高一夏・甲子園後〜秋季大会前

 

甲子園初優勝の栄誉を負って意気揚揚と神奈川へ帰還した明訓ナイン。土井垣たち三年が引退するものの野球部の将来は安泰――なはずが、里中の負傷、音楽を志ざす殿馬の退部、暴力事件による岩鬼の謹慎とそれをきっかけとしたレギュラー以外の部員全員のボイコット・・・とこれでもかとばかりの試練が明訓野球部に襲いかかる。

なかでももっとも深刻かつ長く引っ張ったのが里中の故障。頭のケガ自体は一週間ほどで治癒したものの、頭をかばって投げたのが原因で負担のかかった右ヒジの方は医者も民間療法も及ばないほどの重傷だった。山田提唱の「逆療法」に再起の望みをかけるものの、まだ復調に至らないまま秋季大会を迎えるに至る。三年が抜け里中がスタメンに入れない状況で、急遽寄せ集めの新部員で補強した新生明訓はいかに戦うのか。

さらには秋季大会のライバルとして夏にも好勝負を繰り広げた白新の不知火・東海の雲竜に加え、新ライバル土門が登場。なぜ夏の大会に彼が出てなかったかにからめてその鉄人ぶりを語られた、そして微笑三太郎の加入に関連して明訓との間に一応の確執を生じた(人格者の土門さんは少なくとも表面的には恨みを見せたりしなかったので「一応」とした)土門との勝負はどんな試合になるのか。期待と不安をあおりつつ、ついに秋季大会が幕を開けることとなります。


・優勝の翌朝8時45分発のこだま90号で新大阪駅を発つ明訓ナイン。窓際の席で黙って外を眺めている里中を隣の席の山田が見つめる。
内心「里中元気がないな・・・まだ傷が痛むんだな」と案じつつもそれは言葉にせず、春のセンバツの話を軽く振る。しかし里中は心ここにあらずな感じで、もう一度呼ばれてはっとしたように「えっ も もちろんくるさ 春も夏も」とだけ言うと「少し寝るか」と話を打ち切り学帽を顔に乗せて目を閉じる。単に傷が痛むだけではなさそうな不穏なムードが漂っています。
この時点ではまだ明かされてませんが、いかに傷が痛むとはいえ優勝の翌日にこれだけ暗い顔をしているのは彼が右ヒジの故障―投手として致命傷になりかねないレベルの―を自覚しているからですね。いざ現実問題となった「投手寿命が終わりになってもいい」という己の決意を思い返し、次の春も夏もまた甲子園に来ると口にしながらそれが叶わぬ夢とわかっている・・・・・・。この時期の彼の煩悶を思うと痛々しくてならないです。

・新横浜駅から優勝パレード。当然のように(部長待遇だからいいのか?)パレードの車に同乗しているサチ子に「おにいちゃんも里中ちゃんもどうしたの?もっと手をあげなさいよ」と言われて山田は置き去りにされた岩鬼に遠慮しつつも一応手を振ってみせる。
ここで見た目はゴツいが温厚そうな態度の男がゴムマリを拾いに飛び出してくる。これが土門の初登場。意味深な態度で山田にゴムマリ放ってよこす土門。この時点で読者は彼を高校生と見抜いていただろうか(笑)。今後のストーリーに関わってくることは読めただろうけど。

・新学期初日?校門前で女子に囲まれサインをせがまれる里中。「困るんだ 放課後にしてくれよ」「通してくれよ」と断っても全然聞いてもらえず「いいかげんにしないか ぼくは芸能人じゃないんだぞ」「道をあけろ」と怒鳴りつけるにいたる(「ぼく」なあたり、一応の遠慮はあるようだけど)。前髪がちゃんと見える状態の(包帯を巻いてない)里中は久々なのでちょっと新鮮です。
しかしこれだけ拒絶されてなお「でもスターでしょ」「サインしてくれるまで通さない」「だからサインして」と女学生たちは全然引こうとしない。土井垣のおっかけ女子は黄色い悲鳴やらヤジやらやたら騒がしかったけれど、嫌がる土井垣を無理矢理囲むなんて真似はしてなかった気がする(描かれてないだけ?)。やっぱり見た目が小さくて可愛いとなんか与し易い気がするんだろうか。里中も普通の精神状態の時ならもうちょっと上手くさばけたんでしょうけど(この騒ぎ以降里中はめっきり女子のファンに冷たくなりましたが、さすがに正面から怒ったり怒鳴ったりしてるのはこの時だけなので)。

