高一夏・いわき東戦

 

準決勝の土佐丸高校が殺人野球を標榜する、一種キワモノ的存在だったのに対し、こちらは投手緒方のプロ級のフォーク、一番足利の超俊足、やや地味ながらキャプテン和田の打棒と、ちゃんと正統派の野球をやっているチーム。
エースの緒方については一回戦の坂田同様、神奈川県大会の時点から登場しているうえ、「でかせぎくん」として山田兄妹とも親しく接触している。さらに緒方の母が近所の人たちの好意(カンパ?)で応援にやってきたり、ナインの奮闘にはいわきの廃坑を背景に、暗い町を励まそう、皆別れ別れになる前に思い出を作ろうという泣ける事情があったりして、読者が応援したくなる要因が満載。明訓は甲子園初出場なんだし、ここはいわき東が優勝という展開でも個人的にはすんなり納得できたんじゃないかと思います。・・・里中の存在がなければ。

そう、これだけ感情移入しそうな条件がいわき東に揃っていてもやはり明訓を応援してしまったのは、主人公チームだからという以上に、ケガを押して投げて打っての里中の悲痛な姿に理由があった気がします。頭から水をかぶって「負けてたまるか」と叫ぶ里中を見たときは、なんとか勝たせてやりたい気分になりましたから。

この試合のポイントは、里中の投球制限、緒方のフォークの攻略、足利の盗塁阻止の三点にありました。とくに足利の足をいかに封じるかの駆け引きはじりじりしながら一コマ一コマに引き込まれる。
加えて岩鬼の2本のホームラン。最初の1本はベースの踏み忘れという実に岩鬼らしい理由で無効となったものの、この決勝で爆発するためにここまで連続三振記録を作りつづけてきたのかというくらいの活躍ぶり。特に2本目のホームランは、緻密な駆け引きの連続に読者の神経も引き込まれたぶん疲れてきてるところへの一発だけに、実に突き抜けた爽快感があります。

そして打撃面での活躍はもっぱら岩鬼にまかせて、山田は守備の面で力を発揮する。里中を80球の投球制限ぎりぎりで完投させた巧みなリード、9回裏に緒方のホームインを阻止した突っこみの好判断・・・。『ドカベン』は「キャッチャーが主人公」というのが一番の特色だと思うので、強打者山田でなく名捕手山田の力量を見せつけたこの試合は、とても『ドカベン』らしい試合と言えるんじゃないでしょうか。

8回裏に一番足利の三度目の打席がめぐってきたりその回の先頭打者のはずがいつの間にか二死ということになってたり、試合経過には大分間違いが多いのですが、それをさっぴいても名勝負と呼ぶにふさわしい試合だと思います。


・新聞が緒方のことを「早くもドラフトNo.1の声!!」などと書いていますが、その後彼はドラフトにかかったのか。『スーパースターズ編』になってから(緒方ファンの伊集院光さんの提言で)緒方が高卒後ノンプロに進んだ事情が語られてるので、結局ドラフトには引っ掛からなかった設定になった模様。実際に一位で指名された土井垣とどこで評価が入れ替わったのか。やはり優勝と準優勝の違いでしょうか。

・いわき東戦1回裏、里中マウンドへ。山田「いいか里中 このマウンドに登ったかぎりもう泣きごとは通用せんぞ」。いつもの穏やかな笑顔を浮かべてますが、まるで脅しかけてるかのような台詞。あの里中が泣き言なんて言うはずもないと山田はわかってるはずなので、これは「頑張れよ」をちょっと強めに表現したということでしょうね。
そして山田の(おそらく)期待したとおりに、里中は「わかってるさ おまえこそおれに遠慮するなよ どんなタマでも要求してくれ」と応じた。自負心と山田への信頼と覚悟に裏打ちされた澄んだ笑顔が美しい。決勝前日に雨上がりの空を窓から見つめていた時もそうですが、覚悟完了した時の里中の表情はとても綺麗だなと思います。

