行政局長官

 

 『新世界戦隊』登場。太陽系星区の行政局長官。旧連邦時代では(作品に登場する中では)唯一の女性長官であり、ヤマキ長官を筆頭に長官といえばもっぱら情報局長官ばかり登場するなかで唯一の事務方部署の長官でもある。

 唯一の、ではないとしても数少ないだろう女性長官に選ばれるくらいだから仕事は相当できるのだろう(もっとも作中の描写からすると彼女以外が無能すぎるともいえる)。大分年はいっているものの美貌の名残りは多分に留めており、若い頃はさぞや美人だったろうと思わせる。

 「新世界戦隊」の項でも書いたが、ランのファンである私は彼女に対しては複雑な思いがある。基本は「ランになんてことしてくれたー!」なのだが、形はともあれランを本気で愛してたのは間違いないようなのでどうにも憎みきれないというか。ランを取り戻すために単身エレナを破壊しようとしたくらいだし。愛情というより所有欲と虚仮にされたことに対する反発から出た行動という感じもあるのだが、姦計をもって職を奪われた怒りよりランを奪われた怒りが優先するあたりが、やっぱり憎めない。

 一方のランも、彼女のことをただ単純に憎んでいたわけではなさそうだ。ランはエレナに向かって長官を「牝ブタ」と罵り、「あっさりとくびになんかするもんか じっくりと苦しめてやるのだ! じっくりと」と深い憎悪を吐露しているが、2万人のエスパーのことをエレナにとっての〈害虫〉として何の感情もなく抹殺しようとした男が(「消去」という表現が、彼がエスパー抹殺になんら良心の呵責を覚えていないのをはっきり示している)、長官に対してはあれだけ強い感情を動かしている。そしてそれほどの憎しみにもかかわらず、彼女への復讐はさんざん恥をかかせたうえ職を奪ったところで完了していて、彼女を殺そうとまではしていない。

 ゴキブリ相手に殺虫剤を撒くのにいちいち良心が咎めたりはしないし、そのさいゴキブリに深刻な憎しみを抱いたりはしていない、一方で殺したいほど憎い相手がいても人間をそうそう実際に殺せるものではない――ということだろうが、つまり長官は「人間」枠に入っているわけだ。エスパーはエレナにとっての障害物、連邦軍人らも皇帝計画のコマとしかみなさなかったランが、ともかくも長官のことは人間として認識していたのである。

 『新世界戦隊』を読んだ時点ではランと長官の関係は比較的近年のもの――長官は最初からランの才能以上に容姿に惹かれて彼を行政局のコンピューター技師に抜擢したのだと思っていたのだが、OVA『新世界戦隊』の特典として描かれた『ELANA−0368−』を見ると、『新世界戦隊』より何年も前からエレナは存在している。したがってエレナの作者であるランもこの時点ですでに技師として連邦の中枢にいる。これは現行の年表によれば『新世界戦隊』の7年前、つまり彼が7歳の時になる(ランが『新世界戦隊』当時14歳というのはランの回想中の長官の台詞からの推定――その台詞の時点でランが14歳だったということで、正確には『新世界戦隊』の時には14歳より上としかわからない。ただああいう形で年齢が出てくるのは(マンガのお約束的に見て)彼が現在14歳なのを示していると言ってよいと思う)。

 たった7歳とはいえ彼のような超天才ならばシステム技師の地位を与えられたとしても異例なりに納得できる。ただこの場合さすがに当時から男女の仲だったということはないだろう。後の『ミラーリング』では長官がランに天才教育を施したと説明されてるので、幼いながら突出した才能を示していた彼を長官がどこからか拾ってきて教育を与えた、二人の付き合いはランが7歳よりもさらに前、物心がつくかどうかの頃から始まっていたようだ。(ちなみに年表によるとエレナが行政コンピューターとして採用されたのは0363年だとか・・・。当時ランはまだ2歳。さすがに無理があるだろ)

 何が言いたいのかというと、二人が愛人関係になるまでには出会いから数年はあったはずで、その間ランは長官を母親のように慕う気持ちを持ってたんじゃないかということだ。だとすれば長官の「本心」を知ったとき、ランは相当なショックを受けたに相違ない。そりゃ人間嫌いにもなるはずである。長官が最初からいずれ愛人にする心づもりでランを囲いこんだのか、純粋に彼の才能を買って教育を施したのが彼の成長にともない欲を起こしたのかはわからないが(なんか前者っぽい気がする・・・)、どちらにせよランが長官を親代わりと思っていた時期があったとするなら(親に虐待された子供がそれでもしばしば親を慕わずにいられないように)、彼女にあれだけ憎悪を覚えていたのも、そのくせ彼女を殺そうとは一切しなかったこともわかる気がするのである。

 そういえば物語の比較的初期(連載第二話)で長官がランに「皇帝のほうはどうなってるの?」と尋ねるシーンがある。こちらで書いたように連邦軍は、実際にツアーの城攻撃を受け持った現場の兵士たちのみならず上層部まで、皇帝計画について何も知らされていなかったが、なぜかランは長官には計画の存在と内容を教えていたのである。

(「人間というものは簡単に他人を消去できるようにはなってない」からこその計画なのに。長官は「コンピューターの障害になるから」などという理由で2万人ものエスパーを殺すことに、人間として良心の呵責を覚えなかったのだろうか?もちろんランが皇帝計画の内容を正確に伝えていたとはかぎらないのだが)

 そもそも長官に計画を知らせる必然性があるだろうか。大掛かりな計画だけに長官の裁可がないと差しさわりのある項目があったのか?エレナがいれば長官の辞表だって捏造できるというのに、彼女がいないとランでも動かせない案件というのがどうも想像つかない。あえて長官を巻き込んだところに、ランは心のどこかで彼女に身内意識、信頼のようなものを持っていたのかなあ、とか考えてしまうのである。――まあ実際のところ、記憶喪失のエスパーたちの話のあいだで唐突に出てきた少年技師とその上司兼愛人、美少女コンピューターの三角関係の物語が、ちゃんと主筋と繋がってるんですよということを示すのが目的の第一だったんだろうとは思いますが。

 長官の出番はエレナを破壊しようとしてアゼリアに止められたのが最後だが、その後彼女はどうしたのだろう。エレナが消滅してしまったので辞表の件もうやむやになってそのまま長官職に留まったものか。あんな映像を公式の場で発表してしまったのだから相当居づらいだろうが辞職する気はさらさらなかったようだし、連邦中枢の行政を仕切っていたコンピューターが全壊したのだから大混乱が起きたに違いなく、そうなれば事態を収拾するためにも彼女の存在は不可欠だったろうし。『ミラーリング』の時点ではグラントの口ぶりからして、すでに退任してそうな感じだが。

 ところで昔からずっと気になっていたのだが、ニアはランと長官の関係を知ってるのだろうか?長官はちょうどエレナを破壊しようとしたタイミングでアゼリアに心を読まれている。エノいわく〈強力な接触テレパスにかかるとなにもかもお見通し〉だそうだから、アゼリアは長官の〈動機〉も知ったことだろう。ただランを見たときに〈こんな子供が皇帝計画の首謀者なのか〉と驚いていたので、比較的表面の部分しか読み取ってなかったのかもしれないが、それでも長官が「わたしからランを奪おうなんて!」「思い知らせてやる!」と思っていたのは〈聞こえた〉ろうから、首謀者の少年の名前を知った時点で彼と長官の間柄にも気付いたはずだ。そうすればロックには報告しそうだしニアがその場にいれば自然と彼女の耳にも入る。そのへんどうだったんだろう?

 

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