・↑の騒ぎを遠目に見たサチ子が怒って「あいつらめぶんなぐってやる」と近付こうとするのを止める山田。そこへちょうど岩鬼がやってくる。岩鬼の偉そうな態度に腹立てるサチ子に山田は笑顔で「でも岩鬼が現れたおかげで里中が助かるよ」。
この時に限らずファンにもみくちゃにされる里中を山田は自分では一切助けようとしない。相手が不良学生(南海権左)なら即座に飛び出して代わりに殴られたりするのに。女子の集団の方が恐ろしいのか・・・。

・山田のクラス。起立・礼をする生徒たちの中に里中の姿も。山田と岩鬼がクラスメート+席も隣同士なのは入学初日で描かれてましたが、里中も同じクラスなのがここで発覚。というか、山田は野球部で顔をあわせて初めて里中も明訓に来たと気づいたような描写だったのだが。同じクラスにいながら気づかなかったと?里中が入学式サボって放課後の部活に合わせて登校したとか?里中が山田の隣の席になってるってだけなら「新学期になって席替えがあった」ですんなり納得できるんだけど。

・男岩鬼の大放送。デタラメ満載にもかかわらず、「あのやろうウソつけ」とちょっと笑ってすます土井垣の度量。山岡・石毛もクラスメートに「ほんとうなのかあいつのいっていること?」ときかれても「さあ〜〜本人でないからどうともいえんな」と余裕で笑ってすます。2年の先輩(レギュラー)たちはみんなアクのないいい人ぞろい。まあ一年がああなので二年生までアクが強かったらもはやチームが立ち行かない気もします。

・岩鬼の話が緒方のツーベースに及んだあたりで、山田は里中の様子がおかしいのに気がつく。『ファイトマン岩鬼くん 追っかける追っかける フェンスにぶちあたる』のあたりに至ってワナワナ震え出す里中。「岩鬼やめろ〜〜やめてくれ〜〜 ちくしょう〜〜」と苦悶する里中に「里中どうしたんだ」と山田も心配そう。
周囲からすれば奇行以外の何物でもないですが、再起不能を自覚しつつある里中にとって、過去の栄光はかえって“もう投げられない自分”を突きつけられるように思えるんでしょう。校門前で群がってきた女子たちへの愛想のかけらもない対応も、単に迷惑だったからというだけでなく彼女たちが“甲子園で優勝したエース里中”を求めていたからですね。

・明智先生に医務室につれてくよういわれ、里中の腕をとるように教室を出た山田。しかし部屋の名前が「衛生室」って。70年代はそれが一般的だったんでしょうか。ここで医務室の先生は一週間休めば(頭のケガは)治るとだけ言って、右ヒジのケガをわかっていながらそちらには言及しない。結果山田をぬか喜びさせることに。
「里中良かったな なあに一週間位平気だ 秋季大会まで一カ月ある それからピッチングを仕上げていっても十分間に合う」。山田の勢いこんだ様子に困ったような笑顔の里中。ここで山田がえらく喜んでくれただけに、ますます右腕の故障のことを言えなくなったんだろうなあ・・・。

・岩鬼・明智のケンカを止めに走った土井垣は「先生に知れたらどうするんだ」と人垣を掻き分けるが最前列にいたのが教師と気づき青ざめる。「や 山田 山田・・・・・・」 目をぎゅっと閉じて心の中で山田の名前を繰り返し呼ぶ土井垣。いつのまにかキャプテン(前キャプテン)が一年生の山田を精神的にずいぶん頼っている。トラックの下に飛び込んでまで(なんという無茶な)、先生をグラウンドに行かせまいとした山田の執念を見た直後なのもあるでしょうが。

