『サイバー・ジェノサイド』
主なキャラクター:ロック、マチコ、レムス、ジュリアス、スライ、ペデルセン補佐官、ブルー・セテラ、ハル・ナカタ
太陽系連合宇宙軍技術開発局の天才科学者マチコ・グレース博士は、生体組織と機械を融合させることによって強化人間・サイバーを開発。人間には不可能な任務をなしとげる彼らの活躍により、マチコは一躍時の人に。マチコの弟・ロックは姉の研究所にスタッフとして入り、マチコがサイバーの実験に利用していた胎児の脳「レムス」に出会う。
マチコを慕い、彼女が自分の体を作ってくれると信じているレムスのために、ロックはマチコの助手で恋人のジュリアスを巻き込んで、マチコに内緒でレムスに体を作ってやる。おりから非人間的待遇に怒りを爆発させたサイバーたちが脱走、月面のアルテミス基地をのっとる過程で、構造上の欠陥からしだいに狂暴化してゆく。マチコは反乱鎮圧のため、通常のサイバーの10倍以上の能力をもつレムスを投入する・・・
「ジェノサイド」のタイトル通り、サイバーたちは全滅、全滅させた側のレムスも、彼らの生みの親であるマチコも全員死亡。ラストではサイバーが遠からず全面禁止となったことが語られる。サイバープロジェクトは死のほか何も生み出さなかった(正確には「ソクラテスU」のようにサイバーに救われた船や人もいるはずだが)というあたり、『ロック』シリーズでも最も暗い話の一つではなかろうか。
しかしサイバーはリンクコンピューターの欠陥で狂ったとされているが、彼らの逃亡も残虐行為も、〈超人〉としての自負心ゆえの待遇への不満や普通の人間への軽視から出ているようにも思える。力を持ったとたんそれを誇り、持たない者を見下すというのは、ある意味とても人間的な感情である。血に興奮して〈キレて〉しまうのも、力が強いぶん理性の抑制がききにくいのも、いたって人間らしいと言えるような。
サイバーは機械の欠陥というより、〈人間だから〉狂ったように思えてならない。そして特殊な力を持つ者と持たない者の間の相克は、その後の人間とエスパーとの関係に受け継がれてゆくことになる(まあエスパーでああ派手なキレ方をしたのはいないが)。
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