・足利の足を封じるためにバッテリーは打ち合わせ。里中はトリック投法(牽制と見せて普通に投げる)で足利を走らせずまずはワンストライク。二球目。足利じりじりとリードをとり、ついに3メートルのリード。里中まだ投げず。息詰まる攻防。里中のクイックモーションと山田の鉄砲肩で二球目も足利走れず。
実況『二球目まで足利くんが一塁ベースにくぎづけとは今大会初のことです』。緒方も内心「よく守っているぜ さすが明訓のバッテリーだ 走っていたら刺されていたな やはり今までの相手とはちがう・・・・・・」。足利のすごさ、それを走らせない明訓バッテリーのすごさが他者の評価という形でまざまざと伝わってきます。

・2番打者佐久間、3球目のカーブをバットの先で打つ。センターへ飛んだポテンコースの球を山岡ヘッドスライディングであやうくグラブの先っぽでとる。徳川監督いわく「塀ぎわの魔術師」な山岡、この試合はファインプレーを連発していて、さすがは後のキャプテンです。
ちなみにこのシーン、里中が「山岡サンキュウ」と先輩を堂々呼び捨て。里中のみならず山田も呼び捨て。秋ごろまではまだ1年と2年の区別が判然としていない感じです。

・山岡に続いて殿馬もファインプレーでチェンジ。サチ子が殊勲者の山岡と殿馬の頬にキスをする。それを見た岩鬼が自分も期待した顔でサチ子に頬を向けるが、キスの代わりにハッパで顔面をバチンとやられる。
日頃あれだけ「どブスチビ」よばわりしながらサチ子にキスしてもらいたかったのか。サチ子の方も特に何も功績をあげてない岩鬼にキスしないのは当然なんですけど、冷たい仕打ちがかえって特別扱い≠オてる感もある。何気に二人がラブモードなシーンのような気がするんですが。

・2回表、土井垣はフォークをサードフライに。緒方内心「あ あてた おれのフォークを・・・・・・・・・」。土井垣内心「これでいいんだ 守りで足利の足をとめ打つ方で緒方の自信のフォークをあてる 今までの勝利のパターンがくずれればいわき東のペースは必ず狂うはずだ・・・・・・」。エースが負傷してる―そこそこ点を取られる覚悟が必要―わりには結構余裕ある作戦ですねえ。

・足利バントと見せて強打。一塁線へのぎりぎりファール、と思いきやフェア。足利一塁蹴って二塁へ。ファールだと思ったライト北はボールを追わず。山田の指示にあわててボールを取りに走り殿馬が中継して三塁へ送球。しかし足利の足が速かった。悔しがってミットを叩きつける土井垣。実況『ボールの落ちた地点はたしかにファウル しかしその前に土井垣くんのファーストミットの先にわずかにあたっていたのです』。土井垣活躍しないなあ。

・いわき東初球スクイズ。それと読んでいた山田の事前指示通り、里中ワンバウンドのボールを投げる。バッター打てず、山田はこれを取り、回り込む足利に飛びついてミットで足をガード、足利をアウトにする。リードでも守備でもキャッチャー山田の面目躍如たるシーンです。

・0−0で迎えた5回表。徳川は指示をしてるふりだけしていわき東の気持ちを乱す作戦。先頭打者土井垣に素振りのジェスチャーしつつ天気の話をする。「こりゃもっとでかい声で緒方に聞こえるように返事せんかい」と言われて「はい!」といい笑顔で答える土井垣さんが素直でなんか可愛いぞ。

・5回裏。里中はここまで45球で来ている。右中間への大きな当たりを沢田と激突しながらも山岡キャッチ。山岡再度のファインプレー。この試合の隠れたヒーローですね。
ここで打球を振り向く里中の頭がズキンと痛む描写が入る。ほぼ時を同じくして解説者が山田のリードが全ストライクなのに気づき、里中のケガは完治してない、球数投げられる状態じゃないと推測。そしていわき東監督もこれを見抜く。ここまで快調にきた里中に暗雲が立ち込めてきました。

