わしゃ毒見か おばちゃんに悪いと思わんか 権左の悪霊が気になるなら食うな食うな」。岩鬼がみなを怒鳴る背景に食堂の奥でうなだれてるおばちゃんの姿が。
さすかに感じるところのあった一同はことさら陽気に、仲根「いただきまーす」里中「おばさんごめんなさーい」と食事にかかる。「おばちゃん気にすなや」「ありがとう岩鬼くんってやさしいのね」 涙ぐんだおばちゃんは、その直後笑顔で「顔に似合わず」とオチをつける。
食堂のおばちゃんたち(以前に、残さず全部食べてくれたのははじめてと涙ぐんでたのは別の人でしたよね?)に岩鬼は人気ありそうです。口ではまずいと文句をつけても実に美味しそうに全部料理を平らげてくれるので作った側としては嬉しいですよね。逆に偏食(魚嫌い)の里中はおばちゃん泣かせなんじゃないかな。
ところでこの場面フォークとナイフが。洗濯は去年夏まで全て手洗い、風呂は今も薪で沸かしてるのに、案外モダンな合宿所の食事風景です。

・吉良高校との試合の朝、地震が起こる。この時土井垣は「おばさんガスを止めて」「みんな窓からはなれろ」と指示を出し、なおかつ悲鳴をあげるおばちゃんをテーブルの下にかばって、「おばさん大丈夫だ テーブルの下に入って」。
この場のトップである土井垣が誰もかばわず自分の身を守るだけじゃ格好がつかない、でも部員の誰を守るのも特別待遇ぽい、ということでおばちゃんをかばう展開にしたんでしょう。結果、土井垣さんのリーダーシップに加えフェミニストぷり+紳士っぷりがよく見えるいいシーンになりました。

・地震のさなか殿馬が窓際に寄って何かやってると思ったらとたんに地震がやむ。何をしたかと思えば掌に「なまず」と書いて握りつぶしたのだと。
センバツの決勝でツーランを打ってこのかた、どんどん格が上がってる感のある殿馬ですが、ついに神通力まで使えるように。まあ殿馬だと特に違和感ないですが。手段がユーモラスなので嫌味もないし。きっと当時の読者で地震に遭遇したとき、このおまじないを試した人いたんじゃないかな。

・地震が終わって出発。山田「今日も暑くなるぞ・・・・・・・・・」里中「だけどうちは暑さで倒れるってことはまずないからその点は安心だ」。この里中の自信の根拠はなんだろう。暑さなら里中が一番やばそうなんだが。

・殿馬が県道の裏を通って球場の裏から入ろうと提案したおかげで、県道で起きたタンクローリーとマイクロバスの事故に巻き込まれずに済む。明訓メンバーは球場に入ってから事故のことを知る。山田内心「やはり殿馬だ!!権左を上回る神通力がおれたちを救ったんだ」。
裏から回るルートを取れば遅刻しかねない(実際遅刻した)のに殿馬の提案が容れられたのは、先に「なまず」で地震を止めた功績があったからでしょうね。

・第一打席。いきなり金縛りになった山田の姿に「珍しいかまえだな」と笑顔を浮かべて暢気な発言の土井垣さん。里中「監督 あ あれはかまえてるんじゃないですよ」。土井垣さんもちょっとあせって「たしかにそうだな まるで金縛りにあってるみたいだ」。里中「いえ金縛りですよ・・・・・・・・・たしかに」。
ここの会話、天然ボケをかましまくる土井垣と内心呆れ気味に訂正をいれる里中という構図が面白いです。里中も半ば以上「山田が金縛り」という非常事態に気を取られてるからあれですが、冷静な状態の時だったらもっとキツいツッコミをいれていたことでしょう。

・「こらあ〜〜代高 ひとのことよりおめえはへたくそなんやさけ戦況をみつめて勉強せんかい」「代高っていわないでください鬼岩さん」「き 鬼岩ってなんじゃいおんどりゃ」。やや引き攣った笑顔ながらも高代も言うようになった。入部したばかりの頃は岩鬼の強権的態度に脅えっぱなしでしたからね。

・相手はど素人チームとあって山田を除いてバカスカ打ちまくる明訓ナイン。その中で山岡は1イニング二打席連続ホームラン。ホームランを打つ役が彼なのはさすがにキャプテン。しかし不良を通り越してヤクザみたいな連中なのに、意外にも出塁した明訓ナインにラフプレーを仕掛けてきたりはしない。ああ見えてもカタギらしい土佐丸と比べてさえ存外クリーン。まあある程度技術がないとラフプレーさえできないか・・・。

・山田は二打席とも見逃し三振ながら、大会役員からは権左の熱射病作戦(相手チームの攻撃を長引かせることで相手を疲れさせる)への対策だと思われている。しかし『四番キャッチャー山田くん さあ〜〜山田です これでおそらくチェンジになるでしょう 期待しましょう』という実況は屈辱だ。
この試合の成績も打率に含まれるわけだから、山田の打率はここで大分下がったはず。逆に山田以外の明訓ナインの打率は急上昇。9回裏ツーアウトのときに土井垣の凡打作戦(わざとアウトになるように打つ)について山田が「まあ仕方ないと思うな・・・・・チーム打率は下がるけど」と話してますが、もうお釣りがくるくらい打率稼いでると思います。

・横学の試合を見て土門にインタビューしてる記者たちには金縛りの話がすでに伝わってる。実況はさっきまで山田の見逃し三振は故意だと思ってたようですが、わかる人間にはわかってたということか。

・準決勝第一試合明訓対川岸商業。山田に代わり四番レフト高代。4の2と大当たり。やるなあ高代。岩鬼に大きな口がきけるようになったのは相応の自信に裏打ちされていたわけか。

・土門は準決勝まで6試合連続ノーヒットノーラン。ということはフォアボールか死球か後逸を必ず一度はやってるわけですね(新聞記事によると準決勝の北見工戦では振り逃げの走者二人を出したのみとある。やはり後逸らしい)。
同記事によれば里中も川岸商に三塁を踏ませぬ完封勝ち。神奈川は激戦区と言われてますが、要は四強(明訓、白新、東海、横浜学院)の実力が飛びぬけてるようです。

 


 (2011年4月1日up)

SEO [PR] おまとめローン 冷え性対策 坂本龍馬 動画掲示板 レンタルサーバー SEO