・残ったレギュラー陣を鼓舞して練習を続ける山田。遠目に見守る土井垣は内心で「三年生が三人去り殿馬が来ず里中は負傷 そして決定的な岩鬼の暴力行為 どうするんだ山田」。もうほとんど実質山田がキャプテンじゃないか。
そしてネット裏で練習見ている土門(まだ正体不明)。「この前はゴムマリありがとう」「ありがとうはいいがそのわりには使ってくれてないな」「えっ」「四六時中使ってなきゃ手首は強くならん」という会話が二人の間で交わされますが、ひょっとして山田は里中にゴムマリあげちゃったんじゃ。この時点では山田は里中のケガは頭だけだと思ってるはずだし、里中が自室で握力トレーニングに使ってたゴムマリは別物(色が違う)でしたが、手首を強くするという点で捕手よりも投手向けのアイテムな気がするので。

・謹慎処分を食らって家に帰りたくない岩鬼の気持ちを察した山田、サチ子ともどもリヤカー引っ張って豪邸の前で岩鬼をつかまえ、彼を合宿所へ誘う。「だって三年生が合宿を出たらぼくたちが入る事になってるんだよ」。夏の甲子園前にみな合宿所入りで練習とか校長が言ってたので、てっきりそれ以来合宿所暮らししてるのかと思ってましたが、二、三年生だけの話だったんだろうか。あるいは大会前だけ一年も入ったということでしょうか。

・一年生合宿入り直後、殿馬退部のあいさつに訪問。「12日後の推せん留学決定演奏会に通ったら遊びにくるづら」。その直後(数分後)今川が畳目当てで入部、山田は皆に「あと9日で里中が帰ってくるぞがんばろうぜ」と言っている。いつのまに一週間から十日に里中の療養期間が延びたのだろう。このへん時間経過がいろいろ錯綜してます。

・自室でゴムマリをにぎって握力トレーニング中らしい里中。白いゴムマリなので土門が山田にくれたアレとは別物のよう。時系列的には温泉での療治ほか試すまえにまずゴムマリだったようですね。この時は普通の部屋(一軒家の二階ぽい)に住んでるのになあ。無印最終回(高三春)ではボロアパートに住んでたので、高一秋〜高二終わりまでに急激に貧乏になったんでしょうか。

・「あと5日で里中が帰ってくるぞ がんばろうぜ」。山田こればっか。ひさびさ登場の徳川に「どうやらおまえたちも(退部を)考えた方がいいぜ」と言われた山田は「そんなことは絶対させません 里中が帰ってきた時に野球部がないなんてことは絶対させません」。里中のために野球部を継続させたいのか、里中が山田のモチベーションなのかといいかげん突っ込みたくなります(苦笑)。

・一応は大人しく謹慎している岩鬼にケンカ売るような言葉を言いにくる明智。岩鬼「ただし今度はかたわかくごしてこいよええ明(めい)さんや」明智「よく言った その言葉忘れるなよ」。言葉だけだと過激な応酬ですが、二人とも意外にさわやかな笑顔。
原作の明智先生はこの場面を最後にフェイドアウトしてしまいますが(おかげで徳川が危惧したような二人の乱闘沙汰→出場停止といった事態は起こらなかった)、アニメでは優勝旗を取り返すのに貢献したり医者に化けて記憶喪失の山田が試合を続けるのを後押ししたりと大活躍。原作のここの場面が一種男の友情を思わせて爽快感があるからこそ、アニメでのいい人っぷりに繋がったのでしょう。

・先行き不安がるメンバーの様子を見て、監督に毎日しごいてくれと挑むように頼む山田。本気出した徳川の猛ノックに耐えつつ山田「里中みんながんばっているぞ・・・・・・・・・・・・早く元気になって帰ってこいよ」。そのころ里中はどこぞの温泉につかっている。ケガの治療のためだろうとは見当が付くんですが、一瞬「山田たちがあんな頑張ってるのに何のんびりしてんだ」と思いたくなる絵面ではある(笑)。しかし彼は療治のために新学期そうそう学校休んでるんですかね。

・その頃のライバルたち練習風景。この時点ですでに不知火は選手兼任監督。一年だろ?
一方「そして なんといっても注目を浴びているのは弱小・横浜学院にすい星のごとく現れた一人の少年」とのナレーションに煽られつつページめくるとバッティングマシン相手に高々とボール飛ばす土門。「その少年の名を土門剛介という!!」。つい吹き出してしまった。これほど「少年」という表現の似合わない人もめずらしい。