・7回表先頭打者岩鬼。ネクストサークルで振り回した複数のバットをベンチ方向へ投げる岩鬼。ベンチ前のサチ子が「わっ あぶない」と青ざめますが、前に立つ殿馬が両手のバットと足とで飛んできたバットを全部止める。岩鬼の豪快さと怪力、殿馬のテクニシャンぶりを見せつける『ドカベン』名物バット投げ受けシーンの初?登場はサチ子をかばうためだった?岩鬼の“お風呂でセクハラ”の時もいつもサチ子を守るのは殿馬なんですよね。

・7回裏。ここでナレーションが『1球ごとに球威の落ちてきている里中は六回の二死一 二塁に続きこの七回も打たれ 苦しい投球が続く 二死ながらまたまたランナーを一塁三塁に置いての大ピンチである(中略)だがどっこい このピンチをたった一球の山田のリードが救ったのである』。
このフリに何が来るかと思ったら三球目で例のキャッチボール投法。きれいに決まったボールに山田は「たいしたやつだ・・・!里中だからこそ要求できたキャッチボール投法・・・・・・・・・・・それが見事なチェンジアップとなって決まった」と薄く微笑む。宿での練習シーンの伏線が綺麗に生かされた。そして山田の里中への絶対的な信頼がうかがえる場面です。

・『八回裏 いわき東は三度トップの足利くんからの攻撃です』。一番打者なんだから最低でも7回裏最初には三度目の打順が回ってきてるはずでは?山田内心「しかし三度目の足利をむかえるまで1点も与えず65球できたのはなんといってもうれしい誤算だ あの負傷の中で打たれたヒットがたったの二本とはたいしたピッチャーだ・・・・・・・・・・・・しかしその二本ともこの足利が打っている」。6回7回と打たれてたはずでは?

・足利2−0から一塁方向へまさかのセーフティバント。里中はこれを捕って、倒れこみつつ一塁送球するも足利の足が一瞬速い。必ず里中のモーションのくせを見破って走ると意気込む足利。(ここで連載の切れ目)実況いわく『二死とはいえ明訓高校またまた大ピンチ この足利くんは二盗 三盗 本塁をねらえる黄金のランナーです』。先頭打者なのに二死とはこれいかに。

・足利、里中のモーション盗んで二盗成功。里中は心の中で「投手寿命が終わりになってもいい・・・・・・・・・この試合にこのひとりにおれは負けない」と誓う。「このひとり」というのは里中の目線からして打者佐久間ではなく二塁の足利のことですね。
今後何度となく出てくる「投手生命を犠牲にしても」的発言はここが初めてですが、球を放った直後「負けてたまるか」と口にする里中の頭がズキンと痛む描写があり、彼の傷が確実に悪化していること、本当に投手寿命が終わりになりかねない危機感を感じさせます。

・思いが通じたか佐久間は打ったもののバットが折れて詰まった当たりに。8回表に山田もバットを折ってますが、『大甲子園』でプロに照準を合わせて大会で唯一木製バットを使用していると明言されてる山田はともかく、いわき東も金属バット使ってないのか?調べてみたら高校野球で金属バットが使用されるようになったのは74年からだそうなので、ちょうど74年から75年にかけて描かれた高一夏の甲子園はみな木製バット使用の設定なんでしょうね。次の秋季大会では決勝の横学戦を前に「土門に対しては山田以外は金属バットを使うことになった」という台詞が出てくるので、このへんがターニングポイントだった模様。

・詰まった当たりとみて里中が喜んだのもつかの間、佐久間の打球は1、2塁のど真ん中へ。土井垣届かず殿馬飛びついてワンバウンドで?取る。足利三塁まわってホームへ走る。殿馬倒れたまま土井垣へトス。土井垣素手でとりそのままバックホーム。足利ヘッドスライディング。山田ベース上で完全ブロック。しかし足利の手が早い。だが打った二番佐久間は山田の送球で三塁タッチアウト。スリーアウトチェンジ。
実況『このクロスプレイの中 よく冷静にランナーの走塁を見ていました 山田くんのファインプレイ』。これ明訓側の守備に落ち度はないんですよね。ケガにもかかわらずバットを折ってのけた里中の気合いの投球。殿馬のキャッチングとトス、それを素手でとっての土井垣のバックホーム、そして山田のブロック。打球がたまたままずいところに飛んだとしか言いようがない。
そしてわずかのチャンスも必ずものにする足利の超俊足。見事な守備の連係にもかかわらず明訓が競り負け、それでも三塁ランナーを刺す山田のファインプレイで明訓側にも花を持たせている。書いてて気づきましたが、この足利をホームで刺すための連係プレーに三塁の岩鬼は関わっていない。逆に三塁で佐久間を刺すほうには関わっている。この試合の勝利の要は岩鬼なんだなあと改めて思いました。

