瓢箪 駒吉

 

『プロ野球編』でロッテ入りした里中がバッテリーを組んだのがこの人。オールスターの時にスカイフォークを取れなかった経験を持つ山田が「スカイフォークを捕れる捕手がいるのかな?」と里中の捕手難を案じてるシーンがあるだけに、どんなキャッチャーと組ませてくるんだろうと思っていたところに、ストッパーとして登板した里中とセットで初登場。その変わった名字に、対戦相手だった岩鬼同様「ひ、ひょーたん?」と言いたくなりました(笑)。
そして(無印後期の後輩たちの顔&ネーミングから予測した通りに)「名は体を表す」瓢箪型のうらなり顔。ついでに背丈もひょろりとバカ高いこの人、里中と並ぶと里中が彼の胸くらいまでしかなくて、そのデコボココンビっぷりがなんともユーモラスです。初勝利に喜ぶ里中が瓢箪さんに抱きつく場面がありますが、身長差がありすぎて腰にしがみつくみたいになっちゃってます(笑)。瓢箪さんも飛びついてきた里中の頭をナデナデしててまさに大人と子供という感じです。

この外見から見ても、瓢箪さんのキャラは“山田とかぶらない”ことを多分に意識して設定されたものでしょう。ずんぐりむっくりの山田に対し、2メートルは優にありそうな長身で横幅も厚みがなく実にスレンダー。里中より先輩という設定も、親友兼バッテリーという山田・里中の関係とかぶらないようにするための配慮かと思います。前述の抱きつきシーンでは里中が「ひょうたーん」と呼んでたりしてまだ二人の先輩後輩設定が曖昧でしたけど(ちなみにこの「ひょうたーん」という台詞、その前に「山田ー じゃなかった」という前フリがつきます(苦笑)。たぶん読者の誰もが「瓢箪さんに対してあんまりだろ」とツッコんだことと思います。どれだけ山田に抱きつくのが習性になってるんだ)。

ただ彼と山田が似てる部分というのもあって、それは投手を、つまりは里中を常に立て気遣っていること。山田との初対決に勝利したあとに「おまえがいい投手だからいい捕手になれるんでゲス」「所詮捕手など投手次第でゲス」と里中に語るあたりにそれが顕著です。
もともと瓢箪さんが里中と組むことになったのは万年二軍だったらしい彼が偶然里中と袴田さんの秘密特訓を目撃してしまった&山田の心配どおり秘球スカイフォークが完成したもののそれを取れる捕手がいるかという問題に直面してた里中が「瓢箪さんなら的が大きいから外さない・・・・・・」と瓢箪さんとのバッテリーに積極的になったから。瓢箪さんの方も通常捕球困難な球を唯一取れる捕手ということになれば一軍に上がれるわけで、しかも組む投手が人気抜群の里中ならセットで自分も注目を浴びることになる、そういう功名心から里中とバッテリーを組むことを決意したものと思われます。
袴田さんや里中が何も言わない(瓢箪さんに特訓を見られたと気付いてない)うちから自らキャッチャーに名乗りを上げたあたりからしても、言うなれば自分の出世のために里中を利用しようというのが最初の気持ちだったんでしょうが、上掲の台詞には功利的なだけじゃない里中個人に対する愛着が感じられます。その背後には二人三脚の苦しい特訓を乗り越えてともに二軍から這い上がったという仲間意識と、その言葉どおり里中をいい投手――精密なコントロールと多彩な変化球、スカイフォークという必殺球まで備えたリードしがいのある投手で、捕手冥利につきるパートナーだと思っていることがあるんじゃないでしょうか。
加えて小柄で可愛らしい容姿の里中が(生意気な態度を前面に出さなければ)周囲に可愛がられやすい資質を持ってることも一因なんでは。岩鬼を相手に初セーブをあげたときロッテの内野陣が「やったぜリトルジャイアンツ」なんて祝福の声をかけていますが、初出場初勝利のチームメイトに対するに当然の態度とはいえ、二軍でさえ登板しないうちから人気だけでオールスターに一位選出されてしまった経緯のある里中は本当ならもっと先輩たちの妬みや反感を買っていてもおかしくない。それがああやって歓迎してもらえるのはやっぱり里中の“愛されオーラ”の成せるわざだと思います。チームで一番里中に近しい立場の瓢箪さんが一番深くその愛されオーラにつかまってしまうのも無理からぬところ。年下とはいえ18歳男子の頭をナデナデしてしまうあたり、里中が可愛くて仕方ないんだろうなあという感じです(まあ『ドカプロ』ワールド的には仮に山田が知三郎や入団当初の松坂投手をナデナデしたとしても違和感ない気もしますが)。