・土門について記者に監督が説明。土門が夏の大会に出場できなかったのは大ケガを負ったためだったと。「ダンプカーとけんかしちゃ記者さんよ勝ち目はねえーですよ ヒジ 肩 腰と満身創痍で再起不能とまでいわれた〜んよ 医者に見放された土門はしかし今鮮やかに復活してきたのことよ(中略)残るは自分自身しかない・・・・・・土門はかくて自力で復活してきたんだよ」。この監督さんのしゃべり方味があって結構好きです。しかしヒジ、肩、腰とやられて医者に見離されてなお独力で復活、その後再発する様子もなく、プロ入りも果たしているのはさすが鉄人土門。

・一週間が過ぎ、8日目になっても里中が現れず心配する山田たち。10日って言ってたくせに。

・岩鬼の謹慎が解けた十日目に里中も戻ってくる。山田「里中だ里中だ 里中が帰ってきたぞ」。えらい喜びよう(笑)。「里中 よ よくぞ帰ってきた さすが小さな巨人・・・・・・・・・・・・」。ただ帰ってきた(回復したとイコールではない)ってだけで「さすが小さな巨人」とか言ってしまうあたりに里中への惚れ込みっぷりがあらわれてます。

・サチ子曰く「はい里中ちゃんユニホームをきれいに洗たくしておいたわよ さあ あたし目をつぶってるから着替えて」。里中はユニフォームを家に持ち帰らず合宿所に置き去りにしてたのか?そして本当にその場で着替える里中。上はいいとして(学ランの下にアンダーシャツ着てたんだろう)、ズボン校庭のど真ん中で脱いだのか?そして着替えるときに右手が肩より上にあがらないことに誰も気づかないもんですかね。

・肩くらいまでしか上がらない里中の右腕を岩鬼が腕掴んでむりに上げさせようとする。事態を悟った山田は「里中の右腕はそれが精一杯だ それ以上上がらないんだよ」。その台詞に対して岩鬼は「な なんでや おんどれ右手でなんか悪さしたろ 女の子に手ェ出してひっぱたかれたとか」「女の子と肩組んでて歩いているうちに転んだとかよ」。なんで女の子関係ばっかなんだよ岩鬼。

・里中のケガを見抜けなかった自分が悪いという山田に「恋女房どころか離婚寸前破滅の夫婦じゃ」と笑う岩鬼をサチ子がハッパ引っ張ってバチンとやる。「やい岩鬼 里中ちゃんとお兄ちゃんの悪口を言うと背中から出刃包丁で刺すぞ!!」。山田より里中の名前が先なのか。

・殿馬が野球部を辞めたと聞いて驚く里中。「山田 殿馬が抜けたというのは本当か」「う うん音楽にもどったんだ そうか殿馬といえばたしか今日だな 留学推薦の音楽会は」「うん2時からだ」。音楽会は岩鬼の謹慎解禁のさらに2日後のはずじゃなかったか?

・里中のモノローグでここ10日間の治療の様子が明らかに。温泉→マッサージ→催眠術などと試したあと、最後にスポーツドクターで名高い小泉先生のところへ・・・って順番がおかしいぞ?小泉先生より催眠術が先なのか?そもそも催眠術って。ほんと藁にもすがる思いだったのはわかるけれど。
結局小泉先生には春のセンバツ後に改めてお世話になるわけですが、小泉先生の再登場が決まってたとも思えないこの時点でたった2コマの出番の彼女がわざわざ名前を出して紹介されているのが不思議です。「小泉上枝」という一風変わった名前(フルネームが出るのはセンバツの後だけど)、さらに『球道くん』にも小泉先生が出演してることからして、実在のモデルがあるのかも?(と思ってたらやはり実在の方がモデルらしいとの噂をネットで見かけました)

・岩鬼以外音楽会で留守のところにやってくる謎の男―微笑三太郎の初登場。三太郎から“ドカベンがピッチャー”という話を聞いた岩鬼は、自分を差し置いて山田にピッチャーやらす気かとキレて会場へむかう。途中通りすがりの土門を突き飛ばしかけ、「あやまれよ」と主張する土門と衝突。
そのころ三太郎は徳川監督の猛ノックを嬉々としてあびることに。岩鬼と土門のケンカ沙汰(未遂)、本来土門とバッテリーを組むはずだった三太郎の明訓入りと、土門との因縁が着々と形成されていく。土門率いる横浜学院が新たな明訓の(最大の)ライバルとなってゆく前ぶれですね。

