『ドカベン』の革新性(2)−明訓四天王のキャラクター配置(里中編)

 

『ドカベン』がリアル路線の野球マンガとして人気を確立するにあたって山田と並んで大きな役割を果たしたのは、贔屓目なしでピッチャーの里中だったと思います。
里中の属性―アンダースローの変化球投手、ついでに言うと少女のような顔立ちの美形―というのは普通ならライバルチームのエース(それも一番のライバルではなく2番手3番手あたりの。1番のライバルは不知火タイプが多そう)に与えられそうな特徴なんですが、『ドカベン』の場合主人公がキャッチャー、それも外見その他あまり少年マンガの主人公らしくないタイプのため、いかにもエースピッチャーらしいタイプ(たとえば『男どアホウ甲子園』の藤村甲子園のような)をピッチャーに持ってきてしまうと山田が完全にかすんでしまう。だからわざと定石を外したタイプを山田の相方にしたのでしょう。
(『いよいよ最終回!』という本での水島先生へのインタビューによれば、里中は最初から女性ファン獲得を当て込んだキャラだったそうなので、そのための美形設定という部分も大きいようです)

そして何と言っても主人公山田のリードの素晴らしさを際立たせるためには、それを十二分に活かせるコントロールと球種を持っていることが肝心。それも「山田のリードを活かせる里中は素晴らしい」よりも「里中を巧みにリードしている山田が素晴らしい」「山田あっての里中」なのを印象づけるために、里中は小柄ゆえに非力でスタミナがない(さらにオーバースローより体力を消耗するアンダースローでもある)→それを山田のリードでもたせているという設定にしたのだと思います。

(この「山田のリードでもたせている」設定ははっきり書かれてはいませんが、里中初登板となった高一夏の白新戦のとき、里中は先発ではなかったにもかかわらず(1回からリリーフしてるのでほぼ先発と変わりませんが)9回にもなるとすでに体がふらついているのに、その後の試合ではケガさえなければ延長戦も危なげなく投げ抜いている。
これは徳川・土井垣監督のハードな練習に馴らされて体力が上がったせいもあるのかもしれませんが、多くは山田が里中がバテないリードを心がけているおかげなのでは。山田が基本的に遊び球をあまり要求しないのもそこに理由があるのでしょう)

まして里中自身が「明訓をえらんだのはおれの力を十分ひきだしてくれるだろう山田が必要だったからだ」「おれの投球は山田しだいだ」と、自分が山田あってのピッチャーだと明言している。里中が山田という捕手の凄さを映し出す鏡の役割をすることで、『ドカベン』は捕手のリード、ゲームの組み立てを楽しめる作品となっていったのです。

もう一つ、非力設定に連動して里中が三振の山を築くような投手でなかったのも重要なポイント。里中が「打たせて取る」タイプであることは、どこにどんな球を打たせるか計算したリードをする山田の能力を強調する効果以上に、バックの守備にスポットが当たることを意味するからです。

野球マンガの多くは投手と打者の勝負が見せ場となるので、クライマックスは三振もしくは凡打に打ち取るか(ホームランを)打たれるかで終わることが多い気がします。
大きな当たりになるところを野手のファインプレーで阻止という展開はあまりない。投手と打者の対決がメインである以上どちらが勝ったのか明確にならないと消化不良になってしまうので。
一試合の中で一度も出番のない野手がいるのはざらで、下手すると主役チームのレギュラーでもスコアボード以外で名前が出てきたことがないなんてことが起こっていそうです。

しかし『ドカベン』の場合打たれるのが大前提のようなものなので、野手のファインプレーが息詰まる攻防のオチやその回のメインの場面になるケースが少なくない(高二夏白新戦の殿馬とか)。
明訓は打撃が強いと作中で言われるわりにセカンドの殿馬を筆頭に好守備が際立つ場面が多いのですが、たとえば殿馬がいかに天才的な守備能力を持っていても、そもそもボールが飛んでこなければその天才ぶりを発揮する場面もないわけです。
里中が打たれる、打たせるからこそ守備陣の活躍も描かれる。「野球は9人でするもの」、そのごく当たり前の事実をちゃんと描き出したのが『ドカベン』だったのだと思います。

 

 

(2009年12月22日up)

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