瓢箪さんの里中本位主義な言動はたびたび見られ、97年のオープン戦(対横浜ベイスターズ戦)の際にストッパーの“大魔人”佐々木に向かって「佐々木さんぼくを打ちとるならフォークは通用しませんよ」「フォークは里中のスカイフォークを何球も受けていますから見えて見えて簡単に打てますですよ」などと発言、あげく二球目のフォークをサヨナラホームランして「やったやったー 里中が勝ったー」と叫んだのにはびっくりしました。発言内容はフォークを投げさせる挑発としても、自分の大殊勲打を「里中が勝ったー」とは。先の会話からすればこの台詞は単に里中が勝利投手になったという意味だけでなく、“里中のスカイフォークを受けなれてるおかげで佐々木のフォークが打てた”→“スカイフォークの方が佐々木の球より上”→“里中が勝ったー”ということなのではないか。初の甲子園大会優勝時に「里中〜〜 やった 完投だ」と真っ先に叫んだ(初優勝より里中完投の方を喜んだ)山田をも上回る里中バカっぷりです。何という恋女房。

この頃までが里中・瓢箪バッテリーの一番の蜜月ですね。というのもスカイフォークが取れるだけがとりえで打撃はからっきしだった瓢箪さんは、「いかに秘球スカイフォークのキャッチングがチーム一上手いとは言え 今の打撃では近藤監督も使う気にならんぞ」と当時は二軍コーチだった袴田さんにハッパをかけられ里中を相手のバッティング特訓のすえすっかり打撃開眼、ホームランも打てるなかなかの強打者としてレギュラーに定着してゆくから(その皮切りとなったのが上述の97年オープン戦のサヨナラホームラン)。「スカイフォークのキャッチングがチーム一上手い」というからにはこの頃には瓢箪さん以外にもスカイフォークを取れる捕手が出てきてるようですし、瓢箪さんも99年のドラフトで入団した中西球道ともバッテリーを組んだりと里中専属捕手ではなくなっていく。公式戦初登板以来常に(オールスターなどをのぞけば)二人セットだったのがそれぞれの成長にともなって一人立ちする―それはプロとして大成するには当然の過程であり、特に95年当時は「リリーフ里中が告げられたのです お伴に瓢箪を従えて」なんて実況に里中の付属物扱いされてた瓢箪さんにとっては里中から独立して確固たる地位を築けたことは大きなプラスだったにちがいない。それでも一連托生時代の密着ぶりを思うと、ちょっと寂しいような気持ちにもなるのです。

ちなみに瓢箪さんは台詞回しにも実に味があります。なにせ初台詞が岩鬼の「歩かすことにしたか?」という言葉に対する「とんでも8分 駅まで10分」。昔の流行語が元ネタみたいですが、瓢箪さんの飄々とした人柄を一発で表すなかなかの名台詞ではないでしょうか。語尾に何かと「〜ゲス」と付くのもいい感じにイロモノだなあと思ってたんですが、バッターとしても一流になってきたあたりからすっかり普通の喋り方になってしまったのがちょっと残念。外見も体型や顔の輪郭、カニみたいな髪型なんかはそのままですがいつもニコニコしてた目がパッチリつぶらな目に変わってしまいました。その分表情が豊かになって瓢箪さんの心情がより詳しく描かれるようになったのは嬉しかったですが。

こんな瓢箪さんは読者間でもわりに人気があったんじゃないかと思います。『プロ野球編』以降に登場した実在選手以外のキャラクターで『ドカベン』二次創作に(モブ扱いでなく)取り上げられているのは彼とマドンナくらいのものなのでは。私自身、『プロ野球編』中期までの瓢箪さんは大好きです。
瓢箪さんががミソをつけたのは何といってもFAを目前にした里中が病弱な母を一人置いていけないとメジャー行きの夢を諦めかけていたのへ「結婚するんだよ いや婚約でもいい そして彼女にお袋さんを頼んで単身赴任すればいい 実現出来る夢なら一年でも二年でもやってみろ」などと発言したこと。可愛い後輩を夢をあきらめるなと励ます彼の優しさが表れているシーンではあるんですが、夢を実現する手段として「結婚」を持ち出したところが里中ファンの怒りを買ってしまったらしい(苦笑)。里中に結婚をそそのかしただけでも里中ファンにとっては腹立たしいところだったでしょうが、そのうえ新婚早々に母親の世話を押し付けて単身赴任しろというのだから、「結婚を何だと思ってるんだ」「妻は家政婦代わりか、ふざけるな」と里中ファンならずとも女性読者が腹を立てても無理からぬところでしょう。
こうした「親の世話を人手にかけたくない」「夫の留守を守るのが妻の役割」という考え方は高度成長期までの日本ではごく普通だったと思いますし、実際親の介護を含めた家のことを妻に任せ仕事に専念するために愛情は二の次で結婚した人も少なからずいたはず(実のところ現在でも別に珍しくない)。それは奥さんなら他人ではない、大事な肉親や家のことを安心して任せられるという信頼があればこそなんですが、しかし恋愛結婚・女性の社会進出がすっかり一般化し、女性がはっきり自己主張するようになってきた80年代以降では、この「信頼」は「甘え」と解されるようになった。少なくともこれだけストレートに“妻=家政婦”と言わんばかりの身もフタもない台詞を、男の身勝手さを表したものとしてならまだしも後輩思いの暖かな発言風に描写されたわけですから読者の怒りを買うのもむべなるかな。