・殿馬のコンクール会場を出たあとの明訓ナインの会話。北「だけどさっきの土門は去年いなかったよな」山田「ケガをしていたんだろ」山岡「一年間もか」。やはり土門さん丸一年くらいいなかったらしいです。

・記者に囲まれインタビュー受ける殿馬。「おめでとうどうだい甲子園での優勝の感動と今と?」「ちょっと殿馬くん笑ってくれよ」と記者たちに言われても思い切りしかめっ面。確かに浮かれるようなキャラではないが、これはこれでいつもポーカーフェイスの殿馬らしくない。いざ留学が決定してみて改めて野球を捨てきれない自分に気づいて内心揺れ動いてたんでしょうね。

・帰りがけ横学に偵察にいった山田たちは藁人形を破壊する土門の剛球にびびる。山田モノローグ「闘将不知火さんの率いる白新高校 そして豪砲・雲竜のいる東海高校 それに満身創痍から奇跡のカムバックをした新たな強敵 土門の横浜学院」。なぜ不知火にさん付け?。
「しかし恐れるものか!!厳しけりゃ厳しいほどやりがいがある・・・・・・ それが勝負の世界だ」。山田のこういう姿勢は求道者的です。単純な勝ち負けより勝負を通して己を磨くことが目的というか。春のセンバツ前に見せた、目や足腰を鍛えるトレーニングなどもまさにそうでした。

・山田たちが明訓に帰ると、(山田たちには)未知の男・三太郎が岩鬼の球を受けている。岩鬼「そうかそうかこんな剛球初めて見たか そやろそやろ運のええ男や」三太郎「まったくおれは幸せ者だぜ」岩鬼「忘れるなよその気持ち わいもおんどれだと投げやすいで どうもあの山田だと顔が悪いからわい投げにくうてかなわん」。岩鬼は三太郎のほうが相性いいのか?後になると三太郎のニヤケ顔にも文句つけていたけど。
もし三太郎がここで岩鬼=ドカベン=エースピッチャー→「おれはこの剛球投手とバッテリーを組めるんだ」と誤解していなかったら、そのまま明訓に入ったかどうか。

・徳川監督が現われて新キャプテンを指名。北と山岡と石毛に「おまえら来年は三年生じゃったな」。ちゃんとここで彼らの年齢設定が示されているのに(4月の時点で新入部員は三人しか残らなかった―後に殿馬が加入して四人になる―描写があるので、彼らが二年生なのはすでに明白なんですが)、山田たちが相変わらずタメ口なのはなんだ。

・新キャプテンに指名されたのはなんと里中。石毛「か 監督本当ですか」北「大賛成ですよ」。頭越されたはずの先輩たちも本気で喜んでくれてる。本当に一つ上の先輩たちはいい人揃いですね。以前読んだ本(タイトル失念)でこの“里中キャプテン指名”は徳川監督が唯一示した打算抜きの情だと評していましたが、後に高二春土佐丸戦で「勝負師といわれた土井垣将は勝負に初めて私情をはさんだ」のもやはり里中のためだった。里中には勝負の鬼と言われるような人たちにも非合理的な情を起こさせてしまう何かがあるのかもしれません。

・徳川監督いわく「里中はおめえらに気を使わせまいとしてグラウンドにこそ姿を見せんが練習は見ていてくれるんじゃぞ」。今日療養から帰ってきたばかりのように見えたんですが、とっくに帰ってきてて影で練習見ていたのか?さっき再起不能を悟って悄然と立ち去った里中が、殿馬のコンクールをはさんで同じ日のうちにもうキャプテンとして復帰、という流れがなんか急すぎるような。