・ついに8回裏いわき東に先制点が。里中は山田のマスクを拾い上げて笑顔で「山田ナイスプレイ」と声をかける。意外に落ち着いてるなと思ってたら、ベンチに引っ込んだ直後、北が打席に向かう間にベンチ裏の水道で頭から水をかぶり「ちくしょうちくしょう ま 負けてたまるか」とずぶぬれになりつつ叫ぶ。励ましの声をかけようとしてた土井垣さん以下ナインもその悲愴な迫力にやや呆然気味。
いったん冷静と見せておいて爆発するそのコントラストの鮮やかさ。この夏の白新戦で「侮辱」だとグラブを地面に叩きつけた時もそうですが、個人的に里中のこうした激しさに強く引きつけられます。ラストの「完投だ」といい、この試合は名場面が盛りだくさん。

・北が初球攻撃するもキャッチャーフライ。ベンチを出る里中にサチ子とは「がんばってね」とややためらいがちに声かける。さしものサチ子も激情を見せた直後の里中に気おくれ気味か。
山田は笑顔でバットとメットを差し出し「里中がんばっていこう」と声をかける。見る者を安堵させるような穏やかかつ頼もしさを感じさせる笑顔です。「うん」と一応笑顔でバット受け取った里中は息を乱しながら青ざめた顔でバッターボックスへ向かう。その様子に山田は心で「里中・・・・・・」と心配そうにつぶやく。この流れならきっと打つんだろーなと思いながらも緊迫感のある場面です。

・里中ストレートに山をはって振りにいき、一球目のフォークは空振り。土井垣「う〜〜ん里中は打たない方がいいのかもしれない・・・・・・ ボールがバットに当たった瞬間の頭にひびく 衝撃がこわい・・・・・・・・・ 里中の投手寿命がこの一撃で・・・・・・・・・」。この後試合の役に立たなくなることでなく将来のことを心配してくれる土井垣さんはいい人だ。
里中は二球目を見事狙い打って緒方の股間を破りセンター前ヒット。バットを捨てて走るとき、痛みをごまかすようにメットを両手でぐっと押さえる姿に、土井垣「やはりかなりの衝撃だ 大丈夫かな」。土井垣さんも山田と並んでしょっちゅう里中の心配ばかりしてる気がします。

・土井垣は岩鬼にバントで里中を送らせ殿馬の一打に期待をかけようと監督に進言するが、逆転ツーランを打つ気まんまんの岩鬼が大反論。監督も「打てないやつにバントができると思うかい・・・・・・」と好きにさせることに。
このシーン、のちに「男岩鬼の大放送」で大分捏造されてましたが、「あのやろうウソつけ」と苦笑気味に思うだけでクラスメートに真相を告げず岩鬼を立ててくれた土井垣さんは本当いい人だ。

・太陽に目のくらんだ岩鬼、まさかの場外大ホームランで逆転。『そ それにしてもなんとゆっくりなダイヤモンド一周でしょう ホームランを打ってからすでに五分もたっています』。単に目立ちたいだけなんだろうが、おかげで里中を休ませることができている。結果オーライ。

・岩鬼の逆転ツーランに衝撃を受けながらも、「まだ試合は終わってない九回表はだれからだ おれのバットが残っている」と懸命に気力を奮い立たせる緒方。8回が二番の佐久間で終わってるので9回裏はほかならぬ緒方が先頭打者なのだが。やはり大分動揺している模様。「9回表」て言ってるし。

