ディアドラ・ヒルゼン

 

 『クランベールの月』登場。クランベール調査チームの代表。穏やかで落ち着いた人格者、といった風情の女性。その一方でなかなか気さくでユーモアもあり、まず理想的な上司と見える。実は「80人の人間が心をひとつにして 素晴らしい目標にむかって努力する」状況を続けたいがために、「豆の木」を操ってわざと調査を長引かせていた・・・のだが、その背後にはさらに「月」に住む「彼ら」の意志があった。

 結局、どこまでが代表自身の意志でしたことだったのだろうか?ラスト寸前の〈告白〉によれば、彼女は祖母であるウェンディ・クランベールに憧れ、彼女のようになるべく血の滲む努力をしてきたと言う。「彼ら」の暗示と記録の改竄によってウェンディの副官だったウォルターがクランベール提督だったと偽装されたさい、身内だった彼女は何を思ったのだろう。憧れてたというくらいだからウェンディの記憶を消されてはいなかったはずだが(とはいえウェンディは実の息子=代表の父親であるスコット・ヒルゼンとも一緒に暮らしたことはないらしいので、代表もウェンディと直接面識はなく、ウェンディの優れた経歴(+人づてに聞いた話?)を通してのみ彼女を知っていたのだろう)、それだけにウェンディが行方知れずになったあげく軍の中でもともと存在しなかったかのようになってる事をどう受け止めていたのか。

 ともあれ彼女が調査チームの代表としてクランベールに着任したのは偶然ではないだろう。ウェンディの姓を冠した、しかしウェンディが発見者であることは抹消された惑星に代表自らが祖母の手がかりを求めて着任を希望したのか、遺伝+憧れが高じて?外見のみならず内面もウェンディと似通っている代表を洗脳して自分たちに都合よく事を運ぶためにディアドラが調査チーム代表の座に就くよう「彼ら」が仕向けたのか(催眠暗示の能力に秀でていれば希望する惑星調査団の一員となる(ならせる)のが容易なのはロックが実証している)。たぶん後者なんじゃないかなー。

 となれば代表はクランベールに着任して以来、いや着任すると決まって以来、ずっと彼らの意志の下にあったことになる。彼女自身の意志で発せられた言葉は本当に最後の〈告白〉だけなのかもしれない。

 

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