・投げられない里中をキャプテンとしてベンチに入れるという徳川の判断に「監督そりゃちと甘いんちがいまっか」と岩鬼がケチをつける。徳川は「べらんめえはずせるかい 優勝投手をよ」と反論するが、意外にも山田が「いえ監督やっぱり甘いですよ」と岩鬼の肩を持つ。しかし続く台詞は「ベンチに入れるだけでは気にいらん」「投げてもらうよ秋季大会に」。笑顔であっさりとためらいなく言い切る。
「真夏の甲子園でケガと戦って投げぬいた里中に もう一度その気力がよみがえれば必ずやれる・・・・・・・・・最後の手段を」。後に里中に話したように山田が「最後の手段」に踏み切った直接の契機は、同じ方法で再起不能もののケガから復帰した土門という実例を知ったからですが、根底には里中の根性・野球への情熱に対する信頼があればこそですね。

・仲根とその友人が入部。好きな子の気を引くためという不純かつ軟派な入部動機。合宿所の畳目当てで入部した(としか思えない)今川含め、転校生の三太郎を別にすればこの時期の新人に普通に野球が好きで入ってきた人間がいない(笑)。まあ野球好きなら高校入学の時点で野球部入りしてたでしょうからね。
仲根いわく「あの子のためなら死ぬ気でやるぜ!!」「血ヘドを吐いてもこの恋は実らすぜ」だそうですが、結局問題の彼女とはどうなったのだろう。同時期入部の三人の中で秋からレギュラーに定着したのは彼一人なので、結構優秀なんですね。

・仲根と友人が合宿所入りのため大急ぎで家に荷物取りに走るのを見送って山田満面の笑顔。「里中やったやった 9人集まったぞー」。その場にいない里中に呼びかけながら走る。真っ先に里中に報告したいというところに(里中がキャプテンだからというのもあるでしょうが)、「里中〜〜 やった 完投だ」「あと5日で里中が帰ってくるぞ がんばろうぜ」同様の里中最優先主義が見える気がします。

・山田が合宿所に戻ると人だかり。なんと殿馬が野球部に復帰するという。サチ子の唇にブチュっとして「キヒヒヒヒ カムバックのあいさつづら 秘打!!口づけとでも言っておこう」と笑う殿馬。ペッペッとやるサチ子。大笑いする山田と北。そして笑顔のままコケてる里中と口あんぐり開けてる岩鬼。将来サチ子をめぐって三角関係(一応)を繰り広げる二人の反応が興味深いです。
高校時代の描写のどこを見ても里中がサチ子に“山田の妹”という以上の関心を見せてる場面がないのは、相手が小学生なのでまあ当然なんですが、サチ子と風呂に入ることを妙に意識してる岩鬼や唇を奪ってのけた殿馬は・・・いろいろ危ないかも。山田も笑ってないで妹を守れって。
妹の貞操に対する山田の無関心ぶりはサチ子が高校生になってもなお継続。岩鬼が一人暮らしするマンションに平気で泊まりに行かせてるからなあ。記者に「とにかくまだ子どもですよ妹は おかしな騒ぎ方をしないで下さい」と言ってる通り、まだまだ子供だと思って油断してるのか。

・土門たち横学ナインが三太郎の件で学校に乗り込んでくる。明訓が気に入ったから横学に行く気をなくしたという三太郎に、何をいまさらと横学の部員らは怒るが、土門は三太郎の意志を尊重して部員たちをなだめ引き上げる。しかしその物分かりよい態度の裏で、右手でゴムマリを握り潰すほどの激情を見せる。
これまでの山田のライバルたち、特に神奈川県内の連中は高らかに宣戦布告したり大言吐いたりの華やかな有限実行型だったのに対し、土門は口数少なく物静かな紳士でありつつやたらな迫力のある不言実行型の男として描かれています。

・夜合宿の里中の部屋(一人部屋)で逆療法のトレーニング(腕立て5回)。壁に「努力」と紙がはってあるのは里中が書いた?「がんばるんだ!!」と自分も腕立てしつつ励ます山田。里中にだけやらせるんじゃなくていちいち付き合ってくれる、山田の情の深さを感じます。