・9回裏トップバッター緒方。いわき東応援団の「かっせ緒方」コールにのまれそうな里中。そこへ岩鬼が「じゃかあしゃい!」と叫んで、明訓応援席に「こら〜母校ども おんどれら な なんでだまっとんのじゃい 敵の応援など気にならんが母校が応援でも負けるのは許せんわい!! いけ〜〜明訓」と気合いを入れる。明訓応援団もはっとなって急ぎ「がんばれ里中」コール。里中も「ふ〜〜」と安堵?の息をつく。山田内心「岩鬼やるやる」。
こういうのが岩鬼のいいところ。ホームラン2本を打つばかりでなくこんなところでも活躍。本当にこの試合は岩鬼の天下ですね。

・ツーストライクでタイムをかけ汗止めのロージンをはたく緒方の回想。鉱山の廃坑と別れ別れになる皆の思い出作りのため甲子園大会で頑張ろうと仲間と誓いあったこと。
前の試合が一種キワモノ的な土佐丸高校だっただけに彼らのごく高校球児らしいまともさが際立っていて、こんなシリアスなうちにもさわやかな背景が明かされてしまうと、もういわき東の優勝でもいいやくらいに感情移入してしまう。いわき東高には実在のモデルがあったようですが、それも彼らの描写のリアリティに一役買ってるように思えます。

・緒方再び打席へ。ロージン投げ捨て振りかぶる里中。『滝のように流れる汗 ああ〜〜そのひたいの汗が赤く流れます』。傷は後頭部じゃないのか?コミックスだと白黒なので血が流れてるのがわからない(実況の台詞がなかったら黒い線としか認識されない)のが惜しい。

・緒方執念の打球は惜しくもホームランにはならずフェンスに当たって二塁打どまり。4番キャッチャー和田、手堅く送りバント。緒方三塁へ。取った里中は一塁へ投げるがなんでもない送球がワンバウンドに。今思えば後のケガの伏線ですね。
慌てた土井垣は前に落としたものの急いでとって一塁へスライディングタッチ、あやうく打者をアウトに。里中の悪送球を責めず「里中ワンアウトだ あと二人だぞがんばれよ」とボールを渡しつつグラブを叩き自分のミットで肩を抱くようにして笑いかける土井垣さん。登場初期が嘘のようにいい先輩になったなあ。

・5番平山、バントの構え。バッテリーはスクイズ警戒でウエスト。しかし走らず。里中のあせりを感じた山田、レガーズ外れたふりしてタイム。里中にこそっと舌出してみせる(いたずらっぽい表情が可愛い)。
里中内心「レガーズがはずれたなんて うそなのか そ そうかおれ ついコーフンしてあせってしまっていた さすがにこのピンチで冷静だ やっぱり山田にホレて明訓に入ったのは正解だった」と冷静に。
しかし岩鬼に「この一大事に笑うとるやつがあるか もっとマジメにやらんかい」と言われて「まったくだ ここまできて負けてたまるかい・・・・・・・・・くそ〜〜」。なんか岩鬼が余計なこというからまた冷静さを失っているような。

・平山二球目を一転して強打。三塁後方のファウルフライ。岩鬼は山田と里中がタッチアップされるから落とせ(取るな)というのを聞かずにフェンスに登ってキャッチ。当然緒方はタッチアップしてホームをめざす。
応援団に状況を判断できないのかと岩鬼は罵られてますが、本人の発言からするに状況を判断できてないというより、どんな状況であれ取れる球をあえて見逃すなどとは自分の美学に反するから取ったということのよう。個人的な意地を勝負に優先させてる、というか勝負を度外視してるわけで、そのへんは土佐丸戦での死球四連発に通じるものがある。このへんの岩鬼の言動の一貫っぷりは見事です。

