犬飼小次郎

 

明訓最大のライバルの一つ・土佐丸高校のキャプテン兼エース。引退後は監督。「鳴門の牙」という異名や殺人野球を標榜して闘犬を利用した特訓を行うなどの荒々しさと、存外甘い顔立ちが、一見アンバランスなようでいて濃いもみあげを仲立ちにほどよく調和している美男子。二年春に本式に再登場した頃には三白眼気味のコワモテに進化してましたが(笑)。

私がこの人を好きな理由に、里中を高く買ってくれていたからというのがあります。並みいるライバルたちがおおよそ「打倒山田」をスローガンに、対山田だけを視野にしのぎを削る中、里中を打ち崩すことを目標とした特訓を行わせたのは彼くらいのもの。山田世代一年次の秋の「エース里中のいない明訓に明日はない」発言にも、里中に対する評価のほどが感じられます。弁慶戦のときの「いいフォームだ ボールの切れも最高 義経なんかに打てねえ!!」に至ってはすでに里中ファンの域にすら入っているような。

その評価のきっかけとなったのはやはり彼が唯一選手として明訓と対戦した、山田世代一年次夏の準決勝だと思います。頭に傷を負ってふらふらになりながらも投げ続けた根性そのものもさることながら、決定打は9回表の小次郎の打席でしょう。
この場面、はっきりとは描かれてませんが、「しかしこの迫力・・・・・・気になるな」という山田の心の声や、一球目を大振りした時の「死ね〜〜」、三球目での「残りの一球が」「おまえを地獄へおくる」という小次郎のモノローグからすると、彼はピッチャー返しで里中にとどめを刺そうと狙ってたものと思われます。しかし二連続でファールしたあと三球目は空振り。里中の最後の気力が小次郎の気迫を上回った。立っているのもやっとなほどボロボロでありながら自分を三振に切ってとった、その時の驚きと屈辱がそのまま里中への評価に表れてるんじゃないでしょうか。

(この二連続ファールにしてもわざとファールにしたわけではなさそう。一球目をファールしたとき小次郎はちょっと驚いたような様子―何かにはっと気づいたことを示す記号の短い三本線が頭の上に書かれている―をしてるので本当なら小次郎は一球目からピッチャー返しをぶつけるつもりでいたんでしょう。一球目を打つ前の時点でもう「死ね〜〜」と言っているし。ところが里中のボールを芯で捉えられずにファールになった。この打席、投手里中と打者小次郎の最終対決は完全なる里中の勝利でした)

里中がらみを抜きにしても、小次郎には魅力的な要素が多いです。とりわけ明訓に敗れた小次郎が高知の土を甲子園に撒くシーン。敗退した球児が甲子園の土を持ち帰るのは常道ですが、その逆をいく意外性(しかも実に納得のいく理由)と「おれたちが予選を勝ち抜いてきた文字通り血と汗の混じった高知の土だ おれの青春だ おれのこの青春はこれから何千 何万という多くの甲子園球児を見とどけていくんだ」という台詞の格好よさにやられました。
その後の明訓バッテリーや旅館の人たちへの礼儀正しい態度、『プロ野球編』で暴露された末弟の知三郎に甘々なところ(『大甲子園』で武蔵ともども知三郎の応援にやってきたあたりにすでに片鱗はありますが)など、登場初期の剣呑なイメージとのギャップが彼のキャラクターを奥行きの深いものにしています。

そんな小次郎はドラフト指名後すっかり土井垣とライバル扱いになっていきます。夏の甲子園の段階ではもっぱら山田や里中をマークしていて土井垣は眼中にもなさそうだったのに。やはり同じ年でどちらもドラフト一位と目されていたことで急速にライバル意識が目覚めたものでしょう。プラス土井垣が明訓の主将であり監督となったことで、明訓に対するライバル意識が土井垣に収斂されたのもあるのかも。ともあれこの二人のライバル関係が両者が明訓・土佐丸の監督を務めた時代を盛り上げていたのは確かです。

土井垣と時を同じくしてプロ入りした小次郎は、一年目土井垣と新人賞を争ったにもかかわらず、プロ2〜3年目になるはずの『プロ野球編』では当初姿を表さない。どうしたのかと思えば、故障で引退を危ぶまれながらもついに奇跡の復活!と鳴り物入りの再登場を遂げてくれました。ダイエーの後輩となった岩鬼が何かと小次郎を立てるのも微笑ましいです。

この故障欠場で思い出すのが山田世代一年夏土佐丸戦のときの岩鬼の発言。小次郎のキャッチボール投法を評して「全力投球じゃあのやさ男のスタミナがもたんだけや」と言ってましたが、案外これは正解だったのかも。つまりあれだけの剛速球はやはり肩やヒジに相当の負担をかけるため多投できないのでは。
思えば最終的に一点差で勝てる自信があるにせよ、それは前半を手抜き投法する理由にはならない。実際最初からもうちょっと本気で投げていれば山田のツーランで逆転負けすることもなかったはずですし。しかしプロではさすがにキャッチボール投法やるわけにもいかず無理をした結果が長い故障につながった――とか。・・・まあ読者のリクエストで小次郎の存在を思い出して、うまく辻褄あわせて登場させた、というのが一番ありそうな気がしますけど(笑)。


(2011年8月19日up)

 

SEO [PR] おまとめローン 冷え性対策 坂本龍馬 動画掲示板 レンタルサーバー SEO