・しかし「う うるさいおまえにこの痛みが 痛みが・・・・・・ わかるかあ!!」と倒れこむ里中。山田は自分が逆療法を勧めた理由を語りながらも存外素直に「おれの自分勝手な解釈で無理にすすめて悪かったよ」と引っ込む。ついで里中の額にさわって「里中少し熱がでてきたようだ ちょっと待ってろ」と布団も引いてくれる。痛い思いをさせた負い目があるにせよなんか過保護だなあ。おかげで?「すまん山田」とうっすら笑えるほどに里中の機嫌も直ったようですが。
部屋を出て無人のグラウンドを眺めた山田は「さあ あしたからいよいよ追いこみだ!!やるぞ〜〜!!」と元気よく声をあげる。この時点で山田は里中に逆療法を試すのを一度諦めたのだろうか。そのうえで自分たちが頑張るしかないという決意を表した台詞なのか。あるいはいったん逆療法を諦めたような顔で素直に引いてみせることでかえって負けず嫌いの里中を奮起させようとしたか。「ベンチに入れるだけでは気にいらん」と言ってた山田がそう簡単に諦めるとは思えないので後者ではないか。

・翌日放課後。山田「さあ里中掃除当番はおれが代わってやるから先にグラウンドへ行けよ」里中「いやいいよ」クラスメート「おい二人とも行けおれたちだけで十分だ」「そう遠慮するな」(悪気ない笑顔で)、里中「そうはいかない夏はいつもやってもらってきたんだからケガをしているこんな時ぐらいやらなきゃ」(あっさり笑顔で)。
里中の右腕がまだまだ痛むのを示すために描かれた場面ながら、野球部員以外のクラスメートとの交流が出てくる意味でも貴重なシーン。一年から野球部のレギュラーとなって甲子園で優勝した二人、特に里中は女子人気も凄まじいだけにクラスの男子から嫉妬と反感を買っていてもおかしくないところ。しかし男子たちが嫌味でなく彼らの活躍を誇りと思い応援してくれてるのがこの短いやりとりに見て取れて何だか嬉しくなりました。しかしクラスメートA、ねじりハチマキなどして到底高校生には見えないのですが。

・その日の練習後、サチ子が岩鬼の風呂の誘いを断ったそばから里中を誘うあたりの騒動。「どエッチ!」「何がどエッチや わいが親切にフロいっしょに入ろ言うてさそたってんのに」「里中ちゃん後でおフロ行こーね」「どっちがどエッチや!!」。そこへ山田がやってきて「おい里中ひとっプロ浴びてこよう」「ほんまに兄妹そろっていやらしい」。
前半の「どっちがどエッチや」のオチは王道的コメディシーンだと思うんですが、方々でツッコまれてる通りその後の岩鬼の台詞が謎。同性の山田が里中を風呂に誘うのがなぜ「いやらしい」になるのだ?数週間後の白新戦のときの「いつまでいちゃこいとんねん」発言といい、岩鬼には二人の間を何か勘ぐってんのか?といいたくなる言動が散見されるのだが・・・。

・風呂に誘いにきた山田に「山田その前につき合え」「昨日の5回に挑戦だ」と明るい笑顔で言う里中。土門にできてこのおれにできないわけがない、と言うあたり、山田が逆療法の成功例として土門の名を出したのは負けず嫌いの里中の対抗心を煽る意味で正解だったよう。ここから里中は急速に立ち直っていく。以後どれだけ逆療法が苦しくても、(少なくとも描かれてる範囲内では)里中が弱音を吐く場面は一切出てきません。

・秋季大会が近付き先発メンバー発表。一番ピッチャー岩鬼に岩鬼本人は「とうぜん」と思うも殿馬は「岩鬼が?」。山田も石毛も北も同様に岩鬼のピッチャーを意外というより不安に思っている。三太郎は4番キャッチャー山田5番サード三太郎のオーダーに「山田か・・・」とちょっと呟いている。それぞれの自負心や不安を「岩鬼が?」「山田か・・・」と短いセンテンスでごくあっさりと表現している。山田の地位を揺るがす男のごとく登場した三太郎は、結局ここのシーンで“山田の下”ポジションがが決まってしまった感じです。

・「かくて待望の秋季大会の時はきた 打倒・明訓に燃え上がる各校 そしてその中で 白新 東海 横浜学院の3強が大きく立ちはだかる」のコマで岩鬼と山田、土門と雲竜の顔(投げたり打ったりのフォーム)だけで不知火が出てこないのは彼が先発しないことの暗示か。しかしよく準々決勝まで里中・不知火なしで両校ともきたもんだ。

 


(2010年10月8日up)

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