・しかしこの試合に関しては岩鬼の行動は最初のベース踏み忘れによるホームラン無効をのぞけばことごとくいい目に出ている。ここでも普通ならこんな無理な体勢の捕球じゃまず送球が間に合わないところを、ワンバウンドになったとはいえ緒方の足より早くホームに到達する球を投げられたのは人並みはずれた強肩の岩鬼ならでは。
そしておそらく岩鬼は知らなかったことでしょうが、里中は80球の投球制限を課せられていた。8回裏開始時点で65球というところから数えると(一塁牽制も含めると)ここまでで里中は77球を投げている(アニメでは79球)。ここで試合終了になっていなければ80球を超えていた可能性は高い。岩鬼の強引なプレーがあればこそ里中が無事完投できたわけですね。

・ホーム手前でワンバウンドになる送球を「さがって取れば捕球は確実だが セーフになるかもしれん」「突っこめばへたをすると落球がある」という二者択一で「くそ〜〜イチかバチか突っこみだ」と山田は前に出る。ここであえて確実に捕球できる方より強気な作戦に賭けた山田の行動に、自身の捕球技術への自負心が滲んでいます。結果一番難しいハーフバウンドになった球を山田はしっかりキャッチし、頭から突っ込んだ緒方をぎりぎりアウトに取る。ぎりぎりの場面で自分を信じた山田の勝利です。
この場面、土煙で最初どっちが勝ったがわからず、次のページでしっかり球取っている山田とはっとしたような緒方の顔、審判アウトを宣告、という流れが王道ながらも見事に決まっている。

・笑顔で両手をかかげる山田に向かって、嬉しそうに両手を広げ走ってくる土井垣。この時土井垣が山田の後方にいるのはバックアップに来てたということですね。緒方のほかにランナーがいるでなし、山田が落球すれば緒方のホームインはまず確実なのですが、それでもバックアップを怠らないのは当然とはいえ立派。

・心の中で「か 勝った」と呟く里中。喜ぶより先に驚いたような呆然としたような顔をしている。その後も気が抜けたような笑顔で「か 勝った」と繰り返してるのが、里中がとっさに勝利を受け止めきれてないこと、それほど彼にとってこの勝利が大きかったことを表している。現実の優勝校にもこういう人いそうです。
そんな里中に真っ先に「里中〜〜 やった 完投だ」と声をかける山田。「山田 太郎」の項でも書きましたが、優勝より里中完投を真っ先に喜ぶ山田の姿にこのバッテリーの絆の深さをつくづくと感じました。
そしてよろよろ近付いて来る里中を「里中 よく・・・・・・よくがんばったぞ」とがっちり抱き止める。実況『負傷にめげず投げぬいた里中くんを山田くんが抱き上げます ついに深紅の大優勝旗は神奈川県代表明訓高校が勝ちとりました』。実に高校球児らしい爽やかな光景です。

・このあと優勝旗掲揚、優勝盾授与(殿馬がズラズラと受け取っている)。解説が皆のプレーを紹介。坂田、犬飼兄弟、緒方、岩鬼、山岡、殿馬、里中ときて(キャプテン土井垣は?)『しかし・・・・・・しかしわたし個人として最大のヒーローをあげさせてもらえるなら 今大会屈指のNO.1選手に山田太郎くんをあげたい 特に本塁を死守したあのキャッチングはなんといってもすばらしいものでした』。打つほうの活躍は岩鬼が決め、負傷にめげず投げぬいた里中とともに表面的な話題を独占させつつ、影の立役者として山田が語られるスタンスがナイスです。無印終盤になると山田絶賛一色になっちゃいますから。

・試合が終わり引き上げていく客たち。一人ベンチ裏から無人になった球場を眺める山田。「おにいちゃんいこう」とサチ子に声をかけられ、まだ球場を見つめながら歩きだす山田。そして無人になったベンチ裏。ベンチ裏にアングルをほぼ固定して時間の移り変わりをコマを追って示す。名残り惜しげにしていた山田の姿も消えた無人のベンチ裏を捉えた最後のコマに、しみじみした哀感を覚えました。一年夏の甲子園大会シリーズの最終回、この回の主人公は甲子園球場そのものだったのかもしれません。

 


(2010年9月18日up)

 

 

 

SEO [PR] おまとめローン 冷え性対策 坂本龍馬 動画掲示板 レンタルサーバー SEO