この場面については「さすが捕手だ そういう考えもあるな」と瓢箪さん発言にあっさり頷いてる里中まで、揃って顰蹙を買ったようです。さすがに読者からのブーイングがひどかったのか、少し経って入院が決まった母から自分はいいから夢を追いかけろと諭された里中が瓢箪さんの言葉を反芻して、「ひとりいる事はいるが思い切って打ち明けてみるか」と一瞬考えたものの「いやよそう メジャーのために急ぐ事はよくない 結婚は一生の問題だから・・・」と思い返す場面があってちょっとフォローされてはいますが(まあこれも「結婚には慎重であるべき」というだけで「愛情は二の次で親のために結婚する」こと自体を否定してるわけじゃないんですけどね)。
まあ里中の場合世の男性たちが奥さん一人に親の世話を押し付けがちなのと違って、メジャー行きという夢がなければ自分でお母さんの面倒は見るつもりでいたし(それも瓢箪さんの台詞がなければ母親のためにメジャーは諦める気でいた)、現に高三の時といいこの時期といい母親が体を壊したときには献身的に世話をしているのでそこまで“妻を家政婦代わりと思ってる”感はないんですが。話が瓢箪さんからずれるのでこのへんはまた項を改めて書こうと思います。

さて、くだんの瓢箪さん発言ですが、前掲の箇所のあとに「さらに夢のまた夢を追うなら山田を誘って同じチームで日本人バッテリーを組んだらどうだ」と続くのが少しショックでした。瓢箪さん自身はFAでメジャーへ行く気はない(里中と同時に一軍に上がった瓢箪さんも同時期にFA資格を得られるはず。まあ実際は里中も一年目前半は二軍、二年目も前半は故障で二軍にいたのだから本来山田たちと同時にFA資格は得られない気はしますが)ようだし現に『スーパースターズ編』でもロッテに在籍し続けてましたが、だからといって何らためらいなく里中に山田とバッテリーを組むのを勧める姿に、一軍入りしてしばらくはずっと二人三脚だった里中を山田に取られても悔しく寂しくないのか、これまでオールスターのたびに「黄金バッテリー復活!」と喝采を浴び袴田さんが見惚れるほどの息の合い方を見せる二人を見てても平気だったんだろうかとなんだかこっちが寂しくなってしまったのでした。
結局里中はメジャーには行かなかったもののスーパースターズに移籍して山田とバッテリーを組み、ロッテに残った瓢箪さんとは完全にバッテリー解消することになったわけですが、以降里中と瓢箪さんの交流場面が全く描かれなくなってしまったのが・・・(里中の結婚式のときに一応姿は出てきましたが)。仲良しシーンがないならせめて、今や立派な強打者に成長した瓢箪さんと里中の対決をちゃんと描いてほしかった。里中を相手の特訓で打撃に目覚め、スカイフォークを取りなれてるおかげでフォークには滅法強くなった瓢箪さんにスカイフォークが通用するのか、里中をよく知る瓢箪さんの読みを山田のリードが上回ることができるのか、面白い勝負になったと思うんですが。
2008年にスーパースターズ対ロッテの試合の場面が出ては来るものの、スターズ側の先発が里中、ロッテ側は瓢箪さんが6番を打ち途中から球道がリリーフするという美味しいシチュエーションだったにもかかわらず、瓢箪さんは空振りするシーンばかりでその時の球種も説明されないし、里中ともどもかつての相棒と戦うことの葛藤など一切描写されない(互いの名前さえ心の中でも呼んでいない)完全没交渉。とくに里中はサチ子との婚約がマスコミにすっぱ抜かれて球場がお祝いムード一色に染まった方にすっかり気を取られていたのか、瓢箪さんのみならず球道にも他のロッテナインにも、かつての仲間に対する感慨を一切感じてる様子がない。里中と山田は『プロ野球編』時代には対決のたびオールスターでバッテリーを組むたびに「かつての黄金バッテリーが〜」的実況が入ってたのに、里中さんと瓢箪さんの対決は実況も観客も全く注目してなさそう。・・・なんかますます寂しくなってきました。一応今後に期待してみます。

 


(2012年7月21日up)

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